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幕間 悪女、再婚!
8話 悪女、釈放
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この色国後宮は『律』と呼ばれる規則で雁字搦めにされている。
例えそれは皇帝であろうとも逆らうことはできない、絶対遵守の法である。
「――元罪人・紅蘭華。並びに、元処刑人・龍煌。律に倣い紅蘭華を無罪放免とし、龍煌を処刑人の任から解く」
謁見の間にて、判決文を読み上げる皇太子煌亮のなんと悔しげなことか。
対峙する元妃、紅蘭華が満面の笑みを浮かべているものだからさらに煌亮の苛立ちは募るばかり。
額に青筋を立て、巻物を持つ手を震わせながら言葉を紡ぐ異母弟を龍煌はいたたまれなく見つめていた。
「それと……さらに律に倣い、廃太子・龍煌と元第一皇太子妃・紅蘭華の婚姻を……婚姻を――っ」
煌亮の言葉が止まった。
「あら? どうしたのですか、皇太子殿下。さあ。さあ、お言葉の続きを」
「うるさいっ!」
不思議そうに首を傾げる蘭華を煌亮は一蹴した。
彼が言葉を濁らせるのも無理もない。
何故なら、自分がこれほどまでに憎んでいた相手の婚姻を認めるといわなければならないのだから。
しかも相手は廃太子とはいえ自分の異母兄なのだ。
だが、煌亮の気持ちを蘭華が汲み取るはずもない。
「ほらほら『律の二十、律による審判は皇族関係者が告げることとす』に反してしまいますよ、皇太子殿下!」
「貴様! 律を守らないくせに、どうして完璧に覚えているんだっ!?」
「うふふふふっ」
その場の主導権は既に蘭華が握っていた。
青筋を立てる煌亮は必死に荒い息を抑え、悔しげにこう続けた。
「律に倣い、廃太子・龍煌と元第一皇太子妃・紅蘭華の婚姻を認めるっ!」
「これで私たち無事夫婦になれましたよ、龍煌さまっ」
「………………ああ、そうだな」
きゃーっと蘭華は嬉しそうに龍煌に飛びついた。
龍煌は遠い目をしながらがくがくと蘭華に揺さぶられている。
「話はまだ続いているのだが……」
ごほんと煌亮が咳払いをすれば、仕方がなさそうに蘭華は元の体制に戻る。
「律上は無罪放免となったが、お前たちは全くもって信用ならん。それ故、二人が滞在する宮についてだが――」
*
時は過ぎ、半刻後。
二人は雨黒に連れられ、煌亮に割り当てられた宮に来ていた。
「これは宮というか……」
「あばら屋だな」
建物を見上げ、二人はぽつりと呟く。
そこは名もない宮。いや、宮と呼ぶには似つかわしくないあばら屋だった。
目の前の畑は荒れ果て、茅葺きの屋根は手入れが全く行き届いておらずおそらく雨漏りし放題だろう。
建て付けの悪い戸を開け、中を見てみればネズミや百足がうぞうぞと走り回っている始末。
まあ、一様カマドはあるし、収納もあるし、四畳半ほどだが寝る場所だって――ある。
「……生きて表に出られただけマシだと思え。ではまた様子を見に来る」
それだけ告げ、雨黒はさっさと立ち去ってしまった。
呆然と部屋を見回している蘭華を少し心配そうな面持ちで龍煌が様子を伺っている。
(これまで煌亮の妃として過ごしていたんだ、俺はともかく彼女はこんな場所――)
先程まであれだけうるさかった蘭華が急に黙り込んだ。
それもそうだろう、これだけ古びて汚い場所が家だなんて妃ならば卒倒してもおかしくない。
「雨黒に頼んでお前だけでも別の場所に――」
「とっても素敵ですね!」
目を輝かせている蘭華に龍煌は唖然とした。
「畑を耕せば作物は育ちますし、夫婦二人一つ屋根の下というのも新婚らしく風情があります!」
二人で料理なんていうのもいいですね、なんて今後の明るい未来を妄想してはにんまりしているではないか。
「……お前、それでいいのか」
心配するだけ損した、と龍煌は呆れる。
「はっ! もし龍煌様がお嫌でしたら私が皇太子殿下に物申して参りますよ!?」
「……いや、いい。地下牢に比べれば、どこでも極楽だ」
日の光も浴びれるしな、と微笑めば蘭華も満足げに微笑んだ。
そう。この夫婦、これくらいではへこたれない常人とは明らかに異なる感性を持っていた。
とりあえず二人は家の中に入り、囲炉裏を挟んで向かい合う。
「今日は一日お部屋の掃除をして……せめて雨漏りがしないように屋根をなおしたほうがよさそうですね」
「蘭華。その前にひとつ聞きたいことがあるのだが」
あれこれと無我夢中で独り言を呟く蘭華を、龍煌の一言が止めた。
なんでしょう? と彼女が振り返れば、龍煌はこう続けた。
「お前……俺の妻になってどうしたいんだ」
「ん? ああ……そういえば、お話ししておりませんでしたね」
思い出したように、蘭華は手を叩き龍煌の前に立ち彼を見上げた。
「龍煌様、あなたには王になって頂きたいのです。そして私と一緒にこの退屈な後宮をぶっ壊して頂きたいのです!」
「――はぁ!?」
釈放から半刻経たず――新妻から放たれたのはまさかの下剋上宣言だった。
例えそれは皇帝であろうとも逆らうことはできない、絶対遵守の法である。
「――元罪人・紅蘭華。並びに、元処刑人・龍煌。律に倣い紅蘭華を無罪放免とし、龍煌を処刑人の任から解く」
謁見の間にて、判決文を読み上げる皇太子煌亮のなんと悔しげなことか。
対峙する元妃、紅蘭華が満面の笑みを浮かべているものだからさらに煌亮の苛立ちは募るばかり。
額に青筋を立て、巻物を持つ手を震わせながら言葉を紡ぐ異母弟を龍煌はいたたまれなく見つめていた。
「それと……さらに律に倣い、廃太子・龍煌と元第一皇太子妃・紅蘭華の婚姻を……婚姻を――っ」
煌亮の言葉が止まった。
「あら? どうしたのですか、皇太子殿下。さあ。さあ、お言葉の続きを」
「うるさいっ!」
不思議そうに首を傾げる蘭華を煌亮は一蹴した。
彼が言葉を濁らせるのも無理もない。
何故なら、自分がこれほどまでに憎んでいた相手の婚姻を認めるといわなければならないのだから。
しかも相手は廃太子とはいえ自分の異母兄なのだ。
だが、煌亮の気持ちを蘭華が汲み取るはずもない。
「ほらほら『律の二十、律による審判は皇族関係者が告げることとす』に反してしまいますよ、皇太子殿下!」
「貴様! 律を守らないくせに、どうして完璧に覚えているんだっ!?」
「うふふふふっ」
その場の主導権は既に蘭華が握っていた。
青筋を立てる煌亮は必死に荒い息を抑え、悔しげにこう続けた。
「律に倣い、廃太子・龍煌と元第一皇太子妃・紅蘭華の婚姻を認めるっ!」
「これで私たち無事夫婦になれましたよ、龍煌さまっ」
「………………ああ、そうだな」
きゃーっと蘭華は嬉しそうに龍煌に飛びついた。
龍煌は遠い目をしながらがくがくと蘭華に揺さぶられている。
「話はまだ続いているのだが……」
ごほんと煌亮が咳払いをすれば、仕方がなさそうに蘭華は元の体制に戻る。
「律上は無罪放免となったが、お前たちは全くもって信用ならん。それ故、二人が滞在する宮についてだが――」
*
時は過ぎ、半刻後。
二人は雨黒に連れられ、煌亮に割り当てられた宮に来ていた。
「これは宮というか……」
「あばら屋だな」
建物を見上げ、二人はぽつりと呟く。
そこは名もない宮。いや、宮と呼ぶには似つかわしくないあばら屋だった。
目の前の畑は荒れ果て、茅葺きの屋根は手入れが全く行き届いておらずおそらく雨漏りし放題だろう。
建て付けの悪い戸を開け、中を見てみればネズミや百足がうぞうぞと走り回っている始末。
まあ、一様カマドはあるし、収納もあるし、四畳半ほどだが寝る場所だって――ある。
「……生きて表に出られただけマシだと思え。ではまた様子を見に来る」
それだけ告げ、雨黒はさっさと立ち去ってしまった。
呆然と部屋を見回している蘭華を少し心配そうな面持ちで龍煌が様子を伺っている。
(これまで煌亮の妃として過ごしていたんだ、俺はともかく彼女はこんな場所――)
先程まであれだけうるさかった蘭華が急に黙り込んだ。
それもそうだろう、これだけ古びて汚い場所が家だなんて妃ならば卒倒してもおかしくない。
「雨黒に頼んでお前だけでも別の場所に――」
「とっても素敵ですね!」
目を輝かせている蘭華に龍煌は唖然とした。
「畑を耕せば作物は育ちますし、夫婦二人一つ屋根の下というのも新婚らしく風情があります!」
二人で料理なんていうのもいいですね、なんて今後の明るい未来を妄想してはにんまりしているではないか。
「……お前、それでいいのか」
心配するだけ損した、と龍煌は呆れる。
「はっ! もし龍煌様がお嫌でしたら私が皇太子殿下に物申して参りますよ!?」
「……いや、いい。地下牢に比べれば、どこでも極楽だ」
日の光も浴びれるしな、と微笑めば蘭華も満足げに微笑んだ。
そう。この夫婦、これくらいではへこたれない常人とは明らかに異なる感性を持っていた。
とりあえず二人は家の中に入り、囲炉裏を挟んで向かい合う。
「今日は一日お部屋の掃除をして……せめて雨漏りがしないように屋根をなおしたほうがよさそうですね」
「蘭華。その前にひとつ聞きたいことがあるのだが」
あれこれと無我夢中で独り言を呟く蘭華を、龍煌の一言が止めた。
なんでしょう? と彼女が振り返れば、龍煌はこう続けた。
「お前……俺の妻になってどうしたいんだ」
「ん? ああ……そういえば、お話ししておりませんでしたね」
思い出したように、蘭華は手を叩き龍煌の前に立ち彼を見上げた。
「龍煌様、あなたには王になって頂きたいのです。そして私と一緒にこの退屈な後宮をぶっ壊して頂きたいのです!」
「――はぁ!?」
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