ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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一度でいいから

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 死に物狂いで魔術師へとなったレリアーナ‥
 いや、ライリーとモンターリュ公爵は、ロスウェルの魔術によって、拘束されたままその口と魔術を封じられた。

「おいテオドール!」
「陛下‥‥」

 盛大で予想外な発表にオリヴァーは血相を変えてやってきた。

「一体どうなってるんだ?!私達は、操られていたのか?!ロスウェルのあの力は?!」
「落ち着いて下さい。お話ししますので‥‥」

「ポリセイオの王女と公爵を捕らえたようだが‥」
「建国祭にこんな真似をして申し訳ありません‥ですが、
 リリィに危害が加われましたので、黙って過ごす訳には参りませんので。」

「リリィが?!」
 テオドールの隣で正常に戻ったリリィが困った様に微笑んだ。

「陛下、私は今、殿下とロスウェル様、ハリー様のおかげで無事でございます。」

「ああ‥‥とにかくそれは良かった‥‥だが、何故だ?」

「まずは、各国の王子達と話して参りますから。
 予定外とは言え‥私が事を納めます。」

「ああ‥‥。」
 オリヴァーの不安気な表情は治らなかった。
「父上、リリィをお願い致します。私達に、今魔術印はありませんから‥‥イーノクとアレックスもおりますが、陛下のそばが安心です。」

「わかった‥‥。」

 オリヴァーは気を引き締めてリリィベルの肩を抱いた。
「リリィ、マーガレットと一緒に3人でいよう。」
「はい、陛下‥‥。」

 分かれたテオドールは、メテオラ王国の王子達の元へ向かった。

 オスカーとシリウスが興味津々で待っていた。
「殿下!魔術師なんて本当に居たんですね!」
「ああ、これは我が帝国の皇帝と皇太子のみが代々受け継がれてきた秘密だ。さっき言った通りだが、俺は、彼等を自由にしてやりたい。だが分かってくれると信じているが、
 どうか見守ってほしい。彼等も人間だ。危険を脅かす者じゃない。」

 その言葉にオスカーとシリウスは笑った。
「心配するなよ。殿下の気持ちはさっきの言葉で十分だ。
 魔術師の存在には驚いたけど‥やはり同盟国じゃないポリセイオの来訪は企てがあったんだな。俺達は操られていたのか‥。確かに昼間に食事をしたのもリリィベル嬢だったのに‥。」

「ああ、俺もこの手の魔術は聞いた事がない。
 だが、俺の‥‥いや、陛下に支える魔術師は優秀だ。

 これから治療院を設立するにあたって重要だし、
 俺達はこれからも信頼しあって共存する。

 ま、怪我した時は言ってくれ。」
 テオドールは明るくそう告げた。

 オスカーとシリウスはテオドールの笑顔に笑顔を返した。

「それにしても、殿下が2人になっててビビったぜ。」
「アイツは最近色んな者になりたがってるんだ。」

 それは確かに事実だった。だが、今日はテオドールに姿を変えた。念には念を入れて注意しなければならない。

「彼等は俺達が守る存在なんだ。俺達もそうだ。
 メテオラ王国に何かあればいつでも駆け付ける‥。」

「そりゃ楽しみだ。」

 メテオラ王国の王子2人とは何事もなく終えられた。

 テオドールはサーテリア王国のジュエル王女とザカール小公爵の前に現れた。

「ジュエル王女、ザカール小公爵、突然の発表だったがさぞ驚いた事だろう。お詫びする。」

 ジュエル王女はテオドールににっこりと笑みを浮かべた。
「うふふっ、まさか帝国に魔術師がいるなんて驚きました。
 そして、ポリセイオの王女は‥‥誠に、残念なお方でしたのね。昼間にリリィベル嬢に親しくしておきながら、この様な有様で、ふふっ実に愉快な余興でしたわ。

 まぁ、勝手に人の精神を操るだなんて‥‥本当に愚かでこの上なく品のない事。私の方がマシだと思いませんこと?」

「それについては、ポリセイオに抗議する故、どうか怒りを収めてほしい。」
「ふふっ、殿下の事ですもの。そんな心配はしておりませんわ。」
「感謝する。ジュエル王女。」

 テオドールはジュエル王女に笑みを浮かべた。
 その顔にジュエル王女は広げた扇子の裏で笑った。

「殿下が私と踊って下さるならもっと嬉しいのですが。」
「それについては、申し訳ないが、私は婚約者以外と踊るつもりはないんだ。それだけははっきりお断りする。」
「まぁ、そんな所も好いておりますわよ。殿下‥‥。」

「‥‥殿下、魔術師が皇族の庇護下にある事は承知致しましたが、是非詳しくお話は聞けますか?とても興味深いお話です。」
 ザカールがテオドールにそう口にした。

「ああ、可能な限りであれば、時間を設けよう。」
「ありがとうございます。」

 この時ばかりはサガールの目は輝いていた。
 元々この様な話が好きなのだろう。
 興味を持つのは当然だ。


 最後はミカエル王太子だ。

「ミカエル王太子」
 声をかけられてミカエル王太子はパァっと表情が輝いた。
「テオドール殿下!なんですかあれは!
 魔術ってなんですぅ?殿下が2人もいましたね!」
「ああ、魔術師は‥」

 ミカエル王太子はテオドールの両手をギュッと握りしめた。
「驚いたよぉ~。記憶が変えられてたのも驚きだけどさぁ~、あんな事出来るのぉ?俺も2人にしてくれないかなぁ?」

「はっ?あ、いや、あれは俺が2人に分裂した訳じゃないんだぞ?」

「ああそうなのぉ?残念だなぁ。僕が2人欲しかったのにぃ~。ああ謝罪なら要らないよ?楽しんでたから~。
 しかしレリアーナ王女は何をしたかったんだい?

 本当に君の婚約者になりたかったのぉ?やっぱりモテるんだね~。今まで接点のないはずのポリセイオの王女は、なんでこんな大胆な事をしたんだろうねぇ?

 僕の国はポリセイオと近いから気を付けなきゃあ~。」

 そう言ったミカエル王太子だったが、次の瞬間には表情を変えた。穏やかな顔が一転し目を鋭くさせテオドールの耳元で囁く。

「‥‥‥帝国の皇族に魔術師が居たのも驚きだけど、
 ポリセイオに魔術師がいるのもまずいよねぇ?

 ‥‥しっかり解明してね‥‥?でないと、ポリセイオの魔術師の出方に寄っては、僕も困るんだ。

 なんせ、アルセポネは‥‥ねぇ?神への信仰が厚いから‥‥

 うっかり魔術師なんかに操られたら困るんだよ‥‥。」

 ミカエル王太子の言葉にテオドールはスッと目を細めた。

「この件に関しては、俺は中途半端な事はしない。
 約束しよう。‥‥アルセポネへの影響はないだろう。」

 ニヤリとミカエル王太子は口角を上げた。
「なら安心だ‥‥どの道君のその美貌と地位が招いた事なんだろう?‥‥頼んだよ?皇太子殿下‥‥。」

「ああ、問題ない。」
 そう答えたテオドールの目は酷く冷ややかだった。

 これだから、同盟国とは、紙一重なのだ。
 一見は友好でも、1つの火種で何が起こるかわからない。

 ミカエル王太子はテオドールからスッと離れた。
「君のお姫様が待ってるから、そろそろ帰るといいよ。
 君のこと、僕は信じるからね。」

「感謝する。ミカエル王太子。」
「いいよぉ、君の計画を楽しみにしているのはほんとだからね。僕も王太子として民を大事にしたい志は君と変わらない。」

「ああ、そう思ってるよ。」
「ふふっ、分身魔術があるなら教えてね?」

 ヒラヒラと手を振りミカエル王太子はテオドールを返した。
 その顔にテオドールは軽く笑みを浮かべてその場を離れた。

「まったく‥‥‥皇太子って言うのは、大変だよね。」




「‥‥‥‥‥‥‥。」


 レリアーナとモンターリュ公爵は結界魔術と拘束魔術でその場から動けない。
 それを見下ろすロスウェル。今すぐ地下牢に連れて行くことも出来た。だが、そうしなかった。

 貴族達の目に映るようにしたのだ。

 モンターリュ公爵はロスウェルを見上げ信じられない様な顔でいる。それもそのはず、帝国に魔術師が居るだなんて初耳だ。レティーシャ王妃と同じ髪色は、最高位の魔術師の証。

 そんな者に捕まっている。レリアーナの魔術など簡単に打ち破られた。
 何か逃げる手段がないか今度はロスウェルの視線から逃れ俯いた。

「‥逃しませんよ。」
「ぐっ‥‥」

 ロスウェルは怒っている。今回の事でテオドールやオリヴァーの信頼が無くなったと感じている。

 どんなに事を収めようと、起きてからでは遅い‥。
 リリィベルを見つけたのも、自分の力を最大級に引き出せたことも、魔術師の事をここで公表したのも、すべてテオドールが考えた事。

「‥‥‥‥‥。」

 ふと、レリアーナの視線の先を追った。

 彼女はこの拘束魔術が解けないと悟った瞬間。
 希望を失った様に、抵抗しなくなった。


 そして、ずっと‥‥テオドールばかりを見つめている。



 口を封じられたレリアーナの瞳から涙が一筋こぼれた。

「‥‥‥‥‥‥」

 テオドールだと思い込んでいた。会話を交わしていた相手は、最初からこの魔術師だったと悟った。


 いつからだったのか、目的を遂げたと思っていたのに。


 自分が名を呼んで見てくれた時も、


 エスコートしていたのも全部。


 この魔術師だったようだ‥‥。



 あの時、一度だけ、部屋に来た時だけ。


 その瞬間に彼はリリィベルの事に気付き、

 ずっと姿を見せなかったのだ。



 私はそんな事にも気づかずに、まんまと魔術師をテオドールだと思い手を取った。


 手袋で偽物にまで触れる事を許されず‥‥‥。


 あの暗がりの中、言われた一言だけが、唯一
 本物のテオドールだ。




 それから、魔術師の話をしただけで、



 少しの目も合わせず、当然の様にまたも婚約者を隣に置き






 ただの一度ですら、見てくれなかった‥‥‥。



 こぼれた涙は、止まることなく流れ続けた。


 今も、他の国の王子達に話をする後ろ姿しか見えない。





 ああ‥‥‥あたしはこんな後ろ姿を見るためにここにきた訳じゃないのに‥‥。



 一度でもいいから‥‥‥



 私を見てよ‥‥‥‥。


 ねえ‥‥‥‥‥

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