よみじや

松田 詩依

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5.「まちぼうけ」

5-8

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 その時、屋台の下の方からことりと音がした。音の元を探すために、女は屋台の下を覗き込んだ。そこには気づかなかったが、収納とは別にもう一つ引き出しがあった。その引き出しを開けた女は驚いたように寺田にそれを差し出した。

「……手紙が入ってました。」

 そこには様々な手紙があった。
 いろんな人に会いたいとの望み。
 古いもの、新しいもの、いろいろなものがあった。

「なんだそれ」
「手紙が入っていました……これ、寺田さんのものですよね」

 女の手には、以前寺田が宛先を書かずに出した手紙が握られていた。

「やっぱり、これは本物のよみじやなんだ……」
「都市伝説、ですか?」
「ああ。葉書に宛先を書かずに会いたい人物の名前を書いて出すと、屋台に届く……って噂だよ」

 この手紙を送って時間がかなり経っているというのに返送がなかったのがおかしいと思っていた。まさか、本当に屋台に手紙が届いているなんて。
 寺田がカウンターから身を乗り出して中を覗き込んで見ると、そこには自身の手紙だけではなく、古いものから新しいものまで沢山の手紙が入っていた。会えない人に会うために、ただの都市伝説を縋った人間がこんなにいたというのか。

「なぁ……聞き流してくれても構わないんだけど、聞いてくれるか?」
「……なんでしょう」

 寺田は女を真剣な目で見つめた

「……俺みたいに、ならないように。この手紙を届けた人をどうにか引き合わせてくれないか。これはきっと、お嬢さんにしかできないことだ」

 頭を下げた寺田を見て、彼女は困惑気味に瞳を揺らした。
 確かに今日は智代に会えなかったけれど、昨日、彼女と過ごした時間は本当にかけがえのない幸福なものだった。

「一度だけでも、会えて良かった。元気そうな智代に会えて本当に、よかったよ。だから、お嬢さんが会いたい人にもいつか会えるかもしれないね」
「考えて、おきます」

 女は戸惑いがちに答えながら残りのクリームソーダを飲み干した。

「ごちそうさま。美味しかったよ」
「お粗末さまでした」

 女はゆっくりと頭を下げた。
 寺田は涙を拭いながら立ち上がり、思い出したように女の顔を見た。

「そういえば……ここまで良くしてもらったのに、お嬢さんの名前を聞いていなかったね」

 寺田に名を尋ねられた女は顔を上げると、ゆっくりと言葉を紡いだ。

千代ちよです」
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