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生涯の恋 4
しおりを挟む「おい・・・ロスウェル・・・」
「・・・・・」
夢の中を彷徨い続ける2人に寄り添うようにオリヴァー。ロスウェルとハリーが魔術を施し2人の時間はゆっくりと流れていく。
儀式殿のステンドグラスの下で倒れこんだ2人にロスウェルは汗を流した。
悲しい感情が2人から押し寄せてくる。痛くて、悲しくて飲み込まれてしまいそうだった。
「・・・・・陛下・・・・・」
「なんだ?」
焦り顔のオリヴァーにロスウェルは声をかけた。
「・・・・先ほどお伝えしましたよね・・・。お二人にはアレクシス神と縁があると・・・。」
「なぜだ?!皇太子のテオは分からんでもないが、リリィは初めてここに来ると言っていたんだぞ?」
「・・・・私は、これをお伝えしていいのか分からなかったのです・・・。
私たち魔術師、特にハリーは私と同じように感じている事でしょう・・・・。」
「なんだ?・・・・何があるっていうんだ。」
2人に集中しながらも、ロスウェルはこの痛い程の悲しみを少しずつ言葉に変えた。
「・・・アレクシス神は・・・月と星の象徴・・・。殿下とリリィベル様は・・・・
月と・・・星の・・・結びがあるんです・・・。」
「は・・・?」
オリヴァーは寝耳に水のその真実に怪訝な顔をした。
「殿下が・・・城に来てからずっと・・・私は月の力を感じていました・・・。
ハリーも幼い頃から・・・感じていた様です。私が口留めして・・・今日まで過ごしましたが・・・。
そして・・・リリィベル様は星の力・・・・まさにアレクシス神の力そのものです・・・。」
「テオはアレクシス神とどんな因果が・・?」
「・・・アレクシス神の言い伝えは存在します・・・。
白い宝石ムーンストーンは星の象徴、月を封印していると言われている。
そして黒い宝石がオニキス、月の象徴で、不幸を運ぶ・・・。
だから両腕にその宝石を持っているアレクシス様は星と月を司る神。
星が善の象徴で、月が悪の象徴とも言われている。
アレクシス様は夜の神。アレクシス神に嫌われたら黒い宝石に吸い込まれてしまう。」
「・・・・テオが月・・・?悪の象徴だというのか?」
「残念ながら・・・。けれど私は殿下を悪の象徴だと感じた事はありません。
ですが、リリィベル様が現れた時、私は彼女を星と感じた・・・・。
2人は夜空の月と星の象徴・・・。二人にはアレクシス神の力が宿っている・・・。」
「・・・・・・・・・。」
オリヴァーは言葉を無くし、テオドールとリリィベルを見つめた。
「・・・テオは・・・何の罪を犯したというのだ・・・・・」
「殿下自身が・・・・そうだとは限りません・・・・。」
「なんだそれは・・・・。」
「・・・・お二人には・・・きっと・・・・私たちの想像を超える縁があります・・・・。」
それが何かわからないから不気味なのだ。テオドールとリリィベルに一体なにがあるというのか。
黒髪の2人は誰かのか・・・。自分たちの知る2人なのか・・・。
「とにかく・・・・一秒でも早く目を覚ましていただかないと・・・・・」
リリィベルを守るアンクレットが、砂のように削れていく。
「神の力に抗うことは・・・・ですがっ・・・私は二人を守りたい・・・・っ必ず・・・・。」
どうか・・・・夢から目を覚ましてください・・・・。
貴方方の魂は・・・・この世界に、その体が存在し、魂はその身に宿るのです・・・・・。
貴方方を待つ人が・・・たくさんいるのです・・・・。
ロスウェルの願いは、2人に届くのだろうか・・・・。
XXXX年8月10日。暁の二度目の絶望の日が訪れた。
9日に礼蘭の命日を迎え、希望であふれていたはずの10日の日。
暁は、熱い日差しの中をぼーっと歩いていた。
日常生活に戻った暁は、1人で歩いている現実を、まだ受け入れられなった。
きっと、本来ならば、二人の間には子供が存在しこの日差しの中を三人で手をつないで歩いていた事だろう。
そんな想像をしている。悲しい毎日。
礼蘭の匂いは日に日に薄くなっていき・・・使っていた物をたくさん残しておいても、
どんどんと古びていく・・・。それでも片付ける事は出来ず何もかもがそのままだった。
礼蘭のお気に入りのピアス、メイク道具。かわいいエプロン。手づくりのレシピ本。全部が2人で揃えた家具。
2人で撮った写真。何もかもが主を無くし生気を無くしていく。
「・・・・・・・。」
空を見上げても・・・・下を向いても・・・・何もかもが変わらない現実。
何もかも・・・戻らなかった日常。
大切な未来・・・・。途切れた未来・・・・。
叶うはずのない未来。
どんなに嘆いても、礼蘭の居ない日常は嫌になるほど続く。
景色は何も変わらないのに、思い出がたくさんそこら中に転がっているのに・・・。
思い出の場所をたどれば、幼い自分たちが脳裏をよぎるのに・・・。
礼蘭はいない・・・・。
礼蘭の居なくなった日々は・・・・楽しいことなんか一つもなかった。
笑い方も忘れてしまった。
忘れる瞬間は一度もなく、いつも礼蘭が頭をよぎる。
縋りつきたい思い出、無くならない記憶。どれもこれも忘れることなんてない。
あぁ・・・・礼蘭の側に行きたい・・・・・・。
会いたくてたまらない・・・・。
愛してると言ったら・・・・笑ってキスを返してほしい・・・・。
礼蘭を抱きしめたい・・・キスをしたい・・・・。
会いたい・・・・・。
どうしたら・・・・会えるの・・・・・・・・。
幽霊でもいいから・・・・隣にいてほしい・・・・・。
礼蘭は、その手の類は嫌いだったけど・・・・。
礼蘭が幽霊なら、俺はつかんで離さないだろう・・・・・。
俺に憑りついて、離れないで・・・・。
なんでもいいから側にいて・・・・。
俺を一人にしないで・・・・・・・・・・・。
もう何度思ったかわからない・・・・。
俺も礼蘭の側に連れてって・・・・。
そんな暁の側を・・・・誰にも見えない星の光に包まれて、歩いていた。
その物悲しくも微笑みを浮かべ・・・暁の隣を・・・・。
少し大きな歩幅・・・。それでも隣を歩いていた頃の歩く速度で・・・・。
変わらないその習慣に・・・涙を浮かべながら・・・・。
「れい・・・・・。」
ぽつりと呟いた暁の、礼蘭を呼ぶ声が・・・・耳にちゃんと届く・・・・。
暁と、名を呼んで返していた。
私は・・・・ここにいるよ・・・・・。
いつも温かいご飯が用意されていた。
あれから、母の料理とコンビニ弁当に変わった。
特に味もわからなかった。
明日も明後日も、礼蘭が使った料理を食べる事はできない。
たとえ誰が同じレシピで作ったとしても、
きっと虚しいだろう。
なんて弱い心。なんて情けない自分。
死んだことも受け入れられないのに、礼蘭の骨箱を時折抱きしめる。
固いそんな温もりもないその木の箱を抱きしめた所で、
なんの慰めにもならない。ただ近くに行きたいだけ‥
子供が生まれたら、犬を飼おうと話していた。
愛情深い犬と子供が寄り添う動画を見て、礼蘭が言ってた。
叶えてあげたかった。
男の子でも、女の子でも、2人の血を引く家族を心待ちにしていた。
それも今は、どちらかもわからない。
ただ存在した事実がまた余計に涙を誘う。
叶うはずだった願いは、砕けていくばかりなのに
思わずにはいられない。
愛しい記憶も、悲しい記憶も入り混じる頭の中。
最高の笑顔と、繰り返し聞く映像の中の声‥‥。
「‥‥れい‥‥‥っ‥‥‥」
何度呼んでも返事は来ないけど、この口が開けば当たり前のように声になる。
溜まった涙は流れるし‥‥相変わらず礼蘭の笑顔を思い出したら会いたい。触れたい‥‥。
「耐えらんねぇよ‥‥っ‥‥‥この日はっ‥‥俺にとって大切な日なのにっ‥‥1人じゃちっともっ‥‥嬉しくないっ‥‥‥」
空に向かって話すのがいつの間にか増えた。
礼蘭は空に、星になっているのだろうか‥‥。
死んだら、空から見下ろしているんだろうか‥‥
それとも、もう忘れてしまった?
死んだらどうなるの?俺の事は‥‥‥?
見守ってるってよく言うけどほんとなの?
悲しくないの?寒くないの?
礼蘭のいるソコは‥‥‥どんな所だ?
俺には‥‥分からないよ‥‥
わからない。だって、こんなに受け入れられないって思ってるのに、礼蘭は居ないって事は分かってる‥‥。
礼蘭の居ない生活にこのままずっと?
まだこんなに悲しいよ‥‥慣れないよ‥‥。
全然、まだ、死んでしまいたいよ‥‥‥
でも死にきれないから‥‥何故だかいつも‥‥‥。
いつも俺は目を覚ます‥‥‥。
そんな日は決まって‥‥‥礼蘭が夢に現れる。
ああ、よかったと思って目が覚めると、
礼蘭は居なくて、朝から晩まで、嫌になる‥‥‥。
いつも一緒だったのに‥‥あんなに一緒だったのに、
居ない存在に、愛してるって言ってちゃんと届く?
俺は何度も言いたい。
まだ足りない。一生分の愛してるを、もっと言いたかった。
どんな瞬間も愛しかった。
別れが来るなんて、思わなかった。
礼蘭は自分の一部で、生きている意味だったから‥‥。
なぁ礼蘭‥‥‥。
俺と離れた気分はどうだ?
俺はとても、寂しいよ‥‥‥大人になっても、
礼蘭が居ないと、木の影に隠れて泣いてたあの頃の子供のように、毎日泣いてる。
情けないよな。
そんな俺に強さをくれたのは礼蘭なのに‥‥。
なんで、俺に弱さを残して逝っちゃったんだ‥‥‥。
俺は礼蘭が居ないと‥‥なにも残らないのに‥‥‥。
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