ダルメシアンのマーブル物語

獣医との出会い

Ｋはマーブルのワクチン接種のためにマーブルを連れて動物病院へ歩いていた。

未だかつて見たことのない田園風景とどことなく懐かしさを与えてくれるような味わったことのない空気に誘われるかのように遊歩道を歩いた。

プレハブ付近の場所は観光地とは言える場所ではなかったが、川で水遊びができる楽しさがある場所だ。

動物病院への道は地図をみても地理が曖昧としかわからない。

東へしばらく歩くと植物園があった。

入口と表示された門から出口まではバスの停留所２つぶんぐらいの距離があった。

植物園には色鮮やかな紫色や黄色のパンジーの花が咲いていた。

植物園なんて遠い昔の遠足で訪れたかすかな記憶しかなかったが、ぽっかりと穴の開いたＫの心を修復してくれるようなパンジーに翻弄されていた。

今まで見えなかったもの、見付けられなかったものが見えるかもしれない、そう感じていた。

Kとマーブルは動物病院ではなく植物園に自然と足を踏み入れていた。

Ｋが花畑の前でパンジの花をのぞき込み顔を近づけて、じっと見つめていた最中のことだった。

「きれいでしょう」

白衣姿の一見、神経質そうな細身の見知らぬ男が話しかけてきた。

「失礼ですが、あなたは」

「私ですか、この近くの動物病院で獣医をしています」

白衣の男は、森山実、３６歳

動物病院の院長だ。

後にＫの人生観を大きく変える存在だとは、この時は知るよしもなかった。

それから二人は初対面ではあったが、マーブルを連れて動物病院に行き、ワクチン接種を済ませて、赤の他人とは思えないほど会話が弾んだ。

そして再び、植物園に戻り閉園間際まで話し込んでいた。

このときKは獣医の森山と進が仲の良い知り合いだということも知り、世間は狭いなあと感じていた。