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1章 悪女、追放!
7話 悪女、救済
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「これで私の勝ちですよね!」
龍煌の首に見事手刀を決めた蘭華はにっこりと微笑んだ。
その行動に魔獣とそれを倒した龍煌への恐怖で静まり返っていた観客たちは一斉に「は!?」と盛大に転けた。
「龍煌様、私をお守り下さりありがとう御座いました。やはり貴方は私の理想の殿方。気高く、美しい。なによりお強くいらっしゃる」
にこにこと微笑みながら、蘭華は血に濡れた龍煌の大きな手を握った。
「今一度申します。龍煌様、私と結婚してください!」
蘭華、再びの求婚。
地下牢の次は処刑場で。
唖然とする龍煌、観客たちは再び「はあ!?」と立ち上がった。
「――ふざけるな」
ようやく龍煌が言葉を発した。
「お前は何故生きている」
「え? ですから、龍煌様が私を魔獣からお守り頂いたので今こうして――」
「違う! 何故、俺に触れて平然と生きている!」
龍煌の怒号が轟く。
彼は怒り、驚き、そしてなによりも驚いていた。
自分に触れながら、今も目の前で呑気に笑っているこの悪女に。
「俺に触れた者は皆死ぬ! だというのにお前は何故生きている!」
「……今こうして私は貴方に触れて、そして生きている。それが全てですよ」
その怒りも飲み込むように、蘭華は微笑んだ。
眠る魔獣にそうしたように、彼女は龍煌の手を何度も優しく撫でている。
「龍煌様、私の夫になっては頂けませんか?」
返ってきたのは沈黙だった。
龍煌の目がはじめて揺らいだ。
(この女は何者なんだ)
自分は彼女のことを知らない。好意もない。まして嫁に取るつもりもない。
ただ――紅蘭華という女に一抹の興味が湧いた。
「…………俺は、お前が好きではない」
「これから惚れさせてみせます! 私、殿方には尽すタイプですのでっ!」
龍煌が精一杯絞り出した言葉はすかさず蘭華に打ち落とされた。
「ほらっ、私処刑から生き延びましたよ! 結婚していただける条件を満たしておりますよね!?」
鼻息荒くぐいぐい詰め寄ってくる蘭華に龍煌はさらにたじろいでいく。
なにか、なにか言葉を――そうしてはっと彼は目を見開く。
「条件はもう一つあったはずだ。お前が生き延びたとしても、俺はここから解放されない」
「それは間もなく解決できると思いますよ――」
「蘭華なにを考えている! 皇太子妃が、他の男に手を出すなど!」
蘭華の言葉を遮り、闘技場に響き渡る怒声。
煌亮が立ち上がり叫んでいたのだ。
「あら、私と離縁をすると申したのは皇太子殿下ですが? 既に私は皇太子妃の座から外れたバツイチの独り身ですよ?」
「ぐっ……!」
はて、と小首を傾げれば煌亮がぐぬぬと歯ぎしりをする。
「そ、そもそもお前は処刑される身だっ! 処刑人は早くその女を殺せっ!」
「ですから、私が勝ったでしょう?」
「勝ったもなにも、お前たちは二人とも生きている! どちらかが死なねばならない! 早く殺せ!」
煌亮がそう叫んだ瞬間、固まっていた観客たちがざわめきたつ。
「そうだ!」「皇太子殿下のおっしゃる通りだ!」
「血が見たい!」「殺せ!殺せ!」
殺せ殺せと再びの会場は沸き立つ。
「……もういい。お前が俺を切ればいい。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、俺は戦う気など失せた」
深いため息をついて龍煌は剣の持ち手を蘭華に差し出した。
早く楽になれるならそれで良いと思った。
「あら、律には闘技刑は処刑者と処刑人のどちらかの勝敗がつけばいいと定めてあるのみで……どちらかが死なねばならないなど、記載はありませんよ?」
きょとん、と蘭華はその丸い目を瞬かせながらそう呟いた。
「そんなもの屁理屈だ! 早く決着をつけろ!」
当然、煌亮はそれを良しとしない。
手すりから身をのりだし、二人の頭上から声を張り上げる。
「恐れ入ります、皇太子殿下!!」
闘技場に再び声が響いた。
そこに現れたのは雨黒だった。
「そこの紅蘭華がいう通り、律の四四四にこう記してあります『闘技刑は処刑者が処刑人から一本取れば、その者は無罪とす。そして処刑者に破れた処刑人は敗北によりその任を解くものとする』と!」
「なっ……!」
「皇太子殿下、御自らこの律を破られると申されるのですか?」
雨黒はそう叫びながら、自分の主を見上げた。
煌亮は怒りに顔を真っ赤にして、腹立たしげに手摺を叩いた。
「ええい! もう勝手にしろ!! 興が覚めた!! 私は帰る!!」
そう叫びながらずかずかとその場を立ち去っていった。
皇太子の評決により、つまるところ処刑は幕を閉じた。龍煌も、そして蘭華も生き残ったわけだ。
「雨黒様、助太刀感謝致しますわ」
「俺は律に従ったまで。別にお前を助けようとした訳ではない!」
ふいっとそっぽを向いて、雨黒は歩き去ろうとする。
「……雨黒」
龍煌がその名を呼び、彼は足を止めた。
「礼をいう」
「…………失礼致します」
ちらりと雨黒は龍煌を見据え、軽く頭を下げると今度こそその場を立ち去っていった。
観客たちもぞろぞろと去り、広い闘技場には蘭華と龍煌の二人だけになる。
「龍煌様、これで条件は二つ揃いましたね」
「そんなに俺がいいのか」
「はいっ! 私は貴方と共におりたいのです!」
蘭華は龍煌を抱き寄せ、にっこりと笑った。
「ふつつか者では御座いますが、これから宜しくお願いいたします! 龍煌さまっ!」
こうして悪女と呪われた廃太子は晴れて夫婦となったのであった……。
龍煌の首に見事手刀を決めた蘭華はにっこりと微笑んだ。
その行動に魔獣とそれを倒した龍煌への恐怖で静まり返っていた観客たちは一斉に「は!?」と盛大に転けた。
「龍煌様、私をお守り下さりありがとう御座いました。やはり貴方は私の理想の殿方。気高く、美しい。なによりお強くいらっしゃる」
にこにこと微笑みながら、蘭華は血に濡れた龍煌の大きな手を握った。
「今一度申します。龍煌様、私と結婚してください!」
蘭華、再びの求婚。
地下牢の次は処刑場で。
唖然とする龍煌、観客たちは再び「はあ!?」と立ち上がった。
「――ふざけるな」
ようやく龍煌が言葉を発した。
「お前は何故生きている」
「え? ですから、龍煌様が私を魔獣からお守り頂いたので今こうして――」
「違う! 何故、俺に触れて平然と生きている!」
龍煌の怒号が轟く。
彼は怒り、驚き、そしてなによりも驚いていた。
自分に触れながら、今も目の前で呑気に笑っているこの悪女に。
「俺に触れた者は皆死ぬ! だというのにお前は何故生きている!」
「……今こうして私は貴方に触れて、そして生きている。それが全てですよ」
その怒りも飲み込むように、蘭華は微笑んだ。
眠る魔獣にそうしたように、彼女は龍煌の手を何度も優しく撫でている。
「龍煌様、私の夫になっては頂けませんか?」
返ってきたのは沈黙だった。
龍煌の目がはじめて揺らいだ。
(この女は何者なんだ)
自分は彼女のことを知らない。好意もない。まして嫁に取るつもりもない。
ただ――紅蘭華という女に一抹の興味が湧いた。
「…………俺は、お前が好きではない」
「これから惚れさせてみせます! 私、殿方には尽すタイプですのでっ!」
龍煌が精一杯絞り出した言葉はすかさず蘭華に打ち落とされた。
「ほらっ、私処刑から生き延びましたよ! 結婚していただける条件を満たしておりますよね!?」
鼻息荒くぐいぐい詰め寄ってくる蘭華に龍煌はさらにたじろいでいく。
なにか、なにか言葉を――そうしてはっと彼は目を見開く。
「条件はもう一つあったはずだ。お前が生き延びたとしても、俺はここから解放されない」
「それは間もなく解決できると思いますよ――」
「蘭華なにを考えている! 皇太子妃が、他の男に手を出すなど!」
蘭華の言葉を遮り、闘技場に響き渡る怒声。
煌亮が立ち上がり叫んでいたのだ。
「あら、私と離縁をすると申したのは皇太子殿下ですが? 既に私は皇太子妃の座から外れたバツイチの独り身ですよ?」
「ぐっ……!」
はて、と小首を傾げれば煌亮がぐぬぬと歯ぎしりをする。
「そ、そもそもお前は処刑される身だっ! 処刑人は早くその女を殺せっ!」
「ですから、私が勝ったでしょう?」
「勝ったもなにも、お前たちは二人とも生きている! どちらかが死なねばならない! 早く殺せ!」
煌亮がそう叫んだ瞬間、固まっていた観客たちがざわめきたつ。
「そうだ!」「皇太子殿下のおっしゃる通りだ!」
「血が見たい!」「殺せ!殺せ!」
殺せ殺せと再びの会場は沸き立つ。
「……もういい。お前が俺を切ればいい。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、俺は戦う気など失せた」
深いため息をついて龍煌は剣の持ち手を蘭華に差し出した。
早く楽になれるならそれで良いと思った。
「あら、律には闘技刑は処刑者と処刑人のどちらかの勝敗がつけばいいと定めてあるのみで……どちらかが死なねばならないなど、記載はありませんよ?」
きょとん、と蘭華はその丸い目を瞬かせながらそう呟いた。
「そんなもの屁理屈だ! 早く決着をつけろ!」
当然、煌亮はそれを良しとしない。
手すりから身をのりだし、二人の頭上から声を張り上げる。
「恐れ入ります、皇太子殿下!!」
闘技場に再び声が響いた。
そこに現れたのは雨黒だった。
「そこの紅蘭華がいう通り、律の四四四にこう記してあります『闘技刑は処刑者が処刑人から一本取れば、その者は無罪とす。そして処刑者に破れた処刑人は敗北によりその任を解くものとする』と!」
「なっ……!」
「皇太子殿下、御自らこの律を破られると申されるのですか?」
雨黒はそう叫びながら、自分の主を見上げた。
煌亮は怒りに顔を真っ赤にして、腹立たしげに手摺を叩いた。
「ええい! もう勝手にしろ!! 興が覚めた!! 私は帰る!!」
そう叫びながらずかずかとその場を立ち去っていった。
皇太子の評決により、つまるところ処刑は幕を閉じた。龍煌も、そして蘭華も生き残ったわけだ。
「雨黒様、助太刀感謝致しますわ」
「俺は律に従ったまで。別にお前を助けようとした訳ではない!」
ふいっとそっぽを向いて、雨黒は歩き去ろうとする。
「……雨黒」
龍煌がその名を呼び、彼は足を止めた。
「礼をいう」
「…………失礼致します」
ちらりと雨黒は龍煌を見据え、軽く頭を下げると今度こそその場を立ち去っていった。
観客たちもぞろぞろと去り、広い闘技場には蘭華と龍煌の二人だけになる。
「龍煌様、これで条件は二つ揃いましたね」
「そんなに俺がいいのか」
「はいっ! 私は貴方と共におりたいのです!」
蘭華は龍煌を抱き寄せ、にっこりと笑った。
「ふつつか者では御座いますが、これから宜しくお願いいたします! 龍煌さまっ!」
こうして悪女と呪われた廃太子は晴れて夫婦となったのであった……。
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