24 / 30
3章 悪女、呪詛!
23話 悪女、噂話
しおりを挟む
「緑翠妃様への接触は龍煌様たちにお任せして、私たちは呪詛の原因を探りましょう」
侍女から話を聞き終えた蘭華たちは奥の宮を探索していた。
「でも、こんな広い宮の中でどうやって……!」
「先程のことでわかったでしょう。この奥の宮は私たちでしか得られない情報で満ちている――と」
「――え?」
蘭華につられるように慧は周囲を見やる。
そこには忙しく働く何人もの侍女たち。
「まさか、この数をひとりひとり聞き込みしていくつもりですか!? でも、後宮の情報を漏らすのは律で禁じられていて――」
後宮で知り得た情報を他人に漏らすことなかれ――これは律で禁じられている。
どうするつもりなのかと慧は不安げに蘭華みやる。
「おや、慧は聡いと思っておりましたがそういうところは抜けているのですね」
「急に毒づくの地味に傷つくのでやめてもらってもいいですか」
「別にわざわざ聞き込みなんてしませんよ」
「じゃあどうやって……」
戸惑う慧に蘭華はにこりと微笑む。
「侍女は皆さん噂話がお好きなようですから。たとえ噂といえども、時にそれは真実に近づくこともある。侍女が大好きな噂話……それはたとえ厳しい律でも律することはできないでしょう?」
「つまり……侍女たちの会話を盗み聞きする……と?」
「ええっ! だって私悪女ですもの!」
蘭華は両手を合わせて悪どい笑みを浮かべるのだった。
*
「――ねえねえ、あの噂聞いた?」
「緑翠妃様のお噂のこと?」
蘭華の予想通り、奥の宮は緑翠妃の噂で持ちきりだった。
「陛下の寵愛を受けている緑翠妃様を妬んで、誰かが呪詛をかけたって噂でしょう?」
「恐ろしいわね……あんなお優しい方が……」
「でもでも、緑翠妃様だって恨まれるようなことをしたってことでしょう?」
「皇太子殿下の乳母を務めて、その後自分も身籠もるなんて……強欲は身を滅ぼす、ってことかしら」
噂話には尾ひれがつくもの。
もはやなにが真実かはわからない。だが一つだけいえるのは――。
「皆、律の穴をついて好きにお喋りしたいのですよね。この鳥籠の中ではそれくらいしか楽しみがありませんもの」
「……私たちの後宮も、奥も変わらないってことですね」
二人は侍女たちの噂話に耳を傾けながら呟く。
後宮の情報を漏らしてはいけない。だが、噂となれば話は別。噂は噂なのだ。
「そういえば……あの噂、聞いた? ほら、あの廃太子の……」
「ああっ、呪われた処刑人のこと!?」
続けて聞こえてきた話に、ぴくりと蘭華が反応した。
「龍煌様だっけ。なんでも煌亮様を目の敵にしているとか……」
「長子である自分が跡継ぎになれないのが余程悔しかったのね」
「緑翠妃様を呪ったのも彼だったりするのかしら」
「有り得る! だって、あの人に近づいたらみんな死んでしまうって噂じゃない!」
「薄気味悪い人よね……まあ、この奥の宮に入ってくることはないから大丈夫でしょうけど!」
一連の会話を蘭華は黙って聞いていた。
「……あの、蘭華様」
「大丈夫ですよ。これはただの噂話。皆、真実なんて知らないのです。龍煌様がいかに素晴らしく、素敵な殿方なのか……」
蘭華は笑顔を浮かべたままだ。
だが、その声音は酷く冷たく、恐ろしい。
「ですが……これはいささか――腹立たしいですね」
蘭華の声から感情が消えた。
口元には笑みを浮かべているが、その目は一切笑っていない。
怒っている――慧は主がはじめて怒りを露わにした姿を見て、震え上がるのだった。
侍女から話を聞き終えた蘭華たちは奥の宮を探索していた。
「でも、こんな広い宮の中でどうやって……!」
「先程のことでわかったでしょう。この奥の宮は私たちでしか得られない情報で満ちている――と」
「――え?」
蘭華につられるように慧は周囲を見やる。
そこには忙しく働く何人もの侍女たち。
「まさか、この数をひとりひとり聞き込みしていくつもりですか!? でも、後宮の情報を漏らすのは律で禁じられていて――」
後宮で知り得た情報を他人に漏らすことなかれ――これは律で禁じられている。
どうするつもりなのかと慧は不安げに蘭華みやる。
「おや、慧は聡いと思っておりましたがそういうところは抜けているのですね」
「急に毒づくの地味に傷つくのでやめてもらってもいいですか」
「別にわざわざ聞き込みなんてしませんよ」
「じゃあどうやって……」
戸惑う慧に蘭華はにこりと微笑む。
「侍女は皆さん噂話がお好きなようですから。たとえ噂といえども、時にそれは真実に近づくこともある。侍女が大好きな噂話……それはたとえ厳しい律でも律することはできないでしょう?」
「つまり……侍女たちの会話を盗み聞きする……と?」
「ええっ! だって私悪女ですもの!」
蘭華は両手を合わせて悪どい笑みを浮かべるのだった。
*
「――ねえねえ、あの噂聞いた?」
「緑翠妃様のお噂のこと?」
蘭華の予想通り、奥の宮は緑翠妃の噂で持ちきりだった。
「陛下の寵愛を受けている緑翠妃様を妬んで、誰かが呪詛をかけたって噂でしょう?」
「恐ろしいわね……あんなお優しい方が……」
「でもでも、緑翠妃様だって恨まれるようなことをしたってことでしょう?」
「皇太子殿下の乳母を務めて、その後自分も身籠もるなんて……強欲は身を滅ぼす、ってことかしら」
噂話には尾ひれがつくもの。
もはやなにが真実かはわからない。だが一つだけいえるのは――。
「皆、律の穴をついて好きにお喋りしたいのですよね。この鳥籠の中ではそれくらいしか楽しみがありませんもの」
「……私たちの後宮も、奥も変わらないってことですね」
二人は侍女たちの噂話に耳を傾けながら呟く。
後宮の情報を漏らしてはいけない。だが、噂となれば話は別。噂は噂なのだ。
「そういえば……あの噂、聞いた? ほら、あの廃太子の……」
「ああっ、呪われた処刑人のこと!?」
続けて聞こえてきた話に、ぴくりと蘭華が反応した。
「龍煌様だっけ。なんでも煌亮様を目の敵にしているとか……」
「長子である自分が跡継ぎになれないのが余程悔しかったのね」
「緑翠妃様を呪ったのも彼だったりするのかしら」
「有り得る! だって、あの人に近づいたらみんな死んでしまうって噂じゃない!」
「薄気味悪い人よね……まあ、この奥の宮に入ってくることはないから大丈夫でしょうけど!」
一連の会話を蘭華は黙って聞いていた。
「……あの、蘭華様」
「大丈夫ですよ。これはただの噂話。皆、真実なんて知らないのです。龍煌様がいかに素晴らしく、素敵な殿方なのか……」
蘭華は笑顔を浮かべたままだ。
だが、その声音は酷く冷たく、恐ろしい。
「ですが……これはいささか――腹立たしいですね」
蘭華の声から感情が消えた。
口元には笑みを浮かべているが、その目は一切笑っていない。
怒っている――慧は主がはじめて怒りを露わにした姿を見て、震え上がるのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

天地狭間の虚ろ
碧井永
ファンタジー
「なんというか、虚しい」それでも――
天と地の狭間を突き進む、硬派中華ファンタジー。
《あらすじ》
鼎国(ていこく)は伝説の上に成り立っている。
また、鼎国内には鬼(き)が棲んでいる。
黎王朝大統二年十月、それは起こった。
鬼を統べる冥界の王が突如、朝議の場に出現し、時の皇帝にひとつの要求を突きつける。
「我が欲するは花嫁」
冥王が、人の花嫁を欲したのだ。
しかし皇帝には、求められた花嫁を譲れない事情があった。
冥王にも譲れない事情がある。
攻防の末、冥王が提案する。
「我の歳を当ててみよ」
言い当てられたら彼女を諦める、と。
冥王は鬼であり、鬼は己のことは語らない。鬼の年齢など、謎そのもの。
なんの前触れもなく謎解きに挑戦することになった皇帝は、答えを導きださねばならず――。
朝廷がぶちあたった前代未聞の不思議話。
停滞する黎王朝(れいおうちょう)に、新たな風が吹き抜ける。
《国と中央機関》
① 国名は、鼎(てい)。鼎国の皇都は、天延(てんえん)。
② 現在、鼎国を統治しているのは黎家(れいけ)であり、黎王朝では二省六部を、史館(しかん)と貴族院の一館一院が支える政治体制をとっている。
③ 皇帝直属の近衛軍を神策軍(しんさくぐん)という。
④ これらの組織とは別に、黎家を護る三つの家・護三家(ごさんけ)がある。琉(りゅう)、環(かん)、瑶(よう)の護三家はそれぞれ異能を駆使できる。
《人物紹介》
凛丹緋(りん・たんひ)
美人だが、家族から疎まれて育ったために性格の暗さが顔に異様な翳をつくっている。人を寄せつけないところがある。後宮で夫人三妃の選別のため、采女として入宮したばかり。
黎緋逸(れい・ひいつ)
見たものが真実であるという、現実主義の皇帝。
凶相といえるほどの三白眼(さんぱくがん)をもつ。
黎蒼呉(れい・そうご)
緋逸の実弟。流罪となり、南の地で暮らしている。恋魔(れんま)とあだ名されるほど女癖が悪い。多くの文官武官から見下されている。
黎紫苑(れい・しおん)
緋逸の異母弟。これといった特徴のない人。皇帝の異母弟ということもあり、半ば忘れ去られた存在。詩が好き。
崔美信(さい・びしん)
殿中監。殿中省は皇帝の身辺の世話だけでなく、後宮の一切合財を取り仕切る。まだまだ男社会の中でとくに貴族の男を見下している。皇帝相手でも容赦ナイ。
環豈華(かん・がいか)
美信によって選ばれ、丹緋付きの侍女となる。見鬼の能力を有する環家の出だが、無能。いらない存在だった身の上が、丹緋との距離を近づける。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる