7 / 70
リアム王
しおりを挟む
「陛下がいらっしゃいました」
ふいに侍女の言葉が響き、温室のドアが開けられる。王妃たちが立ち上がると、リアム王は微笑みながら温室に入ってきた。
「やあ、楽しそうだね」
「陛下、会議が長引いたのですか?」
予定より遅れてやってきた王に王妃が尋ねる。王は苦笑しながら「そうなんだ」とうなずいた。
「ユリアがきたばかりだというのに、もう次に後宮に入れるのは誰がいいかだんて言われてもね」
疲れたように椅子に座る王の前に紅茶が出される。王がそれに口をつけたのを見て王妃たちは席についた。
「ずいぶん気の短い方がいるのですね?」
「その方、娘さんでもいらっしゃるのかしら?」
エリスの言葉に王は「正解」と笑った。
「自分の娘を入れたくて仕方ないのだろうね。だが、私は後宮の和を乱すものを迎えるつもりはない」
きっぱり言いきった王は緊張した様子で座るユリアに目を向けて微笑んだ。
「ユリア、この後宮がどういうものか、理解できたかな?」
「はい。王妃様も、お妃様たちも、皆さま本当にお優しいです」
「ユリアならここでうまくやれるだろうと思って迎え入れたんだ。そなたは一番若いから、周りから早く子をと言われるだろうが、それは気にする必要はないからね?ユリアに問題があるわけではないのだから」
王の言葉にユリアはうなずきながら内心首をかしげた。そもそも、4人も後宮にいるのに子どもがいないということが不自然に感じられた。
「私は元々子種が少ないようでね。医師から子どもはできにくいかもしれないと言われている。だから私としては子はできてもできなくてもいいのだが、女性たちは周りからのプレッシャーがすごいようだ」
「最初だけですわ。そのうち何も言わなくなります」
カリナの言葉に他の妃たちもうなずく。王妃だけは困ったように笑っていた。
「私の弟には優秀な息子が何人かいるのだから、後継はそちらから選ぶのが一番いいと思うのだけどね」
「直系のお子をと思うのは仕方がないのでしょうね」
そう言って微笑む王妃に王は困ったような顔をした。
「リーシュには一番辛い思いをさせている。内気な性格なのに、王妃にすえて、子ができないと責められて。だが、私はそなたが一番愛おしい。だから、手放してやれない私を許しておくれ」
「もう諦めました。それに、わたくしの我が儘で皆さまを迎えていただきました。わたくしは幸せですわ」
「私たちも幸せです。陛下が気に病まれることはありません」
にこりと笑って言う王妃たちに王も少し安心したように微笑んだ。
王はそれから少し歓談を楽しむと執務に戻っていった。
「ユリア様、これからパーティーなどでたくさんの人の前に立つことがあると思います。あなたは後宮に入られたばかりですから、きっと陛下はあなたをおそばにおくと思います。嫌なことを言われるかもしれないけど、あまり気にしないでね」
王妃の気遣うような言葉にユリアは小さく微笑んでうなずいた。
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
「この後宮にいる方はわたくしの妹も同じですわ。気遣うのは当たり前です」
「あなたは末の妹になりますわね」
王妃の言葉にうなずいてイリーナが言うと、カリナとエリスも微笑みながらうなずいた。
「私が、皆さまの妹…」
妹と言われたユリアは頬を染めると嬉しそうに微笑んだ。
「そろそろお昼ですね。お開きにしましょうか」
王妃の言葉に妃たちは立ち上がって一礼した。
「とても楽しいお茶会でした。ありがとうございました」
「どういたしまして。また近いうちに開きましょうね」
嬉しそうに微笑む王妃にうなずいて妃たちはそれぞれ温室を出た。すると、待っていた侍女たちがそれぞれの妃の元へやってくる。ユリアの元へも心配そうな顔をしたメイが駆け寄ってきた。
「ユリア様、お部屋にお戻りになりますか?」
「ええ、そうします」
ユリアはうなずくと他の妃たちに会釈して温室を後にした。
「ユリア様、お茶会はいかがでしたか?」
部屋に戻ると心配そうなメイが尋ねてくる。ユリアはドレスを着替えながら小さく微笑んだ。
「何も心配することはないわ」
「そうですか?どのようなお話をされたのですか?」
「それは、秘密です」
お茶会の内容を話さないユリアにメイがますます心配そうな顔をする。ユリアは困ったように笑いながらも、お茶会でのことを話すことはなかった。
「メイ、お昼は少なめにしてもらえる?」
「まあ、わかりました。食べやすいものをお願いしますわ」
お茶会で少しお菓子を食べすぎてしまっただけなのだが、メイはユリアが食欲がないと勘違いしたようだった。メイの中ではお茶会はとても心労が溜まる行事のようになっているのだろう。それは王妃や妃たちが何も話さなかったため噂話に様々な尾ひれがついた結果なのだが、ユリアも特に訂正しようとは思わなかった。王妃や妃たちが望むこと。本当はとても居心地のいいこの後宮を守りたいという思いがユリアにも芽生えていた。
ふいに侍女の言葉が響き、温室のドアが開けられる。王妃たちが立ち上がると、リアム王は微笑みながら温室に入ってきた。
「やあ、楽しそうだね」
「陛下、会議が長引いたのですか?」
予定より遅れてやってきた王に王妃が尋ねる。王は苦笑しながら「そうなんだ」とうなずいた。
「ユリアがきたばかりだというのに、もう次に後宮に入れるのは誰がいいかだんて言われてもね」
疲れたように椅子に座る王の前に紅茶が出される。王がそれに口をつけたのを見て王妃たちは席についた。
「ずいぶん気の短い方がいるのですね?」
「その方、娘さんでもいらっしゃるのかしら?」
エリスの言葉に王は「正解」と笑った。
「自分の娘を入れたくて仕方ないのだろうね。だが、私は後宮の和を乱すものを迎えるつもりはない」
きっぱり言いきった王は緊張した様子で座るユリアに目を向けて微笑んだ。
「ユリア、この後宮がどういうものか、理解できたかな?」
「はい。王妃様も、お妃様たちも、皆さま本当にお優しいです」
「ユリアならここでうまくやれるだろうと思って迎え入れたんだ。そなたは一番若いから、周りから早く子をと言われるだろうが、それは気にする必要はないからね?ユリアに問題があるわけではないのだから」
王の言葉にユリアはうなずきながら内心首をかしげた。そもそも、4人も後宮にいるのに子どもがいないということが不自然に感じられた。
「私は元々子種が少ないようでね。医師から子どもはできにくいかもしれないと言われている。だから私としては子はできてもできなくてもいいのだが、女性たちは周りからのプレッシャーがすごいようだ」
「最初だけですわ。そのうち何も言わなくなります」
カリナの言葉に他の妃たちもうなずく。王妃だけは困ったように笑っていた。
「私の弟には優秀な息子が何人かいるのだから、後継はそちらから選ぶのが一番いいと思うのだけどね」
「直系のお子をと思うのは仕方がないのでしょうね」
そう言って微笑む王妃に王は困ったような顔をした。
「リーシュには一番辛い思いをさせている。内気な性格なのに、王妃にすえて、子ができないと責められて。だが、私はそなたが一番愛おしい。だから、手放してやれない私を許しておくれ」
「もう諦めました。それに、わたくしの我が儘で皆さまを迎えていただきました。わたくしは幸せですわ」
「私たちも幸せです。陛下が気に病まれることはありません」
にこりと笑って言う王妃たちに王も少し安心したように微笑んだ。
王はそれから少し歓談を楽しむと執務に戻っていった。
「ユリア様、これからパーティーなどでたくさんの人の前に立つことがあると思います。あなたは後宮に入られたばかりですから、きっと陛下はあなたをおそばにおくと思います。嫌なことを言われるかもしれないけど、あまり気にしないでね」
王妃の気遣うような言葉にユリアは小さく微笑んでうなずいた。
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
「この後宮にいる方はわたくしの妹も同じですわ。気遣うのは当たり前です」
「あなたは末の妹になりますわね」
王妃の言葉にうなずいてイリーナが言うと、カリナとエリスも微笑みながらうなずいた。
「私が、皆さまの妹…」
妹と言われたユリアは頬を染めると嬉しそうに微笑んだ。
「そろそろお昼ですね。お開きにしましょうか」
王妃の言葉に妃たちは立ち上がって一礼した。
「とても楽しいお茶会でした。ありがとうございました」
「どういたしまして。また近いうちに開きましょうね」
嬉しそうに微笑む王妃にうなずいて妃たちはそれぞれ温室を出た。すると、待っていた侍女たちがそれぞれの妃の元へやってくる。ユリアの元へも心配そうな顔をしたメイが駆け寄ってきた。
「ユリア様、お部屋にお戻りになりますか?」
「ええ、そうします」
ユリアはうなずくと他の妃たちに会釈して温室を後にした。
「ユリア様、お茶会はいかがでしたか?」
部屋に戻ると心配そうなメイが尋ねてくる。ユリアはドレスを着替えながら小さく微笑んだ。
「何も心配することはないわ」
「そうですか?どのようなお話をされたのですか?」
「それは、秘密です」
お茶会の内容を話さないユリアにメイがますます心配そうな顔をする。ユリアは困ったように笑いながらも、お茶会でのことを話すことはなかった。
「メイ、お昼は少なめにしてもらえる?」
「まあ、わかりました。食べやすいものをお願いしますわ」
お茶会で少しお菓子を食べすぎてしまっただけなのだが、メイはユリアが食欲がないと勘違いしたようだった。メイの中ではお茶会はとても心労が溜まる行事のようになっているのだろう。それは王妃や妃たちが何も話さなかったため噂話に様々な尾ひれがついた結果なのだが、ユリアも特に訂正しようとは思わなかった。王妃や妃たちが望むこと。本当はとても居心地のいいこの後宮を守りたいという思いがユリアにも芽生えていた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
悪の王妃
桜木弥生
恋愛
何度もその罪により処刑される王妃。処刑までの日数は三日間。数十回繰り返されたその生に、彼女は何を思い、何を求めるのか。
全21話完結済みで順次公開していきます。
1~4話公開済
5話 12/6 19:00公開
6話~19話 12/7~毎日7時と19時の1日2話公開
20話~最終話 12/14 0時公開
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
政略結婚の相手に見向きもされません
矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。
政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。
国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。
だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる