190 / 240
繋いで、心 9
しおりを挟む「国民達よ‥‥‥今日、アルセン・ポリセイオ国王陛下が崩御しました。」
王城専用バルコニーから、国民達へそれは伝えられた。
訃報を知らせる国旗を掲げてから、バルコニーの下にはたくさんの国民達が集まっていた。
そこに立つレティーシャ王妃。
そして、後ろに控えた帝国の皇太子が目に入るため、
国民達は国王の崩御の知らせと共に動揺していた。
「先日迎えた、王国の王女、レリアーナ・ポリセイオが、
帝国アレキサンドライトにて罪を犯した‥‥。皇太子殿下自ら此処にいらっしゃる程、事は重要だ。
よって‥‥国王陛下の命で罪を償った‥。」
ざわめく声や悲鳴の様な声も混ざる。
王女の罪はなんだったのか、皇太子が自ら出向くほどとなると国民は震え上がる思いだ。
王妃とて、この後無事かどうかは分からない。
テオドールは静かに王妃よりも前に出て国民達を見下ろした。
「ポリセイオ王国の民達よ、我が名はテオドール・アレキサンドライト。王国の王女は、我が国で逃れることの出来ない罪を犯し、帝国の牢屋に居る。私は王女の罪を許すつもりはない。それに加担したモンターリュ公爵もそれに値する。
よって、国王の命と王女、公爵に罪を償ってもらう。
だが、私は‥‥この国を枯れ果てさせるつもりもない。
明日の暮らしが脅かされる事もない。そう皆に約束しよう。
ポリセイオは、帝国の監視下となる。
だが、王族が欠けている事に不安を覚える事だろう。
しかし、私はそんな事はさせない。王妃にはやってもらわねばならない事もある。王妃はこの国を誰よりも案じている。
安心して欲しい‥‥。私はそなたらを見捨てる事はない。」
シンと静まり返った国民達、テオドールはふと優しく笑みを浮かべた。
「これは、私の帝国に手を出したが故の処罰である。
みな、王妃を信じついて参られよ。」
スッと息を吸いテオドールは、告げた。
「ポリセイオ王国はこれからレティーシャ・ポリセイオを女王として据え、帝国に従ってもらう。」
ザワザワと国民達がどよめいた。
「それで、今回の事を収めよう。少ない時間だが国の情勢に関する資料を拝見した。‥‥王妃はそなたらの為に尽力している事がわかった。皆もそれは気付いている事だろう。
それは、賞賛に値する。この国は豊かである。
この国はきっと女王陛下の力の下、発展していく事だろう。
そして、今後は帝国ともより良い関係を築ける事だろう。」
その声と言葉には、威厳と確信が含まれていた。
その自信溢れる言葉に人々は巻き込まれてやがて歓声となっていく。
レティーシャ王妃は、テオドールの横顔を見て感じた。
まだ16歳の若き皇太子は、この事件を歴史的瞬間に変えたのだ。
提案された時は、何故それがうまく行くと思ったのか分からなかった。だが、こうして皇太子の声と言葉に国民達は安堵を覚え、女王となる自分を推す事に違和感を感じさせる事なく告げた。
後に知らされた、建国祭でのレリアーナの犯した出来事もこうしてことを収めたと聞いている。
噂に違わぬ皇太子だった。
国民への発表後、テオドールはロスウェルと共に地下牢へとすぐに移動した。女王となったレティーシャは王妃側の側近達とすぐに今後の為の国政会議が始まった。
薄暗く湿った地下牢で、国王の側近だった者達はテオドールを前にゴクリと唾を飲み込んだ。
「さて‥‥‥先ほど、私が国民達に提案した件は理解できたか?既に王妃の側近である貴族達は陛下の働きによって動き始めている。いかがかな?」
国王の側近であった貴族達は混乱し瞳が泳いでいる。
女王制度、帝国との関係性、全てに隙はない。
だが、レティーシャだけその様な処遇になっている事が不可解であった。
元々国王夫婦は仲が良くなかった。一方的にレティーシャが拒絶していた。要はモンターリュ公爵側の貴族の寄せ集めが国王の側近達だった。
モンターリュ公爵家の人間であるレティーシャが何故生きながらえ、自分達が捕えられているのか。それが解せない。
帝国で当主のライカンスも囚われている。
罰せられるべきはレティーシャではないのか?
魔術師である事を知っている者もいる。
怪しい魔術師が、公爵家に養女になり国母となった。
王女を作り出したのも王妃の怪しげな魔術のせいだ。
納得できるはずがない。
「わっ‥‥私はっ!!!皇太子殿下のお心に従います!!」
1人の国王付きのメイドが声を上げた。それはメイド長となっていた者だ。
「チィっ‥‥血迷った事を!!!」
反論したのはまたも国王の最側近の貴族だった。
「これからはっ‥‥王妃様に忠誠を誓いますっ‥‥
ですからっ‥‥‥此処から出してくださいっ‥‥‥。」
メイド長は頭を下げた。ブルブルと震えたそのメイド長に、テオドールはニヤリと笑った。
「そうか‥‥‥。意外だな‥‥‥。」
「王妃様のお側にお仕えしっ‥‥。」
「近付いて、害するつもりか?」
「えっ‥‥‥?」
テオドールの言葉にメイド長は顔を上げた。
テオドールは鋭い目でニヤリと笑いながら彼女を見ていた。
「お前がどのような者かは知っている。廃王の愛人だろ?」
「っ‥‥なっ‥‥‥なんの事‥‥‥。」
顔を青くしながらメイド長はテオドールを見つめた。
「その若さでメイド長。実に簡単な事だ。まぁ、愛人はそなただけではないが、お前は身体を武器に廃王の愛人となりその地位を手に入れた。‥‥‥そうだろ?調べはついている。
お前を解放すれば、それはやがて女王の身を危険に晒す事となる。
私の連れている魔術師は優秀でな?
お前の体についた廃王の汚らしい手垢が見えるようだ。
見たくはないが、その様な穢れは隠せない‥‥。
皆も、発言には気をつけろ?
お前は王妃の側には置けない。置けるわけがない。
私は、欲のある者の顔が分かってしまうんだ‥‥。
幼い頃から、そんなものばかり見てきたせいかなぁ?
お前達の中で、何人生き残れるだろうか‥‥‥。
うーん‥‥‥‥‥。困ったな‥‥‥。
お前達は皆必要がなさそうに見えるが‥‥‥。
我こそはと思う者は、居るだろうか?」
悪意なき困ったテオドールの顔に、そこに居る者達はなす術がなかった。
皆が王妃に処罰がない事に腹を立てている。
国王を拒絶するばかりだったレティーシャ。
そのくせ、国政だけは気に食わない意見ばかりしてくる。
澄ましたその顔、態度、魔術が使える気味悪さ‥‥。
世継ぎを作らずいた分際で、鬱陶しいとばかり思っていた。
それなのに、愛人をどんなに持とうとも私生児すら産まれやしない。
ポリセイオは王妃に呪われている‥‥。
そう思っていたばかりの寄せ集めが此処にいる。
心変わりを見せていたならば、気付く。
決意した人間特有の顔は、光り輝く。
「ま‥‥‥俺がいる時間に、少しでも心が動く事を祈っているよ‥‥。必要ないかもしれないが‥‥。
そなたらにも、純粋に守りたい者があれば‥‥‥。
また後程会おう。その時が最後の機会だ。」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる