わたしがクランマスターですっ!〜転生幼女とおじさまパーティーの異世界生活《ライフ》〜

松田 詩依

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1章「運命の幕開け」

3話 お父様はクランマスター

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 わたしは生まれつき病弱でよく寝込むことが多かった。今回は特に酷く、原因不明の高熱にうなされ数日間生死の境を彷徨っていたという。そのため本調子に戻るまでに一週間の時間を要した。
 突如前世の記憶が蘇り、リラと七海由良との間での記憶に齟齬があったが体調が戻っていくにつれ少しずつわたし自身の状況も思い出すことができた。

「おはよう、リラ。体調はどうだい?」
「おはよう、リオン。もうばっちりだよ」

 毎朝七時になるとリオンが部屋に起こしにきてくれる。
 リオンは往診にきてくれるお医者様よりも事細かにわたしの体調を尋ねる。

「うん、顔色もとてもよくなった。これならもう普通に動いても大丈夫そうだな」
「本当に? やった!」
「ただし、絶対に無理はしないように。まだ病み上がりなんだから」
「はぁい」

 ようやくベッドに寝たきり生活ともおさらばだ。わたしは早く屋敷の外に出て外の世界を見たくてうずうずしていた。
 そんなわたしの心を読むかのように、リオンにしっかりと釘を刺されてしまった。彼は時々母親のように口うるさいんだよね。

「お父様は?」
「さっき依頼がきて、魔獣ビーストの討伐に向かったよ。そこまで手強い相手ではないから新人研修もかねて、ね。きっと昼過ぎには帰ってくるはずだ」
「新人研修?」
「ああ。ノエルは若手を育成するのが大好きだからね。クランに加入したばかりの冒険者のクエストには必ず同行するんだ。巨大クランのリーダーだというのに……アイツは本当に変わらない」

 ふぅん、と相槌を打ちながらわたしは頬がにやけそうになるのを我慢するのが精一杯だった。
 なぜなら、わたしの今世は日本人なら誰しもが憧れたことがある「剣と魔法の世界」だったのだ。
 国の名前はオーカ。文明レベルは十九世紀頃のヨーロッパに近い。
 移動手段は馬車が主。その他に鉄道や船もある。自動車も一様は存在しているらしいが、よほどのお金持ちのお貴族様しか持っていないようで、わたしは目にしたことがない。
 商人、農家、職人、教師、聖職者――などなど、職業も多種多様に存在している。基本的には前世が記憶しているものと変わりはないが、唯一違う職業がある。
 それは冒険者。依頼人から様々な仕事を受注して金を稼ぐ、若者たちの人気が絶大である花形の職業だ。
 この世界には魔獣ビーストと呼ばれる人に害を及ぼす生き物がおり、冒険者たちはそれらを討伐し報償金を得るということを主な生業にしている。
 冒険者には階級クラスがあり、皆Fランクからスタートし、最上位のSクラスになれるのはほんの一握りの冒険者だけ。
 己の体術、剣術、魔術など様々な能力アビリティ技術スキルを駆使し、簡単な素材調達から、命がけの魔獣討伐依頼までをこなす職業だ。
 その中でもSランク以上の冒険者たちには領地と爵位が与えられ、貴族と同等の扱いを受ける。
 冒険者は完全実力社会。一代限りの貴族。家柄もへったくれもないため、社交界では成り上がりと蔑まれることがほとんどらしい。
 そしてわたしの父、ノエル・レーヴェも冒険者。
 階級はS。この国で一番大きなクランのマスターであり、領地と男爵の爵位を持っている。その娘であるわたしは一応男爵令嬢ということになる。
 だから住んでいるのはお屋敷。メイドや執事など使用人も沢山いた。生まれ育つ環境としては恵まれすぎているだろう。

「リラ、体調が良いのであれば、朝食が終わったら少し外に散歩にいこう」
「……行く!」

 リオンのお誘いに待ってましたといわんばかりにわたしは立ち上がった。
 前世の七海由良は生粋のゲーマーだった。この世界のように冒険者として様々な敵を倒していくオンラインゲーム『ドラゴンズ・サーガ』は誰よりもやり込んでいた。
 だからこの世界に転生できて飛び跳ねるほど嬉しかったのだ。早く大きくなって——いや、今すぐにでも冒険者になって、剣や魔法を駆使して世界中を飛び回りたい!

「どこか行きたいところとかあるかな?」

 そうリオンに尋ねられたわたしは瞬間的に答えてしまった。
 冒険者がいる世界にきたならば、主人公は有無をいわさずこう答えるだろう。

「わたしを冒険者ギルドに連れてって!」
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