ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

文字の大きさ
上 下
127 / 240

信じてやまない未来

しおりを挟む
 舟の上で、2人は抱きしめ合った。どれくらいそうしていた事だろう。
 幾千の星と一つの夜月が、2人を見下ろしている。

 この愛を離したくないと。こんなに溢れてくる。
 いつもそうだ・・・不安になっては、抱きしめ合う。

 これは、暁(あきら)と礼蘭(れいら)の魂が望んでいる・・・・?

 そして、それに重なるようにテオドールとリリィベルとなり、その思いは強くなる。


 巡り合えた事を、噛みしめる様に、いつも、いつも・・・・。

 少し肌寒い秋の夜の下。熱を持つ二人の唇が離れては引き寄せ合う。


「・・・リリィ・・・」
「はい・・・。」

 テオドールはリリィベルの頬を包んで、ようやく静まる心を取り戻した。
「ごめんな・・・」
「え・・・?」
「俺・・・変な事言っただろ・・・・。」
「いえ・・・。」

 リリィベルは幸せそうに笑った。
「あなたがどんな事を言おうと・・・私もあなたと同じです・・・。」
「・・・それは・・・・。」

 リリィベルは、テオドールの手を包んで瞳を閉じる。

「あなたが・・・私の夢を見るならば・・・・私もそうです・・・・。
 あなたが悲しいのなら・・・・私も同じ・・・・

 あなたが涙を流すなら・・・私も同じなのです・・・・。


 ずっと・・・そうして一緒に思いを重ねましょ・・・・・?」



 今の私たちは、それが出来る・・・。


 この触れられる身体で・・・どんな言葉も、思いも交わす事が出来る。


「・・・・・・・あぁ・・・・・・。」

 微笑んだテオドールとリリィベルの髪が夜風に靡いた。


 些細な事で揺れ動く、2人の想いは脆くて、重い・・・。
 それを、理解している。お互いに・・・・。


 静かに額をくっつけて・・・瞳を閉じた。

「ずっと・・・一緒だもんな・・・・。」
「はい・・・ずっと一緒です・・・。」


 同じ季節を共に生きている・・・この世界で・・・・。
 触れられる距離で・・・。

 どんなに幸せかを・・・震える程感じている。



 舟はゆっくりと・・・また進み始めた。
 2人が未来に進むように、ゆっくりと・・・。


 湖の船着き場に辿り着き、テオドールが先に降りると、リリィベルに両手を伸ばした。
 ゆっくりと立ち上がったリリィベルをテオドールは軽々と抱き上げた。

「ふふっ・・・。ありがとう御座います。」
「何言ってんだ。飛んだんだろ?ふわりとな。」
「ふふっもぉっ・・・。」
 笑い合った2人を遠くからイーノクとアレックスが見る。


 長い間、湖の上に居る2人を見ていた。

「・・・なんか・・・あったのかな・・・?」
 舟を漕ぐアレックスがぽつりとつぶやいた。
「・・・分からないが・・・殿下が・・・文句も言わずにいたのはちょっと・・・・。」

 近付けない舟、いつもの2人とは違う空気が、イーノクとアレックスに届いていた。



 夜空の下、抱きしめ合う二人が、真っ黒な髪に見えた幻・・・・。
 そこだけ空間が違うように・・・・。

 今花園にたどり着いた2人は、いつもの2人だと言うのに・・・。


 どうして、その様に感じたのだろうか。
 2人にも分からない異空間だった。


 花園を歩き始めた2人を離れて見守った。



 花園には、色とりどりの秋に咲く花が2人を囲む。
 綺麗に舗装された道を辿ると、ガゼボが見えた。

 ガゼボのベンチに腰を下ろし、2人はその一面に広がる花園を寄り添って見ていた。

「・・・綺麗だな・・・。」
「えぇ・・・それに・・・蛍が・・・・。」
「あぁ・・・。」

 控え目な外灯に蛍が花園を舞い飛び、花を照らす。


「・・・リリィ」
「はい?」
「・・・また来よう・・・此処に・・・。」
「はい・・・。」
「2人で・・・。」

「はい・・・。あ・・・・でも・・・。」
 テオドールの肩に頭を預けていたリリィベルが、少し俯いた。
「ん・・・?」

 リリィベルは、少し恥じらいながら口にした。

「私達の・・・・」



 口にしようとした途端に、ズキン・・・と胸が痛んだ。

「・・・・いえ・・・・なんでもありません・・・。

 あなたとなら・・・いつでも・・・どこでも・・・私は行きます・・・。」


「リリィ・・・?」
 少し不思議そうな顔をしたテオドールだった。
 けれど、リリィベルは胸の痛みを笑顔で隠した。

「私は・・・あなたといつまでも・・・・生きます・・・。」


「・・・あぁ・・・」

 テオドールは、その笑顔に安堵していた。
 リリィベルの笑顔の下に隠れた胸の痛みは、リリィベルだけのもの・・・。



 口にしようとしたら・・・胸が痛む・・・。

 私の思い描く未来を・・・。


 いつか訪れると・・・信じてやまない未来を・・・・・。


「・・・テオ・・・愛しています・・・・・。」

 その言葉に託して・・・。


 星空を見上げたテオドールは、笑顔で居た。

「あぁ・・・俺も・・・お前を愛してる・・・・・。」



 約束された未来。信じてやまない未来。
 いつか訪れる未来。



 この先、何があっても一緒だと・・・・。

 何度もそう思う・・・。


 身体にそれを刻む様に、何度もそう強く思った。




 その日の夜、2人はホテルのベッドの上で、一つのなれそうなくらい抱きしめ合って眠った。
 未だ解き放つ事の出来ない熱くて甘い思いを抱きしめて。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...