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「………はぁ。」
どうしたもんか。
今俺の頭を悩ましている元凶のタイトル以下白紙の資料を睨みつけてから早数十分。
新入生歓迎会。
毎年恒例のこの行事は、新しく入学した新一年生を歓迎、そしてその他の上学生達との交流を深めるための行事で、うちの学園はこの歓迎会に毎年かなり力を入れているのが特徴だ。
体育祭や文化祭と同等、それ以上の盛り上がりを見せるこの行事は毎年生徒会が先導し、主催している。
去年は確か学園内ツアーだったか。
在校生が学園内を紹介して回り、夜には薄暗い学園内を肝試しと称して回ったっけ。
特に夜の肝試しはかなり盛り上がって評判も良かったんだよな。
ペラペラと去年の新入生歓迎会の資料をめくりつつ自分の記憶も呼び起こす。
実際に自分が新入生だったにも関わらず、そのときの記憶は朧げだ。
元々、娯楽を嗜む経験が乏しい俺には肝試しを楽しむことが出来ずに終始目の前の騒ぎを傍観して終わったような…。
つまり、俺にこんな企画物を考えろなんてのは無理な話ということだ。
無理だ、出来ないで何とかなったらな。
今までだったら、あいつらにこういう仕事は任せていた。だから別に困ることはなかったんだが…。まあ、あいつらはここに居ないわけで。
碌でもない奴らだったが、あの転校生が来る前は多少文句を言いつつも仕事はしてくれていたし、その仕事ぶりも高い評価を得ていた。
「……やっぱ、何とかして戻ってきて……いやいや…」
何弱気になってんだ、俺1人でも完璧にやり遂げてみせねぇと。
どうにかこうにか頭を捻って漸くペンを握る。
今年はイレギュラーなこと(主にあの転校生と役員のボイコット)があったせいで会議が出来ず、通年であれば既に始まっていた準備期間が企画案が完成していないせいで遅れており、大掛かりな歓迎会はできないと考えている。ので、簡単な、でも一年が上学年と交流を深めれるいい感じの企画。
書いては消してを繰り返す。
あ"ー、とりあえず委員会との合同会議までには間に合わせないといけねぇ。
ガチャ
「みんな、ただいまー…あれ?」
「太陽、ドアは僕が開けるよ。」
まってくれ、嘘だろう。
ぐるぐる巡っていた思考が止まる。
「雫、久しぶりだね?」
ふふふと笑みを零す美少年と神経質そうなメガネをかけた男がそこに立っていた。
幻覚か?
「あ!そうだ、雫にもお土産があるんだ。せっかくなら一緒に食べよう、ね?いいでしょ?」
ニコニコしながらそう話す転校生の伊東 太陽は俺の返事も聞かずさっさと紙袋から菓子を広げ出す。
「おい!だれがいいと言ったんだ!それに何度も言うようだがここは役員専用の部屋で一般生徒は立ち入り禁止だ!」
歓迎会のこともありイライラしていた俺はつい少し大きい声でそう言ってしまう。
言われた伊東はビクッと肩を揺らして露骨に悲しげな表情でこちらを見る。
「…で、でも雫のために…買ってきたのに…。」
「そ、それはありがたいが、仕事もまだ片付いていないんだ。悪いが「太陽ちゃーん帰ってたのかあ?」
大きな音を立てて扉が開いたと思ったら外から北野、真田、そして矢野がぞろぞろと部屋に入ってきた。
最悪だ。神よ何故俺に試練をお与えになるのですか。
「あ、雪!伊織!悠ちゃんも!みんな久しぶりだね。」
役員達を下の名前で呼ぶ伊東はさっきまでの悲しげな顔は何処へやら、今はキラキラの笑顔でニコニコと役員共に近づく。
「太陽、お前10日は帰ってこねぇんじゃなかったのかよ。」
真田が伊東の頭をなでなでしながら、いつもの怠そうな顔ではなく綻んだ優しい眼差しで見つめながらそう問いかける。
「そうだったんだけど、さすがに10日も学校に行かないのはダメだと思って帰ってきたんだ。」
「えー、太陽ちゃんはほんとにイイコだねえ。」
今度は北野が伊東の頭を撫でるとえへへと伊東は照れた顔をする。
いやいやいや、旅行行ってる時点でイイコではねぇだろこの節穴ども!
と、叫びたい気持ちをぐっとこらえる。
「旅行行ってる時点でいい子ではないでしょ」
ハッ、と俺と同じ思いを言ってくれた矢野を見る。
「悠ちゃん、…ごめんね?」
「おーい、矢野嫉妬は見苦しいぞー。」
「あはは、嫉妬してたのは真田でしょー笑笑」
「ぁあ?やんのか、てめぇ。」
真田と北野がいつもの口喧嘩を始めたのを横目に俺は矢野が気になってしまうのか目で追ってしまう。
すると、その目線に気が付いたのか矢野とバチッと目が合い、そしてそのまま俺に向かって歩いてきた。
「会長、……って、これ新入生歓迎会の資料?」
俺のデスクに広がった資料を見たのか、矢野は資料を一つ手に取る。
「あー、そういやもうそんな季節か。」
「去年は確かあ、肝試しして真田がちびったんだっけ?」
「そうなの、伊織?」
「んなわけねぇだろ!ハッタリかましてんじゃねぇよクソヤリチン!」
びっくりした様子の伊東に慌てて真田が訂正する。
北野はにやにやと伊東の肩を組み真田はこう見えてビビリなんだよーと煽りに拍車をかけている。
「新入生歓迎会って肝試しなんてするの?」
伊東はこの学園の仕組みがまだよくわかっていないようで真田と北野を、見つめてそう問う。
「いやいや、毎年違うことすんだよ…それを考えるのがその年の生徒会役員なんだけど…まあ、今年はしらねぇけど。」
「えー、結構自由なんだね!今年はまだ決まって無いんだあ。」
「あー、うんうんまあ、今年は、ね…会長様がひとりで考えるらしいよー」
一人で、その言葉がやけに耳に届いた。
まあそうだろうな、わかってたけど。
面と向かって、では無いが同じ場所にいて、そこではっきりと協力する気がない様子の役員達に憤りに似た感情が突き上げてくる。
「えー!みんなで考えたら楽しいのにー…。」
眉を下げる伊東は本当に表情が豊かで可愛らしい、そして純粋な性格のおかげ?せい?なのか俺とその他の役員との関係について気づいてもいない。
そういう鈍感な所も大っ嫌いだ。
「…これ、会長が考えたの?」
「は?あ、、あぁ…まだ本決まりではないが。」
矢野は紙を持ち上げる。
俺が書いたのは立食パーティーで、内容はその名の通りだ。
これなら準備も食事の用意とセッティングで業者を呼べばすぐに終わるので今からでも十分に間に合うと踏んだからだ。
「立食パーティー?…今年は立食パーティーにすんの?」
矢野の後ろから覗き見たのか北野がそう言う。
すると、それを聞いた伊東が
「え、面白くない。」
そう言ったのだ。
その瞬間体がカッと熱くなった。
瞬間、言い返してやろうそう思ったがついに口には出来ず、唇を震わせた。
何故って、伊藤の言葉が図星だったからだ。
純粋な、無邪気さ故なのかその言葉が後から失言だと気付いた伊東はハッとし、でも楽しいかもね、なんてフォローをする。
しかし、その伊東の発言に反応した他の役員達が
「いや、さすがに立食パーティーは手抜き過ぎだろ…。」
「あは、まあ俺はなんでもいいけど、まあ確かに普通って感じだよねーあはは。」
「ちょ、ちょっと2人とも…。」
おろおろとする伊東のサイドで好き勝手話す2人に今度は怒りより恥ずかしさが生まれた。
わかってる、こんなのやったって面白くないに決まってる。でも時間もない、俺には考える頭も無いんだ。
くそ、自分で自分が情けない。
情けなくて、悔しくてなんだか泣きそうになってしまい慌てて下を向く。
まずい、こいつらの前で泣くなんてありえない、だめだ堪えろ俺。
「だったらあんたらが企画考えなさいよ。」
矢野の一言が部屋に響く。
俺は驚いて思わず顔を上げる。
矢野は資料を机に置いて、真田と北野に向き直すともう一度口を開いた。
「なんにも仕事をしてないあんた達が言える立場なわけ?」
その視線はやけに鋭く、怒っているようにもみえる。
「は?な、なんだよ急に…別に文句は言ってねぇよ…ただ感想言っただけだし…。」
「そーそーなにキレちゃってんの矢野。」
真田は矢野のトゲのある言い方に驚いた様子なのか歯切れの悪い言動だ。
反対に、北野はそんな矢野にもどこ吹く風の様子だ。
しかし矢野の一言で場が一気に張り詰めたものになる。
俺は矢野が俺を庇ってくれた事実に困惑し何も言えなかった。
すると
「ただの立食パーティーじゃなくてさ、何かミニゲームとかあったらいいんじゃないかな?」
と、伊東が言った。
その伊東の発言に真田と北野が大袈裟に反応する。
「おー、それいいな何種類かその場で出来るゲームな。」
「それだったら一年生も先輩たちと仲良くなれるかもね。」
「さすが太陽だな。」
「え、い、いや僕は思ったことを言ったまでで。」
「いやいや、だからその発想が流石なんだよ。」
「そうそう、いいじゃん立食パーティーとミニゲームで。」
「は!?おいふざけんな勝手にきめてんじゃ。」
「え、勝手にってなに?俺らも役員なんだけど。それにただの立食パーティーよりミニゲームがある方が断然いいよね。」
「そーそー、会長の手抜き企画を太陽が手助けしてくれたんだから感謝しろよ。はい決定な。」
俺の言葉を適当にあしらうようにそう言う二人。
確かに伊東の提案は良い、だけど今からミニゲームを考えて、それを用意するなんて時間…。
「なにそれ、だったら責任持ってあんたらがミニゲーム考えるんでしょうね。」
「えー、それはめんどくさいなあー。」
「なんでそこまでやんねぇといけねえんだよ…。」
「てめぇら言うだけ言って…そんなの許されるわけねぇだろうが!」
ああもうだめだ
こいつらを部屋から追い出すために声を上げようとすると
「じゃあ、僕、考えるよ…元はと言えば僕が言い出したことだし。」
その伊東の発言に、真田と北野が伊東を振り向く。
そしてすぐさま、態度を変えたかのように
「じゃあ俺も考えるわ。」
「太陽ちゃんと一緒にって考えたら楽しそうだねーあは。」
なんて言い出す。
「ちょっと!あんたたち」
「なに、言われた通りちゃんと考えるんだから文句ねぇだろ。」
真田は矢野の言葉を遮ってイラついた口調で話す。
「ご、ごめんね悠ちゃん…。でも僕頑張って楽しい企画考えるし…。」
「あのね、あんたは1年でしょ?歓迎される方なのに、あんたが企画してどうすんの…それに生徒会役員でもないのに。」
「じゃあ、太陽も生徒会役員になればいいんじゃないかな。」
今まで俺たちの会話を傍観していた副会長が口を開いた。
その言葉に俺は目を見開く。
しかし、他の役員たちは
「おおー、いいなそれほんとだ、お前生徒会入っちまえよ。」
「ありあり、太陽ちゃんが生徒会に入ったらクソつまんない仕事も楽しくなりそう。」
「これでいいだろう?実際、一年生は確かに歓迎される方だが、太陽の企画だとしても太陽自身が歓迎会を楽しめなくなることなんてないだろう、ね?太陽。」
「うん!僕は全然!みんなと準備するのも凄く楽しそう!」
穏やかな口調でそう言う副会長に俺はふつふつと怒りが湧いてくる。
「ふざけんじゃねぇよ、一年生が生徒会入りなんて聞いたことねぇよ!勝手に生徒会役員にいれて他の生徒の反感でも買ったら」
「別にこの生徒会は選挙で選ばれたメンバーでもないでしょう?先代の生徒会役員の先輩方の推薦なんだから別に構わないだろう。一年生が入るのも別に今までなかっただけで駄目って決まってるわけじゃない。大丈夫、手続きは副会長である僕がするから会長はなにも気にしなくていいよ。」
そう言い切って俺に微笑む。
たしかに、たしかにそうだ
でも、でもそんなのっ…
「…はーいじゃあけってー。じゃ、また明日生徒会室集合で太陽も一緒に新人歓迎会の計画たてていこうよー。」
「そうだな。」
「じゃあ、僕は顧問に話してくるよ。」
「明日から楽しみだなあ。」
話は勝手に進んで行き、各々言いたいことを言って部屋を出て行く。
ふざけんな、こんな勝手なこと…!
でも、伊東の役員入りを否定する理由は副会長の言う通りない。
この怒りは俺の勝手な感情だ。
それに結果として、みんな生徒会にまた戻ってきたのだ。
これで良かったじゃないか。
そう言い聞かせようとしても、納得ができない。
俺が必死になってどうしたらあいつらが生徒会に戻ってきてくれるか考え、必死になって企画を考えていたのを
あんな簡単な言葉で、一言で
全部持って行っちまうなんて。
「…会長」
1人残った矢野が言いたげに俺を見つめる。
でもその同情的な目線も今の俺には辛いものとなっていて。
俺は自分の企画書がぐちゃぐちゃになるまで握っていたことにも気付かないくらい怒りと悔しさと虚しさで苦しくなっていた。
どうしたもんか。
今俺の頭を悩ましている元凶のタイトル以下白紙の資料を睨みつけてから早数十分。
新入生歓迎会。
毎年恒例のこの行事は、新しく入学した新一年生を歓迎、そしてその他の上学生達との交流を深めるための行事で、うちの学園はこの歓迎会に毎年かなり力を入れているのが特徴だ。
体育祭や文化祭と同等、それ以上の盛り上がりを見せるこの行事は毎年生徒会が先導し、主催している。
去年は確か学園内ツアーだったか。
在校生が学園内を紹介して回り、夜には薄暗い学園内を肝試しと称して回ったっけ。
特に夜の肝試しはかなり盛り上がって評判も良かったんだよな。
ペラペラと去年の新入生歓迎会の資料をめくりつつ自分の記憶も呼び起こす。
実際に自分が新入生だったにも関わらず、そのときの記憶は朧げだ。
元々、娯楽を嗜む経験が乏しい俺には肝試しを楽しむことが出来ずに終始目の前の騒ぎを傍観して終わったような…。
つまり、俺にこんな企画物を考えろなんてのは無理な話ということだ。
無理だ、出来ないで何とかなったらな。
今までだったら、あいつらにこういう仕事は任せていた。だから別に困ることはなかったんだが…。まあ、あいつらはここに居ないわけで。
碌でもない奴らだったが、あの転校生が来る前は多少文句を言いつつも仕事はしてくれていたし、その仕事ぶりも高い評価を得ていた。
「……やっぱ、何とかして戻ってきて……いやいや…」
何弱気になってんだ、俺1人でも完璧にやり遂げてみせねぇと。
どうにかこうにか頭を捻って漸くペンを握る。
今年はイレギュラーなこと(主にあの転校生と役員のボイコット)があったせいで会議が出来ず、通年であれば既に始まっていた準備期間が企画案が完成していないせいで遅れており、大掛かりな歓迎会はできないと考えている。ので、簡単な、でも一年が上学年と交流を深めれるいい感じの企画。
書いては消してを繰り返す。
あ"ー、とりあえず委員会との合同会議までには間に合わせないといけねぇ。
ガチャ
「みんな、ただいまー…あれ?」
「太陽、ドアは僕が開けるよ。」
まってくれ、嘘だろう。
ぐるぐる巡っていた思考が止まる。
「雫、久しぶりだね?」
ふふふと笑みを零す美少年と神経質そうなメガネをかけた男がそこに立っていた。
幻覚か?
「あ!そうだ、雫にもお土産があるんだ。せっかくなら一緒に食べよう、ね?いいでしょ?」
ニコニコしながらそう話す転校生の伊東 太陽は俺の返事も聞かずさっさと紙袋から菓子を広げ出す。
「おい!だれがいいと言ったんだ!それに何度も言うようだがここは役員専用の部屋で一般生徒は立ち入り禁止だ!」
歓迎会のこともありイライラしていた俺はつい少し大きい声でそう言ってしまう。
言われた伊東はビクッと肩を揺らして露骨に悲しげな表情でこちらを見る。
「…で、でも雫のために…買ってきたのに…。」
「そ、それはありがたいが、仕事もまだ片付いていないんだ。悪いが「太陽ちゃーん帰ってたのかあ?」
大きな音を立てて扉が開いたと思ったら外から北野、真田、そして矢野がぞろぞろと部屋に入ってきた。
最悪だ。神よ何故俺に試練をお与えになるのですか。
「あ、雪!伊織!悠ちゃんも!みんな久しぶりだね。」
役員達を下の名前で呼ぶ伊東はさっきまでの悲しげな顔は何処へやら、今はキラキラの笑顔でニコニコと役員共に近づく。
「太陽、お前10日は帰ってこねぇんじゃなかったのかよ。」
真田が伊東の頭をなでなでしながら、いつもの怠そうな顔ではなく綻んだ優しい眼差しで見つめながらそう問いかける。
「そうだったんだけど、さすがに10日も学校に行かないのはダメだと思って帰ってきたんだ。」
「えー、太陽ちゃんはほんとにイイコだねえ。」
今度は北野が伊東の頭を撫でるとえへへと伊東は照れた顔をする。
いやいやいや、旅行行ってる時点でイイコではねぇだろこの節穴ども!
と、叫びたい気持ちをぐっとこらえる。
「旅行行ってる時点でいい子ではないでしょ」
ハッ、と俺と同じ思いを言ってくれた矢野を見る。
「悠ちゃん、…ごめんね?」
「おーい、矢野嫉妬は見苦しいぞー。」
「あはは、嫉妬してたのは真田でしょー笑笑」
「ぁあ?やんのか、てめぇ。」
真田と北野がいつもの口喧嘩を始めたのを横目に俺は矢野が気になってしまうのか目で追ってしまう。
すると、その目線に気が付いたのか矢野とバチッと目が合い、そしてそのまま俺に向かって歩いてきた。
「会長、……って、これ新入生歓迎会の資料?」
俺のデスクに広がった資料を見たのか、矢野は資料を一つ手に取る。
「あー、そういやもうそんな季節か。」
「去年は確かあ、肝試しして真田がちびったんだっけ?」
「そうなの、伊織?」
「んなわけねぇだろ!ハッタリかましてんじゃねぇよクソヤリチン!」
びっくりした様子の伊東に慌てて真田が訂正する。
北野はにやにやと伊東の肩を組み真田はこう見えてビビリなんだよーと煽りに拍車をかけている。
「新入生歓迎会って肝試しなんてするの?」
伊東はこの学園の仕組みがまだよくわかっていないようで真田と北野を、見つめてそう問う。
「いやいや、毎年違うことすんだよ…それを考えるのがその年の生徒会役員なんだけど…まあ、今年はしらねぇけど。」
「えー、結構自由なんだね!今年はまだ決まって無いんだあ。」
「あー、うんうんまあ、今年は、ね…会長様がひとりで考えるらしいよー」
一人で、その言葉がやけに耳に届いた。
まあそうだろうな、わかってたけど。
面と向かって、では無いが同じ場所にいて、そこではっきりと協力する気がない様子の役員達に憤りに似た感情が突き上げてくる。
「えー!みんなで考えたら楽しいのにー…。」
眉を下げる伊東は本当に表情が豊かで可愛らしい、そして純粋な性格のおかげ?せい?なのか俺とその他の役員との関係について気づいてもいない。
そういう鈍感な所も大っ嫌いだ。
「…これ、会長が考えたの?」
「は?あ、、あぁ…まだ本決まりではないが。」
矢野は紙を持ち上げる。
俺が書いたのは立食パーティーで、内容はその名の通りだ。
これなら準備も食事の用意とセッティングで業者を呼べばすぐに終わるので今からでも十分に間に合うと踏んだからだ。
「立食パーティー?…今年は立食パーティーにすんの?」
矢野の後ろから覗き見たのか北野がそう言う。
すると、それを聞いた伊東が
「え、面白くない。」
そう言ったのだ。
その瞬間体がカッと熱くなった。
瞬間、言い返してやろうそう思ったがついに口には出来ず、唇を震わせた。
何故って、伊藤の言葉が図星だったからだ。
純粋な、無邪気さ故なのかその言葉が後から失言だと気付いた伊東はハッとし、でも楽しいかもね、なんてフォローをする。
しかし、その伊東の発言に反応した他の役員達が
「いや、さすがに立食パーティーは手抜き過ぎだろ…。」
「あは、まあ俺はなんでもいいけど、まあ確かに普通って感じだよねーあはは。」
「ちょ、ちょっと2人とも…。」
おろおろとする伊東のサイドで好き勝手話す2人に今度は怒りより恥ずかしさが生まれた。
わかってる、こんなのやったって面白くないに決まってる。でも時間もない、俺には考える頭も無いんだ。
くそ、自分で自分が情けない。
情けなくて、悔しくてなんだか泣きそうになってしまい慌てて下を向く。
まずい、こいつらの前で泣くなんてありえない、だめだ堪えろ俺。
「だったらあんたらが企画考えなさいよ。」
矢野の一言が部屋に響く。
俺は驚いて思わず顔を上げる。
矢野は資料を机に置いて、真田と北野に向き直すともう一度口を開いた。
「なんにも仕事をしてないあんた達が言える立場なわけ?」
その視線はやけに鋭く、怒っているようにもみえる。
「は?な、なんだよ急に…別に文句は言ってねぇよ…ただ感想言っただけだし…。」
「そーそーなにキレちゃってんの矢野。」
真田は矢野のトゲのある言い方に驚いた様子なのか歯切れの悪い言動だ。
反対に、北野はそんな矢野にもどこ吹く風の様子だ。
しかし矢野の一言で場が一気に張り詰めたものになる。
俺は矢野が俺を庇ってくれた事実に困惑し何も言えなかった。
すると
「ただの立食パーティーじゃなくてさ、何かミニゲームとかあったらいいんじゃないかな?」
と、伊東が言った。
その伊東の発言に真田と北野が大袈裟に反応する。
「おー、それいいな何種類かその場で出来るゲームな。」
「それだったら一年生も先輩たちと仲良くなれるかもね。」
「さすが太陽だな。」
「え、い、いや僕は思ったことを言ったまでで。」
「いやいや、だからその発想が流石なんだよ。」
「そうそう、いいじゃん立食パーティーとミニゲームで。」
「は!?おいふざけんな勝手にきめてんじゃ。」
「え、勝手にってなに?俺らも役員なんだけど。それにただの立食パーティーよりミニゲームがある方が断然いいよね。」
「そーそー、会長の手抜き企画を太陽が手助けしてくれたんだから感謝しろよ。はい決定な。」
俺の言葉を適当にあしらうようにそう言う二人。
確かに伊東の提案は良い、だけど今からミニゲームを考えて、それを用意するなんて時間…。
「なにそれ、だったら責任持ってあんたらがミニゲーム考えるんでしょうね。」
「えー、それはめんどくさいなあー。」
「なんでそこまでやんねぇといけねえんだよ…。」
「てめぇら言うだけ言って…そんなの許されるわけねぇだろうが!」
ああもうだめだ
こいつらを部屋から追い出すために声を上げようとすると
「じゃあ、僕、考えるよ…元はと言えば僕が言い出したことだし。」
その伊東の発言に、真田と北野が伊東を振り向く。
そしてすぐさま、態度を変えたかのように
「じゃあ俺も考えるわ。」
「太陽ちゃんと一緒にって考えたら楽しそうだねーあは。」
なんて言い出す。
「ちょっと!あんたたち」
「なに、言われた通りちゃんと考えるんだから文句ねぇだろ。」
真田は矢野の言葉を遮ってイラついた口調で話す。
「ご、ごめんね悠ちゃん…。でも僕頑張って楽しい企画考えるし…。」
「あのね、あんたは1年でしょ?歓迎される方なのに、あんたが企画してどうすんの…それに生徒会役員でもないのに。」
「じゃあ、太陽も生徒会役員になればいいんじゃないかな。」
今まで俺たちの会話を傍観していた副会長が口を開いた。
その言葉に俺は目を見開く。
しかし、他の役員たちは
「おおー、いいなそれほんとだ、お前生徒会入っちまえよ。」
「ありあり、太陽ちゃんが生徒会に入ったらクソつまんない仕事も楽しくなりそう。」
「これでいいだろう?実際、一年生は確かに歓迎される方だが、太陽の企画だとしても太陽自身が歓迎会を楽しめなくなることなんてないだろう、ね?太陽。」
「うん!僕は全然!みんなと準備するのも凄く楽しそう!」
穏やかな口調でそう言う副会長に俺はふつふつと怒りが湧いてくる。
「ふざけんじゃねぇよ、一年生が生徒会入りなんて聞いたことねぇよ!勝手に生徒会役員にいれて他の生徒の反感でも買ったら」
「別にこの生徒会は選挙で選ばれたメンバーでもないでしょう?先代の生徒会役員の先輩方の推薦なんだから別に構わないだろう。一年生が入るのも別に今までなかっただけで駄目って決まってるわけじゃない。大丈夫、手続きは副会長である僕がするから会長はなにも気にしなくていいよ。」
そう言い切って俺に微笑む。
たしかに、たしかにそうだ
でも、でもそんなのっ…
「…はーいじゃあけってー。じゃ、また明日生徒会室集合で太陽も一緒に新人歓迎会の計画たてていこうよー。」
「そうだな。」
「じゃあ、僕は顧問に話してくるよ。」
「明日から楽しみだなあ。」
話は勝手に進んで行き、各々言いたいことを言って部屋を出て行く。
ふざけんな、こんな勝手なこと…!
でも、伊東の役員入りを否定する理由は副会長の言う通りない。
この怒りは俺の勝手な感情だ。
それに結果として、みんな生徒会にまた戻ってきたのだ。
これで良かったじゃないか。
そう言い聞かせようとしても、納得ができない。
俺が必死になってどうしたらあいつらが生徒会に戻ってきてくれるか考え、必死になって企画を考えていたのを
あんな簡単な言葉で、一言で
全部持って行っちまうなんて。
「…会長」
1人残った矢野が言いたげに俺を見つめる。
でもその同情的な目線も今の俺には辛いものとなっていて。
俺は自分の企画書がぐちゃぐちゃになるまで握っていたことにも気付かないくらい怒りと悔しさと虚しさで苦しくなっていた。
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