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34話
しおりを挟む「シンシア、君には未来が見えているね? それはいい未来か、良くない未来か、どっちかな? 」
父上はシンシアを見る。
「・・・・・・あまりお話するのはよくないと思うのですが・・・・・・良くない未来がこの先に見えています 」
「え? 」
シンシアの少し躊躇いがちに紡がれた言葉に驚く。良くない未来って何だ?
「ですが、その後にいい未来も見えているんです 」
「なるほど、良くないことは起こるが、それは解消されるという事だね 」
「はい、私にはそう見えています。そして、その中心に居るのがカイン様です 」
そうして俺を見たシンシアは眩しいものでも見るような表情で俺を見る。
「そうか、やはりカインクラムが関係しているんだね 」
父上はシンシアの言葉に少し満足気に微笑む。
「陛下、もしかしてカインの力は魔王復活に関係しているんじゃないですか? 」
それまで静かに聞いていたイリヤが父上に尋ねる。
「うむ、君はエルフの国の姫だったね、魔王はもうそこまで復活しているのか 」
「はい、私は古い言葉を頼りにここまで来ました 」
「え? ちょっと待って? 魔王って何? 復活? 何それ? 」
何も知らなかったクラリサが矢継ぎ早に問い掛ける。
「ああ、そうだね、信じられないかもしれない。私も実際に聞くまで信じたくはなかったが事実だ。だが焦る必要は無い 」
「どういう事ですか? 」
首を傾げるクラリサを横目に、父上は俺を見る。
「カインクラムが全て解決してくれる 」
「え? 俺? 」
「『魔王復活の兆し在りし時、全能の勇者が誕生する』」
父上はまた古い書物に書かれていた言葉を諳んじる。
「それってカインの事ですね 」
イリヤも俺を眩しいものでも見るような目で見る。
ちょっと待って、今まで能無しだと思ってた俺にそんな大役が付いていたのか?
「力に目覚め、聖剣を手にした勇者は無敵だ、カインクラムが腰に下げているのは聖剣だろう? 」
「聖剣? 我が王家には宝剣としか伝わっていないですが・・・・・・ 」
クラリサが自信なさげに俺の腰にある剣を見る。
宝剣じゃなくて聖剣? そんなすごいものだったのか?
「カインクラムの手に渡ったという事は間違いなく聖剣だろう 」
「父上、何か色んな情報が入って来て訳分からないんだけど、何故俺の力が一時的に無くなってたんですか? 」
色んな事実が分かって混乱してたけど、それが聞きたかったんだ。
「それは、カインクラム、成長したな 」
急に親目線で俺を見つめる父上。
「成長・・・・・・はしたと思いますけど、それと何か関係があるんですか? 」
「あるよ、カインクラムが授かった能力は全能の力だ。一つの能力しか授かれない私とは違い、全ての能力が使える。それも、それに見合った魔力も持っている。だから力を使うに相応しい人間になるまで、一時的に力が封印されていたんだよ、その能力を目覚めさせる鍵がシンシアだったんだ 」
そうだったんだ、確かにあの時シンシアやみんなを守れる力が欲しいと心から願った。
「それって・・・・・・俺がダメ王子のままだったら魔王に侵略されてたんじゃないの? 」
「ああ、そうだな、だが私はカインクラムを信じていたよ 」
暖かい目で見る父上、それは親バカと言うのでは?
「とにかく、俺が魔王を倒す為に与えられた力だってのは分かりましたけど、本当に俺にそんな大役が務まるんでしょうか? 」
「それは私にも分からんが、今のカインクラムなら可能な気がする 」
父上も伝承の言葉だけで、それが真実かは推し量れなかったということかな。
だから誰にも言わず、そっと見守ってくれていたのかもしれない。
何故そんな大役を俺が? って思うけど、不思議と嫌だとか、逃げ出したくなる気持ちは湧かない。
「・・・・・・努力はしてみます。今の俺にはどれだけの力が使えるのか分からないので、時間が許されるなら力の使い方を試してみたいと思います 」
「うむ、そうだな、力に慣れておくのは大事な事だ 、とりあえず戻ったばかりだ、今日はゆっくり休むといい 」
「はい、そうさせてもらいます 」
父上の部屋を出た後、各自に部屋を用意してもらってから俺も自室に戻って風呂に入って一息着いた。
「カイン様、この後はどうされますか? お休みになられます? 」
ジュナと会うのも久しぶりだ。さっき風呂に入りながら、あの後ジュナがどうしたのか、俺がどうなったのかをお互い話し合った。
ジュナは振り向くとみんな消えていて焦ったみたいだけど、直ぐに状況を理解して、とりあえず最速で城に戻ったらしい。
「いや、外に行くよ 」
「外ですか? 」
「うん、外に出さざるをえなかったルードの様子を見に行って、その後薔薇園に行ってみるつもり 」
「分かりました 」
ジュナはそう言うと、サッと俺の身なりを整えてくれる。
ジュナとのやり取りも久しぶりで懐かしい。
今までずっと一緒にいてくれる当たり前の存在だと思ってたけど、一度離れてみて分かった。俺はジュナに頼りきっていたんだと、ジュナと離れた事で少しでも成長出来た気がする。
・・・・・・まぁ、あくまで自分で思ってるだけだけどね・・・・・・
「さあ、出来ましたよ 」
「うん、ジュナ、いつもありがとう 」
「なっっ! 何ですか? 急に 」
何となくいつもそばに居てくれて、俺の味方で居てくれてありがとうという意味を込めて自然と出た言葉に、ジュナは意表をつかれたのか焦って顔を背ける。
その顔は真っ赤に染っていた。
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