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思惑だらけのパーティー
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パーティー当日。城の縫製部からユリアの元に届けられたのは純白のドレスだった。しかも、体のラインがわかるもの。ユリアが頼んだものとは違うものだったが、今から新しいものができるはずもなく、ユリアは仕方なくそのドレスを着た。
「ユリア様、よくお似合いです」
「ありがとう、メイ。今日はパーティーでなかったらこのドレスも喜んで着られるのだけど」
苦笑して言うユリアにメイが申し訳なさそうな顔をする。だが、いくら文句を言っても時間が止まってくれるはずもなく、あっという間にパーティーの時間となってしまった。
ユリアが大広間に行くと、すでにたくさんの貴族が集まっておしゃべりを楽しんでいた。大広間に入ったユリアに視線が集まる。その中でも貴族の女性たちの視線は鋭いものだった。
「ユリア、久しぶりだね」
「お父様、お久しぶりです。お変わりありませんか?」
声をかけてきた父の姿に緊張していたユリアの表情が和らぐ。美しく着飾った娘の姿にユステフ伯爵は眩しそうに目を細めた。
「すっかり綺麗になったね。私は変わりないよ。お前こそ大丈夫かい?」
「ええ。ご心配には及びませんわ」
ユリアがにこりと笑ってうなずくと、大広間にざわめきが起きた。王と王妃が大広間に入ってきたのだ。
「お父様、ご挨拶に行ってくるわね」
「ああ。私もあとでご挨拶に行くよ」
我先にと王に挨拶に行くのは野心に溢れた貴族たちだ。ユステフ伯爵にそこまで野心はなく、ユリアを後宮に入れたのに自身の出生のためというわけではなく、単に王に請われたからだった。
ユリアは緊張した面持ちで王と王妃の元に向かった。他の妃たちもそれぞれ挨拶に行くために王たちの元に向かっている。一番最初にふたりの元にたどり着いたユリアはドレスの裾をさばいて一礼した。
「陛下、王妃様、ご機嫌麗しく」
「ああ。ユリア、そのドレス、似合っているよ」
王の言葉にわずかに躊躇いがある。王妃の白いドレスと色が被っていること、王妃のドレスより体のラインを強調したドレスは見るものには挑発的に見えるだろうことに気づいたのだ。
頭を下げたままユリアが王妃をうかがうと、グラスを持った手がわずかに震えているのがわかった。王妃に申し訳ないと思いつつ、ユリアはその瞬間を待った。
「あっ!」
他の貴族に声をかえられた瞬間、王妃がよろけて手にしていた赤ワインがこぼれる。それは目の前にいたユリアの純白のドレスを赤く染めた。
「王妃様、申し訳ありません。私がお声をかけたばかりに」
そう言う貴族は謝りながらも目は嫌らしく弧を描いていた。この貴族はユリアか王妃に恥をかかせたかったのだろう。思惑がうまくいったと喜んでいるのが明らかだった。
「…お気になさらず。ユリア様、こちらに」
表情を変えることなく王妃がユリアをそばに呼ぶ。どうなることかと固唾を飲んで見つめる周りをよそに、王妃は侍女にユリアを着替えさせるように言った。
ユリアは王妃に一礼して侍女に促されるまま大広間をあとにした。廊下に出るとほっと息を吐く。その様子に王妃の侍女は小さく微笑んだ。
「こちらへどうぞ。赤ワインは早く染み抜きしないとシミが残ってしまいます」
「ええ、ありがとう」
うなずいたユリアは王妃が時々使っているという部屋に入った。そこは広くはなかったが、本棚や絵画が並んでいた。
「さ、こちらにお着替えを」
言われるままに着替えたのは青のドレスだった。
「こちらもよくお似合いでございます」
「ありがとう。王妃様には申し訳ないことをしました」
そう言ってしゅんとするユリアに侍女はにこりと笑った。
「王妃様は人前に出ることが得意ではありませんけど、お妃様たちを大切に思っていらっしゃいます。貴族たちの思惑から守りたいのだと常々おっしゃっていらっしゃいます」
「そうなのですか」
侍女から王妃の思いを聞いてユリアは胸が暖かくなる気がした。そして、そんな王妃の役にたちたいと思った。
「さ、大広間に戻りましょう。きっとお父上もご心配なさっていますよ」
「そうね。ありがとう」
侍女の言葉にうなずいてユリアは大広間に戻った。
その頃、大広間ではユステフ伯爵が王に挨拶をしていた。
「陛下、お久しぶりでございます。王妃様、先ほどは娘が失礼いたしました」
「伯爵。息災で何よりだ」
にこやかに応える王とは対照的に王妃はわずかに会釈をするばかりだった。その様子に伯爵はますます青ざめる。やはり娘を後宮に入れたのは間違いだったかと後悔した。
「娘は、何か粗相をしてはいないでしょうか?」
「ユリアはよく尽くしてくれる。王妃や妃たちとも仲良くしているようだ」
「そうですか。ならばいいのですが」
王の言葉に伯爵は「娘をよろしくお願いします」と深く頭を下げた。
「ああ、ちょうど戻ったようだ」
伯爵が王の言葉で頭をあげると、ドレスを着替えたユリアが大広間に戻ってきたところだった。
青いドレスに身を包んだユリアはとても愛らしかった。先ほどのドレスと違い全体的にふんわりしたデザインは若いユリアによく似合っていた。
「ほう、今度のドレスはよく似合うな」
お色直ししたユリアに王がにこりと笑う。王と王妃の前にきたユリアは微笑みながら一礼した。
「王妃様、ドレスをご用意いただきありがとうございます」
「かまいません」
言葉少なにうなずく王妃の口元がわずかに綻んでいる。それを見た伯爵はもしかしたら王妃の人柄は噂とは違うのではないだろうかと思った。
「ユリア様、よくお似合いです」
「ありがとう、メイ。今日はパーティーでなかったらこのドレスも喜んで着られるのだけど」
苦笑して言うユリアにメイが申し訳なさそうな顔をする。だが、いくら文句を言っても時間が止まってくれるはずもなく、あっという間にパーティーの時間となってしまった。
ユリアが大広間に行くと、すでにたくさんの貴族が集まっておしゃべりを楽しんでいた。大広間に入ったユリアに視線が集まる。その中でも貴族の女性たちの視線は鋭いものだった。
「ユリア、久しぶりだね」
「お父様、お久しぶりです。お変わりありませんか?」
声をかけてきた父の姿に緊張していたユリアの表情が和らぐ。美しく着飾った娘の姿にユステフ伯爵は眩しそうに目を細めた。
「すっかり綺麗になったね。私は変わりないよ。お前こそ大丈夫かい?」
「ええ。ご心配には及びませんわ」
ユリアがにこりと笑ってうなずくと、大広間にざわめきが起きた。王と王妃が大広間に入ってきたのだ。
「お父様、ご挨拶に行ってくるわね」
「ああ。私もあとでご挨拶に行くよ」
我先にと王に挨拶に行くのは野心に溢れた貴族たちだ。ユステフ伯爵にそこまで野心はなく、ユリアを後宮に入れたのに自身の出生のためというわけではなく、単に王に請われたからだった。
ユリアは緊張した面持ちで王と王妃の元に向かった。他の妃たちもそれぞれ挨拶に行くために王たちの元に向かっている。一番最初にふたりの元にたどり着いたユリアはドレスの裾をさばいて一礼した。
「陛下、王妃様、ご機嫌麗しく」
「ああ。ユリア、そのドレス、似合っているよ」
王の言葉にわずかに躊躇いがある。王妃の白いドレスと色が被っていること、王妃のドレスより体のラインを強調したドレスは見るものには挑発的に見えるだろうことに気づいたのだ。
頭を下げたままユリアが王妃をうかがうと、グラスを持った手がわずかに震えているのがわかった。王妃に申し訳ないと思いつつ、ユリアはその瞬間を待った。
「あっ!」
他の貴族に声をかえられた瞬間、王妃がよろけて手にしていた赤ワインがこぼれる。それは目の前にいたユリアの純白のドレスを赤く染めた。
「王妃様、申し訳ありません。私がお声をかけたばかりに」
そう言う貴族は謝りながらも目は嫌らしく弧を描いていた。この貴族はユリアか王妃に恥をかかせたかったのだろう。思惑がうまくいったと喜んでいるのが明らかだった。
「…お気になさらず。ユリア様、こちらに」
表情を変えることなく王妃がユリアをそばに呼ぶ。どうなることかと固唾を飲んで見つめる周りをよそに、王妃は侍女にユリアを着替えさせるように言った。
ユリアは王妃に一礼して侍女に促されるまま大広間をあとにした。廊下に出るとほっと息を吐く。その様子に王妃の侍女は小さく微笑んだ。
「こちらへどうぞ。赤ワインは早く染み抜きしないとシミが残ってしまいます」
「ええ、ありがとう」
うなずいたユリアは王妃が時々使っているという部屋に入った。そこは広くはなかったが、本棚や絵画が並んでいた。
「さ、こちらにお着替えを」
言われるままに着替えたのは青のドレスだった。
「こちらもよくお似合いでございます」
「ありがとう。王妃様には申し訳ないことをしました」
そう言ってしゅんとするユリアに侍女はにこりと笑った。
「王妃様は人前に出ることが得意ではありませんけど、お妃様たちを大切に思っていらっしゃいます。貴族たちの思惑から守りたいのだと常々おっしゃっていらっしゃいます」
「そうなのですか」
侍女から王妃の思いを聞いてユリアは胸が暖かくなる気がした。そして、そんな王妃の役にたちたいと思った。
「さ、大広間に戻りましょう。きっとお父上もご心配なさっていますよ」
「そうね。ありがとう」
侍女の言葉にうなずいてユリアは大広間に戻った。
その頃、大広間ではユステフ伯爵が王に挨拶をしていた。
「陛下、お久しぶりでございます。王妃様、先ほどは娘が失礼いたしました」
「伯爵。息災で何よりだ」
にこやかに応える王とは対照的に王妃はわずかに会釈をするばかりだった。その様子に伯爵はますます青ざめる。やはり娘を後宮に入れたのは間違いだったかと後悔した。
「娘は、何か粗相をしてはいないでしょうか?」
「ユリアはよく尽くしてくれる。王妃や妃たちとも仲良くしているようだ」
「そうですか。ならばいいのですが」
王の言葉に伯爵は「娘をよろしくお願いします」と深く頭を下げた。
「ああ、ちょうど戻ったようだ」
伯爵が王の言葉で頭をあげると、ドレスを着替えたユリアが大広間に戻ってきたところだった。
青いドレスに身を包んだユリアはとても愛らしかった。先ほどのドレスと違い全体的にふんわりしたデザインは若いユリアによく似合っていた。
「ほう、今度のドレスはよく似合うな」
お色直ししたユリアに王がにこりと笑う。王と王妃の前にきたユリアは微笑みながら一礼した。
「王妃様、ドレスをご用意いただきありがとうございます」
「かまいません」
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