俺様会長はアルファに怯える

辰祢 きびを

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サーッ……


熱い湯が体に当たり寝起きのボヤけた思考がはっきりしていく。
いつからか日課になった朝のシャワーは自分の目を覚ますためでもあった。


いよいよ、今日からか…。

昨日、矢野と一緒にその日の仕事を終わらせた。
やはり、2人でやると作業の効率も良く、今日する分の仕事はかなり少ない。

ちょっとはゆっくり出来るかも、なんて思ったが今日からあいつらプラス転校生が来るので休まる暇などないことは明らかで

キュッ、


「…チッ…。」


昨日のことを思うとイライラしてしょうがない。
それはあいつらのことだけでなく、自分自身が泣きそうになったことにもだ。

あんなことで泣きそうになるなんて、自分では自覚してないがかなりメンタルにきていたのかもしれない。


ぼたぼた水滴が体から滑り落ち床を濡らしていくのを気にせずに腰にタオルを巻く。

鏡の前に立つと、生っ白い肌の不健康そうな男。
運動なんてする時間もなく体重もかなり落ちてしまった。指で腹を摘むとちまっと皮だけ摘める程度で。

これでもあの転校生が来る前までは他のα共と並んでも遜色ないほどの体つきはしていたはずだ。

オメガは基本、身体的に未熟な奴が多い傾向にある。体の線が細く、身長や手足なども小さい。

筋肉がつきにくいこの忌々しい身体に鞭を打ち人の数倍は運動や筋トレをこなして手に入れた日々の努力の賜物が、数ヶ月体を動かさなかっただけでこんなことになるとは。
俺の今までの苦労が水泡に帰した。

あいつらのせいでこうなったと考えるとまたイライラしてくるが、言ったってしょうがないな。

ジムにまた通うか。

学園には生徒専用のジムがあり内容もかなり充実している。あの転校生が来る前まではよく通っていた。
あいつらも生徒会に戻ってきたみたいだしジムに通う時間も割けるか?

鏡の前でもんもんと考えていると、目の前にぬっと

「おはようございます。早いですね。」

「どぅわっ!…お、おい刈谷…お前な、急に現れんなよ…。」


刈谷が急に鏡の中に入ってきたので驚いた。


「朝食の準備をさせていただきましたよ。」


「あ、あぁ…すぐ行く。」


そう言うと刈谷はさっさと戻っていく。

刈谷には俺の部屋のスペアキーを渡しているので、準備や洗濯、部屋の掃除をさせている。させているというか何も言わずとも勝手に入っては勝手に掃除して行くのだ。

いつか、このことを役員の誰かに知られて引かれた事があったが、別に見られて困るもんも無いし、持ち物も少ないのでなんら問題はない。


さっさと体を拭いて、服を着てリビングに行くとご飯のいい匂いがしてきた。


「雫様、これからは頻繁に朝食を作りに参りますね。」

ご飯を食べようと、席に着くと口を開いた刈谷がそう言った。


「…なんだよ急に、別にどっちでもいい。」

正直、朝ごはんなんて用意してあったら食べるがまあなくてもいい、その程度の感覚だ。


「…いえ、最近の激務のせいでかなり痩せましたよね。親衛隊達の間でも心配の声が上がっていますよ。ですので、これからは1日3食しっかり食べて頂きます。あの愚者どもも生徒会にどうやら戻ってきたようですし。」


「あいつらが生徒会に戻ってきたの、知ってんだな。」


「何言ってるんですか。もうその話題で生徒達の間では持ちきりですよ。あの転校生のことも。」


あー、もう話が広がってんのか…。

多分またあのいけすかねえクソ新聞部のやろうのせいだろうけど。

ま、今はそれよりも


「それはそれとして…またジムに通おうと思うから刈谷手続きすましといてくれ。」

そう言うと、刈谷は急に居心地悪そうに言い淀んだ。


「なんだよ」

急になんだ?と箸を止めて刈谷を伺うと

「ジムは、やめたほうがいいと思います。」


「は?なんでだよ。」


「…いえ、ですが、今はちょっと時間がないですし…。」


「いや、だからあいつらも生徒会に戻ってくるから時間はできるだろ。」


「……」


刈谷が重いため息をつくのでますます意味がわからない。


「なんなんだよ。はっきり言えよ。」


「……最近、ジムがFクラスの人たちに占拠されている噂を耳にして…。」


「はあ!?なんだよそれ、俺の耳に入ってこなかったぞ!」


それが事実ならかなり問題じゃねぇか。

なんで生徒会にその話が上がってこなかったんだ。


「…貴方は通常業務で手一杯だったので…」


その言葉で俺は確信した。

つまり、こいつはただでさえ俺が1人で仕事をして手一杯なのにその上問題ごとが増えたら俺への負担があると考えて


「俺にわざとその話が入らねぇようにしてたな。」


「…すみません。」


「てめぇにそんな心配されなくてもいい。そんな大事な問題を野放しにしていたら生徒会の沽券にも関わる。勝手な判断をするな。」

頭を下げる刈谷に、こいつも俺のことを思ってしてくれたことなのであまり強くは言えないが

「だが、なんで急にFクラスの人間が…。」


「今の状況に乗じてでしょうね。生徒会は貴方1人で、普段の業務で手一杯だったことは知っていたでしょうし、…まあ、その分風紀が仕事をしてくれたらよかったんですがね。」


「風紀の奴らはFクラスのすることにノータッチだからな。」


俺は箸を置いて椅子にかけていたブレザーを手に取り腕を通す。


「どちらに行かれんですか。」

「ジムに行くんだよ。そいつらと話してくる。」


生徒会室に直で行こうと考えていたが、まあ今すぐしないとならない仕事はないし、歓迎会の話もあいつらがいるから大丈夫だろう。


「待ってください。相手はFクラスの人間ですよ。」


刈谷がいつになく焦った様子で俺に声をかける。

刈谷が焦る気持ちもわかるが。


「いつまでも野放しにしてたら、今度は何するかわかんねぇだろう。今のうちに牽制しとかねぇと。」


「……こうなるから、言いたくなかったんです…。分かりました。一緒に行きます。」


「いや駄目だ。お前はここの片付けを終わらせて部屋の掃除でもしてろ。」


俺がそう言うと刈谷はすこし声を大きくして


「何を言ってるんですか、あんな人達の所に貴方1人で行かせられるわけ…。」


「お前は、ここの掃除を、してろ。」


少し語気を強めて言うと刈谷は何かを言いたげに、しかしグッと押し黙って


「……分かりました。出過ぎた真似をして申し訳ありません。」


そう言って、頭を下げた。


「…終わったらお前は生徒会室に行ってあいつらがやらかさねぇか見とけよ。」


そう言って部屋を後にした。


Fクラスのやつらか…。
あーあー、次から次へと問題ごとばかり来やがって…。
たしかにあいつがああいうのも無理ねぇな。
Fクラスは簡単に言えば素行の悪い生徒ばかりが集まったクラスで。
それだけならまだいいのだが厄介なことにFクラスには政界の重役の息子や、華族の末裔などこの学園の中でもかなり身分の高い人間が多い。

多分そういう身分のいい奴らのご子息が素行が悪くて受け入れる学園はここぐらいなもんだから、必然とそういう奴らが集まったのだろう。

その中でも、Fクラスを牛耳っているヤのつく自由業の息子がいるのだがこの人がかなりやばいと噂の人物で。
3年生だと聞いたが前の学校を問題ごとで退学になってこっちに転入してきておまけに留年している。

学園内にいることは少ないらしく、噂では既に親の仕事の手伝いをしている、らしい。
あの人が転入してきてからFクラスの素行が以前より悪くなったと前生徒会長が言っていた。
そしてもっと面倒なことにそのFクラスのドンであるその人が風紀委員長である加賀美と接点があるのだ。
詳しいことは俺も知らないが、どうやら2人は親しい仲らしい。

風紀の人間の中にFクラスの生徒が多いのも、それが関係しているかは分からないがまあ、そうだろうと言えるな。

だから風紀はFクラスのすることにノータッチで俺たち生徒会役員がFクラスの問題ごとを請け負っていた。

風紀なら学園の風紀を乱す象徴のようなFクラスをまずは取り締まれと言いたいのだが。
そこを触れる者はいないし、俺も触れない
まあそこに触れるのはタブーなんだと思う。
そういう訳でFクラスはかなり面倒な集団なのだ。

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