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3章 悪女、呪詛!
26話 侍女、解呪(中編)
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「緑翠妃様、貴女様には死ぬ覚悟はおありですか?」
「それはどういう……」
蘭華の問いかけに緑翠妃は困惑した。
「正直に申し上げましょう。貴女様にかけられた呪詛は、最早私の力ではどうすることもできません」
「な――どういうことだ!」
聞こえてきた言葉に、思わず龍煌は御簾の中に入る。
驚く緑翠妃と目が合い、すぐに彼は目をそらした。
「……龍煌、様?」
龍煌と緑翠妃が再会するのは十数年ぶりだ。それだというのに、彼女は一目で龍煌だと気付いた。
「ああ……先程、来てくださったのはやはり龍煌様だったのですね。お話もせず、帰られたから驚きました」
「おや、お顔を見たのにお話もしなかったのですか?」
「……ああ」
先程、雨黒と共に緑翠妃の元を尋ねた龍煌。
呪詛について詳しく聞き込みをするはずが、龍煌はなにも聞けずに帰ってしまったのだ。
「俺なんかが貴女に会わせる顔がなかった」
幼い頃、彼女は優しくしてくれたのに自分は突き放してしまった。
その後悔の念が急に込み上げてきて、龍煌は言葉が出なくなってしまったのだ。
「……蘭華、お前は緑翠妃を救うためにこんな無茶をしたのではないのか」
「ええ。ですから、誰も助けられないとは申しておりません。ただ、お二人の覚悟をお聞きしたかったまで」
その言葉に、龍煌と緑翠妃は首を傾げる。
「緑翠妃様を助けるには、龍煌様のお力が必要です」
蘭華は龍煌の大きな手を取って微笑む。
「毒をもって、毒を制す。呪詛を祓うには龍煌様が緑翠妃様に触れればいい」
「お前は自分がなにをいっているかわかっているのか!」
叫ぶ龍煌に、蘭華はいたって本気ですとゆっくり頷く。
「龍煌様は触れた物を「殺す」呪いがかかっている。つまり、緑翠妃様を蝕む呪詛を「殺す」ことができるはずです。確証はありませんが」
「そんな行き当たりばったりな!」
「なにごとも試してみなければわかりませんよ。ですから、緑翠妃様に問うたのです」
――死ぬ覚悟はおありですか? と。
「そして解呪には体にとても負荷がかかります。最悪早産の可能性もあるでしょう。そのお腹の大きさであれば、赤子は助かる可能性も高い……」
そう呟きながら、蘭華は答えを待つように緑翠妃に目配せをする。
「……私は、ずっと龍煌様に謝りたいと思っておりました」
緑翠妃は腹を撫でながら、龍煌を見た。
「私は突然貴方様の前から姿を消しました。それは……子を身籠もっていたからです」
「……な」
「私は貴方様を恐れていなかった。いいえ、でも現実は恐れていないフリをしていたです。子を身籠もったとき、貴方に会うのが怖くなった。もし龍煌様に触れられて、腹の子が死んでしまったらどうしよう……と」
俯きながら、緑翠妃は話を続ける。
「――ですが、そんな邪な思いを抱いた私に天罰が下ったのです。お子は流れてしまいました。そして久々に龍煌様に会いにいったら……」
「……俺は、酷いことを」
「いいえ。全て、私の邪な心が招いた結果。私は偽善のために幼い龍煌様を傷付けてしまいました。本当に申し訳ありません」
深々と緑翠妃は龍煌に頭を下げた。
「俺は……貴女に謝りに来たんだ。酷いことをいって傷付けてしまった。幼い頃、貴女だけが俺に優しくしてくれた。母を知らない俺に取っては、貴女が母のような存在だった。だから……貴女が苦しんでいると知って、なんとしても助けたかった」
その言葉を聞いて、緑翠妃の目から涙がこぼれ落ちる。
「なんと……龍煌様は本当にお優しいのですね……私なんかのために……」
ぽろぽろと涙を流しながら、緑翠妃は蘭華の手を取った。
「龍煌様のお力があれば、お腹の子は助かるのですね」
「ええ、恐らく」
「ならば、やってください」
緑翠妃の言葉に、龍煌は目を丸くする。
「いいのか……?」
「私は今度こそ、赤子を失いたくはありません。貴方たちを信じます」
緑翠妃は蘭華と龍煌を真っ直ぐに見据えた。
覚悟を決めた母の表情だった。
それを受け、蘭華は優しく微笑んだ。
「わかりました。やりましょう」
「それはどういう……」
蘭華の問いかけに緑翠妃は困惑した。
「正直に申し上げましょう。貴女様にかけられた呪詛は、最早私の力ではどうすることもできません」
「な――どういうことだ!」
聞こえてきた言葉に、思わず龍煌は御簾の中に入る。
驚く緑翠妃と目が合い、すぐに彼は目をそらした。
「……龍煌、様?」
龍煌と緑翠妃が再会するのは十数年ぶりだ。それだというのに、彼女は一目で龍煌だと気付いた。
「ああ……先程、来てくださったのはやはり龍煌様だったのですね。お話もせず、帰られたから驚きました」
「おや、お顔を見たのにお話もしなかったのですか?」
「……ああ」
先程、雨黒と共に緑翠妃の元を尋ねた龍煌。
呪詛について詳しく聞き込みをするはずが、龍煌はなにも聞けずに帰ってしまったのだ。
「俺なんかが貴女に会わせる顔がなかった」
幼い頃、彼女は優しくしてくれたのに自分は突き放してしまった。
その後悔の念が急に込み上げてきて、龍煌は言葉が出なくなってしまったのだ。
「……蘭華、お前は緑翠妃を救うためにこんな無茶をしたのではないのか」
「ええ。ですから、誰も助けられないとは申しておりません。ただ、お二人の覚悟をお聞きしたかったまで」
その言葉に、龍煌と緑翠妃は首を傾げる。
「緑翠妃様を助けるには、龍煌様のお力が必要です」
蘭華は龍煌の大きな手を取って微笑む。
「毒をもって、毒を制す。呪詛を祓うには龍煌様が緑翠妃様に触れればいい」
「お前は自分がなにをいっているかわかっているのか!」
叫ぶ龍煌に、蘭華はいたって本気ですとゆっくり頷く。
「龍煌様は触れた物を「殺す」呪いがかかっている。つまり、緑翠妃様を蝕む呪詛を「殺す」ことができるはずです。確証はありませんが」
「そんな行き当たりばったりな!」
「なにごとも試してみなければわかりませんよ。ですから、緑翠妃様に問うたのです」
――死ぬ覚悟はおありですか? と。
「そして解呪には体にとても負荷がかかります。最悪早産の可能性もあるでしょう。そのお腹の大きさであれば、赤子は助かる可能性も高い……」
そう呟きながら、蘭華は答えを待つように緑翠妃に目配せをする。
「……私は、ずっと龍煌様に謝りたいと思っておりました」
緑翠妃は腹を撫でながら、龍煌を見た。
「私は突然貴方様の前から姿を消しました。それは……子を身籠もっていたからです」
「……な」
「私は貴方様を恐れていなかった。いいえ、でも現実は恐れていないフリをしていたです。子を身籠もったとき、貴方に会うのが怖くなった。もし龍煌様に触れられて、腹の子が死んでしまったらどうしよう……と」
俯きながら、緑翠妃は話を続ける。
「――ですが、そんな邪な思いを抱いた私に天罰が下ったのです。お子は流れてしまいました。そして久々に龍煌様に会いにいったら……」
「……俺は、酷いことを」
「いいえ。全て、私の邪な心が招いた結果。私は偽善のために幼い龍煌様を傷付けてしまいました。本当に申し訳ありません」
深々と緑翠妃は龍煌に頭を下げた。
「俺は……貴女に謝りに来たんだ。酷いことをいって傷付けてしまった。幼い頃、貴女だけが俺に優しくしてくれた。母を知らない俺に取っては、貴女が母のような存在だった。だから……貴女が苦しんでいると知って、なんとしても助けたかった」
その言葉を聞いて、緑翠妃の目から涙がこぼれ落ちる。
「なんと……龍煌様は本当にお優しいのですね……私なんかのために……」
ぽろぽろと涙を流しながら、緑翠妃は蘭華の手を取った。
「龍煌様のお力があれば、お腹の子は助かるのですね」
「ええ、恐らく」
「ならば、やってください」
緑翠妃の言葉に、龍煌は目を丸くする。
「いいのか……?」
「私は今度こそ、赤子を失いたくはありません。貴方たちを信じます」
緑翠妃は蘭華と龍煌を真っ直ぐに見据えた。
覚悟を決めた母の表情だった。
それを受け、蘭華は優しく微笑んだ。
「わかりました。やりましょう」
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