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初めての朝
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ユリアが目を覚ますともうベッドに王の姿はなかった。まるで全身筋肉痛のように怠く、特に腰や下肢が痛い。どうにか寝返りをしたユリアはあれだけ乱れていたシーツが綺麗になっていること、自分の体が清められていることに気づいて毛布にもぐりこんだ。
「恥ずかしすぎるわ…」
真っ赤になって悶えるユリアは昨夜のことを思い出して熱い吐息をこぼした。
王は少し強引ではあったが優しかった。常にユリアを気遣ってくれた。そして快楽を教え込まれた。
「今夜も、いらっしゃるのかしら…」
夢うつつにまた今夜と言われたような気がしたが、それは都合のいい夢かもしれない。期待はしないでおこうと思って毛布から顔を出すと、控えめに寝室のドアがノックされた。
「ユリア様、お目覚めでしょうか?」
「メイ。ええ、起きているわ」
返事をするとメイが寝室に入ってくる。その手には花や小さな箱がいくつかあった。
「おはよう、メイ。それは?」
「おはようございます。これらは王妃様やお妃様たちからのお見舞いの品です」
「お見舞い…?」
「このお花は王妃様から。こちらのクッキーはカリナ様から。こちらの紅茶はイリーナ様から。そしてこちらのお香はエリス様からです」
サイドテーブルにおかれた見舞いの品々を見たユリアは嬉しいような苦しいような複雑な心境になった。
「メイ、お礼を言いに行かないと」
「それには及ばないと先方から言付かっております。夕食も体が辛いようなら無理をせず部屋で摂るようにと」
そう言われてユリアが時計に目を向ける。するととっくに昼も過ぎてしまっていた。
「もしかして朝と昼も皆様とご一緒しなければいけなかったの?」
「いえ、朝と昼は皆様各自でお摂りになります。広間で皆様お集まりになるのは夜だけです」
メイの言葉にユリアは安心したようにホッと息を吐いた。
「ねえメイ。皆様優しくしてくださるけど、きっと私のことをよくは思われていないわよね」
「ユリア様…確かに王妃様や他のお妃様たちが仲良くなさっている様子はありませんけど、先代のようなことはありませんから。あまりご心配にならずに」
「…そうね。ありがとう」
ユリアは小さく微笑むとゆっくりベッドからおりた。
「今日の服を出してちょうだい」
メイがうなずいてクローゼットから少しゆったりしたドレスを出す。それを着たユリアは軽く昼食を摂ったあと、王妃は妃たちに見舞いの品に対するお礼の手紙を書いた。
「お礼は不要と言われたけど、手紙なら受け取ってくださるかもしれないから、これを届けてくれる?」
「かしこまりました。お届けしてきます」
ユリアから手紙を預かったメイは頭を下げると部屋を出ていった。
ひとりになったユリアは小さくため息をつくとゆっくり立ち上がって廊下に出た。廊下には誰もいなかったが、出歩いてはいけないとは言われていない。部屋にいるとどうしても気分が塞いでしまうから、気分転換に少し散歩をしようとユリアは部屋を出た。
「思ったより広いわ。迷子になりそう」
迷わないようにと目印になりそうな調度品を覚えながら歩いていると、誰かの話し声が聞こえてきてユリアは足を止めた。
「陛下、今宵も新しい方のところにお渡りですか?」
「ああ、そのつもりだよ」
返事をしたのはリアム王だ。少し覗いてみると、一緒にいるのはエリスだった。
「連日ではあちらもお体が辛いのではありませんか?今宵は私の部屋にお渡りくださいませ」
活発そうな瞳に妖艶な光が宿る。王の腕に抱きついてわざと豊満な胸を押し付ける様子にユリアは頬を赤らめて隠れてしまった。
「そなたから誘ってくるとは珍しいな?」
「最近陛下が遊んでくださらないので、少々拗ねております」
クスクス笑いながら囁く様子はまるで睦みあう恋人同士のようだった。
「わかったよ。今宵はそなたの部屋に行くとしよう」
「ありがとうございます。楽しみにしておりますわね」
そこまで聞いてユリアは居たたまれなくなって駆け出した。どうにか自分の部屋に戻って寝室に駆け込む。疎まれているかもしれないとは思っていたが、まさかあんなふうに王のお渡りを阻止するなんてと涙が溢れた。
「ユリア様、ただいま戻りました。ユリア様?」
ちょうど戻ってきたメイは泣いているユリアを見ると慌てて駆け寄ってきた。
「ユリア様!?どうなさったのですか?」
「メイ、陛下は今夜、どなたのところへ行かれるのかしら?」
「今宵もユリア様のところにお渡りと聞いておりますよ?」
メイの言葉にユリアの瞳から涙が溢れた。
「陛下は、きっと今夜はいらっしゃらないわ…」
泣きじゃくるユリアをどうにかなだめたメイは泣いていた理由を聞いて気遣わしげな顔をした。
「ユリア様、ここは後宮です。王妃様にもまだお子はなく、もしお妃様のどなたかが王子をお生みになれば、その方が新たな王妃となることも有り得るのです。ですので、表面上では何事もなくても、裏では色々な駆け引きがなされていると思います。ユリア様にはまだおわかりにならないかもしれませんが」
「…なんとなくしかわからないわ」
「いずれおわかりになりますよ」
そう言って紅茶を差し出すメイにうなずいてユリアはゆっくり紅茶を飲んだ。
「恥ずかしすぎるわ…」
真っ赤になって悶えるユリアは昨夜のことを思い出して熱い吐息をこぼした。
王は少し強引ではあったが優しかった。常にユリアを気遣ってくれた。そして快楽を教え込まれた。
「今夜も、いらっしゃるのかしら…」
夢うつつにまた今夜と言われたような気がしたが、それは都合のいい夢かもしれない。期待はしないでおこうと思って毛布から顔を出すと、控えめに寝室のドアがノックされた。
「ユリア様、お目覚めでしょうか?」
「メイ。ええ、起きているわ」
返事をするとメイが寝室に入ってくる。その手には花や小さな箱がいくつかあった。
「おはよう、メイ。それは?」
「おはようございます。これらは王妃様やお妃様たちからのお見舞いの品です」
「お見舞い…?」
「このお花は王妃様から。こちらのクッキーはカリナ様から。こちらの紅茶はイリーナ様から。そしてこちらのお香はエリス様からです」
サイドテーブルにおかれた見舞いの品々を見たユリアは嬉しいような苦しいような複雑な心境になった。
「メイ、お礼を言いに行かないと」
「それには及ばないと先方から言付かっております。夕食も体が辛いようなら無理をせず部屋で摂るようにと」
そう言われてユリアが時計に目を向ける。するととっくに昼も過ぎてしまっていた。
「もしかして朝と昼も皆様とご一緒しなければいけなかったの?」
「いえ、朝と昼は皆様各自でお摂りになります。広間で皆様お集まりになるのは夜だけです」
メイの言葉にユリアは安心したようにホッと息を吐いた。
「ねえメイ。皆様優しくしてくださるけど、きっと私のことをよくは思われていないわよね」
「ユリア様…確かに王妃様や他のお妃様たちが仲良くなさっている様子はありませんけど、先代のようなことはありませんから。あまりご心配にならずに」
「…そうね。ありがとう」
ユリアは小さく微笑むとゆっくりベッドからおりた。
「今日の服を出してちょうだい」
メイがうなずいてクローゼットから少しゆったりしたドレスを出す。それを着たユリアは軽く昼食を摂ったあと、王妃は妃たちに見舞いの品に対するお礼の手紙を書いた。
「お礼は不要と言われたけど、手紙なら受け取ってくださるかもしれないから、これを届けてくれる?」
「かしこまりました。お届けしてきます」
ユリアから手紙を預かったメイは頭を下げると部屋を出ていった。
ひとりになったユリアは小さくため息をつくとゆっくり立ち上がって廊下に出た。廊下には誰もいなかったが、出歩いてはいけないとは言われていない。部屋にいるとどうしても気分が塞いでしまうから、気分転換に少し散歩をしようとユリアは部屋を出た。
「思ったより広いわ。迷子になりそう」
迷わないようにと目印になりそうな調度品を覚えながら歩いていると、誰かの話し声が聞こえてきてユリアは足を止めた。
「陛下、今宵も新しい方のところにお渡りですか?」
「ああ、そのつもりだよ」
返事をしたのはリアム王だ。少し覗いてみると、一緒にいるのはエリスだった。
「連日ではあちらもお体が辛いのではありませんか?今宵は私の部屋にお渡りくださいませ」
活発そうな瞳に妖艶な光が宿る。王の腕に抱きついてわざと豊満な胸を押し付ける様子にユリアは頬を赤らめて隠れてしまった。
「そなたから誘ってくるとは珍しいな?」
「最近陛下が遊んでくださらないので、少々拗ねております」
クスクス笑いながら囁く様子はまるで睦みあう恋人同士のようだった。
「わかったよ。今宵はそなたの部屋に行くとしよう」
「ありがとうございます。楽しみにしておりますわね」
そこまで聞いてユリアは居たたまれなくなって駆け出した。どうにか自分の部屋に戻って寝室に駆け込む。疎まれているかもしれないとは思っていたが、まさかあんなふうに王のお渡りを阻止するなんてと涙が溢れた。
「ユリア様、ただいま戻りました。ユリア様?」
ちょうど戻ってきたメイは泣いているユリアを見ると慌てて駆け寄ってきた。
「ユリア様!?どうなさったのですか?」
「メイ、陛下は今夜、どなたのところへ行かれるのかしら?」
「今宵もユリア様のところにお渡りと聞いておりますよ?」
メイの言葉にユリアの瞳から涙が溢れた。
「陛下は、きっと今夜はいらっしゃらないわ…」
泣きじゃくるユリアをどうにかなだめたメイは泣いていた理由を聞いて気遣わしげな顔をした。
「ユリア様、ここは後宮です。王妃様にもまだお子はなく、もしお妃様のどなたかが王子をお生みになれば、その方が新たな王妃となることも有り得るのです。ですので、表面上では何事もなくても、裏では色々な駆け引きがなされていると思います。ユリア様にはまだおわかりにならないかもしれませんが」
「…なんとなくしかわからないわ」
「いずれおわかりになりますよ」
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