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しおりを挟む「…そういえば、あんたにいっつもくっついてる刈谷はどうしたの?」
どれくらいたったか、長い沈黙に耐えきれなくなったのか、矢野が口を開いた。
俺はてっきり矢野も出て行くと思っていたので話しかけられたことに内心驚きつつも、答える。
「…私用で少しあけるってさっき連絡がきた。別にいっつもあいつと一緒にいるわけじゃねぇよ…。」
嵐のような出来事に今になってどっと疲れが出る。
立つのも煩わしくなり椅子にどかっと座ると矢野も同じタイミングで自分のデスクの椅子に座った。
「……な、なんで座るんだ。」
「別にいてもいいでしょ?ほら、貸しなさいよその書類…別の仕事も残ってるんでしょ。」
矢野が俺のデスクに山積みになっている書類に向かってそれを渡せと言わんばかりに手を振る。
「そ、それは仕事をするって意味か?」
俺は矢野の言葉が信じられなくて頓珍漢な言葉を発していた。
「それ以外に何があるのよ。たくもう早く渡しなさいよ。」
矢野は呆然と書類を持つ俺の手から無理やり奪う形で取るとさっさと作業に入る。
「……でも、伊東は今いないぞ?」
俺はどうして矢野が今仕事をしているのか理解できなくて作業をしている矢野に向かって話しかけてしまう。
伊東が役員入りするとおそらく決まるだろうが、今から伊東が戻ってくる可能性は限りなく低い。
伊東が目当てなら今ここで仕事をするメリットはないはずなのに。
そう1人で悶々と考えていると、矢野は一つため息をついて椅子から立ち上がった。
「…あんたへの信頼は今ほぼ無いって分かってるわ。でも今私はあの子が入るから仕事してるんじゃない。元々、今日から仕事に復帰しようと思ってたの。そして、あなたにその話をしようと考えて、きたの。信じられないと思うけど…会長、今までごめんなさい。今更勝手だと思うけれど仕事をさせてほしい。」
そう言って頭を下げる矢野に驚きで目を見開いた。
あのプライドの高い、アルファの矢野が俺に頭を下げるなんて。
目の前の光景が信じられない。でも事実さっきもこいつは他の役員たちから俺を庇ってくれた。
そう、こいつは最初から俺の味方をして、他の役員に言ってくれたのだ。
どうして急にそんな心変わりをしたのかは分からないが俺はじわじわと喜びがこみ上げてくるのを感じた。
「……勝手にしろ。」
素直にありがとう、とそう言いたかったが俺の元来の性格のせいでぶっきらぼうになってしまった。
失敗した。ここは素直に言うべきだったか。
なんて考えていたが、矢野は平然と勝手にするわ、とまた椅子に座り作業に戻っていった。
部屋に響くパソコンを叩く二つの音。
お互い会話はない。静かな部屋にその音だけが響く。
だけどその空間が俺にはひどく心地よく感じて、さっきまでの怒りや苦しさが霧散した。
明日からのことを思うと本当に嫌になってしまうが、今はただこの心地よい空間に浸っていたいと思った。
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