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22話 予期せぬ事(リリアンナ)

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翌日、私はセイラ様に謝罪しようとセイラ様達のいる教室がある棟へ向かって歩いていた。

「何様かしら 」

「セイラ様がお可愛そう 」

そんな小さな声が私の耳に届いた。
いえ、きっと聞こえるように言ったのだと思う。

「あの、セイラ様はどちらにいらっしゃるかご存じですか? 」

セイラ様のお話をされているようだったので、聞いてみる。

「え? 」

聞かれた方は一瞬戸惑ったように硬直したあと、笑顔を向ける。

「あちらにいらっしゃいましたわ」

私は指の刺された方を見やって、教えてくれた方に向き直る。

「ありがとうございます 」

お礼を言うと、教えてもらった方角へ歩き出す。
しばらく歩くとまた何人か居たので聞いてみる。

「・・・セイラ様でしたら、先ほど実習室の方にいらっしゃいましたよ 」

そう言われて、実習室の方へ向かう。

「あれ? リリアンナちゃん? どうしたの? 」

軽い声で話しかけてきたのはジュリアス様だ。

「ジュリアス様、ごきげんよう、セイラ様のところに向かっているのです 」

「セイラ嬢? さっき教室にいたと思うけど 」

「そうなのですか? 先ほどお聞きしたら実習室の方にいらっしゃると仰っていらっしゃたのですけど・・・」

「そうなの? 移動したのかな? ・・・まぁ、いいや、俺もついて行ってあげる 」

ジュリアス様は楽しそうに私と並んで歩く。

「いえ、ご迷惑なので結構ですわ」

「全然迷惑なんかじゃないよ、むしろリリアンナちゃんと話が出来て嬉しいくらいなんだから、そこまで一緒に行くよ 」

ジュリアス様のキラキラした笑顔はシルル様の王子スマイルとは違って、なんだか演劇の中の主人公を見ているようなキラキラした眩しさです。
シルル様の周りって見目麗しい方ばかりなのよね、ジュリアス様はたまにお会いすれば分からない事を優しく教えてくださる紳士な方です。

「ありがとうございます。ではご一緒させて下さいませ  」

ジュリアス様は気さくでお話上手で、楽しくお話をしているうちにすぐに実習室の前まで到着した。
実習室の中を覗いてみたけれど誰もいない。

「居ないみたいだね 」

「そうですわね、隣のお部屋かしら? 」

実習室の中にはもう二部屋あって、先生に個人的に教えて欲しい時に使う部屋になっている。

「一応確認しとく? 」

「そうですわね 」

私とジュリアス様は奥の部屋を確認する為、実習室の中に足を踏み入れた。
中に入ってしばらく歩いた所で、後ろで扉の閉まる音がした。
その音にジュリアス様が敏感に反応して振り返る。
私も遅れながら振り返ってみると、開けておいたはずの扉が閉まっていた。

「まさか 」

ジュリアス様が慌てて扉に向かって行って開けようとするけれど、開かないのかかなり焦っている様子。

「おい! 開けろ! 」

ジュリアス様が外に向かって声を張り上げているけれど、一向に反応はない。
私はジュリアス様の行動を呆然と眺めながら何が起こったのか頭の中で整理していた。

え? なに? 何が起こったの? 
ドアが開かないの? 閉じ込められた? どうして?

「リリアンナ嬢、ごめん、どうやら閉じ込められたようだ・・・クソ、俺達が居るのを分かってて閉じ込めたんだ  」

しばらくドアと格闘していたジュリアス様がドアとの格闘を諦めて向き直ると、悪態をつきながら他に出口がないか部屋の中をぐるりと回る。
外に面した大きな窓はあるけれど、ここは五階、そこからの脱出は望めない。

「リリアンナ嬢、大丈夫、何とかするから、少し待っててくれる? 」

ジュリアス様は自分も焦っているだろうに、私に椅子を出していつもの笑顔で座るよう促してくれる。

「ありがとうございます。私は大丈夫ですわ 」

少し怖いけど、怖いと言えばジュリアス様に気を使わせてしまうし、迷惑が掛かる。
平気なフリで私もにっこり笑ってみせる。

「リリアンナ嬢は強いね 」

そんな私の様子を見てジュリアス様がふんわり微笑む。

「え? 私は全然強くなんてありませんわ 」

そんなことを言われたのは初めてだ。 ずっと自信がなくて、でも、公爵家の子女として、シルル様の婚約者として恥じぬよう、私なりに努力してきたつもりだ。 

「俺も、リリアンナ嬢はたおやかな見た目通り、守ってあげなくちゃいけない女の子だと思ってたんだ。でも、君はこんな状況でも落ち着いてる。さすがシルル様の婚約者って所かな 」

褒められたようで、何だか嬉しくなる。

「そんな事を言っていただけたのは初めてですわ 」

嬉しくてつい顔がほころぶ。 今までシルル様の婚約者として相応しくいなければと思っていたので、こんな風に自然に笑ったのは初めてかもしれない。

「正直、シルル様が羨ましいよ 」

「え? 」

「こんなに素敵なリリアンナ嬢を独り占めしてるんだ、羨ましい 」

気が付くと、ジュリアス様は私の座る椅子のすぐ横に来ていて、私の事を熱い眼差しで見下ろしていた。





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