クロラ

方正

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故郷と集結する同志

修練3

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 あらかじめ持参しておいた、大きめの白いタオルで汗を拭きとる私。
 スターダストの投擲訓練は一度終えたが結果は散々だった。
 数えきれないほど投げ続けたが、当たったのは一度だけ。それも的の端にかすめただけだった。
 簡単に缶詰の昼食を取る。
 缶詰の中は角切りにされた野菜のスープパスタだった。
 サクラは白いプラスチックで出来たフォークで突き刺した野菜を次々に口に放り込んでいる。
 ビーチパラソルで出来た日陰の下、キャンプ用の机を挟んで向かい合う。
 先に缶詰を空にした私は、頬杖をして遥か彼方の青と青が交わる境界線を眺めていた。
「ユリ姉、呆けてどうしたの?」
フォークの先を加えたままで頭を少し右に傾けているサクラ。
 私は頬杖をしていた腕を伸ばして、指先でサクラの額を突いた。
 彼女は小さい悲鳴を上げた。
 非難の視線を向けられたが、笑って返した。
 あんなに小さかったのに、こんなに大きくなったんだね。
 うれしいような気もするけど、私より胸が大きくなっていることは許せない。
「さてと、始めよっか」
汗だくになったジャージの上着を椅子に掛けて、リュウが運んできてくれたホワイトムーンを持ち上げる。
 半袖の通気性の良いシャツに短パン。
 サクラには同じ形をした模型を既に渡してある。
 突き刺さる日差しの真下、サクラと向かい合い片手で握って剣先をサクラに向けた。
 両手で握る事はあり得ない。片手は常にハンドルを握っているからだ。
 サクラは剣道の様に両手で握って、腹部のあたりで構えた。
 ホワイトムーンのコードは付けていない、サクラを切るわけにはいかない。
 大きく息を吸って止める。
「ふぅ―――――――」
先に動いたのはサクラからだった。
 私の喉元を狙って、剣先を近づける。刀身を使って、軌道をそらしたが髪に当たった。
 刀身を滑らせた瞬間に鎖骨へめがけて、振り下ろす。
 風を切る音を立てて。
 しかし、当たらずに砂の上に当たった。
 あっという間に距離を取られていた。猫の様にすばしっこい動き、これは骨が折れそう。
 次は剣先を後ろに向けてから、低い姿勢で砂を巻き上げて距離を詰める。
 この動きは切上げる構え。右腕を反対側の左腕へ曲げると、止まった瞬間に振り下ろす。
 刀剣同士が接触すると同時に、手を放して体をくるっと回転させてから、左手で掴む。
 体当たりをして地面に押し倒した。
 馬乗りになってからサクラの左肩の上から、首の左側に刃を当てた。
「ぶはっ!ユリ姉、痛い」
その声を聴くと、サクラからゆっくりと離れた。
 体に付いた砂を払い落とすと、刀身を肩に当てる。
 サクラはむくりと起き上がった。顔に付いた砂を両手で振り落とした。
「サクラ、まだやれる?」
一つ返事で返すと、再び剣を交える。
 海に膝くらいまでの深さの所や、足場の悪い瓦礫だらけの場所、次次に場所を変えた。
 気が付けはすっかり、朱色に辺り一面染まっていた。
 二人とも腕も足も全身擦り傷だらけ、戦場ならきっと私達は血まみれだろう。
 いくつもの致命傷を受けている。
 荷物を簡単にまとめると、家に戻る事にした。
 サクラの影を踏みながら歩みを進める。久しぶりの家族団欒が、戦闘訓練になるとは思わなかった。
 前を進むサクラの背中をみつめて、旅行でも出来たいいのにと考えていた。
 家に近づくと、灯が窓からこぼれていた。
 それにいい匂いがする。リュウが料理してくれているのだろう。
 玄関を開けて、リビングへむかう。荷物は軒先にまとめて置いた。
「帰ったか……ボロボロだな。風呂に入って来いよ」
私達を出迎えたのは、リュウではなくハジメさんだった。
 オールバックのポニーテールに白のエプロン姿は少しだけ、笑ってしまう。
 テーブルの上には、いろいろな夏らしい料理が並んでいた。
 ソーメンにきゅうり等の酢物、それに冷しゃぶなど。
 サクラ、私の順番でシャワーを浴びた。
 部屋着に着替えると、リビングのソファーに座る。
 テーブルの上には4人分の皿と端が並べられている。
「羽田隊長、リュウ兄は?」
先に着替えて、大きめのソファーでタブレットを弄っていたサクラが問いかけた。
 青い浴衣を着て、寝転がっている。
 ハジメさんは、エプロンを畳んで私達の前に、麺汁が入った曇ったガラスの容器を置いた。
「リュウの野郎はまだガレージだ、サクラはいい旦那を持ったな。お前の為に必死だぜ」
昔からそうだが、この男は本当に一言多い。
 リュウとは恋人とか旦那とかまだそんな関係じゃない。
 そういってから、缶ビールを開けてグイっと飲む。
 サクラは気にせずにタブレットを触り続けていた。
 私はため息をついて、テーブルの端に並んでいた色の着いたペットボトルを取る。
 封を開けるとやや茶色の泡がペットボトルの口から噴き出た。
 急いで口を付けると、溢れ出る泡を飲む。
 独特の甘みと刺激のある強炭酸、コーラだった。
「ただいま。飯か」
作業着のまま、首にかけていたタオルで顔に付いていた黒いオイルの汚れ取っていた。
 そのまま、私の右隣りのソファーに座って、缶ビールの封を開いた。
 ハジメさんと違って、そっと一口だけ飲んだ。
 4人ともテーブルを囲うと食事を始めた。
 主に話題になったのは私達の世界中での戦地だった。
 体験ではなく、敵味方の武装と兵器の発展についての考察。
 リュウが次々に質問に答える中、私とサクラは黙々と料理を口に運ぶ。
 はっきり言って、レーザー兵器や粒子兵器については細かくは知らない。
 使えと言われればなんでも使える自信はあるが、進展とか発展型とかまで聞かれても、使いにくいとかしか言えない。
 静かになったのは、皿がすべて空になってからだった。
「さてと、片付けは任せるぞ。荷解きをしないといけないからな」
「荷解き?なんで?」
私は間抜けな声を出して聞いた。
「あぁ。俺はここでしばらく住むことになったから。2階の一番奥の部屋は使わせてもらうぞ?」
この家の2階は3部屋しかない。となると私と誰かが一緒に夜は寝る事になる。
 サクラを見ると、無関心な顔をしていた。聞かれなかったからと言われそうだ。
「リュウと相部屋でいいだろ?数年一緒だし何を今更気にすることがある」
私とリュウは非難の声を上げたが、適当にはぐらかされた。
 1時間ほど抗議したが、この男の言い草に私達が折れた。既に荷物は動かされているという。
 私とリュウは並んで、皿を洗っている。
 サクラとハジメさんは、二階へ上がっていった。
「悪い。ユリ」
泡まみれの手を動かしながら、皿を洗っているリュウが私に言う。
「何が?」
濡れた皿を乾いた布で丁寧に拭いて、乾燥させるために縦に並べて行く。
 ひたひたと、拭ききれなかった水滴が、鉄製のトレイに一滴ずつ落ちていく。
「ハジメのことだ。あいつは苦手だっただろ」
確かにからかわれては、リュウとの関係を細かく聞いてくる。
 その度にリュウから制止されていた記憶は鮮明に覚えている。
「もう慣れた。相手したって疲れるし」
リュウはそうかと、一言だけ放って鍋の中に付いた真っ黒な焦げを落す。
 私達が使用した皿をすべて洗い終えると、キッチン周りを拭いていく。
 白い布巾は油や汚れを吸って、黄色と茶色でまだら模様になっていた。
 それを擦って汚れを洗い流す。
 排水口には黄色い油汚れが溜まっては、少しずつ流れ落ちていく。
「飲むか?」
二つの縦に細長い瓶。オレンジのシールが張り付けられていた。
 私は頷いて、キッチンを後にしてリュウの背中を追いかけた。
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