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離宮
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シアンが王家の紋章が入った指輪を持っていたことで先王の子であることは確実なものになった。思ったよりも早く結論が出たため、王と王妃、そして妃たちは予定通り離宮に避暑に行くことになった。
「メイ、荷物の準備をお願いね?」
「はい、お任せください」
ユリアの言葉にメイがにっこり笑ってうなずく。ユリアは初めて行く離宮が楽しみで仕方なかった。
「離宮には公爵様もいらっしゃるんですか?」
「一度はおいでになるそうよ。シアン様もご一緒と聞いたわ。きっとカイル様とお顔を合わせるのね」
メイの問いかけにユリアが笑顔で答える。公爵とキースも離宮に数日滞在することはすでに決まっていた。
「ユリア様、乗馬服はいかがなさいますか?」
「それも準備してちょうだい。乗れる機会があったらぜひ乗ってみたいわ」
城ではなかなか馬に乗る機会はないが、離宮ならば乗れるかもしれないとユリアは微笑んだ。メイはうなずくと離宮に持っていく荷物の確認を始めた。
翌週の御前会議の後、王と王妃、妃たちは例年より少し遅れたが離宮に避暑に向かった。
王と王妃、カリナ。イリーナとエリス、ユリアと2台の馬車に分かれて離宮に向かった。
離宮は王都の郊外の森の中にあった。木々が日差しを適度に遮り、近くに川も流れているため城よりも涼しかった。
「わあ、素敵なところですね」
馬車をおりたユリアが離宮を前に目を輝かせる。王はその様子にクスッと笑った。
「あとで湖に行こう。遠乗りもね」
「はい。楽しみです」
王の言葉にユリアは嬉しそうに微笑んでうなずいた。
「皆様、お部屋の用意は整っておりますのでどうぞおくつろぎください」
離宮の管理をしている執事のファイが声をかけて一礼する。ファイはまだ30代と若い執事で、浅黒い肌が目を引いた。この国では見ない肌の色は一目で彼が異国の人間であると知らしめた。
「ユリアは初めて会うな。この離宮の管理を任せているファイだ。若いが優秀だ。本当は城で働かせたいのだが、見た通り彼は異国の生まれだ。異国の者に理解がない者も少なくなくてね。嫌な思いをさせるくらいならと離宮を任せたんだ」
「ユリア様、お初にお目にかかります。ファイと申します」
「はじめまして。ユリアです」
胸に手を当てて優雅に一礼するファイにユリアは微笑みながら挨拶を返した。
「お父様の領地にもあなたのような肌の色の方が何人かいたのを覚えています。お話をしたことはないけど、異国のお話を聞いてみたいと思っていました」
「そういえばユリアは旅芸人からも話を聞いていたな」
王が思い出したように言うとユリアは少し恥ずかしそうにうなずいた。
「はい。私は異国に行ったことがありませんから。どんなところかお話を聞くのが楽しいのです」
「そういうことでしたら、ユリア様のご都合のいいときにお聞かせしますよ」
にこりと笑って言うファイにユリアは嬉しそうにうなずいた。
離宮の部屋に入ったユリアは窓を開けて外の空気を吸い込んだ。
「森の匂いがするわ」
城よりも緑が近い。風が森林の香りを運んでくるのがユリアには嬉しかった。
「ユリア様、少しお休みになられますか?」
「いいえ、少し離宮の中を歩いてみるわ」
にこりと笑ったユリアがそう言って窓を閉める。メイはにこりと笑ってうなずくと一緒に部屋を出た。
「メイはここに来たことはあるの?」
「いいえ。ここに来られるのは陛下や王妃様、お妃様付の侍女や侍従しか来られませんから。私も初めて来ました」
「ではメイも何がどこにあるか知らないのね?じゃあ一緒に探検しましょう」
ユリアは悪戯っぽく笑うと離宮の中を歩き始めた。
離宮には王と王妃が使う主賓室と妃たちが使う部屋の他にも客室がいくつかあった。他にも食堂に広間、サンルーム、応接室、大浴場等があった。中を一通り見たユリアは外にメイを連れて外に出た。外には庭園があり、厩舎には馬車を引いてきた馬以外にも馬がいた。
「メイ!馬だわ!」
厩舎を覗いたユリアは馬を見て目を輝かせた。
「触ってもいいかしら?」
「ユリア様、あまり近づかれては危なくありませんか?」
動物が好きなユリアはそばに行こうとするが、メイは怖がってユリアを引き留めた。
「あれ?お妃様ですか?」
話し声に気づいてひょいっと顔を出したのは少年だった。
「あなたは?」
「俺はトールといいます。馬の世話をしています」
トールと名乗った少年はにっこり笑うとユリアとメイを見た。
「ええと、新しいお妃様?」
「ええ、そうよ。勝手に入ってしまってごめんなさいい。私はユリアよ」
「ユリア様、馬が好きなの?」
「そうね。動物はだいたい好きよ。私が触ったら驚くかしら?」
ユリアの言葉にトールは笑って首を振った。
「この子なら大丈夫だよ」
トールが指した先にいたのは栗毛の馬だった。
「こいつはおっとりしてて優しいから」
「そうなの。少しだけ触らせてね?」
ユリアは栗毛の馬の大きな瞳を見つめて声をかけるとそっと首筋を撫でた。
「暖かい。とても綺麗な毛並みね」
「ここにいるのは陛下のお気に入りの馬だよ。城に連れてくと軍馬の訓練受けさせなきゃいけないからって」
「ここならのんびりできそうね」
ユリアはしばらく馬を撫でるとトールの礼を言った。
「ありがとう。また馬を見にきてもいいかしら?」
「もちろん!」
元気なトールの言葉に嬉しそうにうなずいてユリアは厩舎を後にした。
「ユリア様、そろそろ昼食のお時間です」
「わかったわ。戻りましょう」
離宮にいる間は食事は食堂で全員そろって摂ることになっている。ユリアは足取りも軽く離宮に向かって歩きだした。
「メイ、荷物の準備をお願いね?」
「はい、お任せください」
ユリアの言葉にメイがにっこり笑ってうなずく。ユリアは初めて行く離宮が楽しみで仕方なかった。
「離宮には公爵様もいらっしゃるんですか?」
「一度はおいでになるそうよ。シアン様もご一緒と聞いたわ。きっとカイル様とお顔を合わせるのね」
メイの問いかけにユリアが笑顔で答える。公爵とキースも離宮に数日滞在することはすでに決まっていた。
「ユリア様、乗馬服はいかがなさいますか?」
「それも準備してちょうだい。乗れる機会があったらぜひ乗ってみたいわ」
城ではなかなか馬に乗る機会はないが、離宮ならば乗れるかもしれないとユリアは微笑んだ。メイはうなずくと離宮に持っていく荷物の確認を始めた。
翌週の御前会議の後、王と王妃、妃たちは例年より少し遅れたが離宮に避暑に向かった。
王と王妃、カリナ。イリーナとエリス、ユリアと2台の馬車に分かれて離宮に向かった。
離宮は王都の郊外の森の中にあった。木々が日差しを適度に遮り、近くに川も流れているため城よりも涼しかった。
「わあ、素敵なところですね」
馬車をおりたユリアが離宮を前に目を輝かせる。王はその様子にクスッと笑った。
「あとで湖に行こう。遠乗りもね」
「はい。楽しみです」
王の言葉にユリアは嬉しそうに微笑んでうなずいた。
「皆様、お部屋の用意は整っておりますのでどうぞおくつろぎください」
離宮の管理をしている執事のファイが声をかけて一礼する。ファイはまだ30代と若い執事で、浅黒い肌が目を引いた。この国では見ない肌の色は一目で彼が異国の人間であると知らしめた。
「ユリアは初めて会うな。この離宮の管理を任せているファイだ。若いが優秀だ。本当は城で働かせたいのだが、見た通り彼は異国の生まれだ。異国の者に理解がない者も少なくなくてね。嫌な思いをさせるくらいならと離宮を任せたんだ」
「ユリア様、お初にお目にかかります。ファイと申します」
「はじめまして。ユリアです」
胸に手を当てて優雅に一礼するファイにユリアは微笑みながら挨拶を返した。
「お父様の領地にもあなたのような肌の色の方が何人かいたのを覚えています。お話をしたことはないけど、異国のお話を聞いてみたいと思っていました」
「そういえばユリアは旅芸人からも話を聞いていたな」
王が思い出したように言うとユリアは少し恥ずかしそうにうなずいた。
「はい。私は異国に行ったことがありませんから。どんなところかお話を聞くのが楽しいのです」
「そういうことでしたら、ユリア様のご都合のいいときにお聞かせしますよ」
にこりと笑って言うファイにユリアは嬉しそうにうなずいた。
離宮の部屋に入ったユリアは窓を開けて外の空気を吸い込んだ。
「森の匂いがするわ」
城よりも緑が近い。風が森林の香りを運んでくるのがユリアには嬉しかった。
「ユリア様、少しお休みになられますか?」
「いいえ、少し離宮の中を歩いてみるわ」
にこりと笑ったユリアがそう言って窓を閉める。メイはにこりと笑ってうなずくと一緒に部屋を出た。
「メイはここに来たことはあるの?」
「いいえ。ここに来られるのは陛下や王妃様、お妃様付の侍女や侍従しか来られませんから。私も初めて来ました」
「ではメイも何がどこにあるか知らないのね?じゃあ一緒に探検しましょう」
ユリアは悪戯っぽく笑うと離宮の中を歩き始めた。
離宮には王と王妃が使う主賓室と妃たちが使う部屋の他にも客室がいくつかあった。他にも食堂に広間、サンルーム、応接室、大浴場等があった。中を一通り見たユリアは外にメイを連れて外に出た。外には庭園があり、厩舎には馬車を引いてきた馬以外にも馬がいた。
「メイ!馬だわ!」
厩舎を覗いたユリアは馬を見て目を輝かせた。
「触ってもいいかしら?」
「ユリア様、あまり近づかれては危なくありませんか?」
動物が好きなユリアはそばに行こうとするが、メイは怖がってユリアを引き留めた。
「あれ?お妃様ですか?」
話し声に気づいてひょいっと顔を出したのは少年だった。
「あなたは?」
「俺はトールといいます。馬の世話をしています」
トールと名乗った少年はにっこり笑うとユリアとメイを見た。
「ええと、新しいお妃様?」
「ええ、そうよ。勝手に入ってしまってごめんなさいい。私はユリアよ」
「ユリア様、馬が好きなの?」
「そうね。動物はだいたい好きよ。私が触ったら驚くかしら?」
ユリアの言葉にトールは笑って首を振った。
「この子なら大丈夫だよ」
トールが指した先にいたのは栗毛の馬だった。
「こいつはおっとりしてて優しいから」
「そうなの。少しだけ触らせてね?」
ユリアは栗毛の馬の大きな瞳を見つめて声をかけるとそっと首筋を撫でた。
「暖かい。とても綺麗な毛並みね」
「ここにいるのは陛下のお気に入りの馬だよ。城に連れてくと軍馬の訓練受けさせなきゃいけないからって」
「ここならのんびりできそうね」
ユリアはしばらく馬を撫でるとトールの礼を言った。
「ありがとう。また馬を見にきてもいいかしら?」
「もちろん!」
元気なトールの言葉に嬉しそうにうなずいてユリアは厩舎を後にした。
「ユリア様、そろそろ昼食のお時間です」
「わかったわ。戻りましょう」
離宮にいる間は食事は食堂で全員そろって摂ることになっている。ユリアは足取りも軽く離宮に向かって歩きだした。
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