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22話

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「ちょっと、どうする? 飛ぶ? 」

イリヤが焦って俺に小声で話しかける。

「そこ! 動くな! 大人しくしろ! 」

イリヤの動きに反応して兵士が叫ぶ。
ヤバい。いきなりピンチなんだけど、ここどこの国の城なんだ? いきなり城門抜けて城の中に馬に乗った5人組が現れたら、そりゃ怪しさ満点だよな。このままじゃ下手すれば殺されても文句は言えない。
とにかくもう一度飛ぼう。
俺は視線だけで皆が繋がってるのを確認してシンシアの手を取った。

一瞬目の前が真っ白になった次の瞬間には俺たちを囲んでいた兵士達の姿は消えていた。
目の前には遥か彼方まで続く道。左右には森。今の所道行く人は見当たらない。

「みんないる? とりあえず、危機からは逃れられたみたいだけど、どこかな? 」

「カイン、あなたその便利道具、もうちょっと制御出来ないの? いきなりあんな場所に出るとか、危険すぎでしょ 」

ほっと一息ついたのも束の間、イリヤが責任を俺に問いかけてくる。

「便利道具って、そんないいもんじゃないだろ、俺にも何処に出るかなんて分からないんだから、しょうがないだろ 」

「うーん、もう少し研究が必要なのね 」

何かを考え込むイリヤの横でマリンがキョロキョロと辺りを伺いながら俺を見る。

「それより、ここはどこかしら 」

「うん、それが一番の問題だよね、今いるところが何処なのか、皆見覚えとか無い? 」

俺はマリン、イリヤ、キースを交互に見るけど、答えは皆ノーだ。
シンシアはキースの横でにっこり微笑みながら首を傾げて俺達を見ている。

「うん、みんな知らない場所なんだね、とりあえずここが何処かしばらく進みながら確認しようか 」

「そうね、ここが街道ならそのうち誰かに出会うでしょ 」

イリヤも納得したように頷く。

「うん、それでどっちに行こうか? 」

どっちを見ても道が続いているので、どっちへ行けば帰る方向なのかが分からない。

「うーん、こっちでいいんじゃない? 」

「なんか適当だなー 」

「あ、私の勘って結構当たるのよ? 」

自信ありげに話すイリヤはやっぱり大人の女性を思わせない。なんか可愛い所まである。

「勘ね・・・じゃあ、イリヤに従ってみるか 」

そうして俺達は道を進み出した。
しばらく進んだけど、誰にも出会うことなく日が暮れて来た為、夜営出来そうな場所を探して、その日は休むことになった。

「あっちの方に川が流れてるみたいだから私水を汲んでくるわ 」

イリヤが水袋を持ちながら立ち上がる。
イリヤ達エルフは耳がいいらしく、俺達には聞こえない微かな水の音も逃さない。これには旅を初めて驚かされたし、とても助かっている。 

「水汲みなら俺も行くよ 」

俺も立ち上がって水汲みに付き合う事にした。
とりあえず辺りを確認したけどこの辺は魔物はいなさそうだった。だけど何があるか分からないから一人で行動しない方がいい。

「カインは優しいわね 」

水辺までの途中、イリヤがにこにこと嬉しそうに話しかける。

「俺が? 」

俺はちっとも優しくない。自分の事しか考えれないような奴だ。自分でも少し自覚があった。なのに、そう言われれば俺ってこの旅で変わった? いや、そうか。

「そう思うのなら、シンシアのおかげかな 」

「あら、ノロケ? 」

イリヤがニヤニヤと笑いながら見る。

「そんなんじゃないよ、ただ、今までは自分が一番辛いと思ってたけど、シンシアと出会って、俺が辛いなんて言えるのは甘えだと気がついたんだ 」

「ふーん、そこに気付けるカインは本当に心の優しい人なのよ、じゃないとそんな事にも気が付かないで自分が一番辛いって言うもの 」

「そうなのかな 」

急に褒められて照れる。
褒められ慣れていないとどこを見ていいのか分からずキョロキョロと視線をさ迷わせてしまう。そんな俺を見てイリヤがクスクスと笑う。

「カインって素直で可愛いわね 」

「なっ、何言ってんだ?! 」

イリヤの言葉にますます顔から火が出そうなくらい熱くなる。
イリヤの奴、俺をからかって遊んでるって思うのに、顔から熱が引かない。

しばらくクスクスと笑うイリヤの後を無言でついて行くと小川があった。

「うん、綺麗な水ね 」

手を水に浸して確かめるイリヤの横で、俺も手を浸す。
火照った心と顔を冷やすようにしばらく水を眺める。冷えた水が手から心に伝わって少しづつ気持ちが落ち着いていく。

気持ちを落ち着けながら水を楽しそうに汲むイリヤを見ていて疑問が沸いた。

「ねぇ、イリヤは何で俺の国をめざしてるの? 捜し物って何? 」

今までは自分の素性を隠したいからあえてイリヤたちの素性にも触れて来なかったけど、俺達が王族だって事も白状したし、この時は自然に疑問が口から言葉となって出た。

「うーん、・・・そうね、カインには話してもいいかも 」

イリヤは水の入った袋の口を閉じて横に置きながら俺を見る。その表情は今までのにこにこ笑顔から一変して深刻な表情になっていた。

「私達エルフの国、ユグナ国が魔族の国に一番隣接してるのは知ってるわよね? 」

「うん 」

俺は世界地図を頭の中に思い浮かべながら頷く。
確か俺の国も魔族の国とは隣り合わせだけど、その間には永遠と続く山脈が境界を隔てている。その山はアイラム王国、グリモア王国にも続いていて、その山脈の切れ目に当るのがユグナ国だった。

「エルフは元々人間より能力が高いから、魔族を人間側に来させない役割をしてたんだけど、最近魔族の力が増してきてるの 」

「それってどういう事? 」

何故急にそんな事が起こったんだろう? なにか理由があるはずだ。

「これは前兆よ 」

イリヤはますます神妙な面持ちで俺を見る。

「近いうちに魔王が復活するわ 」




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