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2章「冒険者になろう!」

15話 冒険者になりたい!

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「わたし、冒険者になりたいの!」

 そう高らかに叫んだ瞬間、家の中はしんと静まり返った。
 さっきまでの盛り上がりが嘘みたい。なにか不味いことでもいっただろうか。

「却下」

 まばたきひとつ。
 悩む間もなくリオンは笑顔でそういった。

「な、なんで……」

 わたしは驚きで手が震えた。
 こういってはなんだけれど、リオンはわたしにとてつもなく甘い。それは多分お父様以上に。
 ある程度のワガママもリオンなら許してくれた。だから、今回もいけるはず――と思っていたのに。

「現実的に考えて不可能だ」
「や、やってみないとわからないじゃない。それに、私が冒険者になってパーティーを作って……そこからクランを大きくしていけば、あのフィスたちと渡り合えるかもしれない!」

 わたしの言い分をリオンは黙って聞いていた。決して馬鹿にはしていない。
 彼はわたしに甘いけれど、子供扱いはされたことなんてなかった。

「リラ、いいたいことは以上かい?」
「う……」

 リオンにまっすぐ見つめられ、わたしはそれ以上なにも言い出せずすとんと椅子に腰を下ろした。

「リラ、君の気持ちはよくわかる。ノエルも喜んでいるだろう。だが……私はリラに冒険者が勤まると思わない」
「どうして」
「第一に、君は体が弱い。少し雨に打たれただけで風邪を引いてしまう。冒険者は野宿することだって多い、そんな体で動けるとは思えない」
「うっ……」

 ぐさり、胸に鋭い棘が突き刺さってくる。

「ふたつめ、君はまだ体が成熟しきっていない。そんな体で剣を握り魔獣と渡りあえると思っているのかい?」
「ううっ……」

 2Hit。リオンの攻撃はとてつもなく心にくる。

「で、でも……別に剣じゃなくても、魔法使いのジョブだってあるでしょう。それなら剣を握らなくても戦える」

 まだ負けるわけにはいかない。起死回生をかけた最後の一撃。

「魔法師は魔法適正がなければなれないジョブだよ。魔法適性は生まれたときに検査されるが……君はその適性は全くなかった」
「ぐううっ!」

 3Hit。まだ、まだなにか――。

「それに――」

 リオンが追撃をかけた。

「冒険者は特別な事情を除いては未成年は登録できなかったはずだ」
「はっ……」

 4Hit。もうなにもいうまい。
 勝者はリオン。わたしは胸をおさえながら机に突っ伏した。

「……君はノエルの娘だ。冒険者になりたいと血が騒ぐのもわかる。だけど、焦らず進んでいこう」
「そうしたら……レーヴェはフィスたちの好き放題になっちゃう。お父様やリオンが守ってきた領地が滅茶苦茶になっちゃう」

 顔を伏せながらわたしは拳を握った。
 あの屋敷を荒れ放題にしていた彼らのことだ。きっとレーヴェの領民たちにも碌な扱いはしないだろう。

「リラ……」

 慰めるようにリオンがわたしの肩に手を乗せる。
 くやしい。力がない自分が憎い。もっと大きくて、体が強くて……それこそ前世の『私』がやっていたゲームのように無双できれば。
 でもそう上手くはいかないのが現実だ。これは非現実ゲームじゃないんだから。
 むくりと顔をあげたとき、リオンが広げていた資料が目に入った。

「――まって」

 わたしは目の前にある分厚い本を手に取った。
 冒険者法典。ここには冒険者にまつわるありとあらゆる規則が載っている。
 ぱらぱらとめくり、わたしはにやりと笑った。

「リオン。わたし、冒険者になれるかもしれない」
「え……?」

 わたしは『冒険者申請条件』のページを指でなぞる。
 ひとつ、冒険者申請には年齢条件はない。適正試験に合格した者が冒険者と認められ、登録することができる。
 また未成年が冒険者登録を望む場合、保護者あるいはそれに準ずる者の同意を得たうえで適正試験に挑むこと。(ただし、未成年者の適正試験は高難易度に設定されている)

「適性試験……」

 それを読んだ上で、わたしは今一度声高らかに宣言しよう。

「リオン。わたし、適正試験に合格して冒険者になってみせるわ!」
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