ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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永遠に

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 そのまま二人は一つのベッドでそのまま眠ってしまった。
 そっと扉を開いてみたオリヴァーとロスウェルがのぞき見した。

「ダメだってのに・・・。」
「・・・・・・・。」

 オリヴァーは苦い顔をしたが、ロスウェルがその様子をじっと見つめて黙っている。

 まだ・・・月の輝きが衰えない。


 胸騒ぎは止まらない。結婚式は無事に終わるだろうか。
 それだけが事情を知らないロスウェルは不安に感じていた。



「仕方ない・・・神殿には私から伝えておこう・・・はぁ・・・・。」
 本来男女が同じ部屋で過ごすことを許されない神殿。

 泣き腫らした頬で二人は気絶したように寄り添い抱きしめあいながら眠っている。

「陛下、私は明日に備えて準備を始めます。」
「あ?あぁ、水晶板のことか?」
「まぁそんなところです。では私はこれで。陛下も早くお休みください。明日に響きます。」
「あぁ・・・そうさせてもらう。二人は大丈夫そうだから。」

 事情を知らないオリヴァーは微笑んだ。
 少し引き攣った笑顔で軽く頭を下げるとロスウェルはパチンと指を鳴らした。

 ロスウェルは神殿の一つの部屋に転移した。そこに続けてハリーもやってきた。

「ロスウェル様」
「ああ・・・ハリー・・・。お前、迂闊なその口を慎めよ」
「申し訳ありませんでした・・・。あまりにも・・・・。」

「言いたいことは分かっている。だが、二人の前で他人がその名を口にするな。」

「・・・・はい・・・・。」
「ここは、アレクシス神の神殿だ。・・・・きっと、何もないと思うのだが・・・。」
「お二人には悲しい月が付き纏っています。俺は・・・鳥肌が立って仕方ありません・・・。」
「・・・・・・・。」

 ハリーの言いたいことはよくわかる。
 自分も胸騒ぎが止まらない。このまま何も無ければいい。

 結婚式が無事に終わり、二人を城へ転移させそのまま盛大な披露宴が執り行われる。

 リリィベルのアンクレットが辛うじてまだ効力が残っている。


 危うく塵のように消えてしまうところだったアンクレット。
 神の力は想像を絶するものだった。


 アレクシス神は・・・・二人をどうしたいのだろう・・・・。


 テオドールから流れる悲しみは、リリィベルの身体を燃やす勢いだった。



 2人は・・・・一体なんなのだ・・・・。


 アキラとレイラ。



 どんな因果で、この世界に生まれ出会いこうして結婚式を目の前にこんなに不気味なのだろう。



「・・・・水晶板の準備は出来ている。後は・・・・。」


 出来る限りの力で、2人を守る。


 そう思えてならない。






 絶対に、守らなければならない。と・・・・そう思うのだ・・・・。



 朝陽が昇り、リリィベルの部屋にカタリナが訪れた。
 目の前には皇太子とリリィベルが眠っている。
 慌てて頭を下げて二人から目を背けた。


 だが、結婚式の準備を始めなければならない。
 オロオロとし、一旦部屋を出た。

「カタリナ、どうした?」
 部屋の前に控えていたカールが不思議そうに声をかけた。


「殿下がいらっしゃるなら教えてくださいませっ・・・。」
 顔を真っ赤にしてカタリナはカールにそう言った。
「あぁ、すまない。ウトウトしていた。ははっ・・・。」

 寝惚けて皇太子が一緒にいることを忘れていた。
 するとそこへイーノクが駆け寄りカールの頭をペシンっと叩いた。

「この馬鹿者!少しの交代中でも任務を出来んのか!?」
「申し訳ありません。まさか真っ最中だなんて、神殿ですよ?」

「そんな事は申していませんっ!!殿下とお二人で眠っておいでなだけですっ!!」
 顔を真っ赤にしてカタリナは声を荒げた。


 呆れたイーノクが、その二人の居る扉をコンコンと叩いた。
「皇太子殿下、リリィベル様、起床のお時間で御座います。」

 扉の外から声をかける。

 部屋の中で、テオドールが、うっすらと瞼を開いた。
「・・・・やべ・・・もう朝か・・・・・・。」

 目をこすり、テオドールは自身の腕の中にいるリリィベルを見下ろした。
 その天使の寝顔に微笑み、その頬を撫でた。

「リリィ・・・・起きる時間だ・・・。」

 2人が眠ったのは時間は数時間。結婚式の前なのにコンディションは悪い。
 テオドールの声に、ぼんやりと目を覚ましたリリィベルはテオドールの顔を見て微笑んだ。

「おはようございます・・・。テオ・・・・・。」

「おはよう・・・俺の花嫁・・・・。」


 リリィベルの前髪をそっと撫で掻き上げて、その額に口付けた。

 それを受けたリリィベルは心底幸せだった。


 痛む程の悲しい礼蘭を自覚し、魂と身体が溶け合う。

 礼蘭だった自分が喜んでいるのがわかる。
 同じ魂、同じ気持ち・・・。同じ愛・・・・。




 運命の番(つがい)




 これが、望んだ未来・・・・。叶わなかった未来・・・・。


 待ち望んだ未来・・・・。



 これからも・・・ずっと・・・・そばに居られる未来・・・・・。



 もう、あなた1人を残して、死んだりしない‥‥‥。



 この沸き上がる悲しみ、愛しさ。


 私は礼蘭、そして、私はリリィベル‥‥。




 この世界で暁と、テオドールと永遠の愛を誓う。



 あなたを置いて、どこにも行かない‥‥。


 絶対に‥‥この思いは変わらない。
 どこに居たとしても‥。



 私達の運命の愛は、続いていく‥‥。



 リリィベルは、テオドールの手を握りしめた。
 それに気が付きテオドールは柔らかく微笑んだ。

「どうした?」


「いいえ‥‥。ただ、あなたに触れたくて‥‥」
 そう言うと、テオドールは起こした身体をリリィベルに寄せ、顔を近づけた。

「リリィ、やっとこの日を迎える事ができた‥。
 何も心配いらない‥‥。大丈夫だ。


 絶対に‥‥


 今度こそ、永遠にお前と一緒だ‥‥。」


 手の甲に口付けて、その思いを伝える。
 リリィベルは、その仕草に微笑んだ。


「はい‥‥‥。あなたと、永遠に‥‥‥」




 この手は、永遠に離さない。


 この愛を、永遠に離さない。



 この世界は、式を終えると夫婦となる。
 待ち遠しかったこの日を、笑って過ごしたい‥。




 《‥‥‥‥‥ふっ‥‥‥‥‥》

 その繋がれた手と、微笑み合う2人を暗い闇の中で見ている人物がいた。

 その顔はなんとも呆れた様な笑みだった。


 《時を越え‥‥‥悲しみを超えて‥‥‥それでも其方らは実に、‥幸せそうだな。》


 そう口にしたのはアレクシスだ。



 前世から繋いだ運命。尽きる事のない愛情。


 《ふっ、まったくあの女は大したものだ。

 そして、彼等も我の力を感じて警戒しておるな。

 ふふふふっ‥‥‥面白い。私は、何もする気は無いのだが。



 まぁ‥‥‥愛は刺激がないとな?》





 時は流れ、結婚式が始まる。


 儀式殿の前、色鮮やかなブーケ。
 そして、洗練されたウェディングドレスにきめ細やかなレースで隠された美しい花嫁。


 花嫁は小さく息を吐き、その小さな唇で弧を描く。

 隠されたレースの中で潤んだ瞳が輝いていた。



 待ち望んだ未来、生まれる前から繋がれた運命の絆。


 扉が開かれるとピアノが鳴り始めた。




 父の腕に手を添えて、花嫁はその道を歩んでいく。
 集まった貴族たちの祝福の笑みに囲まれてその道を・・・。



 愛する人の彼の元へ‥‥‥‥。

 希望に満ちた未来へ‥‥‥。




 父の手に導かれ、その小さな手は愛する彼の手がとる。


「おいで、俺の妃‥‥‥。」

 美しい花婿の微笑みが迎えてくれた。




 神官サミュエルの前に2人が立つ。



 和やかな微笑みと、神々しいアレクシスのステンドグラスが、2人を美しく照らした。

「テオドール・アレキサンドライトは、リリィベル・ブラックウォールを皇太子妃に迎え、病める時も健やかなる時も、生涯愛し続ける事を誓いますか?」

 その言葉は本来の皇太子と皇太子妃の違いの言葉とは少し違う。

 帝国の未来を安寧へと導く言葉が添えられる予定であった。


 ハッとしたリリィベルは、隣でテオドールを見上げた。


 その自信に満ちた表情と、確固たる決意と愛を込めて、花婿は花嫁に向き合いその手の甲に唇を寄せた。

「はい。‥‥‥生涯、愛すると誓います。例え、何があっても‥‥‥。彼女だけを‥‥‥。」


 テオドールが、リリィベルを見つめた時、
 その瞳は潤んでいて、言い終えた時、

 一筋、涙がこぼれた。


 リリィベルと、サミュエルとアレクシスだけがそれを見つける。
 
 血の涙を流す程、願った未来。


 ぎゅっと目を閉じたテオドールの瞳から流れる涙。
 これはうれしい涙だった。

「テオ・・・っ・・・・・。」

 リリィベルは、テオドールの頬に手を当てた。

「っ・・・もうっ・・・離さないっ・・・・愛してるっ・・・


 愛してる・・・・っ・・・リリィっ・・・・」




 この気持ちをどう表現できるだろうか・・・・。
 湧き上がる気持ちが止まらなくて、涙になって溢れる。



 何度涙を流しただろう・・・。


 それでも、涙は尽きることはなく、魂が喜び泣き叫んでいる。



 サミュエルはその様子に驚きはしたが、その涙を見届け微笑んだ。

「リリィべル・ブラックウォール、病める時も健やかなる時も、生涯この者を愛すると誓いますか?」



 言いたかった・・・。



 ずっと・・・この想いを・・・・・。


 リリィベルは、共に涙を流した。そして、微笑んだ。

「はいっ・・・・生涯・・・あなただけをっ・・・・永遠に愛することを誓います・・・。」
「‥‥‥っ・・・ぅっ・・・・・。」


 リリィベルのその言葉に、テオドールはリリィベルの両手を包み自身の額に当てた。






 聞きたかった・・・。


 永遠に・・・・君と2人で幸せに暮らしていく、愛していく誓い・・・・・。



 叶わなかった。出来なかった。




 彼女が女神だったんじゃないかな‥‥‥‥


 俺の為に・・・守り、命を落とし・・・・。


 悲しむ俺のために・・・・自分の人生を消してまで、


 生まれ変わるまでずっと・・・・待っていた。



 そして生まれ変わっても尚、愛してくれた。






「愛してるっ・・・・リリィっ・・・・。」

「私も愛してます・・・っテオ・・・・っ・・・・。」








「では、誓いの口づけを・・・・・・。おや、この合図は不要でしたな。」

 サミュエルがにっこり笑った。





 たくさんの祝福に包まれて、二人は誓いの口づけを交わした。

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