上 下
5 / 88

5話 合同練習

しおりを挟む



「何で俺を座らせた!あんな奴らボコボコにしてやったのに!」

三人が立ち去った後、ギルが苛立たしげに僕を見る。

「ギルが僕の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、場所が悪い、教官に目をつけられたらギルの評価が下がるよ、それに・・・僕は評価を下げたくない!」

その言葉に、ギルの勢いが下がる。

「・・・悪かった。」

シュンとするギルに僕はにっと悪戯っぽく笑いかける。

「それに・・・さっきの奴ら、四班の連中だよ。」

僕のその言葉に、ギルもピンと来たのか、ニヤリと笑う。

「そうだったのか!アイツら・・・覚えてろよ!」

明後日は四班との合同練習だ。
公の場でボコボコにしても怒られない、むしろ評価も上がる最高の舞台があるのに気が付いたから、僕は冷静でいられた。



四班との合同練習当日、朝からギルは張り切っている様子だ。

「クリス、この前の三人、どっちがやる?」

今日は木刀なので思う存分やれる。
ギルもこの前バカにされたウサを晴らしたいみたいだけど、僕もバカにされたことは頭に来てる。

「うーん、その場の雰囲気かな、三人ともやっちゃったらごめん。」

僕はとりあえずギルに謝っておく。

「いや、お前の方が頭にきてるだろ?全部お前にやるよ、援護は任せろ。」

僕の冷静な言葉に、ギルも冷静さを取り戻す。
僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「ギル!それやめて!」

ギルはすぐに僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「ああ、すまん、つい。」

そう言って、くしゃくしゃになった僕の髪を撫で付ける。

「もう!」

僕はいつも怒るんだけど、ギルはまた繰り返す。そんなに撫でやすい頭してるのかな・・・?



合同練習はお互いの班が胸につけてる班の印を多く奪った方が勝ちという単純なゲームだ。
木刀で殴ってもいいけど、殺しちゃったら即失格、やり合いたくなかったら早めに自分の持ってる印を相手に渡してもいい。
会場は広いので、なにもせず逃げ切っても勝ちだな。
もちろん印を取られた時点でゲームには参加できなくなる。
時間内に多く残ってた方が勝ちだ。


「あれ?この前の腰抜けチビじゃん。」

班同士が向かい合って挨拶した時、三人のうちのリーダーっぽい奴が僕に気がついて話し掛ける。

「この前はどうも。」

僕は普通に挨拶を返す。

「はははっ、またビビってるんじゃないのか?」

可笑しそうに笑う三人。
好きなように笑ってくれ、今のうちに・・・

「おい、この可愛いチビちゃんは可哀想だから最後にしてやろうぜ。」

リーダーっぽいのが、他の奴らにも声をかける。

「そりゃどーも。」

僕の班の連中は相手が地雷を踏みまくってるのに気が付いているので、僕を不安そうにチラチラと見ている。

「大丈夫、殺したりはしないから。」

班の連中にウインクしながらそっと声を掛けたつもりだったけど、何故か後から「天使のウインクは恐ろしい」と言われるようになった。
なんでだ?

「これはチーム戦だ。作戦通り、俺とクリスが前に出るから、ダンとカール、マーカスは他の奴らの盾になってくれ。もちろん、みんなも油断するな、取られるなよ!」

「うん。」
「任せとけ!」

開戦前のミーティングで、ギルの指揮にみんなが従う。

そして、大きくラッパが鳴り響いた。

「初め!」

開始の合図と共に、僕達は陣形を作る。
相手の奴らも基本は同じだ。

「おいおい、チビちゃん、いきなり捨て身の攻撃?デカいの、チビちゃんを囮に使う気か?」

僕とギルが前に出たのを見て、リーダーっぽい奴が僕を見て挑発して来た。

奴は中間に居る。
ギルが「任せろ」と言うので、前にいる五人はギルに任せる。

僕は相手に向かってにっこり微笑んでみせた後、一番端の奴目掛けて走って行くと、相手が構える。それを剣で交わしてから懐に入り込むと、胸ぐらを片手で掴んでくるりと相手から背を向ける。
そのまま勢いで相手を投げつけると、他の四人はギルに足止めされているのでそのまま三人の元へ向かう。

「な、」

僕たちの手際の良さに三人が怯む。
さっきまでの威勢はどうした。

「さんざん僕の事をチビだのお嬢ちゃんだの言ったこと後悔させてやるよ。」

僕はにっこり微笑むと、木刀を構えた。

虚勢を張ってた割には呆気なかった。
三人対僕なのでもう少し歯応えがあるかと思ったのに・・・

その後、先鋒の五人を片付けたギルと合流して、後は時間を余らせる形で三班の勝利に終わった。

僕は腹に入れてやった一撃に苦しむリーダーの前に立つと手を差し出した。

「僕になんか言うことあるでしょ?」

「う・・・悪かった・・・」

僕の差し出した手に捕まって立ち上がりながら、情けない声で、謝る。

「うん、僕体のことでバカにされるの嫌いだから、今度からは気をつけてね。」

僕はにっこり笑うと、ギルたちの元に戻った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

処理中です...