上 下
1 / 44

①悪役令嬢

しおりを挟む


「貴方、わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?子爵令嬢の分際で、侯爵令嬢で婚約者のこのわたくしを差し置いてヘンリー様とお話ししようなど、身の程をわきまえなさい!」

ビシッと伸ばした手を子爵令嬢へ向けて指差す。
背筋をピンと張りスラリと伸びた細身の長身から見下すように冷たく見つめる令嬢。

彼女はイルザンド王国第一王子、ヘンリー・ディ・イルザンドの現婚約者で侯爵令嬢のレイラ・グレイシス。

彼女の周りには取り巻きが陣取り、子爵令嬢のリサ・クラウディアを囲う。

「そうよ、レイラ様を差し置いて何様かしら。」

取り巻きの一人が蔑む。

「そ、そんな・・・私はそのような事していません。」

リサがおどおどと答える。

「何を言っているか聞こえませんわ!そこ邪魔なのでどいてちょうだい。」

別の取り巻きが肩を押すとリサはよろめき後ろにあった噴水の中へと尻もちをついた。

「ぷっ、何それ、ダッサ!」

肩を押した取り巻きが冷めた目で見つめると、みんながクスクス笑い出す。

「皆さん、こんな田舎者に構っていられませんわ。パーティへ戻りましょう。」

レイラはそう言うと取り巻きを連れて会場へと戻っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「大丈夫かい?何があったの?」

レイラ達がいなくなった後、呆然とするリサに声をかけたのはたまたま通りががったヘンリー王子だった。
ヘンリーに助けあげられるリサの姿は誰も見ていなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「皆様、わたくし今日は気分が優れませんの。わたくし今日はこれで失礼致しますわ。」

レイラはそう告げるとエントランスへと向かった。

エントランスにつく頃にはグレイシス家の馬車が待機していた。
レイラは無言のまま馬車へと乗り込むと、馬車はその場を後にしたーーー




「ねぇ、ミカ!わたくしの声震えていなかった?」

レイラが話しかけたのはレイラが馬車に乗り込むのを手伝うと自身も乗り込んだレイラ付き執事権ボディガードのミカエルだ。

「ええ、レイラお嬢様、完璧でした。」

ミカエルがそう応えるとレイラは少し安堵の表情を浮かべる。

「良かった。ちゃんと悪役令嬢出来ていたのね、でも、ミカ!今日はリサ様が噴水の中に落ちてしまったの!酷いことをしてしまったわ。お怪我はなかったかしら、お風邪を召されないかしら・・・とても心配だわ。」

涙目になりながらミカエルに訴える。

「レイラお嬢様、あの後リサ様はヘンリー様に助け出されていらっしゃいましたので大丈夫でしょう。風邪を召されてはレイラお嬢様がご心配なさるので、既に身体の温まるお茶をクラウディア家へ届けさせました。もちろん、侯爵家の名は出さず、辺境伯の名を出しております。」

淡々と答えるミカエル。

「そうなの?さすがミカね、ありがとう。」

そう言うとほんわりと柔らかな笑顔を向ける。
腰まで真っ直ぐ伸びた白銀の髪に紫の大きな瞳がキラキラと輝くようにレイラの笑顔を煌めかせる。

その笑顔を向けられたミカエルもニコリと返した後、そっと目を伏せる。

「レイラお嬢様の笑顔は本当に宝石のようですね、眩しすぎて直視できません。」

「もう、何を言っているのかしら、ミカは何時も私を喜ばせてくれるわね。」

頬を紅く染めながらミカエルを見る。

「レイラお嬢様、おみ足は大丈夫ですか?」

ミカエルがそっと気遣うように告げる。

「ミカはなんでもお見通しね、正直限界だったのよ。」

そう言ってレイラはドレスの裾を少し上げる。

華奢な足に履かれているのは高さ十五センチはありそうな高いヒールのパンプスだった。

「失礼します。」

ミカエルはそう言うとレイラの足から高いヒールを外して低いパンプスへと履き替えさせる。
レイラはミカエルの様子をじっと見ながらされるままにしていた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は冷徹な師団長に何故か溺愛される

未知香
恋愛
「運命の出会いがあるのは今後じゃなくて、今じゃないか? お前が俺の顔を気に入っていることはわかったし、この顔を最大限に使ってお前を落とそうと思う」 目の前に居る、黒髪黒目の驚くほど整った顔の男。 冷徹な師団長と噂される彼は、乙女ゲームの攻略対象者だ。 だけど、何故か私には甘いし冷徹じゃないし言葉遣いだって崩れてるし! 大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた事に気がついたテレサ。 断罪されるような悪事はする予定はないが、万が一が怖すぎて、攻略対象者には近づかない決意をした。 しかし、決意もむなしく攻略対象者の何故か師団長に溺愛されている。 乙女ゲームの舞台がはじまるのはもうすぐ。無事に学園生活を乗り切れるのか……!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

陛下の溺愛するお嫁様

さらさ
恋愛
こちらは【悪役令嬢は訳あり執事に溺愛される】の続編です。 前作を読んでいなくても楽しんで頂ける内容となっています。わからない事は前作をお読み頂ければ幸いです。 【内容】 皇帝の元に嫁ぐ事になった相変わらずおっとりなレイラと事件に巻き込まれるレイラを必死に守ろうとする皇帝のお話です。 ※基本レイラ目線ですが、目線変わる時はサブタイトルにカッコ書きしています。レイラ目線よりクロード目線の方が多くなるかも知れません(^_^;)

『 私、悪役令嬢にはなりません! 』っていう悪役令嬢が主人公の小説の中のヒロインに転生してしまいました。

さらさ
恋愛
これはゲームの中の世界だと気が付き、自分がヒロインを貶め、断罪され落ちぶれる悪役令嬢だと気がついた時、悪役令嬢にならないよう生きていこうと決める悪役令嬢が主人公の物語・・・の中のゲームで言うヒロイン(ギャフンされる側)に転生してしまった女の子のお話し。悪役令嬢とは関わらず平凡に暮らしたいだけなのに、何故か王子様が私を狙っています? ※更新について 不定期となります。 暖かく見守って頂ければ幸いです。

悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?) グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。 「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」 そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。 (これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!) と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。 続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。 さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!? 「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」 ※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`) ※小説家になろう、ノベルバにも掲載

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...