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建国祭の開幕
しおりを挟む《ねぇ・・・・このままなの・・・・?》
《さぁ・・・・?》
《ねぇっ・・・・私はいつまでっ・・・》
《・・・・さぁ・・・・?》
《なんとか言ってよ!!!!》
《・・・・・・・》
《うぅ・・・っ・・・・・うぁぁぁっ・・・・・》
12月30日建国祭が正午から開催される。皇族と婚約者は寒空の下、皇族のバルコニーへ姿を見せた。
ひと際煌びやかな昼の装いは、帝国に相応しく絹のエメラルドグリーン色を基調に繊細な刺繍が施された皇帝と皇后の衣装。そして、皇太子と婚約者はコバルトグリーン色の衣装だ。それぞれ高級な銀色の毛皮がついたマントを羽織り現れた。そして皇帝オリヴァーの言葉が帝国民たちに向けられる。
「我がアレキサンドライトの帝国民達よ。今日から3日間10年に一度の建国祭である。皆健やかで幸せである事が私の願いだ。
そなたらが幸せな暮らしを送れる様、今以上の幸せを願い私達はここにいる。
私はいつも皆を思い、心を尽くそう。
私達が、皆の苦しみを一つでも減らそう‥‥
新しい年には我が帝国の皇太子と婚約者の結婚式もある。
我が帝国はアレキサンドライトの様に、いつまでも輝きに満ちる。皆の笑顔がその光だ。
我らを信じ、共に生きよう‥‥。
帝国アレキサンドライトは永遠に輝き続ける!!!」
皇帝オリヴァーの言葉に帝国民は笑顔で歓声を上げる。
その歓声に笑顔を向けた皇帝オリヴァーが帝国民を見ていた。
ここにいる者達は宝石だ。皇帝はその心をいつも持っていた。
そしてその心に応えるように、帝国民は皇太子の時代から、
オリヴァーを称え、歴代の皇帝陛下の中でもっとも愛されていた。
良きタイミングで、ロスウェルは皇族たちの後ろから色とりどりの紙吹雪を飛ばした。
その演出にも歓声が上がりさらに帝国には熱気が上がった。
「テオ」
「なんだ?リリィ。」
笑顔で手を振るテオドールにリリィベルは囁いた。
「皇帝陛下は、帝国民にとても愛されていますね。」
「そうだな。皇太子の時代から帝国の治安が良くなった。少なくとも飢えてしまう事が以前より減った事だろう。それを皆が知っているから、陛下はとても・・・愛されているんだ。
陛下の背を追うのは、一筋縄ではいかないだろうな。」
テオドールは分かっていた。オリヴァーがどれほど帝国民に愛されているかを。
皇太子だった頃から治安の悪い所を聞けばすぐに警備兵を置き、飢える子供がいると分かれば地域で食料配給や、孤児院に力を注いだ。国民が飢える事がない様に職派遣と賃金の保証。誰もがオリヴァー皇太子の采配により帝国民は安定した暮らしが出来た。今や皇帝となったが、テオドールとリリィベルの事がなければ、沢山の貴族達が没落する事はなかったかもしれない。だが、オリヴァーの正義がそれを許さない。欲を出し悪を働いた者には罰を与えたのだった。
それはオリヴァーを支えていた貴族達が、テオドールに手を出した故の結末だった。
オリヴァーは大切な者を適切に守る事をよくわかっていた。アリアナの件がいい例だろう。
自分が愛する人との結婚を一時は諦めて、結婚をし、そして誰一人欠ける事なく守り抜いた。
「テオも・・・陛下の様に皆から愛されています。」
「ははっ・・・どうだろうな。俺は陛下にくっついて歩いていただけだから・・・。
皇太子としては、無能だろう・・・。」
「そんな事ありません・・・。あなたは立派な皇太子です。」
「・・・そうなるように・・・努力するだけだ・・・。」
そんな父親を持てた事をありがたく思っている。オリヴァーは尊敬できる父だった。
どんなに日本人の前世を持っていても、この世界で生きていかなければならない理由がある。
良き理解者である父と母の元へ産まれた事は、幸運だった。
「・・・俺は・・・両陛下を・・・・尊敬してる・・・・。」
「はい・・・。私もです・・・・。」
テオドールとリリィベルは瞳を合わせて、微笑んだ。
「いつか、俺達も両陛下の様になれたらいいな・・・。」
「テオならきっと、大丈夫です・・・。私もお義母様を見習って・・・側でお支えします。」
「あぁ・・・それだけで・・・俺はなんでもできそうな気がする・・・・。」
この年、テオドールを皇太子とした、建国祭が始まる。
開幕を告げた建国祭は、皇城の玉座の間へと場所を移した。
帝国の旗を背に玉座に君臨する皇帝と皇后、皇太子テオドールが、新たな爵位を与える貴族の名を呼ぶ。
新たな公爵家に、皇后の生家であるグランディール公爵。婚約者の生家ブラックウォール侯爵、元イシニス王国とカドマン領地のカドマン侯爵等、次々と爵位が与えられる。視察で訪れた新たな爵位を与えられる者達。その者達の顔を見て皇帝と皇后は満足気だった。
一方で、視察で皇太子の目に敵わなかった者達も居る。
新たな爵位を得る機会を逃し、落胆と嫌悪、羨望が入り混じる。
新たな時代に進む中でも、こればかりは避けて通ることの出来ないものだ。それが火種になるかは今後の皇族次第だと言う事も重々わかっていた。
「うっ・・・ゔぅん!!!あっ!!ぁ、あ!!!うぇっへん!!ぁ!あ!あ゛あ゛!!」
「テオ、大丈夫?」
授与式を終えたテオドール。私室でリリィベルはテオドールの頬を撫でた。
「んんっ!!ダいじょうぶ・・・・。」
「ひっくり返ってるじゃない・・・綺麗なお声が・・・・。」
散々声を発したテオドールの喉はカスカスだった。締りの悪いテオドールは咳ばらいを続けている。
「喉に良いハーブティーを用意させたから飲んで?」
「あぁー・・・・草の香り・・・・。」
カスカスの声でそう言った。テオドールは喉元を温めながらげっそりとした。
ハーブは苦手だった。紅茶は平気だが、薬草の匂いは好きじゃない。
「草って・・・喉に良いから飲みなさい。」
そう言って湯気の立つ紅茶を目の前に差し出したのは同じく控室にいたオリヴァーだった。
「・・・草っぽいんですよ。」
「ハーブだ。効能があるんだ。雑草みたいに言うんじゃない。」
呆れた顔でテオドールに紅茶を持たせてため息をついた。
「・・・・まぁ飲みますけど。あ、ハチミツ入りの紅茶もあとで下さい。」
「わかったから。さっさと飲んでしまえ、もう少ししたら舞踏会が始まるからな。
とにかくご苦労だった。リリィ、テオドールを頼んだよ。あーでも着替えなきゃならないから程々にね。
私もマーガレットの所へ行って着替えてくるから。」
「はい。陛下。お任せください。」
笑顔を向けてリリィベルはオリヴァーを見送った。
「にぃっが!・・・・まじで草・・・・。」
「もぉテオったら・・・ちゃんと飲んで?」
「お前これ飲めるのか?」
「私もこのハーブは苦手ですけどお薬だと思えば・・・・。」
「ぁぁー・・・・んん゛!!!ぁ!あ!!!!!んあ!!!!!」
一口飲んでは大袈裟に声を張って見せる。そんなテオドールが子供っぽく見ててリリィベルは笑った。
「んふふっ・・・」
「何笑ってるんだ?」
「なんだか可愛くて。」
テオドールが座るソファーの隣に腰掛けてクスクス笑ったリリィベルを横目に、ズズっと紅茶を啜り飲みした。
「リリィ。」
「なんです?」
テオドールはスッと飲んでいたハーブティーをリリィベルの前に差し出した。
「飲まして。」
「え?」
「だから飲ませてくれよ。」
真面目な顔でテオドールは言った。リリィベルは頬を染めた。
「なっ・・・。」
「何赤くなってんだよ。」
「そんな事したら・・・・。」
「そんな事したら?」
きょとんと首を傾げてテオドールはリリィベルを見た。
リリィベルはぎゅっと目を閉じて恥ずかしそうにつぶやく。
「わっ・・私との口付けが不味くなって嫌になったらどうするんですっ・・・。」
「ふっっ・・・・・。」
テオドールは顔を背けて吹き出した。
「えっ・・・なんで笑って・・・・。」
ハハハッとテオドールは笑っている。リリィベルはなんだかその態度に腹が立った。
飲ませてくれと言ったのはテオドールだが、何故笑われなきゃいけないのか。
「もぉ!なぜそんなにっ・・・飲ませてくれと言ったのはテオではありませんかっ!」
「ははっ・・・わりぃっ・・・言葉が足りなかった・・・ふっ・・・
あぁ、そうだな。いつも俺ならそうだったかもな。」
瞳に涙まで浮かべてテオドールはリリィベルを笑ってみた。リリィベルは少し頬を膨らませていた。
テーブルに手を伸ばし、ソーサーに乗ったモノでカチンっとカップの縁を鳴らした。
「ここにスプーンがあるから・・・お前に飲ませてくれとお願いしたかったんだ。
リリィに飲ませてもらったらこの苦い草も我慢しようと思ってな?」
「ぁっ・・・・やっ・・・・。」
ますますリリィベルの顔が赤く染まっていく。それをニヤニヤとテオドールは眺めた。
「リリィがそんなに積極的だなんて・・・嬉しいなぁ?」
「もっ・・そんなに声が出るなら大丈夫なのでは?」
「いやいやいや。んん゛っ!ほら・・・まだまだだ。仕方がないからこの苦い草を飲まなきゃならん。」
「ハーブティーです。殿下。」
恥ずかしそうに睨みながらリリィベルはテオドールを見つめた。
「口移しならこのハーブがジュースに変わるかもしれないな?試そうか?」
ずいっと距離を詰め、顔を近づけてテオドールは囁いた。
「もぉっ!!!!」
テオドールの胸を押したがビクともしなかった。耳元でただ囁かれる。
「俺達、いつも口移しをしてしまうから誤解するのも無理はないよな?
お前もこのハーブは好きじゃないだろ?お前が喉を傷めたら、俺が口移しで飲ませてやるよ。
好きだろ?俺の口から飲まされるのが・・・・。」
少し掠れた低い声が少し艶めいていてリリィベルは赤くなりっぱなしだった。
身体が疼くような気分だった。
「・・・・もうっ・・・知りませんっ・・・・。」
「あー・・・・ほら、飲ませてくれよ。」
そう言って口を開いた。
リリィベルは恥ずかしさと怒りと愛しさでぐちゃぐちゃな思いを抱き、カップとスプーンを手に取りハーブティーを掬いテオドールの口に運んだ。
コクンとハーブティーがテオドールの喉を通る。間近で見るテオドールは今日も格好良かった。
先程まで咳払いしていたテオドール。だが、授与式での凛々しい皇太子としての勤めを果たしていた彼は素敵だった。式の間中ずっと、凛々しい姿でうっとりする様な身体に響く低い声が聞こえていたのだ。リリィベルはその姿に釘付けにされた。
ドキドキしているのが分かるリリィベルの顔を見つめなら、ニヤッと笑ったテオドールだった。
「あぁ・・・・なんだか好きになれそうだ。」
「っ・・・・バカ・・・・・・。」
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