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しおりを挟む「会長、ちょっと」
呼び止められて足を止めると、そこにはさっきまで生徒会室にいた矢野がいた。
「なんだよ、用なら手短に……て、なんだこれ」
「みて分からない?私の分の書類よ」
どういうことか分からず書類を手渡してくる矢野の顔をじっと見つめる。
「……今は、あいつらがいないからほら、早く受け取りなさいよ」
書類を半ば強引に渡されても俺は呆然としたままで。
矢野は俺のなんでという顔に気づいたのか
「別に、私はあの子のこと彼らまで好きじゃないし、ほんとは別に仕事したっていいと思ってんの」
なんだそれ、だったら
「でも、私だけ仕事してるとあいつらに色々言われるでしょ?特にあの子…私面倒ごとはごめんなの」
「…なんだよそれ…そんな理由でてめえは今まで仕事を放棄してたのか」
「それだけじゃないわ、」
「なんだよどんな理由があんだよ、ハッ、大層な理由なんだろうなあ」
「…私あんたのこと嫌いなの」
……は?
「あんたのその人を見下した態度が気に食わないの。というか、嫌いなのはあんたもでしょ?最初会ったときからあんた私や他の役員達に嫌悪感抱いてたの…あら気付いてないとでも?ま、気付いてるのは私とあのいけすかない副会長ぐらいだと思うけど。
最初っから嫌悪感抱かれてる相手と仲良くできるわけないでしょ?」
「……だから、仕事をサボったのかよ」
俺がボソリと言うと目の前の男は形のいい眉を上げそうかもねと言った
「いつかは辞めようと思ってたの、あんたとは一緒に仕事なんて出来ないと思ってたし、そんなときあの子が転校してきて…まあ、私も流されてこの状況にいるわけだけど」
「とにかく、どうせあんたリコールするんでしょう?だったらその前に自分の役目ぐらい少しは果たそうと思っただけ、これはあんたのためとかじゃないから…じゃ、」
そういうや否や、矢野はすぐに俺に背を向け歩き去ってしまった。
…気付かれてたのか
たしかに、あいつらと顔合わせたあの日俺は嫌悪感を抱いたのは事実だ。
でも、それはあいつらが全員アルファだったから。
俺はあいつらに自分がオメガだと気付かれないよう常に気を張っていた。だが、それがダメだったのか?
あいつは俺のことが嫌いだと言って俺もそうだろうと言った。
でも、それは違う。別に俺は…。
あーくそ。どうだっていいだろうそんなこと
弁解なんてする必要ない。
俺は頭の中であいつに弁解するための言葉を取り繕っていることに気づき被りを振り打ち消した。
食堂に足を進めていると、周りの生徒達が俺の姿を見てギョッとした顔をして壁側に立ち道を開ける。
コソコソと話している内容はきっと碌でもない。
時折ちらっと様子を伺うと目があった集団はきゃあきゃあと声を上げて喜んでいる。
もう、この感じも慣れたがな。
というか、今は昼時か…通りでここら辺も人が多いと思ったんだ。
この学園では少し特殊な校則が存在し、それが生徒会役員ならびに風紀委員達の特別な事情による授業免除の可という校則だ。
まあ、今の状況なんかが特別な事情になるわけで。
だから、ここ数週間俺は一般生徒と違う生活ルーティンを送っていたので久々にこんな人混みの中を歩いていた。
しかも一人で。
いつもは刈谷がいるし、刈谷がいないなら…
「会長様!!」
「と思ったらきた」
目の前から走ってくる少年のような男に俺はげんなりとなる。
「どうしてお一人でいらっしゃるのですか!?何処かにいくならこの、親衛隊隊長の由良来ゆらぎがお供するというのに!!!」
「声がデケェよ…」
この距離でこのクソデカボイスで話されるのは中々の苦行だ。
「食堂に行くのですね!!!お伴します!!!!会長様が食堂でお食事を取るなんていつぶりでしょうか!!あぁ!本日はAランチがおススメですよ!!」
黙ってれば中々の美少年なのに話せば話すほど残念なやつだ。
「あー、じゃあそれで頼…「でしたら!このぼくが!会長様にお渡しいたしますので会長様はお先に席に着いていてください!!!」
「……はぁ」
ジンジンする耳に手を当て、俺は食堂の役員専用の席に移動する。
役員は色々な所で優遇される制度があるが、この食堂もそれの一つだ。
まあ、俺のような人間が他の一般生徒と同じ席についていたら混乱を招く事態になるしな。
ドスンと椅子に座り背もたれにぐっともたれかかる。
「…なんか、疲れたな…」
「こんなとこに珍しいお客さんだなあ」
…!?
目の前の椅子に我が物顔で座りそう言う男は俺がここ最近避けていた人物だ
「…何の用だよクソ野郎」
「相変わらず口がわりぃなあ会長さん?」
ニヤリと男らしい顔に悪どい笑みを浮かべる加賀美に俺は緩みかけた気が引き締まるのを感じた
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