205 / 240
星が降ってきた
しおりを挟むアレキサンドライト帝国が平穏な毎日を取り戻し、ロスウェル・イーブスの爵位授与式が執り行われた。建国祭で明かされた魔術師の存在は貴族達の中で大きな衝撃が走ったが、これまでのいくつもの功績が述べられ、異義を唱える者は居なかった。
また、魔術師達は大公家となったが、帝国の政治に直接関わる事なく、皇族の盾であり、これまでと同様に皇族を支える存在であるとはっきりとした線引きをされたのだった。これまで皇族以外の前に姿を現す事が出来なかった4人も堂々と姿を出せる様になった。が、まだ一歩踏み出せないで居るのが現状だ。
そして、ポリセイオからきたレオンは、元々帝国にいた魔術師として同じく爵位授与の際同席した。後にテオドールから直々に皇族マナーを学び、3ヶ月経った頃レティーシャ女王が持ち直したポリセイオと帝国の今後の友好の証と不戦条約を結ぶ婚姻と表されポリセイオへと帰ることになった。
ハリーとレオンの関係は気まずいものだったが、穏やかなレオンの人柄はハリーの心をゆっくりと包み、ぎこちなさが減っていき普通とまではならずとも、ハリーはレオンを受入れた。そして、ポリセイオに発つ時には、女王とも会えるようにと、約束を交わしレオンはポリセイオに帰って行ったのだった。
時は5月に入り、結婚式が秒読みとなった。
テオドールは相変わらずリリィベルを溺愛し、2人は愛を育んだ。ポリセイオの事件から時が経ち、リリィベルも落ち着いたように見えていた。
妃教育を終えたリリィベルは、テオドールの執務の間は、刺繍や本を読むなど以外は、皇后と一緒にいる事が増え、いずれ皇后となる身として側で本格的に学んでいる。
夜はテオドールと過ごす毎日、婚約からのこれまでが嘘のような平穏な日々だった。
そして、結婚式まで1週間前になった。
2人の結婚式は帝国にある歴史あるアテル神殿で執り行われる。
あの身も心も浄化されてしまいそうな清らかな神殿。
神殿の見取り図を基に色とりどりの花とレースのカーテンヒラヒラと壁に施され2人を迎えるように奥から入場口へ続く。
そして、当日は大公であるロスウェルが施す魔術でとびきりの演出がされる事となっている。
どんな演出かは新郎新婦の2人には内緒だ。
胸をときめかせている皇后マーガレットはこの所とても上機嫌で笑顔が絶えない、
リリィベルの私室で、マーガレットとリリィベルはゆったりとティータイムを過ごしていた。
「リリィのウェディングドレスは本当に綺麗に仕上がって良かったわ。あんな素敵なドレスはないわね。」
鼻歌でも歌い出しそうなマーガレットをリリィベルはニコッと微笑んだ。
「これもお義母様のお力があってのことです。ティアラもお義母様自らデザイン画にしてくださって‥‥完成してみた時は、本当に思わずうっとりしてしまいました。お義母様はデザイナーとしての才能をお持ちですね。」
「ふふふ、ありがとう。貴方達の婚約が決まって、私ったらすぐに色々先走ってしまって、色んなティアラのデザイン画を見せてもらったのだけれど、どうにもしっくりこなくて‥‥。あなたが気に入ってくれてとても嬉しいわ。」
「愛するテオのお義母様が、花嫁になる私に作って下さった物を喜ばないはずありません。本当に素敵なティアラです。
それに合わせるネックレスもおかげですぐに決まりましたもの。」
「とうとうなのね!本当に、あなたが私の娘になるのね。」
マーガレットは、リリィベルの両手を包み心からの笑顔を浮かべた。
「本当に楽しみね!‥‥テオの事、宜しくお願いね。
あの子は、本当に私の宝物なの‥‥オリヴァー様とのかけがえのない子だもの。2人で幸せになってね‥‥。」
少し涙ぐんだマーガレットに、リリィベルは笑顔を返した。
「もちろんです。お義母様‥‥私はテオと‥出会うために‥‥この世に生まれたのです。」
その笑顔で隠した。ずっと続いていた。
時折訪れる頭の痛み。
テオドールといると和らいだ。落ち着く心に比例するように。
毎夜見る夢が、この痛みの原因だと知りながら‥‥。
テオドールには言えなかった。
分からなかったからだ。なぜなのか‥‥
ただの悪夢だ。
けれどこの痛みはきっと、治癒魔術では消えないだろう。
食事も出来た。日常生活に支障は無かった。
だが、ふと頭を過ぎると、ひどく頭が痛んだ。
そして、苦しかった‥‥。
まるで崖の淵に立たされたようなこの身体だった。
ポン‥と背を押されたら落ちてしまいそうな気分だった。
先日、夕食後の2人の時間にテオドールは尋ねた。
「リリィ、俺に何か言いたいことはないか?」
「‥‥え?」
「あのさ‥‥お前無理してないか?どこか体調は悪くないか?」
心配そうな暁色の瞳がリリィベルを見ていた。
「最近少し食事の量が減ったろ?」
「あぁ‥ウェディングドレスの為に少し野菜と果物が多くなっただけです。体型を崩す訳にはいきませんもの。」
ソファーで寄り添った体勢から、リリィベルはテオドールの首にぎゅっと腕を回した。
「他には‥‥?何か我慢してることはないのか?」
「なぜそう思われるのです?」
「なんつーか‥‥‥匂い?」
「匂い‥‥?」
「なんとなく?」
「‥‥‥ふふっ。心配し過ぎですよ。」
テオドールは、鋭い‥‥。私の些細な事だけで、異変に気づく。
例えば少し、髪を耳にかける仕草に人差し指でこめかみを押さえただけで‥‥。頭が痛いのかと聞かれた。
ほんの少し指の関節で押したけれど、正解だった。
ベッドで胸を優しく包んだ手で、跳ねた私の体を見ただけで、それは、擦れるだけで痛みが走った女特有のものだった。それでも彼はピタリと手を止めて痛かったか?と尋ねた。愛撫に反応した訳じゃないと気付くのだ。
最近食事が変わったのも、痛みで食欲が湧かないせいだった。
口で言っても、敵うはずがないから‥‥‥
彼の顔を胸に抱いて、そのまま時を流した。
彼をベッドに導いて、私はこの痛みから解放されたくて。
彼に包まれ、彼に触れられ、彼に揺らされているだけで痛みなんてどうでもよくなる‥‥。
真剣で、我慢している顔がたまらなく愛おしくて、
あなたも何か隠すように快感の中で我慢している顔を見ると、同じ気持ちなのかと錯覚する。
それをじっくり見られるように、はしたなく彼の上に乗り彼の顔を眺める。熱くて激しい彼から漏れる吐息。
私の腰を掴む熱い両手。
私が揺らす波に、彼が顔を歪めるの。
隠してもダメよ‥‥‥。
あなたと同じように、私も目の前に星がチラつく。
チカチカと、終わりに近づくごとに。
2人の目の前に、星が降ってくる‥‥‥‥。
揺れた身体で彼を見下ろして、濡れた髪を掻き上げた。
彼の眼差しに映る私は、今どんな顔をしている?
「苦しい‥‥‥?」
「‥‥っ‥‥あぁ‥‥‥。」
顔を歪ませて、彼は返事を返した。
彼の体に流れ落ちるこの髪でも、彼を刺激したい。
「痛く‥‥ない‥‥‥‥っ‥‥?」
「そんな訳っ‥‥‥、もう‥‥‥頭がっ‥おかしくなりそうだ‥‥っ‥‥‥。」
その言葉を聞いて、うっとり笑った。
苦しくない。
痛くない。
彼の言葉は魔法のようだ‥‥‥。
そう言われて、私も‥‥少しも痛くない。
彼と繋がるこの瞬間は、彼だけ全部。
私とあなたは、何もかも一緒よ‥‥‥‥。
「リリィっ‥‥‥‥。」
ほら、早くきて‥‥‥‥
私を‥‥この痛いほどの愛を受け止めて、
その唇で愛してると言って‥‥‥。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる