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3章 悪女、呪詛!
27話 侍女、解呪(後編)
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「――時間がありません。早速はじめましょう」
そういうなり、蘭華は懐から札を取り出し、緑翠妃の腹帯に張った。
「それは」
「護符です。気休めですが、お腹の子を呪詛から守ってくれるでしょう」
緊迫した空気の中、いつも通りに微笑む蘭華に緑翠妃はどことなく安堵感を覚えたようだ。
強ばった体の力が少し抜ける。
「それで、俺はどうすればいいんだ」
「……この呪詛の伸び方を見る限り、大元は指先。龍煌様、緑翠妃様の両手を握ってください」
「……いい、のか?」
龍煌は恐る恐る緑翠妃を見た。
「――構いません。少しでも助かる可能性があるのなら、それに賭けます。私は貴方を信じてる」
力強く言い切る緑翠妃の目に迷いはなかった。
「龍煌様。私を信じて。きっと私たちならできます」
「……わかった」
意を決し、龍煌は優しく緑翠妃の手を握った。
「――っ、ぐ」
間もなくして、緑翠妃が小さく呻き声を上げて目を閉じた。
「ぐっ……うううぅ、うっ、あああ……」
みるみる指先から黒いカビが伸び、彼女の全身が真っ黒に染まっていく。
「大丈夫なのか!」
「毒を全身に巡らせ、そして一気に吐き出させます。今はその途中」
そう言いながら蘭華は周囲をきょろきょろ見回す。
「なにをしている」
「この呪詛は緑翠妃様の体を少しずつ蝕んでいる。つまりは常習的に、呪詛を受けていたということです。そうなると必ず呪いの大元があるはずなのですが……指先から広がる……毎日触れるもの……」
はっ、となにかを悟ったのか蘭華は鏡台に走り寄った。
引き出しを開け、急いでなにかを探している。
「お化粧ですよ! 毎日触れ、尚且つ少しずつ使うもの。そして緑翠妃様がご自分でつけるのは――」
引き出しの中から取り出したのは小さな合貝。
「――紅」
「その証拠に、緑翠妃様の右の薬指の先が特に黒く変色している!」
龍煌が手を見てみると、蘭華のいうとおり緑翠妃の右手の薬指が色濃くなっていた。
「つまり、この紅を贈った者が呪詛師ということか!」
「そうです。ですが、私たちの仕事は緑翠妃様をお助けすること」
蘭華は桶を一つ抱えると、着物の袖を捲り、緑翠妃に歩み寄る。
そして腹部をすうっと撫で、丁度鳩尾辺りに手を添える。
「――失礼します!」
「っぐ!」
蘭華は思いきり鳩尾を押した。
すると緑翠妃の口からどばどばと黒い泥のような粘液質な体液が吐き出された。
「これを全部吐き出させれば助かります!」
蘭華は緑翠妃の背中を摩りながら、桶の中に液体を溜めていく。
すると緑翠妃の体を侵食していた黒カビが見る見ると消えていく。
「――っ、げほっ!」
最後の一滴を吐きった緑翠妃は意識を失った。
倒れる体を、龍煌は急いで布団を掴んで布越しに受け止め、寝台に横たわらせた。
「さて、あとは……っと!」
蘭華はといえば、あろうことかその桶の中に手を突っ込んだ。
「な、なにをしている!」
「人を呪わば穴二つ。人の命を脅かす者には、それ相応の代償が必要ですからね!」
ぐっ、と泥を押し込むように蘭華が力を込める。
すると禍々しい臭いを発していたそれは、瞬く間に清らかな水へと変わった。
「これは……」
「呪い返しです。緑翠妃様を呪った呪詛師は苦しんでいることでしょう。後宮中を探せば犯人は見つかるかもしれませんよ?」
「それを先にいえっ! すぐに雨黒に報せねば!」
「――あ、ついでにもう一つ」
急いで部屋を出ようとする龍煌を蘭華は何の気なしに呼び止めた。
「産婆も呼んできて下さい。緑翠妃様のお子がもうすぐ生まれます」
「もっと鬼気迫った感じでいえっ!!!」
寝所に龍煌の怒号が響き渡った。
その後は、呪詛師探しに、緑翠妃の出産など水月宮は大混乱に見舞われた。
その騒ぎに紛れ、蘭華と龍煌はこっそりと水月宮から逃げおおせ、無事任務を完遂したのであったとさ。
そういうなり、蘭華は懐から札を取り出し、緑翠妃の腹帯に張った。
「それは」
「護符です。気休めですが、お腹の子を呪詛から守ってくれるでしょう」
緊迫した空気の中、いつも通りに微笑む蘭華に緑翠妃はどことなく安堵感を覚えたようだ。
強ばった体の力が少し抜ける。
「それで、俺はどうすればいいんだ」
「……この呪詛の伸び方を見る限り、大元は指先。龍煌様、緑翠妃様の両手を握ってください」
「……いい、のか?」
龍煌は恐る恐る緑翠妃を見た。
「――構いません。少しでも助かる可能性があるのなら、それに賭けます。私は貴方を信じてる」
力強く言い切る緑翠妃の目に迷いはなかった。
「龍煌様。私を信じて。きっと私たちならできます」
「……わかった」
意を決し、龍煌は優しく緑翠妃の手を握った。
「――っ、ぐ」
間もなくして、緑翠妃が小さく呻き声を上げて目を閉じた。
「ぐっ……うううぅ、うっ、あああ……」
みるみる指先から黒いカビが伸び、彼女の全身が真っ黒に染まっていく。
「大丈夫なのか!」
「毒を全身に巡らせ、そして一気に吐き出させます。今はその途中」
そう言いながら蘭華は周囲をきょろきょろ見回す。
「なにをしている」
「この呪詛は緑翠妃様の体を少しずつ蝕んでいる。つまりは常習的に、呪詛を受けていたということです。そうなると必ず呪いの大元があるはずなのですが……指先から広がる……毎日触れるもの……」
はっ、となにかを悟ったのか蘭華は鏡台に走り寄った。
引き出しを開け、急いでなにかを探している。
「お化粧ですよ! 毎日触れ、尚且つ少しずつ使うもの。そして緑翠妃様がご自分でつけるのは――」
引き出しの中から取り出したのは小さな合貝。
「――紅」
「その証拠に、緑翠妃様の右の薬指の先が特に黒く変色している!」
龍煌が手を見てみると、蘭華のいうとおり緑翠妃の右手の薬指が色濃くなっていた。
「つまり、この紅を贈った者が呪詛師ということか!」
「そうです。ですが、私たちの仕事は緑翠妃様をお助けすること」
蘭華は桶を一つ抱えると、着物の袖を捲り、緑翠妃に歩み寄る。
そして腹部をすうっと撫で、丁度鳩尾辺りに手を添える。
「――失礼します!」
「っぐ!」
蘭華は思いきり鳩尾を押した。
すると緑翠妃の口からどばどばと黒い泥のような粘液質な体液が吐き出された。
「これを全部吐き出させれば助かります!」
蘭華は緑翠妃の背中を摩りながら、桶の中に液体を溜めていく。
すると緑翠妃の体を侵食していた黒カビが見る見ると消えていく。
「――っ、げほっ!」
最後の一滴を吐きった緑翠妃は意識を失った。
倒れる体を、龍煌は急いで布団を掴んで布越しに受け止め、寝台に横たわらせた。
「さて、あとは……っと!」
蘭華はといえば、あろうことかその桶の中に手を突っ込んだ。
「な、なにをしている!」
「人を呪わば穴二つ。人の命を脅かす者には、それ相応の代償が必要ですからね!」
ぐっ、と泥を押し込むように蘭華が力を込める。
すると禍々しい臭いを発していたそれは、瞬く間に清らかな水へと変わった。
「これは……」
「呪い返しです。緑翠妃様を呪った呪詛師は苦しんでいることでしょう。後宮中を探せば犯人は見つかるかもしれませんよ?」
「それを先にいえっ! すぐに雨黒に報せねば!」
「――あ、ついでにもう一つ」
急いで部屋を出ようとする龍煌を蘭華は何の気なしに呼び止めた。
「産婆も呼んできて下さい。緑翠妃様のお子がもうすぐ生まれます」
「もっと鬼気迫った感じでいえっ!!!」
寝所に龍煌の怒号が響き渡った。
その後は、呪詛師探しに、緑翠妃の出産など水月宮は大混乱に見舞われた。
その騒ぎに紛れ、蘭華と龍煌はこっそりと水月宮から逃げおおせ、無事任務を完遂したのであったとさ。
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