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神様は人の子を見る・8、不穏な影

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 独り暮らしを始めて少しの間は寂しそうな様子を見せていた愛し子も、ひとつき過ぎる頃には慣れたようだった。人の子とはいつも順応が早いものだ。
 そんなある日、あの子と一緒に宮司の姉がやってきた。子どもの頃はここに住んでいてよく境内で遊んでいたのを覚えている。宮司ほどの力はないが、我の存在を感じることのできる娘だった。両親には何の力もなかったことを思えば、この姉弟は隔世遺伝で力を受け継いだのだろう。
「子どもの頃に静華さまを見たことがあるそうですよ」
夕方、愛し子にそう言われて我は首をかしげた。
『はて、あれに見られたことがあっただろうか』
『たまたま波長があったんじゃないのか?』
首をかしげる我に白羽が言う。白羽はよくわかっていない愛し子に丁寧に説明していた。
 愛し子はここにきて、我を見るまで人ならざるものを見たことはなかったと言った。白羽が言うように確かに相性がよかったのだろう。これからもっと色々見えるようになるだろうと言う白羽にあの子は「それは嬉しくないなあ」と言ったいた。
『そなたは我が守る。そなたを害するものは我が許さない。外では白羽が守る。心配するな』
そう言うとあの子は「それはそれで申し訳ない」と言っていた。

 その日は雨が降っていた。いつものように愛し子と一緒に神社にきた白羽の様子がおかしかった。不機嫌というよりは何かを警戒している。いつもならあの子が鳥居をくぐるとそばを離れるのに、その日に限って離れずにそばにいた。
『静華、おかしな奴が現れたぞ』
やっと戻ってきた白羽が険しい表情で言う。その言葉に我の表情も険しくなった。
『例の奴か?』
『わからん。似たような気配ではあるが、確信が持てん。とりあえず、今日は境内から出ないようにあの子には言っておいた』
『そうか』
ひとまず何もなかったことに安堵したが、何もできないことが歯痒かった。我の感情の変化に宮司も気づいたようで、愛し子にも宮司が心配していたと言われてしまった。
『私があげた羽根は持っているかい?』
 尋ねる白羽に愛し子が白銀の羽根を取り出す。それは白羽の羽根。白羽の羽根には守護の力があった。
『我も守護の力を与えておこう』
そう言って髪を1本引き抜き愛し子の手首に巻く。巻かれた髪はすぐに見えなくなった。
 白羽が愛し子を家に送り届けに行くと、我は境内によく集まる鳥たちに声をかけた。
『おかしなものがうろついているようだ。気をつけるがいい。何かあったら教えてくれ』
鳥たちに注意喚起をし、おかしなものを見聞きしたらすぐに知らせるよう伝える。鳥たちは口々に囀ずると飛んで行った。

 それからしばらくは何事もなく過ぎていった。あの子がここで働くようになって1年経つとかで、宮司に贈り物をしていた。
 このまま穏やかに、何事もなくすぎればいいとの我の思いは、愛し子が拐われるという最悪の結果で崩れ去ることになった。
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