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小休憩

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 しばらく4人でおしゃべりをしていると、突然馬車が停まった。何事だろうとユリアが窓の外を見ると、馬車は川岸に停まっていた。
「失礼します。このあたりで一度休憩をしたいと思うのですが」
そう声をかけてきたのは親衛隊の隊長ライル・エストリアだった。
「かまわない。降りてよいか?」
王の言葉にライルがうなずいて馬車のドアを開ける。乗ったときと逆の順番で馬車をおりると王は軽く背伸びした。
「馬車は嫌いではないが、長く乗っていると体が辛いな。ユリア、大丈夫か?」
「はい。私は初めてのことばかりで楽しいです」
ユリアがそう言って微笑むと王は「そうか」と言って微笑んだ。

 馬たちに水を飲ませ休ませている間、人間も馬車をおりて休憩する。王と妃の泊まりがけの移動ということもあって、ついてきた人数もそれなりに多いものだった。
「こんなにたくさんの方が一緒に行くのですね」
あまりの多さにユリアが驚くと、王は笑いながらうなずいた。
「侍女と侍従、それとお針子。護衛の者たち。今回は料理人もいるな。私が動くとそれなりの人数になってしまう。今回はこれでも少ないほうだ」
王の言葉にユリアはますます驚いた。
「陛下のご移動はとても大変なのですね」
「そうだな。気楽に、となれば忍んで出掛けるしかないな」
クスクス笑いながら王がうなずく。すると「忍んで行かれては困ります」という声が近くから聞こえた。
「おっと。ライルに聞かれてしまった」
王が悪戯っぽく笑いながら言うとそばにきたライルは苦笑して膝をついた。
「陛下、このまま何事もなければ昼にはリュカの町につけると思います」
「そうか。まあリュカはそれほど離れていないからな。では昼食はリュカの領主の屋敷でとなるな」
ライルの言葉に王の表情がわずかに硬くなる。ユリアはその様子に首をかしげながらも黙ってふたりのやりとりを見つめた。
「昼食については連れてきた料理人に準備をさせますのでご安心を。今しばらく休んだら出発いたします」
「わかった。何事もないとは思うがよろしく頼む」
王の言葉にうなずいてライルは騎士たちのもとへ戻っていった。
「王を迎える領主たちは王のために様々なもてなしをしますが、それが必ずしも王の希望にそうとは限らないのですよ」
ライルが去ったあと、キースが小声でユリアに言う。それでもわからずユリアが首をかしげると「年頃の娘をそばにおいたり食事に精のつくものや精力剤を混ぜたりするそうですよ」とカイルが教える。ユリアはそれを聞くと真っ赤になってしまい、カイルはキースにため息まじりに叱られた。それを見て王がクスクス笑う。穏やかな雰囲気に周りで見ている従者たちもほんわかしていた。

 それからほどなくしてライルが出発を告げる。4人が馬車に乗り込むとすぐに行列が動き出した。
「もう少し行くとリュカの町に入る。そうしたらまた人々が道の両側に出ているからね」
「わかりました。父の領地以外の場所にくるのは初めてなので、とてもドキドキします」
緊張しながらも楽しそうなユリアの様子に王の表情も自然と綻ぶ。キースもそんな兄を見て安心したように微笑んでいた。

 リュカの町は王都から近く、行き来だけなら日帰りできる場所だった。領主はドルマルク男爵。自分の娘を後宮にと訴えてくる貴族たちの中には彼の名もあった。だが、ギルバートが王に渡した秘密のパーティーにメンバーにその名はなかった。
「ユリア、リュカの領主はドルマルク男爵という。彼には年頃の娘がいてね。ユリアには嫌な思いをさせるかもしれない」
リュカに入る前、王はユリアにそう言って心配そうな顔をした。だが、ユリアは小さく微笑むと「ご心配には及びません」と言った。
「王妃様たちから領主がどのような方々なのかは聞いてまいりました。どのようなことを言われるかも。ですから大丈夫ですわ」
「そうか」
王妃たちがユリアに色々と教えていたとは知らず王が呆気にとられた顔をする。その様子にキースはクスクス笑った。
「さすが後宮の女性たちは強かですね。そして結束も固い」
「全くだ。私ですら知らないところで情報交換しているのだからね」
苦笑して肩をすくめる王にユリアはにっこりと笑った。
「カイルも気をつけるようにね。男爵の娘は確か何人かいたはずだ。私の妃になれないなら、カイルの将来の正妃にと娘を推してくるかもしれない」
「私は自分の妃は自分で決めるつもりですのでご心配なく」
王の言葉にカイルがにこりと笑って言う。とても無邪気な表情なのに、なぜかその笑顔が黒く見えた。

 リュカの町に入ったのは昼前だった。町に入ると道の両側に人々が集まって馬車に向かって歓声をあげ手を振っていた。王やユリアたちはその歓声に応えるように笑顔で手を振った。
「陛下!ようこそおいでくださいました!」
領主の屋敷につくとドルマルク男爵自らが一行を出迎えた。男爵はでっぷりと肥えた大きな腹を抱えるようにして馬車をおりた一行に一礼した。
「お妃様も、ようこそおいでくださいました」
「はじめまして。お世話になります」
ユリアが挨拶を返すと男爵はうなずいてキースとカイルに向き直った。
「キース殿下、お久しぶりでございます。カイル様にはお初にお目にかかります」
「お久しぶりです。男爵はお変わりない様子で何よりです」
「はじめまして」
キースとカイルも笑顔で挨拶を返す。男爵は4人を応接室に案内した。
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