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第弐話「幽霊屋敷」
幽霊屋敷・肆
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「それで、三毛縞先生が私にどの様な御用で?」
「以前、此方に住んでいたという井守さんが僕の担当でしてご紹介して頂いたのです。宜しければ一部屋お借りできないかと思いまして……」
「井守……嗚呼。つい一月程前に出ていった男だな。確か彼は半年も住んでいたな」
鴉取は顎に手を当てたまま、くくく、と噛み殺した様に笑う。どうやら井守のことは覚えていたようだ。
「人が良い井守氏のことだ。此処がどういう所か聞いてはいるだろう?」
「ええ。幽霊屋敷、と呼ばれていると」
「そう。住む人間が入れ替わり立ち代り……今はこの広い屋敷に私一人さ」
頷く三毛縞に鴉取は怪しく笑みを浮かべた。
「鴉取……さん、は平気なんですか」
「平気もなにも……私は、住人が見たというものは見ていないからね」
三毛縞の問いに全くもって平気だ、と鴉取は平然と頷いた。
「さて、三毛縞先生は此処の部屋を借りたいとのことだが……見ての通り空き部屋ばかりだから私は一向に構わないよ。しかし、元住人の話だと何やら怪奇現象が起こるらしいが、それでも良いので?」
「ええ。東都の中心に、この安さで住めるところはないですから。それに、怪異も怪奇現象も慣れているので平気です。寧ろ話のネタになるかもしれないので、好都合ですよ」
どことなく楽しげに笑みを浮かべる三毛縞に、鴉取はにやりと口元を緩ませた。
「それならば……一つ私と賭けをしないか。三毛縞先生」
「賭け?」
唐突に告げられた言葉に三毛縞は首を傾げる。
「嗚呼。住人が見たという、怪奇現象の正体を突き止めて頂きたい。そうだな……制限時間は明日の朝。勿論幾つか手がかりはお渡ししよう」
「一晩で、答えを探せと?」
「想像力豊かな三毛縞先生ならば、一晩もあれば余裕だろう?」
あまりにも唐突に、それも無茶な条件を出しながら鴉取は挑発する様に三毛縞を見つめた。
「……正体があるということは、鴉取さんはその答えをわかっているんですか」
「さぁ、どうかな。知っているかもしれないし、知りたいから尋ねているのかもしれない」
鴉取は答えをはぐらかす。まるでそうして挑発したら三毛縞が乗ってくることが手に取るように分かっているようだ。
しかし当人が覚えていないとはいえ、三毛縞はしっかり彼の事を覚えている。学生時代もこうやって何度も焚きつけられてきた。今回はそう簡単に口車に乗せられるつもりはなかった。
「賭けというからには、なにかあるのでしょうね?」
「勿論。貴方が勝ったら此処の部屋を無償でお貸ししましょう」
至極当然、といった様に鴉取は言葉を返した。
「……僕が、負けたら?」
「家賃は規定通り払って頂く。そして……私の仕事を手伝ってもらおうか」
「仕事?」
「表の看板が見えたでしょう? 私の助手をお願いしたい。勿論お礼は払うよ。こんな安アパートに来るんだ。凡そ金に困っているんだろう?」
三毛縞の全てを見透かす様に赤の瞳が細められた。
それが意図した物なのか無意識な物なのかはわからないが、鴉取は昔から人の弱いところを突くのが得意だった。
変な賭けなら断固として断ろうと思ったが、勝っても負けてもここには住める。そして失う金がなくなるか、金が増えるかの二択だ。貧乏作家にその言葉が甘く聞こえないわけがなかった。
「……良いでしょう。その賭け、乗ります」
こうして結局鴉取の思い通りに動き出してしまうのだと思うと悔しくて深い溜息をついた。
目の前の鴉取はしてやったりとにやりと笑う。その勝ち誇った笑みがまた無性に腹が立つ。これはなんとしてでも賭けに勝つしかあるまい。
「それでは、制限時間は明日の朝。各部屋の鍵は渡すから好きに動き回ってくれて構わない。夜はもし泊まる場所がなかったり、調査が難航するようであればこの部屋を使ってくれて構わないよ」
「此処に泊まっても良いということですか?」
「嗚呼。なにせ広いからね。部屋は余ってる。奥に客間があるから其処を使ってくれ」
鴉取は机の引き出しから、各部屋の鍵束を取り出すと三毛縞に差し出した。
ずしりと掌に感じる重み。これがゲエム始まりの合図。負けるわけにはいかないと、三毛縞は鍵を握りしめて鴉取を見つめた。
「君の答えを期待しているよ……三毛縞先生」
昔の様に意地悪そうに笑いながら、鴉取は三毛縞の肩を叩いた。
「以前、此方に住んでいたという井守さんが僕の担当でしてご紹介して頂いたのです。宜しければ一部屋お借りできないかと思いまして……」
「井守……嗚呼。つい一月程前に出ていった男だな。確か彼は半年も住んでいたな」
鴉取は顎に手を当てたまま、くくく、と噛み殺した様に笑う。どうやら井守のことは覚えていたようだ。
「人が良い井守氏のことだ。此処がどういう所か聞いてはいるだろう?」
「ええ。幽霊屋敷、と呼ばれていると」
「そう。住む人間が入れ替わり立ち代り……今はこの広い屋敷に私一人さ」
頷く三毛縞に鴉取は怪しく笑みを浮かべた。
「鴉取……さん、は平気なんですか」
「平気もなにも……私は、住人が見たというものは見ていないからね」
三毛縞の問いに全くもって平気だ、と鴉取は平然と頷いた。
「さて、三毛縞先生は此処の部屋を借りたいとのことだが……見ての通り空き部屋ばかりだから私は一向に構わないよ。しかし、元住人の話だと何やら怪奇現象が起こるらしいが、それでも良いので?」
「ええ。東都の中心に、この安さで住めるところはないですから。それに、怪異も怪奇現象も慣れているので平気です。寧ろ話のネタになるかもしれないので、好都合ですよ」
どことなく楽しげに笑みを浮かべる三毛縞に、鴉取はにやりと口元を緩ませた。
「それならば……一つ私と賭けをしないか。三毛縞先生」
「賭け?」
唐突に告げられた言葉に三毛縞は首を傾げる。
「嗚呼。住人が見たという、怪奇現象の正体を突き止めて頂きたい。そうだな……制限時間は明日の朝。勿論幾つか手がかりはお渡ししよう」
「一晩で、答えを探せと?」
「想像力豊かな三毛縞先生ならば、一晩もあれば余裕だろう?」
あまりにも唐突に、それも無茶な条件を出しながら鴉取は挑発する様に三毛縞を見つめた。
「……正体があるということは、鴉取さんはその答えをわかっているんですか」
「さぁ、どうかな。知っているかもしれないし、知りたいから尋ねているのかもしれない」
鴉取は答えをはぐらかす。まるでそうして挑発したら三毛縞が乗ってくることが手に取るように分かっているようだ。
しかし当人が覚えていないとはいえ、三毛縞はしっかり彼の事を覚えている。学生時代もこうやって何度も焚きつけられてきた。今回はそう簡単に口車に乗せられるつもりはなかった。
「賭けというからには、なにかあるのでしょうね?」
「勿論。貴方が勝ったら此処の部屋を無償でお貸ししましょう」
至極当然、といった様に鴉取は言葉を返した。
「……僕が、負けたら?」
「家賃は規定通り払って頂く。そして……私の仕事を手伝ってもらおうか」
「仕事?」
「表の看板が見えたでしょう? 私の助手をお願いしたい。勿論お礼は払うよ。こんな安アパートに来るんだ。凡そ金に困っているんだろう?」
三毛縞の全てを見透かす様に赤の瞳が細められた。
それが意図した物なのか無意識な物なのかはわからないが、鴉取は昔から人の弱いところを突くのが得意だった。
変な賭けなら断固として断ろうと思ったが、勝っても負けてもここには住める。そして失う金がなくなるか、金が増えるかの二択だ。貧乏作家にその言葉が甘く聞こえないわけがなかった。
「……良いでしょう。その賭け、乗ります」
こうして結局鴉取の思い通りに動き出してしまうのだと思うと悔しくて深い溜息をついた。
目の前の鴉取はしてやったりとにやりと笑う。その勝ち誇った笑みがまた無性に腹が立つ。これはなんとしてでも賭けに勝つしかあるまい。
「それでは、制限時間は明日の朝。各部屋の鍵は渡すから好きに動き回ってくれて構わない。夜はもし泊まる場所がなかったり、調査が難航するようであればこの部屋を使ってくれて構わないよ」
「此処に泊まっても良いということですか?」
「嗚呼。なにせ広いからね。部屋は余ってる。奥に客間があるから其処を使ってくれ」
鴉取は机の引き出しから、各部屋の鍵束を取り出すと三毛縞に差し出した。
ずしりと掌に感じる重み。これがゲエム始まりの合図。負けるわけにはいかないと、三毛縞は鍵を握りしめて鴉取を見つめた。
「君の答えを期待しているよ……三毛縞先生」
昔の様に意地悪そうに笑いながら、鴉取は三毛縞の肩を叩いた。
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