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17話 呼び出し(シルル)
しおりを挟むリリアンナにあまり関わらないようにしてから、あっという間に時間は流れてしまった。
何もすることが出来ないまま2年が過ぎた。我ながらかなり不甲斐ない。
これからリリアンナとの関係をどう修復するべきか・・・そればかり考えていたある日、とうとう来たか・・・というような噂が流れてきた。
リリアンナがセイラ嬢をいじめていると言うんだ。
俺はあの優しいリリアンナがそんな事するはずないと思ったし、リリアンナがセイラ嬢をいじめる理由が無い。
だって、俺はセイラ嬢とはなんの関係もないのだから。
噂にそんな馬鹿なと思いつつも、セイラ嬢を呼び出して確認してみることにした。
「セイラ嬢、呼び出してすまない、俺が君を呼び出した理由、わかる? 」
俺はセイラ嬢とはできるだけ短時間の接触で済ませるように話を始めた。
どうやら俺とセイラ嬢が噂になってるらしいので、さらに噂になるような事をしてリリアンナに誤解を招くようなことはしたくない。
「どのような事でしょう? 」
「単刀直入に聞くけど、セイラ嬢は俺の婚約者に虐められてるの? 」
俺の質問に、セイラ嬢は目線を逸らして言い淀む。
「それは・・・ 」
それが答えなのだろう。
「ごめん、俺がちゃんと気をつけていなければいけなかったのに、セイラ嬢、出来ればリリアンナの事は嫌わないで欲しい 」
「シルル様が気にやまれることは何もありません。私が何かリリアンナ様のお気に触れるようなことをしたんだと思います。私は気にしていませんわ 」
セイラ嬢はそう言うと、にっこり微笑んだ。
本当にリリアンナがセイラ嬢をいじめてるのだとしたら、小説通りになってしまった。
俺がリリアンナに嫌われるのを恐れて、ちゃんとリリアンナに向き合えていなかったからだ。
これは俺の責任だ。
「シルル様、お呼びでしょうか? 」
俺はその日の午後、リリアンナを応接室に呼び出した。
今までこの呼び出しすらも怖くて出来なかったのに、こんな事になってから気持ちが落ち着くなんて、ホント俺、王子失格だ。
「リリアンナ、呼び出してごめんね、こっちへどうぞ 」
俺は遠慮がちに入ってきたリリアンナに座るよう勧めた。
「早速なんだけど、ちょっと嫌な噂を聞いてしまってね、リリアンナに直接確かめようと思って来てもらったんだけど、なんの事か分かるよね? 」
リリアンナが座ったのを確認してから、早速本題に入った。
本当に虐めているなら正直に言わないと思うけど・・・
「その事なのですが、私も先程聞いてびっくり致しました。何故そのような噂が流れてしまったのでしょう?・・・ 」
リリアンナは本当に困ったように俺を見る。
「心当たりは無いの? 」
「はい、でも、火のないところに煙は立ちませんものね、私気が付かない所で何かしてしまったんでしょうか? だとしたらとても申し訳ないですわ・・・ 」
リリアンナの様子は本当にセイラ嬢を気遣っているように見える。嘘をついている様子もない。
そうだよな、優しいリリアンナがそんな事するはずないと思う。
俺が守ろうと決めたリリアンナを疑うなんて、どうかしてた。
「疑ってごめんね、リリアンナがそんな事するはずないよね 」
「私の言うことを信じてくださるんですか? 」
リリアンナは俺に疑われた事で、俺の信頼を失ったと思っていたのか、縋るような、泣きそうな表情で俺を見る。
俺はこの表情を知ってる。
俺が婚約破棄を言い渡した時の小説の中のリリアンナの表情だ。
俺は本当にバカだ、リリアンナにこんな表情をさせない為に守るって決めたのに、何やってんだ俺。
「疑ってごめん、俺も心の優しいリリアンナがそんな事するはずないって信じてるよ 」
俺の言葉に、リリアンナは優しく微笑む。
「信じて下さってありがとうございます 」
少しでもリリアンナを信じられなくてごめん。
セイラ嬢を信じるなんて、どうかしてた。
でも、そもそも何処からそんな噂が流れたんだ? これは調べないといけないな・・・
それは置いといて、こうしてリリアンナと向かい合って話をするのは久しぶりだ。
「リリアンナ、こうしてちゃんと向かいあって話をするのは久しぶりだね、今まであまり誘えなくてごめんね、決して俺が君を嫌いになったとかじゃないからね、誤解しないで 」
「いえ、シルル様もお忙しい身ですもの・・・私こそ、お気遣い出来なくて申し訳ございません 」
「そんなに気を使わなくても大丈夫だよ、それよりもまたこうして話をしようね 」
本当に、久しぶりにこうして話が出来たことは嬉しかった。
リリアンナには嫌な思いをさせてしまったと思うけど、結果として俺はリリアンナと話す勇気が持てた。
これからはもっと会話して、リリアンナの事を守って行きたい。
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