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待ってくれない時
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「‥‥王妃に何を言われたのですか‥‥。」
「身の上話ではあるが、助ける価値のある人を救いたい‥。
そして、魔術師なくしては出来ない問題が目の前にある。
帝国が代々守ってきた魔術師だ。
ここで救えなければ、お前が立てた魔術師を守る為の考案も、安くなる。
お前をこの件から外すと言った、だが、
魔術師が絡む事だと知った。だから、表舞台に立ったお前が成し遂げて欲しい。」
「‥‥‥‥今リリィと離れる事がどれだけリリィを追い詰めるか分かっていってるんですか‥‥。」
「前にも言ったが、お前は皇太子で、リリィは皇太子妃になる。例えば、お前達に子ができても、もし戦争が起きればお前はリリィと子を残して戦地の最前線に立つ事だろう。
それを放棄するか?」
「そんな事はしません!ですが!傷付いている時くらい」
「お前達の気持ちとは関係なく事は進む。時間は待ってくれない。お前がすべての瞬間に必ずそばに居る事は出来ない。
私だって‥‥お前がこの世に産まれた瞬間は、どんなに胸を焦がそうとも、何年離れても会えやしなかった。
自分のやるべき事があった。」
「‥‥‥‥‥。」
テオドールは悔しげにギリっと奥歯を鳴らした。
俺達だけが、特別じゃない‥‥誰も知らない2人の傷。
伝えたところで分かるはずもない。
誰しも、皆、人に分かり得ない傷がある。
「レティーシャ王妃も‥‥苦しみ続けた傷がある。
救ってやれる力があるのなら、救いたい。」
「それが気に入らないんですよっ‥‥。俺達を傷付けておきながらっ‥。」
「それについて、謝罪をしている。事が解決したらポリセイオは帝国の監視下に入る。」
「国王は何故出てこないのですか。」
「‥‥レティーシャ王妃には、強い絆で結ばれた夫がいる。
その者の命を救いたい。王妃は王家に、権力に縛られた哀れな時間を過ごした。夫もそうだ。
大切な者の為に命を捨て、それを必死に守る。
これを機に救えるならば、それを知ったのならば、
助けたいと思うのは、当然だ。」
「父上は‥‥甘いですよ‥‥。」
「こんな私の言葉は聞きたくないか。」
オリヴァーの曇りない瞳が真っ直ぐにテオドールを見つめる。
「‥‥‥敵国を助けたいなんて‥‥その優しさで身を滅ぼさないで下さいよ‥‥。」
「私は、それでも‥‥その話を聞いて放っておきたくないんだ。その為のお前とロスウェルだ‥。」
テオドールはギュッと拳を握った。
「帝国が危機になり、国民と妃と子供を守る為に最前線に立つのと‥‥話は違います‥‥。」
「確かにそうかもしれない。」
「っ‥‥この座に未練はありませんが、皇族から勘当され侯爵令嬢のリリィと引き離されるくらいなら、私はその命令に従いましょう。父上は‥‥そうしてもいい程、王妃を救いたいのでしょう?」
「‥‥もてよ未練‥‥お前が居なかったら誰が私の跡を引き継ぐんだ。」
「父上がそう言ったのです。だから命令に従います。
リリィと離れる道があると言うなら、私はどんな事もします。」
くっきりと、溝が生まれた瞬間だった。
「テオ‥‥私はっ」
「父上はこの国の皇帝です。あなたにそう言われれば、
嫌でも従わなければならない。身の上を引き合いに出すなんて、今の私には、受け入れられない。ですが、引き受けましょう‥‥。それで、いいのですよね?」
「テオっ‥納得してないのは分かるが」
「そう言ったのは父上ではありませんかっ!」
初めて、テオドールはオリヴァーの言葉を素直に受け止められなかった。
「‥‥‥王妃の身の上など私には知ったことではない‥。
ですが、そうしろと言われたならそうするしかない私の立場とリリィを出して命令するなんて、卑怯です‥‥。」
「私はお前達がいつまでもそうして、殻に閉じこもってばかり居るのはよくな」
「そんな事は!‥‥私達の気持ちの問題ですっ‥‥。
その問題が解決したらいいのでしょ‥‥。
私が皇太子である以上、そうしなければならない。
そう言っているのですから‥‥。」
どこまでも、似た顔をした親子は眉間に皺を寄せて声を張り上げて口論した。
オリヴァーも自分の言葉で、溝が出来た事に後悔を感じている。
リリィベルと引き離そうかと、脅した事。
だが、それでもいつまでも、このままでいて欲しくない。
避けては通れない場所に2人は立っている。
あの日王妃と話をした時から、出来上がった溝だった。
「別に父上は悪くないです‥‥厚かましい王妃が許せないだけで、その上、父上にこんな事を言われ、私は戸惑うばかりです。リリィの傷も癒えぬままおいていかねばならない。
それだけが、不安で気掛かりで‥気が狂いそうになる‥‥。
いつ、私はここを立てばいいのですか。
リリィに伝えなければなりません‥。」
「‥明日、3国の王子達がここを立つ、その後すぐに
ロスウェルと出て欲しい。一刻を争う。
お前も、きっと‥分かってくれると信じている‥。」
オリヴァーは少し俯いてそう言った。
「明日っ‥‥‥はぁ‥‥‥分かりました。‥‥明日、見送りしなければならないので、失礼します。」
「ああ‥。下がっていい‥‥。」
オリヴァーは、テオドールを、見る事なく告げた。
テオドールは、重い足取りで私室へ戻った。
居ないことに気付かずにリリィベルは眠っていた。
寝る寸前まで縋りつき離れなかった。
今のこの瞬間にも、まるで悪夢を見ているかのような悲しげな寝顔はだった。
暗い中、一層その表情に胸が痛かった。
ポリセイオに行っている間、ずっとそんな顔で‥
リリィは眠れるだろうか‥‥。
不安で体を震わせるのではないか‥‥。
心配すればキリがなかった。
父の言う事を理解できなかった訳じゃない。
でも今は、そっとしておいて欲しかった。
リリィベルのそばに居ることを許して欲しかった。
例え、この事態が、自分達しか分からない恐怖そのものだとしても‥‥
赤の他人を救うことよりも、目の前の愛する人を守りたかった。
「‥‥‥また‥‥‥泣かせちまうんだろうな‥‥‥。」
俺は皇太子として、本当に無能だろう。
建国祭開幕と同時にその背を追うのだと思った父の背中。
けれど、今こんなにも、腹を立てている。
本当に、俺の心は、リリィ無くしては動かない。
自分勝手で愛に溺れた薄情な皇太子なんだろう。
「身の上話ではあるが、助ける価値のある人を救いたい‥。
そして、魔術師なくしては出来ない問題が目の前にある。
帝国が代々守ってきた魔術師だ。
ここで救えなければ、お前が立てた魔術師を守る為の考案も、安くなる。
お前をこの件から外すと言った、だが、
魔術師が絡む事だと知った。だから、表舞台に立ったお前が成し遂げて欲しい。」
「‥‥‥‥今リリィと離れる事がどれだけリリィを追い詰めるか分かっていってるんですか‥‥。」
「前にも言ったが、お前は皇太子で、リリィは皇太子妃になる。例えば、お前達に子ができても、もし戦争が起きればお前はリリィと子を残して戦地の最前線に立つ事だろう。
それを放棄するか?」
「そんな事はしません!ですが!傷付いている時くらい」
「お前達の気持ちとは関係なく事は進む。時間は待ってくれない。お前がすべての瞬間に必ずそばに居る事は出来ない。
私だって‥‥お前がこの世に産まれた瞬間は、どんなに胸を焦がそうとも、何年離れても会えやしなかった。
自分のやるべき事があった。」
「‥‥‥‥‥。」
テオドールは悔しげにギリっと奥歯を鳴らした。
俺達だけが、特別じゃない‥‥誰も知らない2人の傷。
伝えたところで分かるはずもない。
誰しも、皆、人に分かり得ない傷がある。
「レティーシャ王妃も‥‥苦しみ続けた傷がある。
救ってやれる力があるのなら、救いたい。」
「それが気に入らないんですよっ‥‥。俺達を傷付けておきながらっ‥。」
「それについて、謝罪をしている。事が解決したらポリセイオは帝国の監視下に入る。」
「国王は何故出てこないのですか。」
「‥‥レティーシャ王妃には、強い絆で結ばれた夫がいる。
その者の命を救いたい。王妃は王家に、権力に縛られた哀れな時間を過ごした。夫もそうだ。
大切な者の為に命を捨て、それを必死に守る。
これを機に救えるならば、それを知ったのならば、
助けたいと思うのは、当然だ。」
「父上は‥‥甘いですよ‥‥。」
「こんな私の言葉は聞きたくないか。」
オリヴァーの曇りない瞳が真っ直ぐにテオドールを見つめる。
「‥‥‥敵国を助けたいなんて‥‥その優しさで身を滅ぼさないで下さいよ‥‥。」
「私は、それでも‥‥その話を聞いて放っておきたくないんだ。その為のお前とロスウェルだ‥。」
テオドールはギュッと拳を握った。
「帝国が危機になり、国民と妃と子供を守る為に最前線に立つのと‥‥話は違います‥‥。」
「確かにそうかもしれない。」
「っ‥‥この座に未練はありませんが、皇族から勘当され侯爵令嬢のリリィと引き離されるくらいなら、私はその命令に従いましょう。父上は‥‥そうしてもいい程、王妃を救いたいのでしょう?」
「‥‥もてよ未練‥‥お前が居なかったら誰が私の跡を引き継ぐんだ。」
「父上がそう言ったのです。だから命令に従います。
リリィと離れる道があると言うなら、私はどんな事もします。」
くっきりと、溝が生まれた瞬間だった。
「テオ‥‥私はっ」
「父上はこの国の皇帝です。あなたにそう言われれば、
嫌でも従わなければならない。身の上を引き合いに出すなんて、今の私には、受け入れられない。ですが、引き受けましょう‥‥。それで、いいのですよね?」
「テオっ‥納得してないのは分かるが」
「そう言ったのは父上ではありませんかっ!」
初めて、テオドールはオリヴァーの言葉を素直に受け止められなかった。
「‥‥‥王妃の身の上など私には知ったことではない‥。
ですが、そうしろと言われたならそうするしかない私の立場とリリィを出して命令するなんて、卑怯です‥‥。」
「私はお前達がいつまでもそうして、殻に閉じこもってばかり居るのはよくな」
「そんな事は!‥‥私達の気持ちの問題ですっ‥‥。
その問題が解決したらいいのでしょ‥‥。
私が皇太子である以上、そうしなければならない。
そう言っているのですから‥‥。」
どこまでも、似た顔をした親子は眉間に皺を寄せて声を張り上げて口論した。
オリヴァーも自分の言葉で、溝が出来た事に後悔を感じている。
リリィベルと引き離そうかと、脅した事。
だが、それでもいつまでも、このままでいて欲しくない。
避けては通れない場所に2人は立っている。
あの日王妃と話をした時から、出来上がった溝だった。
「別に父上は悪くないです‥‥厚かましい王妃が許せないだけで、その上、父上にこんな事を言われ、私は戸惑うばかりです。リリィの傷も癒えぬままおいていかねばならない。
それだけが、不安で気掛かりで‥気が狂いそうになる‥‥。
いつ、私はここを立てばいいのですか。
リリィに伝えなければなりません‥。」
「‥明日、3国の王子達がここを立つ、その後すぐに
ロスウェルと出て欲しい。一刻を争う。
お前も、きっと‥分かってくれると信じている‥。」
オリヴァーは少し俯いてそう言った。
「明日っ‥‥‥はぁ‥‥‥分かりました。‥‥明日、見送りしなければならないので、失礼します。」
「ああ‥。下がっていい‥‥。」
オリヴァーは、テオドールを、見る事なく告げた。
テオドールは、重い足取りで私室へ戻った。
居ないことに気付かずにリリィベルは眠っていた。
寝る寸前まで縋りつき離れなかった。
今のこの瞬間にも、まるで悪夢を見ているかのような悲しげな寝顔はだった。
暗い中、一層その表情に胸が痛かった。
ポリセイオに行っている間、ずっとそんな顔で‥
リリィは眠れるだろうか‥‥。
不安で体を震わせるのではないか‥‥。
心配すればキリがなかった。
父の言う事を理解できなかった訳じゃない。
でも今は、そっとしておいて欲しかった。
リリィベルのそばに居ることを許して欲しかった。
例え、この事態が、自分達しか分からない恐怖そのものだとしても‥‥
赤の他人を救うことよりも、目の前の愛する人を守りたかった。
「‥‥‥また‥‥‥泣かせちまうんだろうな‥‥‥。」
俺は皇太子として、本当に無能だろう。
建国祭開幕と同時にその背を追うのだと思った父の背中。
けれど、今こんなにも、腹を立てている。
本当に、俺の心は、リリィ無くしては動かない。
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