201 / 240
ありがとう
しおりを挟む
星と月煌めくその日の夜。いつもと同じ様にテオドールとリリィベルはベッドの中で包まった。
あの処刑場から戻ってから、リリィベルはテオドールの手をしばらく離さなかった。
夕食もほとんど喉を通らなかったのは、二人とも同じだ。
そしてオリヴァーも、マーガレットも同じだった。
もう何も脅威はないのに、その恐ろしい出来事が頭から離れることはなかった。
ロスウェルと言えば、城に帰ってからはずっと魔塔に引き籠っていた。
いつも賑やかなあの男が、口を閉ざしてしまった。
その事もオリヴァーにとっては由々しき事態だった。
大々的にテオドールが宣言した大公にするという事に、彼はどう思ったか。
だが、今は目の前にいるリリィベルの事がテオドールにはロスウェルの前に優先したい事だった。
二人が出会ってから、何度命の危機に晒された事か・・・。
初めは気丈に笑っていた彼女も、建国祭の出来事から今日の出来事で底知れぬ恐怖を感じたことだろう。
現に魔術はかけられ、存在を無くされるところだった。
寂しさ悲しさが癒えぬまま、愛するテオドールはポリセイオに行き数日離れることを余儀なくされた。
帰ってすぐ、元凶の処刑の前に呪ってでも殺したいという殺意。
明るく心優しいリリィベルにも限界がある。心はズタズタだ・・・・。
「・・・・・・・。」
ベッドの中で、テオドールがずっとリリィベルを抱きしめながら背や髪を撫でた。
再び出会ったこの世で、何度も殺されかけた。
きっと、皇太子という立場があるが故に、多くの嫉妬を買った。
けれど手放せない。解放してあげられることは出来ない。
それは、リリィベルも同じだからこそ、その体温に包まっているしか方法がなかった。
「・・・リリィ、まだ、落ち着かないか?・・。」
すでに深夜1時を回っていた。けれど、瞳を閉じてもリリィベルはとても体が強張ったまま。
テオドールの腕の中ならすぐにでも眠ることができた彼女は、今眠れずにいた。
「・・・ごめんなさい・・・・。」
「謝るな・・・安心してほしいんだ。俺は此処にいるし・・・もう何も恐れることはない・・・。」
「わかっています・・・・。わかっているんです・・・・。テオ・・・・。」
そういうと、きつくテオドールの体に身を摺り寄せる。
それを受け止めるように、テオドールも強く抱きしめ返す。
胸をえぐった大きな傷を埋めることは難しかった。
「・・・・何か・・・睡眠を促す香りのいいものを用意しようか?」
「そんなのっ・・・テオの匂いに適う訳ありません・・・。今ですら眠れずにいるのに・・・・。
ただ・・・そばにいてください・・・。」
「俺はいつも・・・お前のそばにいる・・・。心も・・・身体もだ・・・。」
「だから・・・どうか・・・このまま・・・・・。」
「・・・・・・愛してるよ・・・・・・・。」
トン・・・トン・・・と、テオドールはリリィベルの体を優しく一定のリズムで撫でた。
「・・・・はい・・・・私もです・・・・。」
「・・・・お前が居るだけで幸せだ・・・・。」
「私もです・・・・。」
その言葉を最後に、1時間時が過ぎた・・・。
テオドールは、リリィベルの鼓動と同じリズムでずっと体を優しく触れた。
それから、ふ・・・と体の力が抜けたのを感じたのは、3時を回る頃だった。
「・・・・・・・。」
その事を確認したテオドールは、安堵の息を吐いた。
リリィベルの眠りについた姿は天使のようで、愛おしそうにその頬を撫でた。
けれど心の中はぐるぐるとたった一言巡っていた。
ごめん・・・・
髪をサラッと撫でて、やっとの思いでテオドールは自身の恐怖に向き合った。
リリィベルが消えてしまうなんて事は、
本当なら耐えられる自信がない。
それでなくとも、前世の自分に暴言を吐きたい程後悔がある。
礼蘭のいない世界で、生きて‥‥寿命尽きてからこんなにも大切な人を覚えていない事に呆れ、怒り、嘆き、負の感情ばかりなのに‥。
この世界でも、リリィベルを守る事が出来なかったら‥‥。
本当は叫びだしたいほど、怖かった。
だから、今はもう‥‥‥。
リリィベルが眠ってから、一つの気配を感じた。
テオドールは、その事にふーっと息を吐いて身体をそっと起こした。
「明日じゃだめだったのか?」
「申し訳ありません‥‥‥。」
暖炉の火がユラユラと揺れる灯りの側に、ロスウェルが立っていた。
「やっと眠ったところなんだ。」
「はい‥‥起こさぬ様、私達の声は届かぬ様にしました‥。
お疲れの所、誠に申し訳ありません‥。
ですが、リリィベル様が眠ってからでなければ‥‥姿を晒すことも出来ませんでした。魔術師の私は恐怖に感じられるかもしれません‥。」
暖炉の灯だけで、ロスウェルの表情はあまり見えなかった。
だがらその言葉にテオドールは眉間に皺を寄せた。
「本気でそう思ってるなら、お前は見る目がないな。」
「いえ‥しかし、一度感じた恐怖は簡単に拭うことはできません‥‥。」
「それは同感だ‥。だがな、お前がそんな風にあんなのと一括りにする事に俺は納得できねぇぞ。」
「リリィベル様を‥‥。」
「いいか、お前達が居なかったらリリィはどうなっていた?
こうして無事に俺のそばに居る。お前は夢でも見てるのか?」
「ですがっ!‥‥リリィベル様を危険に晒した事実は消えません‥‥。」
「俺はお前に感謝してる。」
「やめてくださいっ!!」
ロスウェルが声を荒げた。それはとても悲しげな声色だった。
「‥‥‥‥私はっ‥‥‥‥。」
「お前は確かにこれまで失敗する事も無かっただろう。屈辱だよな?だがな、現にお前のおかげで俺はこうしてリリィを抱きしめられる。
それじゃ納得できないか?
確かに、初めの時、俺はお前を責めた。
けど、それを挽回したのも、あの女の魔術を破ったのもお前だ。他にそれができたのか?お前が居なけりゃ、俺には何まも出来る事なんかねぇんだよ。俺は魔術師でもなんでもねぇ‥。」
「俺だって、誰も頼らずに、惚れた女を守りたい。
それくらいの誇りと自信があった。でも俺じゃできない事がお前には出来る‥‥それじゃお前の心は納得出来ないのか?」
「‥‥大公にするなどと、どうかお考え直し下さい‥‥。」
「嫌だ。誰にもお前達を傷つけさせたくない。俺と父上の決定に逆らうのか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「もう‥‥終わっただろ‥‥‥それにこれはお前だけの事じゃない、レオンをポリセイオに返す為の口実でもある。
何者でもないレオンを、王婿としてポリセイオに返す事が出来なくなるだろ‥‥。」
ユラユラと、暖炉の灯がロスウェルを揺らす。
「‥‥‥例えどんなにお前が悔いていようと‥‥‥俺がどんなに無能だろうと‥‥‥お前達が居てくれたおかげで、皇族が存在していた。もう公になったお前達全員を守るには、この方法が適切だと思った。個人的な意見としてはお前に言える事は‥‥
ロスウェル‥‥。ありがとう‥‥‥。
俺の大切な人を‥‥守ってくれて‥‥‥‥。
お前が居てくれて‥‥ほんとによかった‥‥‥‥。」
「‥‥殿下っ‥‥」
テオドールの言葉にロスウェルはまたポタポタと涙をこぼした。
「リリィの恐怖は簡単には拭えない‥だが、お前までそんなんだったら、俺まで心が折れそうになる‥‥。
あの女は死んだ‥‥お前が片をつけてくれた‥‥
あの女が言った通り‥‥俺達の記憶からあの女が消えるのは時間がかかるだろう‥‥。
忌々しい事だがな‥‥。
だが、もう恐れる事は何もない‥‥。今の貴族達も信頼できる者達ばかりだ‥‥。少なくとも‥‥これ以上の事は無いはずだ‥‥命を狙われる事はないだろ‥‥‥。」
テオドールは、リリィベルの髪を撫でて悲しくも微笑んだ。
「‥‥俺達は‥‥もうすぐ夫婦になる‥‥。その時も、お前に見守っていて欲しい‥‥。この先もずっとだ‥‥。
俺の人生で‥‥お前は欠かせない人だ‥‥‥。
俺を迎えにきたのは、お前じゃ無いか‥‥‥。
今も変わらず‥‥お前は変なやつで、俺も変な皇太子で‥‥
笑って生きていけるだろ‥‥‥。
今はつらくても、時間が解決してくれる‥‥。
お前も、一緒に前を向いてて欲しいんだ。
俺達と同じ方向だ‥‥‥。もうそれで、終わろうぜ?」
そう言って疲れた顔ながら、ロスウェルを見て笑みを向けた。
「‥‥‥私はっ‥‥‥まだ‥‥‥あなた方のお役に立てますか‥‥?」
「なんだよ‥‥。言われないと自信ねぇのか?
随分らしくねぇな?酒でもひっかけてんのか?
俺は、これからもずっとお前を信じてるよ‥‥‥。
明日にでも‥‥また、血縁の様に契約しよう‥‥。
父上が、お前と繋がりが消えて寂しがってる‥。
もう長年家族の様だったお前がいねぇと、父上は落ちつかねぇんだよ。
な?‥‥‥‥もう泣くな‥‥‥。」
それはとても優しい声色で、ロスウェルは声を我慢しながら涙を流した。悔しくてそれでも、とても嬉しかった。
「ありがとう‥‥っ‥‥ございます‥‥っ‥‥ぅ‥‥」
らしくなくて、テオドールは涙ぐみながら笑みを浮かべた。
「泣いてんなよ。ほら、お前ももう休んでこいよ。
年が明けてから俺ら働き過ぎなんだよ。少し休もうぜ‥‥。」
「はい‥‥っ‥‥‥おやすみなさい‥‥。」
涙に濡れたロスウェルの顔は、吹っ切れた様に笑えた。
そんな顔を見て、テオドールも安心できた。
「俺ももう休むからなー‥‥とっととお前も寝ろよー‥‥。」
ゆっくりベッドに横になり、隣にある宝の首の下に腕を入れた。そして抱き寄せて少しホッとしながら瞳を閉じた。
あの処刑場から戻ってから、リリィベルはテオドールの手をしばらく離さなかった。
夕食もほとんど喉を通らなかったのは、二人とも同じだ。
そしてオリヴァーも、マーガレットも同じだった。
もう何も脅威はないのに、その恐ろしい出来事が頭から離れることはなかった。
ロスウェルと言えば、城に帰ってからはずっと魔塔に引き籠っていた。
いつも賑やかなあの男が、口を閉ざしてしまった。
その事もオリヴァーにとっては由々しき事態だった。
大々的にテオドールが宣言した大公にするという事に、彼はどう思ったか。
だが、今は目の前にいるリリィベルの事がテオドールにはロスウェルの前に優先したい事だった。
二人が出会ってから、何度命の危機に晒された事か・・・。
初めは気丈に笑っていた彼女も、建国祭の出来事から今日の出来事で底知れぬ恐怖を感じたことだろう。
現に魔術はかけられ、存在を無くされるところだった。
寂しさ悲しさが癒えぬまま、愛するテオドールはポリセイオに行き数日離れることを余儀なくされた。
帰ってすぐ、元凶の処刑の前に呪ってでも殺したいという殺意。
明るく心優しいリリィベルにも限界がある。心はズタズタだ・・・・。
「・・・・・・・。」
ベッドの中で、テオドールがずっとリリィベルを抱きしめながら背や髪を撫でた。
再び出会ったこの世で、何度も殺されかけた。
きっと、皇太子という立場があるが故に、多くの嫉妬を買った。
けれど手放せない。解放してあげられることは出来ない。
それは、リリィベルも同じだからこそ、その体温に包まっているしか方法がなかった。
「・・・リリィ、まだ、落ち着かないか?・・。」
すでに深夜1時を回っていた。けれど、瞳を閉じてもリリィベルはとても体が強張ったまま。
テオドールの腕の中ならすぐにでも眠ることができた彼女は、今眠れずにいた。
「・・・ごめんなさい・・・・。」
「謝るな・・・安心してほしいんだ。俺は此処にいるし・・・もう何も恐れることはない・・・。」
「わかっています・・・・。わかっているんです・・・・。テオ・・・・。」
そういうと、きつくテオドールの体に身を摺り寄せる。
それを受け止めるように、テオドールも強く抱きしめ返す。
胸をえぐった大きな傷を埋めることは難しかった。
「・・・・何か・・・睡眠を促す香りのいいものを用意しようか?」
「そんなのっ・・・テオの匂いに適う訳ありません・・・。今ですら眠れずにいるのに・・・・。
ただ・・・そばにいてください・・・。」
「俺はいつも・・・お前のそばにいる・・・。心も・・・身体もだ・・・。」
「だから・・・どうか・・・このまま・・・・・。」
「・・・・・・愛してるよ・・・・・・・。」
トン・・・トン・・・と、テオドールはリリィベルの体を優しく一定のリズムで撫でた。
「・・・・はい・・・・私もです・・・・。」
「・・・・お前が居るだけで幸せだ・・・・。」
「私もです・・・・。」
その言葉を最後に、1時間時が過ぎた・・・。
テオドールは、リリィベルの鼓動と同じリズムでずっと体を優しく触れた。
それから、ふ・・・と体の力が抜けたのを感じたのは、3時を回る頃だった。
「・・・・・・・。」
その事を確認したテオドールは、安堵の息を吐いた。
リリィベルの眠りについた姿は天使のようで、愛おしそうにその頬を撫でた。
けれど心の中はぐるぐるとたった一言巡っていた。
ごめん・・・・
髪をサラッと撫でて、やっとの思いでテオドールは自身の恐怖に向き合った。
リリィベルが消えてしまうなんて事は、
本当なら耐えられる自信がない。
それでなくとも、前世の自分に暴言を吐きたい程後悔がある。
礼蘭のいない世界で、生きて‥‥寿命尽きてからこんなにも大切な人を覚えていない事に呆れ、怒り、嘆き、負の感情ばかりなのに‥。
この世界でも、リリィベルを守る事が出来なかったら‥‥。
本当は叫びだしたいほど、怖かった。
だから、今はもう‥‥‥。
リリィベルが眠ってから、一つの気配を感じた。
テオドールは、その事にふーっと息を吐いて身体をそっと起こした。
「明日じゃだめだったのか?」
「申し訳ありません‥‥‥。」
暖炉の火がユラユラと揺れる灯りの側に、ロスウェルが立っていた。
「やっと眠ったところなんだ。」
「はい‥‥起こさぬ様、私達の声は届かぬ様にしました‥。
お疲れの所、誠に申し訳ありません‥。
ですが、リリィベル様が眠ってからでなければ‥‥姿を晒すことも出来ませんでした。魔術師の私は恐怖に感じられるかもしれません‥。」
暖炉の灯だけで、ロスウェルの表情はあまり見えなかった。
だがらその言葉にテオドールは眉間に皺を寄せた。
「本気でそう思ってるなら、お前は見る目がないな。」
「いえ‥しかし、一度感じた恐怖は簡単に拭うことはできません‥‥。」
「それは同感だ‥。だがな、お前がそんな風にあんなのと一括りにする事に俺は納得できねぇぞ。」
「リリィベル様を‥‥。」
「いいか、お前達が居なかったらリリィはどうなっていた?
こうして無事に俺のそばに居る。お前は夢でも見てるのか?」
「ですがっ!‥‥リリィベル様を危険に晒した事実は消えません‥‥。」
「俺はお前に感謝してる。」
「やめてくださいっ!!」
ロスウェルが声を荒げた。それはとても悲しげな声色だった。
「‥‥‥‥私はっ‥‥‥‥。」
「お前は確かにこれまで失敗する事も無かっただろう。屈辱だよな?だがな、現にお前のおかげで俺はこうしてリリィを抱きしめられる。
それじゃ納得できないか?
確かに、初めの時、俺はお前を責めた。
けど、それを挽回したのも、あの女の魔術を破ったのもお前だ。他にそれができたのか?お前が居なけりゃ、俺には何まも出来る事なんかねぇんだよ。俺は魔術師でもなんでもねぇ‥。」
「俺だって、誰も頼らずに、惚れた女を守りたい。
それくらいの誇りと自信があった。でも俺じゃできない事がお前には出来る‥‥それじゃお前の心は納得出来ないのか?」
「‥‥大公にするなどと、どうかお考え直し下さい‥‥。」
「嫌だ。誰にもお前達を傷つけさせたくない。俺と父上の決定に逆らうのか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「もう‥‥終わっただろ‥‥‥それにこれはお前だけの事じゃない、レオンをポリセイオに返す為の口実でもある。
何者でもないレオンを、王婿としてポリセイオに返す事が出来なくなるだろ‥‥。」
ユラユラと、暖炉の灯がロスウェルを揺らす。
「‥‥‥例えどんなにお前が悔いていようと‥‥‥俺がどんなに無能だろうと‥‥‥お前達が居てくれたおかげで、皇族が存在していた。もう公になったお前達全員を守るには、この方法が適切だと思った。個人的な意見としてはお前に言える事は‥‥
ロスウェル‥‥。ありがとう‥‥‥。
俺の大切な人を‥‥守ってくれて‥‥‥‥。
お前が居てくれて‥‥ほんとによかった‥‥‥‥。」
「‥‥殿下っ‥‥」
テオドールの言葉にロスウェルはまたポタポタと涙をこぼした。
「リリィの恐怖は簡単には拭えない‥だが、お前までそんなんだったら、俺まで心が折れそうになる‥‥。
あの女は死んだ‥‥お前が片をつけてくれた‥‥
あの女が言った通り‥‥俺達の記憶からあの女が消えるのは時間がかかるだろう‥‥。
忌々しい事だがな‥‥。
だが、もう恐れる事は何もない‥‥。今の貴族達も信頼できる者達ばかりだ‥‥。少なくとも‥‥これ以上の事は無いはずだ‥‥命を狙われる事はないだろ‥‥‥。」
テオドールは、リリィベルの髪を撫でて悲しくも微笑んだ。
「‥‥俺達は‥‥もうすぐ夫婦になる‥‥。その時も、お前に見守っていて欲しい‥‥。この先もずっとだ‥‥。
俺の人生で‥‥お前は欠かせない人だ‥‥‥。
俺を迎えにきたのは、お前じゃ無いか‥‥‥。
今も変わらず‥‥お前は変なやつで、俺も変な皇太子で‥‥
笑って生きていけるだろ‥‥‥。
今はつらくても、時間が解決してくれる‥‥。
お前も、一緒に前を向いてて欲しいんだ。
俺達と同じ方向だ‥‥‥。もうそれで、終わろうぜ?」
そう言って疲れた顔ながら、ロスウェルを見て笑みを向けた。
「‥‥‥私はっ‥‥‥まだ‥‥‥あなた方のお役に立てますか‥‥?」
「なんだよ‥‥。言われないと自信ねぇのか?
随分らしくねぇな?酒でもひっかけてんのか?
俺は、これからもずっとお前を信じてるよ‥‥‥。
明日にでも‥‥また、血縁の様に契約しよう‥‥。
父上が、お前と繋がりが消えて寂しがってる‥。
もう長年家族の様だったお前がいねぇと、父上は落ちつかねぇんだよ。
な?‥‥‥‥もう泣くな‥‥‥。」
それはとても優しい声色で、ロスウェルは声を我慢しながら涙を流した。悔しくてそれでも、とても嬉しかった。
「ありがとう‥‥っ‥‥ございます‥‥っ‥‥ぅ‥‥」
らしくなくて、テオドールは涙ぐみながら笑みを浮かべた。
「泣いてんなよ。ほら、お前ももう休んでこいよ。
年が明けてから俺ら働き過ぎなんだよ。少し休もうぜ‥‥。」
「はい‥‥っ‥‥‥おやすみなさい‥‥。」
涙に濡れたロスウェルの顔は、吹っ切れた様に笑えた。
そんな顔を見て、テオドールも安心できた。
「俺ももう休むからなー‥‥とっととお前も寝ろよー‥‥。」
ゆっくりベッドに横になり、隣にある宝の首の下に腕を入れた。そして抱き寄せて少しホッとしながら瞳を閉じた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる