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最後の願い
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「‥‥‥殿下は‥‥‥?」
ジメジメとした地下牢で、ライリーは‥乾き切った唇で呆然と呟いた。
先頭を切って最大限の魔術の力でハリーがライリーと向き合っていた。
投獄されてからすでに水も食事も与えられていなかった。
ポリセイオに行く前にロスウェルがかけた拘束魔術はまだ効力を発揮していた。
それでも、最高位の魔術師となったライリーの力はハリー達に抗っている。
「‥‥あなたがどんなに求めていようとも、殿下に届く事はありません‥‥。」
そのハリーの言葉に、ライリーはまた魔術封じの拘束具をぼんやり見ていた。
「‥‥‥‥ずるいわ‥‥‥。」
「少しもずるくありません。」
「あの女は‥‥殿下と共にいるくせに‥‥。」
「あなたがリリィベル様を羨もうとも、事実は変わりません。」
「‥‥見てよ‥‥カサカサになっちゃったわ‥‥。」
ジャランっと枷が音を立てる。ライリーは自分の体を見下ろした。
侯爵令嬢だった頃、念入りに手入れされていた肌はもうない。魔術師となって綺麗な色になった新しい髪もパサパサだった。
「‥‥‥そのまま逃げていれば、生きる道もあった事でしょう。この地に足を踏み入れ、リリィベル様を陥れようとした。あなたの死は確定されています。」
「‥‥‥あんな女が‥‥なんだって言うのよ‥‥。」
どんなに衰えようとも、リリィベルへの恨み言は減らなかった。その事にハリーは心底嫌悪している。
テオドールとリリィベルを探し回った時間。
テオドールの切なさを直に感じていたからこそ、ハリーにはとても腹立たしい事だった。
「殿下は2度と貴方の前に現れることはありません‥‥。」
ハリーの鋭い目はライリーには届かなかった。
その日、陽が暮れてテオドールとリリィベルは私室の暖炉の前に居た。1人寂しく座っていたロッキングチェアは、
いつもの様に2人で座る事ができて、2人は穏やかな時を過ごす事ができた。
テオドールは瞳を閉じて、ゆらゆら揺れながらリリィベルを離さなかった。もちろんリリィベルもそうだ。
「‥‥‥この椅子は‥‥やっぱ買って良かったなぁ‥‥。」
「‥‥ここに座って、テオの事‥ずっと考えていました‥‥。」
「そっか‥‥。俺もいつもお前を思ってた‥‥。」
ゆらりゆらりと、ゆっくり揺れる。
寝てしまいそうな程の安心感がリリィベルに与えられた。
「そう言えば‥‥‥陛下とロスウェル様と一緒だった方はどなたですか?」
「ああ‥‥あいつは、ポリセイオで捕えられていた魔術師だ‥‥名をレオンと言う‥‥レティーシャ王妃の宝だ‥。
頼み事と言うのは、あのレオンと言う者の心臓を見つけて、彼に返す事だった‥‥レオンは‥王妃になる前の‥レティーシャの夫だ‥‥。
国王は俺が今回の件で処刑してしまったから‥。
レオンは存在を知らされていないし、帝国の魔術師にする為に連れてきた‥。いずれ、王婿としてポリセイオに返すつもりだ。ポリセイオとは‥‥その婚姻を通じて同盟国となる‥。」
「では‥‥レティーシャ王妃は‥‥愛する人と一緒に居られるのですね‥。」
「俺達が受けた被害は大きい‥だが、彼等にも事情があった‥‥今は、理解している‥。同じ立場だとしたら‥‥
俺はお前の為に命も差し出すし‥‥縋ってでも、助けて欲しいと頼んだ事だろう‥‥結局、父上の判断は正しかった‥‥。」
テオドールの納得するしかない今に呆れた笑みが浮かんでいた。
「そのせいで、お前を城に置いていく事になってしまったが‥‥。」
リリィベルの手を握りしめて、テオドールはリリィベルの顔を覗き込んだ。
「‥‥でも、俺は帰ってきた‥‥安心して眠ろう‥‥。」
「はい‥‥テオがいれば‥私はそれだけでいいのです‥。」
「ああ、俺もだ‥‥。」
ゆらりゆらり‥‥暖かい暖炉の前、2人はうつらうつらし始めた。
だが、その夢見心地の時間は、扉をノックする音で途切れた。
「‥‥まったく‥‥皇太子も楽じゃないよな‥‥。」
愚痴をこぼして、扉を叩いた相手に軽い返事を返した。
扉を開けて入ってきたのは、皇帝オリヴァーだ。
「休んでるところすまないな。」
「そう思うくらいなら、明日にしてくださればいいのに‥‥。」
テオドールは瞳を閉じたまま、そこから動かなかった。
リリィベルだけが、少し気まずそうに少しテオドールから体を離した。
「あ、いいよ。リリィ、俺が私的な2人の部屋へきたのだから。」
「‥‥でも‥‥。ぅ‥‥。」
少し離した身体はまたテオドールの手によって引き寄せられる。
「だそうだ。俺も少し疲れてます‥‥。」
「ああ、分かってる‥。」
オリヴァーは、適当にソファーに座り話しを始めた。
「レオンの件だが、俺に判断して欲しい事があるとロスウェルから聞いたんだが?」
「ああ‥‥はい‥。今回の件でも、ポリセイオでも魔術師を公にしてしまいましたので‥‥。此度の件で活躍した事も、守る意味でも、自立の意味でも‥‥ポリセイオにレオンを王婿として送る意味でも、帝国の魔術師達に爵位を与えたいと思ったのです。
誰にも文句など言わせない‥‥その為の確固たる地位です‥。」
「なるほど‥‥‥。」
「居住するのは、この城だとしても彼等は私達の家族同然です‥‥けれど、他の貴族達にどう映るかわかりません。中途半端な爵位では意味がない。
ロスウェルに大公爵を授けたいと思います‥。
そうすれば、いずれ、レオンがポリセイオに行っても貴族達を納得させる事が出来るでしょう。」
「大公か‥‥。」
「我が帝国に、皇族と匹敵する権力者である。公にしても誰も彼等を攻撃出来ません。なにせ、大公ですから‥‥。
私達とは、魔術という契約の元敵対することもありません‥‥。ロスウェルを大公に‥‥魔術師達は大公家になる‥‥。皇族と彼等は切って離せるものではありません‥。
いずれ治療院も出来上がる‥‥。管理するのは大公です‥‥。
帝国民にも、受け入れて欲しいのです‥。
私達が信頼し、与えた大公と言う地位。
尊き存在であると‥‥。」
テオドールはその事を穏やかに話した。
一般的に皇族、王族の血族に与えられる大公の地位。
だが、最早彼等とは、特殊な血の繋がりがあるのもまた事実。
「そうか‥‥‥。」
オリヴァーは、ポカンとその話を受け止めた。
「彼等が生きやすくなる為なら、それくらいあった方がいいと思ったのです‥‥建国祭でも言いましたが、彼等は私達の庇護下にある‥‥ポリセイオ王国との繋がりを持つ事に疑念を持つ者も現れる事でしょう。なんせ‥我々が被害を受けた。だが、レオンという存在を我々にはポリセイオに返す目的があったとしても、貴族らには今後の牽制として、大公家になったレオンに価値が出来ると思いましたので‥‥‥。必要なら教育もします。彼はポリセイオの王婿になる‥‥。どうですか‥?父上‥‥。」
閉じていたテオドールの大きな瞳は未来を描く様に確固たる意志を宿していた。
「‥‥‥お前の意見はわかった‥‥。私も今回の件で、ロスウェルの力がいかに偉大であるか‥‥。彼らがいなければ私達は無力だ‥‥。納得できる話だな‥‥。」
「そう言ってもらえて‥良かったです‥‥。生活はこれまでと変わりません‥‥。ロスウェル達がここを離れることはないでしょうし‥‥。それに‥‥魔術師は‥‥。」
「ん‥?」
首を傾げたオリヴァーに、テオドールは目を向けた。
「魔術師は‥‥必ず定期的に現れます‥‥。魔術師を帝国で守ると当時の皇帝が決めた事は‥‥。必ず守られます‥‥。レオンと、レティーシャ王妃は‥‥帝国でも護らなければならないと、そう思っています‥‥。」
怪訝な顔をして、オリヴァーは前のめりになった。
「どう言う事?」
レオンとロスウェルから聞いた。魔術師の秘密‥
魔の森の秘密、これは正しく受け継がれていくべき事だ。
テオドールは、この事実を吉と出るか凶と出るか、まだ分からないものだと感じている。
大魔術師、大精霊‥‥‥この帝国との繋がり。
皇帝であるオリヴァーが当然知っていなければならない。
「父上、夕食の時にお話しします‥‥私だけが知っていいことではありません。魔術師、いや、魔の森について‥。」
ジャランッと手枷が音を立てる。
「殿下いるんじゃない!!!殿下を連れてきてよ!!!」
ライリーの目の前にロスウェルとレオンが立った時の事だった。
レオンは冷めた瞳をライリーに向けていた。
見れば見るほど、滑稽で哀れな女だった。
「レオンっ!!あんた私を王妃と2人で裏切ったのよね?!
最高位の魔術師が!!この帝国にこの髪色の魔術師がいて!!簡単に破られたじゃない!!!!」
レオンが現れた事で、ライリーの力がまた怒りで膨れ上がっていく。
ロスウェルはにっこり微笑んでライリーを見た。
「それは、私と言う生まれながらの魔術師が優秀だからですよ。罪人さん。ドラ、フルー、ご苦労だった。あとは私が代わるよ?ありがとう。」
そう言ってそばにいた彼らに声を掛ける。
ロスウェルが手の開いてギュッと手を握りしめるだけでライリーへの拘束は強まる。
「ぐふぁぁっ‥‥‥っ‥‥」
きつく身体を絞られる様な力が加えられ、ライリーの乾いた唇から血が吹き出した。
唇の端からポタポタと血が流れる。
その姿を見ても、ロスウェルはニヤリと笑みを浮かべた。
「私は‥‥あなたを決して楽に死なせません‥‥‥。」
魔術師達は、皆同じだ。テオドールとリリィベルに危害を加えたこの女と、守る事ができなかった自分達への怒り‥。
「‥‥‥‥‥君は言っていたね。命を賭けるって‥‥‥そして、命を賭けて魔術師になり、この国に来て魔術をかけたけど失敗した。
ただ、それだけだと思うよ?僕は君にできる限りの魔術を教えた。」
「私のせいだって言うの?!」
「成功するなんて、保証はしてないよ。君は確かに魔術師になれたけど、魔術は本来悪事を働く為にあるものじゃないんだ。」
「悪事っ?悪事ですって‥?!ふざけないでっ!!!
ぅっ‥‥‥ふざけんじゃないわよぉっ!!!
私はっ‥‥‥殿下を愛してるのよぉっ!!!」
ポロポロとライリーの瞳から涙こぼれた。
悔しい‥‥
みんなが否定する‥
私の愛を‥‥
レオンはライリーを見つめて、悲しげに口を開いた。
「本当に愛してるなら‥‥‥君は‥‥殿下の幸せを願い生きる事もできたはずだ‥‥。遠く離れても、好きな男の幸せを祈る事が君に出来たなら‥‥こんな惨めな思いはしなくて済んだ。
それにね‥‥君がどう足掻いても、殿下の相手は‥‥彼女しか居ないんだ。」
悲しみ、嘆きの涙を流すライリーを見つめながらレオンは思う。
他の誰も敵うはずのない。月と星の煌めき。
そんな神秘な力で覆われる2人を引き裂く術は、死しかあり得ない程、硬く結ばれた絆。
他の誰かが分かるはずもない‥‥。
「‥‥っ‥‥お願いよっ‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥。」
これ以上のない願い。
「殿下にっ‥‥‥一目だけでもっ‥‥‥っ‥‥‥」
汚れた姿、こんな姿を見せたい訳ではない。
けれど、最後にもう一度だけ‥‥。
ライリーの大粒の涙が、この冷たい牢の床を濡らす。
「もう一度っ‥‥会いたいのっ‥‥‥っ‥‥。」
この場にいるロスウェルが頼みの綱だった。
ロスウェルの顔は相変わらず口角が上がって微笑んだ姿だった。
「ダメです‥‥‥絶対‥‥‥私は、あなたに一つの希望もあげたくありません。」
ジメジメとした地下牢で、ライリーは‥乾き切った唇で呆然と呟いた。
先頭を切って最大限の魔術の力でハリーがライリーと向き合っていた。
投獄されてからすでに水も食事も与えられていなかった。
ポリセイオに行く前にロスウェルがかけた拘束魔術はまだ効力を発揮していた。
それでも、最高位の魔術師となったライリーの力はハリー達に抗っている。
「‥‥あなたがどんなに求めていようとも、殿下に届く事はありません‥‥。」
そのハリーの言葉に、ライリーはまた魔術封じの拘束具をぼんやり見ていた。
「‥‥‥‥ずるいわ‥‥‥。」
「少しもずるくありません。」
「あの女は‥‥殿下と共にいるくせに‥‥。」
「あなたがリリィベル様を羨もうとも、事実は変わりません。」
「‥‥見てよ‥‥カサカサになっちゃったわ‥‥。」
ジャランっと枷が音を立てる。ライリーは自分の体を見下ろした。
侯爵令嬢だった頃、念入りに手入れされていた肌はもうない。魔術師となって綺麗な色になった新しい髪もパサパサだった。
「‥‥‥そのまま逃げていれば、生きる道もあった事でしょう。この地に足を踏み入れ、リリィベル様を陥れようとした。あなたの死は確定されています。」
「‥‥‥あんな女が‥‥なんだって言うのよ‥‥。」
どんなに衰えようとも、リリィベルへの恨み言は減らなかった。その事にハリーは心底嫌悪している。
テオドールとリリィベルを探し回った時間。
テオドールの切なさを直に感じていたからこそ、ハリーにはとても腹立たしい事だった。
「殿下は2度と貴方の前に現れることはありません‥‥。」
ハリーの鋭い目はライリーには届かなかった。
その日、陽が暮れてテオドールとリリィベルは私室の暖炉の前に居た。1人寂しく座っていたロッキングチェアは、
いつもの様に2人で座る事ができて、2人は穏やかな時を過ごす事ができた。
テオドールは瞳を閉じて、ゆらゆら揺れながらリリィベルを離さなかった。もちろんリリィベルもそうだ。
「‥‥‥この椅子は‥‥やっぱ買って良かったなぁ‥‥。」
「‥‥ここに座って、テオの事‥ずっと考えていました‥‥。」
「そっか‥‥。俺もいつもお前を思ってた‥‥。」
ゆらりゆらりと、ゆっくり揺れる。
寝てしまいそうな程の安心感がリリィベルに与えられた。
「そう言えば‥‥‥陛下とロスウェル様と一緒だった方はどなたですか?」
「ああ‥‥あいつは、ポリセイオで捕えられていた魔術師だ‥‥名をレオンと言う‥‥レティーシャ王妃の宝だ‥。
頼み事と言うのは、あのレオンと言う者の心臓を見つけて、彼に返す事だった‥‥レオンは‥王妃になる前の‥レティーシャの夫だ‥‥。
国王は俺が今回の件で処刑してしまったから‥。
レオンは存在を知らされていないし、帝国の魔術師にする為に連れてきた‥。いずれ、王婿としてポリセイオに返すつもりだ。ポリセイオとは‥‥その婚姻を通じて同盟国となる‥。」
「では‥‥レティーシャ王妃は‥‥愛する人と一緒に居られるのですね‥。」
「俺達が受けた被害は大きい‥だが、彼等にも事情があった‥‥今は、理解している‥。同じ立場だとしたら‥‥
俺はお前の為に命も差し出すし‥‥縋ってでも、助けて欲しいと頼んだ事だろう‥‥結局、父上の判断は正しかった‥‥。」
テオドールの納得するしかない今に呆れた笑みが浮かんでいた。
「そのせいで、お前を城に置いていく事になってしまったが‥‥。」
リリィベルの手を握りしめて、テオドールはリリィベルの顔を覗き込んだ。
「‥‥でも、俺は帰ってきた‥‥安心して眠ろう‥‥。」
「はい‥‥テオがいれば‥私はそれだけでいいのです‥。」
「ああ、俺もだ‥‥。」
ゆらりゆらり‥‥暖かい暖炉の前、2人はうつらうつらし始めた。
だが、その夢見心地の時間は、扉をノックする音で途切れた。
「‥‥まったく‥‥皇太子も楽じゃないよな‥‥。」
愚痴をこぼして、扉を叩いた相手に軽い返事を返した。
扉を開けて入ってきたのは、皇帝オリヴァーだ。
「休んでるところすまないな。」
「そう思うくらいなら、明日にしてくださればいいのに‥‥。」
テオドールは瞳を閉じたまま、そこから動かなかった。
リリィベルだけが、少し気まずそうに少しテオドールから体を離した。
「あ、いいよ。リリィ、俺が私的な2人の部屋へきたのだから。」
「‥‥でも‥‥。ぅ‥‥。」
少し離した身体はまたテオドールの手によって引き寄せられる。
「だそうだ。俺も少し疲れてます‥‥。」
「ああ、分かってる‥。」
オリヴァーは、適当にソファーに座り話しを始めた。
「レオンの件だが、俺に判断して欲しい事があるとロスウェルから聞いたんだが?」
「ああ‥‥はい‥。今回の件でも、ポリセイオでも魔術師を公にしてしまいましたので‥‥。此度の件で活躍した事も、守る意味でも、自立の意味でも‥‥ポリセイオにレオンを王婿として送る意味でも、帝国の魔術師達に爵位を与えたいと思ったのです。
誰にも文句など言わせない‥‥その為の確固たる地位です‥。」
「なるほど‥‥‥。」
「居住するのは、この城だとしても彼等は私達の家族同然です‥‥けれど、他の貴族達にどう映るかわかりません。中途半端な爵位では意味がない。
ロスウェルに大公爵を授けたいと思います‥。
そうすれば、いずれ、レオンがポリセイオに行っても貴族達を納得させる事が出来るでしょう。」
「大公か‥‥。」
「我が帝国に、皇族と匹敵する権力者である。公にしても誰も彼等を攻撃出来ません。なにせ、大公ですから‥‥。
私達とは、魔術という契約の元敵対することもありません‥‥。ロスウェルを大公に‥‥魔術師達は大公家になる‥‥。皇族と彼等は切って離せるものではありません‥。
いずれ治療院も出来上がる‥‥。管理するのは大公です‥‥。
帝国民にも、受け入れて欲しいのです‥。
私達が信頼し、与えた大公と言う地位。
尊き存在であると‥‥。」
テオドールはその事を穏やかに話した。
一般的に皇族、王族の血族に与えられる大公の地位。
だが、最早彼等とは、特殊な血の繋がりがあるのもまた事実。
「そうか‥‥‥。」
オリヴァーは、ポカンとその話を受け止めた。
「彼等が生きやすくなる為なら、それくらいあった方がいいと思ったのです‥‥建国祭でも言いましたが、彼等は私達の庇護下にある‥‥ポリセイオ王国との繋がりを持つ事に疑念を持つ者も現れる事でしょう。なんせ‥我々が被害を受けた。だが、レオンという存在を我々にはポリセイオに返す目的があったとしても、貴族らには今後の牽制として、大公家になったレオンに価値が出来ると思いましたので‥‥‥。必要なら教育もします。彼はポリセイオの王婿になる‥‥。どうですか‥?父上‥‥。」
閉じていたテオドールの大きな瞳は未来を描く様に確固たる意志を宿していた。
「‥‥‥お前の意見はわかった‥‥。私も今回の件で、ロスウェルの力がいかに偉大であるか‥‥。彼らがいなければ私達は無力だ‥‥。納得できる話だな‥‥。」
「そう言ってもらえて‥良かったです‥‥。生活はこれまでと変わりません‥‥。ロスウェル達がここを離れることはないでしょうし‥‥。それに‥‥魔術師は‥‥。」
「ん‥?」
首を傾げたオリヴァーに、テオドールは目を向けた。
「魔術師は‥‥必ず定期的に現れます‥‥。魔術師を帝国で守ると当時の皇帝が決めた事は‥‥。必ず守られます‥‥。レオンと、レティーシャ王妃は‥‥帝国でも護らなければならないと、そう思っています‥‥。」
怪訝な顔をして、オリヴァーは前のめりになった。
「どう言う事?」
レオンとロスウェルから聞いた。魔術師の秘密‥
魔の森の秘密、これは正しく受け継がれていくべき事だ。
テオドールは、この事実を吉と出るか凶と出るか、まだ分からないものだと感じている。
大魔術師、大精霊‥‥‥この帝国との繋がり。
皇帝であるオリヴァーが当然知っていなければならない。
「父上、夕食の時にお話しします‥‥私だけが知っていいことではありません。魔術師、いや、魔の森について‥。」
ジャランッと手枷が音を立てる。
「殿下いるんじゃない!!!殿下を連れてきてよ!!!」
ライリーの目の前にロスウェルとレオンが立った時の事だった。
レオンは冷めた瞳をライリーに向けていた。
見れば見るほど、滑稽で哀れな女だった。
「レオンっ!!あんた私を王妃と2人で裏切ったのよね?!
最高位の魔術師が!!この帝国にこの髪色の魔術師がいて!!簡単に破られたじゃない!!!!」
レオンが現れた事で、ライリーの力がまた怒りで膨れ上がっていく。
ロスウェルはにっこり微笑んでライリーを見た。
「それは、私と言う生まれながらの魔術師が優秀だからですよ。罪人さん。ドラ、フルー、ご苦労だった。あとは私が代わるよ?ありがとう。」
そう言ってそばにいた彼らに声を掛ける。
ロスウェルが手の開いてギュッと手を握りしめるだけでライリーへの拘束は強まる。
「ぐふぁぁっ‥‥‥っ‥‥」
きつく身体を絞られる様な力が加えられ、ライリーの乾いた唇から血が吹き出した。
唇の端からポタポタと血が流れる。
その姿を見ても、ロスウェルはニヤリと笑みを浮かべた。
「私は‥‥あなたを決して楽に死なせません‥‥‥。」
魔術師達は、皆同じだ。テオドールとリリィベルに危害を加えたこの女と、守る事ができなかった自分達への怒り‥。
「‥‥‥‥‥君は言っていたね。命を賭けるって‥‥‥そして、命を賭けて魔術師になり、この国に来て魔術をかけたけど失敗した。
ただ、それだけだと思うよ?僕は君にできる限りの魔術を教えた。」
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「成功するなんて、保証はしてないよ。君は確かに魔術師になれたけど、魔術は本来悪事を働く為にあるものじゃないんだ。」
「悪事っ?悪事ですって‥?!ふざけないでっ!!!
ぅっ‥‥‥ふざけんじゃないわよぉっ!!!
私はっ‥‥‥殿下を愛してるのよぉっ!!!」
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悔しい‥‥
みんなが否定する‥
私の愛を‥‥
レオンはライリーを見つめて、悲しげに口を開いた。
「本当に愛してるなら‥‥‥君は‥‥殿下の幸せを願い生きる事もできたはずだ‥‥。遠く離れても、好きな男の幸せを祈る事が君に出来たなら‥‥こんな惨めな思いはしなくて済んだ。
それにね‥‥君がどう足掻いても、殿下の相手は‥‥彼女しか居ないんだ。」
悲しみ、嘆きの涙を流すライリーを見つめながらレオンは思う。
他の誰も敵うはずのない。月と星の煌めき。
そんな神秘な力で覆われる2人を引き裂く術は、死しかあり得ない程、硬く結ばれた絆。
他の誰かが分かるはずもない‥‥。
「‥‥っ‥‥お願いよっ‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥。」
これ以上のない願い。
「殿下にっ‥‥‥一目だけでもっ‥‥‥っ‥‥‥」
汚れた姿、こんな姿を見せたい訳ではない。
けれど、最後にもう一度だけ‥‥。
ライリーの大粒の涙が、この冷たい牢の床を濡らす。
「もう一度っ‥‥会いたいのっ‥‥‥っ‥‥。」
この場にいるロスウェルが頼みの綱だった。
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生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
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「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
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