ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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新たな萌え

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「うっ‥‥うぅっ‥‥‥‥。」

 涙が止まらない。
 目の前が真っ暗で、愛しい声が聞きたい。
 早く安心したい。抱きしめて欲しい‥。

 そんな不安に押し潰されそうだった。





 テオドールは開いた宝石箱を凝視して固まった。


 それは運命か、偶然で必然だった。


 ただ、見慣れない宝石箱を開けただけだった。


 それを見て‥‥‥安堵で涙が目に溜まった。

「っ‥‥‥リリィ‥‥‥‥っ‥‥」


「ふぇっ‥‥‥?」
 目を開いた時、辺りが急に眩しく見えた。
 大きな月が照らしたのかと思った。

 その目に映った瞳の輝きに、大粒の涙が溢れる。

「テオっ‥‥‥‥テオっ!!!!!」

 立ち上がりリリィベルは、涙を流し思わず両手を伸ばした。


 ぷにゃ‥‥


「ん‥‥‥?」
 リリィベルが思った感触とは違った。
 触れられたのは、テオドールの整った唇だった。

「‥‥‥アレ‥‥っ‥‥なんでぇっ‥‥‥っ‥‥。」


 唇から数歩離れてみると、大きなテオドールの顔しか見えない。


 大きく首をそらせて見上げる。テオドールのまばたきで大きな涙の雫が、リリィベルを濡らした。

「うきゃっ‥‥‥っ‥‥‥テオっ‥‥‥」


「‥‥‥リリィ‥‥‥お前っ‥‥。」

 テオドールが宝石箱の縁に手のひらを出した。


 此処まで来ればもう状況がわかった。
「私っ‥‥‥私って‥‥。」
 舟のように大きく見えるテオドールの手のひら。


「いいから‥‥‥こちらへおいで‥‥‥。」
 涙を流しながらテオドールは囁いた。


 その声が聞きたかった。
 その優しい声が‥‥‥。

 リリィベルも鼻をすすってハイヒールを脱いでテオドールの手のひらに乗った。


「‥‥‥訳わかんねぇけどっ‥‥‥

 見つけたっ‥‥‥良かったっ‥‥‥。」

 手のひらのリリィベルを包んで頬に寄せた。
 リリィベルも小さな体でテオドールの頬に触れた。

「テオっ‥‥‥うぅ‥っ‥‥‥私っ‥‥いつの間にか、

 とっても暗い場所にっ‥‥‥怖かったっ‥‥‥っ‥‥。」

「ああ、ごめんなっ‥‥すぐ見つけてやれなくてっ‥‥‥。」
「あなたの声を聞けただけでもういいのですっ‥‥

 嬉しいっ‥‥‥会いたかったですっ‥‥ずっとあなたを‥‥

 ずっとずっと‥‥。」
「わかってる‥‥俺を呼んでいたんだろ?‥‥もう大丈夫だからな‥‥‥。もう心配いらないからっ‥‥‥。」



 頬と体を寄せ合う姿はその体の大きさが変わっても、
 何一つ変わらない‥。

 ハリーは安堵の笑みを浮かべた。
「ロスウェル様‥‥リリィベル様を見つけました。
 後程、状況をご説明しますが‥‥‥どうやら一筋縄ではいかないかと。」



 その報告のロスウェルの返事は


 〝やってやろうじゃないか〟


 とだけ、返ってきた。




「殿下、リリィベル様、一先ず殿下の部屋に行きましょう。
 私のできる全てで保護魔術を行います。

 あと、この状況が分からないように。

 同じモノを作って置いておきましょう?

 目には目をってね‥‥‥。」


 ハリーの自信満々な笑みが浮かんだ。



 その頃、当の最高位の魔術師は何知らないままだった。




 舞踏会の最中、レリアーナはしびれを切らして皇太子の側へ駆け寄った。
「テオっ‥‥‥いつまで私を1人にするつもりですか?」

 皇太子の腕に縋りついてレリアーナはその頬を寄せた。
 その様子を冷めた目で見ていた皇太子は、すぐに仮面を付けた。

「レリィ?どうしたんだ?お前にはちゃんと頼んだ事があっただろ?忘れたのか?」

「えっ‥‥?」
 優しい声色のはずなのに、何故かゾッとした。
 それが何か分からなかったからだ。


「‥‥今日は建国祭だぞ?皇后陛下と共にサーテリアの王女と帝国の令嬢達の相手をするように話したじゃないか。

 忘れてしまった?」

 こいつぅ。とまで言えそうなくらい穏やかな笑顔だった。
 うっかりロスウェルが顔を出している。

 リリィベルが見つかり、ロスウェルはその仮面が少しズレそうだった。


「あっ‥‥‥えと‥‥でもっ‥‥ジュエル王女は‥あなたをっ‥‥。」

 昼に一部始終を見ていたのだから知っている。
 ジュエル王女が、テオドールをどんな風に見ていたか。

「お前は俺を信じているんだろ?」

「もっ‥‥‥もちろんです‥‥‥。」


 あの時、あの女は言った。
 側室は皇太子が宣言した様に一生持つことは無いと言ったから、その言葉に従い信じると。

「これから皇太子妃になるんだ。しっかり頼んだ。」
 笑顔でレリアーナにそう告げた。


 ロスウェルはなんでも知っている。
 何故なら、いつも彼は大事な場所を盗聴するからだ。
 今日は屋根裏に鼠型の盗聴器が居たのだ。

「お‥‥お任せくださいっ‥‥‥。」

 目を泳がせてレリアーナは気まずい笑顔を浮かべた。
「ああ、頼んだよ。」


 それは、あっさりしたものだった。


 少し見ないうちに、2人は燃え上がった恋だけではなくなった?


 あの女はあの頃よりもっと、皇太子と一緒にいて



 我が物顔で過ごしていたのね‥‥。



 レリアーナ王女は顔を強張らせて皇后の元へ向かった。
 皇太子の婚約者候補として社交界を生き抜いてきたのだ。
 やって出来ないことはない。

 皇后と合流して、談笑を交わす。
 これまで会った事のある帝国の令嬢達と初めてのように会話を交わす。

 その中で、新しい爵位になった令嬢達に接しなければならない。

 考えられない出世をした子爵家や男爵家だった、取るに足らない教養の足りない令嬢達との会話は苦痛だった。

 皇后が気さくで分け隔てなく明るく接する行動を間近に見て更に気に食わなかった。

 時折出る愛想笑いを、ジュエル王女が見ていたのをレリアーナは知らない。




 3人は皇太子の私室に入った。テオドールは続き部屋の扉に2度目の鍵を掛けた。

 改めて、リリィベルの姿は、テオドールの手の大きさ程の姿だった。

 ティーカップのソーサーにクッションになるようにリリィベルが刺繍したテオドールのハンカチが敷かれている。涙の雨で濡れた体はハリーの魔術が微風となって乾かした。

「リリィ‥お前のこの宝石箱は?」
「えぇそこからぁ?」
 ハリーが呆れた声で言った。おそらく自分が余計な事を言った事には気付いていない。

「あ、これは父から受け取った指輪の箱です。お母様とお父様が用意してくださった物で、大事な物ですから、ベットのそばに‥‥。」

「そうか‥‥‥。」
 人知れず、テオドールは安堵のため息をついた。

「はい‥。お母様とお父様が‥‥守ってくれたようですね‥」
「ああそうだな。俺もそう思う。」
「よく言うよ。」

 ハリーがボソリと呟いた。

 ハリーを無視して、テオドールはリリィベルの髪を人差し指の腹で撫でた。

「リリィ、何があったか‥わかるか?レリアーナ王女と会ったのか?」

「え‥‥あ、はい‥‥。支度中においでになられて‥‥
 少しお話をいたしました。」

「どんな?」

「‥‥‥最初は緊張しているから、少し話し相手をして欲しいと言われて、私も殆ど支度を終えていましたし‥
 テオを待つだけだったので‥‥それで、私のこの指輪の話になって‥‥。こんな繊細な指輪は見た事がないって、あと、二つ指輪も珍しいので‥‥‥。」

「それから?」

「外して見せてくれないかと言われましたが、
 それはさすがに出来ませんと‥‥お断りして‥‥。

 でも理解して下さって‥‥そこから‥‥気が付いたら‥‥

 真っ暗な所に‥‥‥。まさかこの指輪をしまっていた指輪のケースに居るとは思いませんでした‥‥。指輪を片時も離したくなかったので‥‥。」

 ぎゅっと両手を握りしめて、リリィベルは瞳を震わせた。

「そうか‥‥そりゃ‥‥俺だって断るさ‥‥。」
「はい‥‥‥。でも、私はどうしてこんな姿に‥‥。」

 その問いにテオドールとハリーも少し黙った。

 リリィベルは不安げな表情で2人を見上げた。



 ソーサーにふんわりとドレスが広がり、まるで一輪の花のような姿。

「「‥‥‥‥‥」」

 テオドールとハリーは、そのしゅんと悲しげに萎れた花を見て胸が高鳴った。先に口を開いたのはハリーだった。

「やべ‥‥‥」
「おい」
「さーせん。」


「リリィ‥‥。とりあえず、これだけは言っておく‥‥。」

「はいっ‥‥どんな事も聞きます。」
 切ない必死なその瞳でリリィベルはテオドールを見つめた。







「‥‥‥‥妖精みたいで、クソ可愛い‥‥‥‥。」


「‥‥‥‥はい‥‥‥‥?」




 頬を少し染めてテオドールは手のひらで口許を覆った。
「うん、いや、ごめん、違うよな?そーじゃないよな?


 でもさ、うん‥‥‥クソ可愛い‥‥‥。





 ちょっと、俺の胸ポケットに一回入ってみて欲しい。


 一回でいいから‥‥‥。」

 ちょいちょいっと手招きして、胸ポケットの口を精一杯開いた。

「テオ、私‥‥‥そんな事聞いてません‥‥。」
 


「うぅん!だよね!!!!さーせん!!!」


 この日初めて、少し冷めた目でリリィベルはテオドールを見たかも知れない。

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