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⑨ボディガード失格(ミカエル)

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今日はとんでもない失態をしてしまった。

可愛い天使なレイラお嬢様にお怪我をさせてしまった。
今日は伯爵家のパーティで、レイラお嬢様は何やら朝から張り切っていらっしゃる様子だった。

小柄なレイラお嬢様が十五センチのヒールを履いてお出かけをされる。社交界デビューしてからはいつもの光景だ。

俺はいつものように、レイラお嬢様の少し後ろを離れて付いて行く。招待された伯爵様に挨拶を終えると、レイラお嬢様はシャンパンを片手に落ち着ける場所を探されていた。
俺もレイラお嬢様が腰掛ける場所がないか探して、人気の少ない中庭の方を確認していた。

一瞬レイラお嬢様から目を離した後、レイラお嬢様の方を見ると、その横にすごい勢いでレイラお嬢様に突っ込んでくる令嬢の姿が見えた。
あぶない!そう思うのと同時にレイラお嬢様はぶつかられてよろめき、バランスを崩す。
慌てて抱きとめたけれど、さっきの動きからして、あの高いヒールだ。レイラお嬢様は足を挫いている。
公の場でレイラお嬢様の腰を抱くなど、使用人としてあるまじき行為だが、手を離すべきか悩んだ。

一瞬悩んでいる間に、レイラお嬢様がハンカチを差し出された手が跳ね除けられる。

コイツ!レイラお嬢様の優しさを蔑ろにするなど許せん!
相手はレイラお嬢様が何故かヒロインと呼び、ヒロインの為に婚約破棄されると言って、気遣っているリサ嬢だ。

リサ嬢はドレスにシャンパンを浴びて、全面的に怒りを顕にしている。俺はぶつかるのを止められなかったが、ぶつかる瞬間のリサ嬢の顔は見ていた。

一瞬ニヤリと笑いながら、わざとシャンパンを持つレイラお嬢様の右手を狙ってぶつかって行ったのを・・・
リサ嬢の目的は何だ?レイラお嬢様に嫌がらせをされている仕返しか?だがレイラお嬢様は言葉で嫌がらせはしても物理的な嫌がらせをしたことは無い。いつもレイラお嬢様の周りにいる取り巻きが勝手に押したりぶつかったり、わざと足を掛けたりしているのだ。
ああ、今はそれより、レイラお嬢様が困っている。

「ドレスの事は申し訳ございません。明日にでもマダムリンドール様をお連れ致しますので、お好きなドレスをお仕立て下さい。」

俺はリサ嬢にそう言ったが断られる。
マダムリンドールの仕立てなんて、子爵令嬢には飛びつきたくなる話だと思ったが・・・目的は何だ?

そう思っていると、ヘンリー王子が到着されたようで、こちらに歩いてくるなり、なんと、レイラお嬢様ではなくリサ嬢に話しかけた。
リサ嬢は顔を赤らめ、ドレスが汚れたのはレイラお嬢様のせいだと言わんばかりにシャンパングラスを見る。

コイツ!初めからそれが狙いか!
ヘンリー王子はリサ嬢を気遣い、腰を抱いてエスコートしながら消えていく。
レイラお嬢様には一言も声をかけずに。
俺がレイラお嬢様を支えているこの状況は明らかに異常なのに、その事には触れなかった。

いろいろと考えることはあるが、まずレイラお嬢様の事だ。
レイラお嬢様は何が起きたのかわからず呆然としているが、早く手当をしないと。

「レイラお嬢様、今日はもうお暇しましょう。」

俺が声をかけると、レイラお嬢様は何故?と答える。
気が動転して自分が負傷していることに気がついていないらしい。
まったく・・・可愛らしい・・・

俺はわざと支えていた手を離してみる。するとレイラお嬢様が俺の方を向こうと足を踏み出した瞬間、苦痛に顔をゆがめて崩れそうになる。俺はすぐにレイラお嬢様を支えて退席を促す。

けれど、ここから出るまで、お嬢様を抱き抱える訳にはいかない。怪我をしたと言うと騒ぎになるし、レイラお嬢様はそれを望まないだろう。
使用人の俺が腰を抱いてエスコートするわけにもいかない。
俺としては、すぐに怪我したと言って抱き上げて差し上げたい所だが、それは使用人の判断することではない。あくまで主に従わなければ・・・

レイラお嬢様は歩くことを覚悟して動き始める。
俺はすぐ後ろから何時でも支えられるようついて行くことしか出来ない。

ホールを抜けた所で、レイラお嬢様が一息つかれる。
そこが俺にはもう限界だった。
周りに人は居ない。一声掛けると、俺はレイラお嬢様を抱き上げた。
人目に付く前に馬車まで走る。

レイラお嬢様は慌てて周りを気にしていたけど、俺が走り出すと、俺の首にしがみついてくれた。
こんな時に不謹慎だが、俺に身を委ねるレイラお嬢様に幸せを感じてしまう。

うん、レイラお嬢様、じっと俺を見ないでくれませんか?照れます。


足を見ると、やはりかなり腫れ上がっている。
しばらく歩けないだろう。

レイラお嬢様をお守り出来ず、お怪我をさせてしまったんだ。しばらくはレイラお嬢様を甘やかして差し上げよう・・・



    
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