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7話 帯剣命令

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「おはようございます。疲れは取れましたか? 」

目を覚ますとジュナが控えていて直ぐに声をかけてきた。

「うん、おはよう、俺めちゃくちゃ寝てた?」

起き上がりながら窓の外を見ると薄明かりが差し込んできていた。どうやら明け方のようだ。

「はい、よくお眠りでした 」

にっこり笑うジュナを見て少し安心する。
良かった、戻ってきたんだ。
それにしても、昨日のあの出来事は何だったんだろう?
俺はベッドから起き上がりながらジュナを見上げる。

「ジュナ、なんか分かった? 」

「いえ、そういった事例は見つける事が出来ませんでした 」

ジュナは俺との付き合いが長いから何の事か言わなくても直ぐに的確な返事をくれる。

「そっか、・・・何だったんだろうね 」

昨日の出来事は本当に驚いた。
帯剣していないこんな寝起きの時間に飛ばされてたら終わりだった。
昨日は日中だったから帯剣していた。
ここにはたまに父上の結界をくぐりぬけて飛んでくる飛竜に対応する為、何時でも戦える体制ではある。飛竜とも何度か戦ったことはあるけど、それは俺一人でやった訳じゃない。魔術が使える剣士数名で倒した程度だ。
そう思うと、昨日は何故あそこに飛ばされたのか分からないけど、とりあえず強い魔物が居なくて良かった。

「どうされました? 」

昨日の事を思い出してゾッとしていると、ジュナが心配そうに覗き込んで来た。

「ああ、なんで飛ばされたのかは分からないけど、まだ安全な所で良かったと思ってたんだ 」

そう言いながら、ふと思い出す。
いや、安全なんかじゃなかった。
突然後ろから襲われたんだ。あの時、シンシアが気付いてくれなかったら俺は殺られてた。だけどシンシアは何故俺の後ろから魔物が来てるのが分かったんだろう? 気配? 目が見えない分、気配には敏感だと思うけど・・・まあいいか、後で聞きに行けば。

「そうですね、人里の近くで良かったです。カイン様、陛下に昨日の事をご報告に行けますか? 」

「ああ、そうだね、うん、行くよ 」

昨日は帰って直ぐに部屋に入ったから父上への報告を忘れてた。
俺は支度をして父上の元へ向かった。




「ーーーそうか、何故別の場所に飛ばされたのかは分からないのか 」

「はい、父上は何かこういう事例をご存知ですか? 」

「・・・・・・・・・ 」

「父上? 」

「あ、いや、私にもわからんな、だが今回の事例もある。カインクラムは常に帯剣しておくように 」

なんか父上の様子が一瞬おかしかった。
何か知ってるんだろうか? だけどはぐらかされたところを見ると、俺に言うつもりは無いみたいだ。

「・・・・・・はい、分かりました 」

とりあえず返事はしたけどあんな事、二度とごめんだよ。

「後、既に許可しているが、シンシアの付き人にも帯剣を許している。念の為ジュナも常に帯剣をしておくように 」

「はい 、分かりました 」

父上は何を警戒しているんだろう。
まさかまた二度目が起こると思っているだろうか?
俺は父上への報告を終えて執務室を出ながら嫌な予感を振り払うように首を大きく横に振った。

「どうされました? 」

「ジュナ、今は剣を持ってないよな、父上の命令だ、常に帯剣をしておくようにだってさ 」 

扉の前で待っていたジュナに、さっき父上に言われた事を早速伝える。
するとジュナは小首を傾げて怪訝な顔をする。
確かに、ジュナは一応剣の心得はあるけど、どちらかと言うと文系で、戦う時も魔術での後方支援が多いから不思議に思うのも分かる。

「私が、ですか? 」

「ああ、俺も常に帯剣をしておくように言われた 」

「何かあるんですか? 」

「俺にも分からないけど、父上はまた昨日のような事が起こると思ってるみたいなんだ 」

「そうなんですか?? 」

「うん、もうあんなの、起こって欲しくないけどな 」

「そうですね、無いことを祈りましょう 」



ジュナはそう言うと早速自室に戻って剣を持って戻ってきた。

「今日はこれからどうされますか? 」

「この時間はまた庭にシンシアが居る気がするから行ってみる 」

昨日何故目の見えないシンシアが俺より先に魔獣に気がついたのか聞きたい。

「分かりました 」

ジュナはそう言うと俺の後に付き従って歩く。

庭に出てバラ園の方に行くと、やっぱりシンシアは来ていた。
昨日の薔薇に囲まれた東屋に居る。

「やぁ、シンシア 」

「まぁ、カイン様おはようございます 」

シンシアが立ち上がって俺に挨拶をする。
相変わらず優雅な身のこなしだ。

「ちょっと聞きたいことがあってきたんだけど、いいかな? 」

俺は向かいの席に座りながらシンシアに問いかける。

「何でしょう? 私にお答えできることでしたら 」

柔らかな淡い金色の髪が朝の日差しを浴びて透けるように輝いている。髪の間から除くエメラルドグリーンの瞳でにっこり笑うシンシアはやっぱり可愛い。
その瞳が俺を映し出していない、ただの飾りだとしても惹き込まれる。

「・・・・・・・・・ 」

「どうされました? 」

「あっ、な、何でもない 」

思わず見とれてしまっていたなんて、恥ずかしくて言えない。
焦って思わず立ち上がったらテーブルの脚の角に思いっきり膝をぶつけてしまった。

ガンッ! と鉄に立ち向かった俺の膝の格闘の音が響く。

「いっっ! 」

思わず痛いと言いそうになるのを何とか耐えて蹲った俺に、慌ててジュナが駆け寄って来る。

「っ、大丈夫ですか? 」

俺の肩に手を掛けながら声を掛けるジュナの声は微妙に笑いを含んでいる。
そりゃ可笑しいだろうさ、焦って足ぶつけるなんて、マヌケにも程がある。笑いたきゃ笑え、だけどこれがシンシアには見えていないのが幸いだよ。

「カイン様、どうされました? 」

俺の異変に(そりゃ派手にテーブル蹴って声上げてりゃ気付くよな)シンシアが立ち上がって俺の方へ近づいて来て手を差し伸べる。

「気にしないで、大した事ないから 」

差し出された手を断ろうと、手のひらを突き出したらシンシアの手に少し触れた。

その瞬間、一瞬辺りが真っ白になる。






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