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夢が覚め、新しい夢の始まり

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 大ホールは一筋の光の中、騒然としていた。

 皇太子の不敵な笑みが皆の注目を集める。

「レリアーナ‥あなた何か聞いていた?」
 皇后マーガレットがレリアーナに尋ねた。
 薄暗い中、レリアーナの笑みは見えなかった。
 だが、先程告げられた皇太子の言葉をレリアーナは疑わなかった。

「テオが‥‥何か‥‥私のために?誕生祭の事をおっしゃいましたわ?」

 塗り替えられた記憶、誰もが誕生祭で恋に落ちた婚約者を自分と認識している。



 その話をわざわざするなんて‥‥‥。

 なんて幸せなの・・・喉から手が出る程、皇太子の愛を欲した。



 あんなに冷たかった彼が、私の力で‥‥。


 誰よりも私を思い、愛してくれている。



 もう、すべてがうまくいく。




 レリアーナはゴクリと息を呑み、皇太子を見つめた。
 皇太子は、こちらに目線を送りながら微笑んでいる。


「皆、私の婚約者を知っているだろう?私の婚約者は、とても美しくて、聡明で、


 とても、愛さずにはいられない程だ。



 なぜ、こんな事を言っているか、理解出来ない者もいるかも知れないなぁ‥‥‥。」



 皇太子は、右手を掲げて、指をパチンと鳴らした。

 響き渡るその音。

 皇太子は、瞳を閉じて、隅々まで全神経を解き放った。


 瞼の裏、帝国中にたくさんの魔術が展開されていた。



 その光は、見たことのない魔術構成で出来ていた。


「‥‥‥‥!」

 カッと目を見開いた一瞬で、帝国中にある魔術印を粉々に撃ち抜いた。


 これが、本来の力ならば容易い事だった。


「はっ‥‥‥‥!」
 ドクンと身体が脈打ったレリアーナ。


 そんな‥‥‥バカな‥‥‥。


 これだけは感じ取れた。

 自分の作った魔術印が、一斉に打ち砕かれたのだ。
 目の前に居るのは皇太子。



 そんなはずない!!!!!



「さぁ、舞踏会に迷い込んだ哀れなお姫様、もう帰る時間だよ?」


 皇太子の鋭い瞳が、レリアーナを射抜いた。
「!!!!!!」


 レリアーナの全身が、その覆っていた身体のドレスがハラハラと紙吹雪の様に舞い、本来のドレスに戻った。

 皇太子の鋭い視線が痛いほど突き刺さる。

「本来皇太子と婚約者が着る今夜の為のドレスは、君の纏うには罪深い。」
「っ‥‥‥」

 レリアーナの顔は酷く怒りで歪んだ。


 目の前にいる皇太子テオドールの髪色は綺麗な銀髪からマジョリカブルーの色が反映された。


「あんたっ‥‥‥‥。」


 バツっ‥‥

 辺りが一斉にまた暗くなった。

 きゃあっと誰かのあげる悲鳴が響いた。




「皆、0時を過ぎると‥‥‥魔法は解けると知っているか?

 この現象は、異国の地で有名な話があるんだ。



 さぁ、みんな‥‥現状は把握出来てるだろうか。」


 暗闇に響く低い声に、会場はまたシンと静まり返った。






「なんで‥‥‥‥」



 おかしい‥‥‥

 国中が‥‥私を婚約者だと思っているのに‥‥


 当の本人は‥‥なぜ魔術に掛からずに‥‥





 〝本来皇太子と婚約者が着る今夜の為のドレスは、君の纏うには罪深い。〟




 あんな言葉、分かってなきゃ言うはずない‥‥‥



 国中に展開していた魔術印が一気に壊された!






 魔術はポリセイオのものなのに‥‥‥


 私が最高位の魔術師になったのに‥‥‥


 何故あの人は!!!!!





 レリアーナはそっと、皇太子の前に立った。


「‥‥‥‥テオ‥‥‥‥」



「‥‥‥どうした?ポリセイオの王女。」


「何故‥‥‥あなたは‥‥‥‥。」


 俯いているレリアーナの表情は辺りの暗さで見えない。


「・・・俺は、こんな魔術で‥‥愛する人を忘れたりしない。」

「!!!何故魔術のことを!!!っきゃあ!!!」


 そう聞いた瞬間、レリアーナの身体は拘束された。

「チッ!!やめてよ!!!」

 パァァン!!と拘束魔術は砕けた。きょとんとした皇太子は呟いた。
「おや、それではダメですか。ならば‥‥。」


「いやっ!!!」

 レリアーナの前にいくつもの魔術印が出来上がる。
 それが全身を覆った。

 レリアーナがその魔術を消し去ろうとしたが、
 魔術は解けなかった。
 その様子を見て皇太子は笑みを浮かべた。

「もう、それは君には解けないよ?君に負けるつもりはないんだ。」


 一斉にまた大ホール中は明るくなった。


「!!!っ‥‥どう言う事っ‥‥‥」

 ザワザワと騒がしくなる。

 レリアーナの前、いや、皆の前には、

 皇太子テオドールが二人存在した。


 各国の要人たちが、帝国の予期せぬ出来事に息を呑んだ。
 今起こっている出来事、皇太子が二人目の前にいること。

 すべてが信じられない出来事だ。

 ここにいる全員が、このありえない事態に胸がゾクゾクしていた。



「あぁ、君もね。」
 一人の皇太子がそういうと、舞踏会の人ごみにこっそり隠れたモンターリュ公爵の身柄を拘束した。
「ぐっ・・・これはっ・・・・大事になりますよ・・・皇太子殿下・・・・。」

 見えない縄で縛られたような公爵に注目も集まる。

「ははっ・・・そうだな。ポリセイオ王国の返答がどうくるかな・・・・。」

 二人の皇太子が並んで自信満々で笑みを浮かべている。


 夢のような時間は終わりを告げる。


「はっ・・・・・・・・・・・・」

 レリアーナは一つ気づくと、忌々しく目をギロリとその人物を睨んだ。

「・・・・・レリアーナ王女。」


 その場に現れたのは、本来の婚約者、リリィベルだ。
 装いは今夜のための皇太子と揃えたドレスだ。

 その指には、手に入れられなかった指輪、そして・・・あいてる者にしかつけられないピアスだ。

「リリィ・・・・ベル!!!!!」


 そう名を呟かれ、リリィベルは悲しげに眉を下げた。

「レリアーナ王女。このような形になってしまって、残念でなりません・・・。」
「あんたっ・・・なんで元の姿にっ・・・どうしてここにいるのよ!!!!」


 そう叫んだレリアーナに、一人の皇太子が答えた。

「リリィベルに掛けられた魔術は先ほど解除致しましたよ。レリアーナ王女。
 あなたは最高位の魔術師となったそうですが、私の敵ではありません。」

「あんたっ・・・一体なんなっ」
 言葉の途中でレリアーナの口は魔術によって塞がれた。


「もう、あなたの発言は聞き入れません。地下牢でたっぷり私と話をしようではありませんか。

 ここから・・・生きて出られる等と思わないでくださいね。」




 そして、もう一人の皇太子、正真正銘の皇太子テオドールが口を開いた。

「この建国祭で、皆に伝えたいことがある。歴史的瞬間だ。よく聞いてくれ・・・・。

 私の隣にいるのは・・・・。」

 テオドールは、隣にいるロスウェルを見て微笑んだ。
 ロスウェルは魔術を解き、本来の姿、いやマジョリカブルーの髪色にローブ姿を晒した。


「この者は、我が帝国に忠誠を誓った・・・。偉大な魔術師であることを明かそう・・・。

 そして、皆が先ほどまで信じていた私の婚約者の事だが、皆もすでに思い違いに気づいただろう。


 この、悍ましいポリセリオの王女が、おかしな魔術で帝国の建国祭に魔術を施した。


 私の婚約者に魔術をかけ、皆の記憶を操作し、自分が婚約者だと思わせるという・・・・・


 悪趣味な魔術だ。そして、その魔術を我が皇族に仕えるこの者が解いた・・・・。


 この魔術師達は、古くから帝国の皇族のみに仕える者たちだ。


 害はなく、我が帝国を、代々守り抜いてくれた者たちだ。

 彼を皆の前に出したのは、このふざけた魔術を解くこと・・・それと同時に


 皆にその存在を知ってもらい、私の考案したことを発表するため。



 皆、帝国に一つの建物が建設されているのを、知っている者もいるだろう。



 私は、この帝国に治療院を作り、皇族の庇護の下、魔術師が施す治療を誰もが受けられるようにするため。


 寿命ではなく、病に侵された者、傷を負ったもの・・・毒を口にした者。


 治療を必要とする者が、魔術師達の治療術によって健康に暮らしていける世の中にするためだ。


 今回の事は魔術師の力なくしては成し遂げられなかった。


 魔術師は偉大な者たちだ。万が一、魔術師達に危害を加えるということは皇族を冒涜するも同然。

 そのことをしっかり胸に刻み込んでほしい。始動はまだ未定であるが・・・。

 いずれこの治療院と魔術師達の存在により、我がアレキサンドライト帝国は安全で皆が健康で


 より良い帝国になることだろう!!皇帝陛下の御代にこの魔術師達による治療院は歴史に幕を開ける。



 アレキサンドライト帝国はオリヴァー皇帝陛下の時代に新たな歴史を刻むのだ!!!!


 我らを信じ、一人残らず帝国と共に歩め!!!!!!!」



 皇太子テオドールの言葉にシンと静まり返った会場から一つ一つと拍手が起こった。
 それは城中に響き渡るほどの音となり、歴史的な発表の瞬間となった。
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