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みんな守りたいものがある

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 ポリセイオ王国、レティーシャ王妃の突然の申し出により、
 その場を離れられないロスウェルに代わりハリーとオリヴァーが場所を執務室に移し、引き続き王妃と対談をする事となった。

「お呼びですか?陛下。」
 執務室にテオドールがやってきた。そばにはリリィベルもいる。

「ああ、テオ、リリィ‥ポリセイオ王国と繋がっている。
 レティーシャ王妃から申し入れがあったんだ。

 お前も聞いて欲しい。」

「申し入れだと?こっちは抗議してるんだぞ!
 どの面下げて申し入れできんだ!!」

 テオドールがすごい剣幕で怒鳴った。
 リリィベルはテオドールの腕を掴んで慌てた。
「落ち着けテオ!あっちは全面的に我々の抗議を受け入れ謝罪している。非を全て認めた上での話だ。」

「当たり前だ!!こちらの落ち度と言えばあの女を逃した事だ!だが魔術師にして送ってきた事に対してなんの思惑があっての事です?!」

「テオどうか落ち着いてっ‥‥。」
「リリィの気持ちをどう謝罪すると言うのですか!
 ごめんで済む様な話ではない!!!」


 オリヴァーも重くそれを受け入れる。
 リリィベルも複雑だった。だが、テオドールの怒りはそれ以上だ。


 すると、水晶玉から声が届いた。


「テオドール皇太子殿下。‥‥お気持ちはごもっともで御座います。‥‥‥なんの申し開きもできません‥‥。」

 テオドールが、その時初めて水晶玉も見た。

「あなたがポリセイオの王妃か‥‥。」
 鋭く目を細めてレティーシャ王妃を睨みつけた。

「お初にお目にかか‥」
「そんな事はどうでもいい。王妃。
 俺の質問に答えろ。‥‥‥レティーシャ王妃。

 その髪色、あなたは魔術師か。」

「はい‥‥‥。」

 怒りを受け止め申し訳なさげに瞳を閉じた。

「あなたは、ライリー・ヘイドンと知って受け入れたのか。」

「その名も存じております‥‥。魔術師になる経緯についても、私は受け入れました。」

 テオドールの怒りはぶわっと湧き立つ。
 怒りで目を見開き開いた口から怒りが溢れ出す。、

「帝国の皇太子である俺の婚約者が成り替わるのを知った上で魔術師にしてっ‥‥この国に王女として送り込んだのか!!!!!」

「‥‥‥‥‥‥。」


「では‥‥本当に‥‥‥。」
 リリィベルも、さすがに動揺を隠せなかった。

 あの恐ろしい思いはすべて‥‥。


 リリィベルの指先が震えたのを感じたテオドールは、
 すぐにリリィベルを抱きしめた。

「リリィ‥‥大丈夫だ。俺がいるから‥‥。」
「っ‥‥‥だい‥‥じょうぶ‥‥‥です‥‥‥。」


 ガタガタと震えたリリィベルを強く抱きしめる。


 水晶玉の中で、レティーシャ王妃がそれを目の当たりにする。


 やはり、ライリー・ヘイドンの願いは叶う事はない。


「‥‥‥申し訳ございません‥‥‥。

 私は、ライリー・ヘイドンの思惑が失敗する事を願ってそちらに送りました‥‥。」


 オリヴァーはその言葉に反応した。
「それはどういう意味です?」

「あの様な悍ましいことの為に‥‥魔術は存在しません‥‥。
 ですか」


「俺は‥‥。」

 テオドールは、レティーシャ王妃の言葉を遮った。

「俺はリリィを忘れない。わからなくなるはずがない!


 ‥‥‥だが、王妃よ‥‥‥あなたには、それは結果論であり、
 確信があった訳じゃないだろう。違うか?

 願ってと言ったな‥‥失敗する小細工でも施していた訳ではあるまい?」

「‥‥たとえ結果論であろうとも、真の愛に勝るものがあるはずありません‥‥私はそう信じています。」

「お前の信じる気持ちが何になるんだ!!!
 ふざせた事ばっかり言ってんじゃねぇ!!!!!」

「‥‥‥おっしゃる通りですね‥‥‥私の根拠など何の慰めにはなりません。ですが‥‥現に計画は失敗し、帝国には最高位の魔術師がおりました。これは偶然ですか?


 私はそうは思いません‥‥。ですから、これも、運命で導きです。」


「っ‥‥勝手な事をっ‥‥‥。」
「心からお詫び申し上げます‥‥‥。私はライリー・ヘイドンの思惑を利用し、私の願いを少しでも叶えたかった。」

 テオドールは舌打ちした。


 誰も彼もが、自分勝手な願いを、人に押し付けてくる。
 テオドールは、唇を噛み締めた。

「俺達はっ‥‥なぜ巻き込まれなければならないんですっ‥‥‥。俺達はなんの関係もないっ‥‥‥。

 リリィを傷つけられっ‥‥いらぬ恐怖を抱かせてっ‥‥」

 ギュッと瞳を閉じた。リリィベルを抱き包み、
 誰にも盗られまいと必死で‥‥‥。

 この恐怖はいつ終わるのか‥‥‥。


「申し訳ございません‥‥。帝国の皇太子殿下と婚約者様に‥‥取り返しのつかない事を‥‥‥。」


 レティーシャ王妃、僅かな望みを失った思いだ。
 当然だ。水晶玉に映る2人は、2人の殻に閉じこもる様に抱きしめ合う。


「‥‥‥わかった。この件はテオドールは外す。

 テオドールにあなたの要望を受け入れる余地はありません。

 私が聞く。テオドール、リリィもう下がっていい。」
「‥‥‥‥。失礼します。」

 テオドールはリリィベルを抱き上げて早々に部屋を出た。




 オリヴァーはその背を見送り、レティーシャ王妃と向き合った。

「悪いが、テオドールとリリィベルの傷は深い。重く受け止めてほしい‥‥。」

「はい、本当に、心から謝罪致します。」
「それで、ライリー・ヘイドンの思惑は、テオドールを手に入れる為‥間違いないな。彼女は昔からテオドールを慕っていた。だが、何故ポリセイオで保護されたのだ。」


「ライカンスが、帝国のロバート・ヘイドンと交友があったそうです。私が知っているのは、その程度です。

 私はモンターリュ公爵家の人間となっていますから‥‥。
 王妃になったのも、私が公爵家の人間になったからです‥‥。」

「‥‥私達は‥‥この王国で、利用され続け‥‥私達はこの檻から出られない‥‥。」

「それは‥‥魔術師と関係があるのですか?」



 レティーシャは、悲しげに俯いていた。
 次第に瞳に涙が溜まってくる。


「私達は‥‥長年この城に留まり、魔術師を‥‥‥作り出す為に‥‥何人もの志願者を死なせました。


 ライリー・ヘイドンは初めて‥‥魔術師にする事ができました。」


「あなたは、最高位の魔術師ですよね。

 魔術師を作る理由はなんです‥?」



「それは‥‥‥。」

 レティーシャ王妃は、戸惑い瞳を震わせた。
 だが、言わなければここから抜け出せない理由があった。



「私と‥‥私と同じ魔術師の‥‥ここから抜け出すことの出来ないレオンを‥‥助け出したい‥‥。

 レオンの命は、ライカンス・モンターリュの手に握られていますっ‥‥この機を逃してはっ‥もう2度とレオンを救う事はできませんっ‥‥。」

 オリヴァーは、眉を顰めた。

「その、レオンという魔術師は‥‥。」

「レオン‥‥は‥‥‥私の、夫です‥‥‥。」

「はっ?」


「私は‥‥‥国王にこの身を縛られ‥‥私とレオンとの子を人質に‥‥レオンは、命を差し出しました。


 レオンは、子供を安全な場所に移動させ、
 私はレオンを死なせない為に、ここでずっとレオンが生きられる様に魔術を止めるとが出来ませんっ‥‥。

 レオンの心臓は‥私が施した、私が探し得ぬライカンスの元にあります‥‥。ですからっ‥‥私には手立てがないのですっ‥ここを出ればレオンの命は尽きる‥‥私はレオンの命を探し出せないっ‥‥魔術を辿れるのは、同じ魔術師だけっ‥‥‥帝国の魔術師がいるとわかった今‥‥アレキサンドライトにいる魔術師に頼る他ありませんっ‥‥。


 勝手な事を言っているのは分かっていますっ‥。

 ライカンスを捕らえている今しか、機会はありませんっ‥。」

「‥‥‥あなたは‥‥‥あなた方は‥‥ライカンスの失脚を試みて、ライリーと公爵をここへ?」

「ライリーが失敗すれば、自ずと公爵も捕らえられます。

 だから‥‥失敗するのを、陛下からの抗議を待っていました。


 ずるいのは分かっていますっ‥‥。ですがっ‥‥‥

 どうか、お力をお貸しくださいっ‥‥‥」
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