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その目を凝らして 15
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軽食を済ませた2人(イーノク付き)は街へ出た。
昨日も見回った街だが、騎士が囲まない二回目のデートに2人は胸を弾ませていた。
イーノクは言いつけ通り2人の視界には入らない所で護衛に徹している。
2人は仲良く手を繋いで歩いていた。
「テオ、とても活気ある街ですね。ここは・・・少し小さくした王都みたいです。」
「あぁ、領主を失ってもこれだけ領民が元気で、安心だ。」
時折手を振る領民に答えるテオドール。自信満々と店の商品を広げる店主たちは元気そのものだ。
街中を歩くと、爽やかなオレンジの香りがしてくる。
「皇太子殿下!リリィベル様!是非飲んでいってくださいな!!」
元気のいいフルーツ店の中年の女性店主が2人にオレンジジュースを差し出した。
まさに絞った100%ジュース。
「この領地、いや!帝国一のオレンジジュースです!」
1つの大きなカップ。
皇太子はそれを受け取った。
「店主よ。いくらだ?」
「お代はいりません!皇太子殿下お飲みになったと大々的に宣伝します!」
豪快に笑う店主につられて皇太子も笑った。
「ならば商売繁盛を祈って頂くとしよう。」
「殿下にご賞味いただけて光栄ですっ!」
テオドールはカップを手に持ったオレンジジュースをゴクっと一口飲む。
それは甘いのにさっぱりとした爽やかなジュース。果肉入りだ。
「リリィ、とてもうまい。飲んでみろ。」
そう言ってカップの口をリリィベルに向けた。
「はい殿下」
テオドールのカップを持つ手に両手を重ねて、一口飲んだ。
口に入れた瞬間に、リリィベルも目を見開く。
「おいしいですね!とっても甘い・・・。この地のオレンジだからなのですね?」
「ははっお城の飲み物も美味しいでしょうが、この地に来て、この地で飲むから最高でしょう?」
店主は自慢げに言った。
まさに、そこでしか味わえない、普段とは違う場所に来て口にする特別なものは美味い。
「ありがとう。思い出になりそうだ。」
「殿下もリリィベル様も仲が宜しくて嬉しい限りですよ。有名ですよ?
1つの飲み物を分け合うって!なのでカップを一つだけ用意したんですから!」
「っ・・・店主さんっ・・・。」
リリィベルは顔を真っ赤にした。それは婚約パーティーでの出来事だ。
「ほぉ、広まっているんだな?」
「そりゃぁ皇太子殿下たちがとても仲睦まじいと、帝国は安心ですよ!
これからもずっと仲良くいて下さいね!ご結婚式にはうちのオレンジ送りますよ!」
「はははっ!そうか!それは是非頼みたいな。触れが出たら城へ送ってくれ。
代金は弾んでやるぞ。」
「さすが皇太子殿下!あたしゃ貴方様のその裏表のない振舞いが好きですよ!」
「私もそなたの様な者らが嬉しいのだ。どうもありがとう。ジュースは愛する妃と頂くよ?」
「はい!お幸せに!殿下!リリィベル様!」
店主は明るい笑顔で二人にそう言った。気軽にそんな事を言える民は居ないだろう。
下手したら軽口をたたいて罪になったかもしれないのに。
けれど、これは民からの祝福だった。テオドールはそれを笑って受け入れるのだった。
皇族が身近な存在であることが、テオドールと皇帝陛下の目指す道だった。
今まで、妨害されるばかりでいた。婚約パーティーを開いても、貴族達はその立場を欲しがり妬み羨ましがり、心からの祝いなど数少ない。けれど、民衆達は自分たちの婚約をこうして喜んでくれる。
テオドールは上機嫌だった。
その後も、2人でオレンジジュースを分け合い、店に立ち寄っては祝いの言葉をもらう。
それが何より嬉しくて、皇太子の財布の紐は緩み切っていた。
近くに駆け寄る子供たちの分まで買い与える程だ。
2人はずっと笑っていた。民衆達の温かな言葉に胸が温まる思いだった。
陽が暮れて2人はラグロイアへと戻った。扉の前でやっとイーノクが姿を現した。
「楽しんでおられましたね。殿下。」
「あぁ。ここはいい地だ。きっともっといい地になる。」
自分で選んだ信頼できる侯爵。活気のある領民達。
孤児院の事はあるが、それも解決できたも同然だ。こうして自分の足で周り、
生の声を聴いて、この国を豊かにするために働く。そして然るべき臣下を据える。
やっと、希望に一歩近づいたような気持になった。
ホテルへ入ると、ゲトランではない者が出迎えてくれた。
「初めまして。皇太子殿下、リリィベル様。」
その男は若く、ホテルの制服に身を包んでいた。
「・・・そなたは?」
「私は、ネルトンと言います。下級の使用人の私がお出迎えをすることをどうかお許しください。」
「・・・どういう事だ?」
赤茶色の短髪にまだ若い活気ある瞳のその少年。
「私は、この領地の孤児院出身です。ベルシュ様からお話を聞いて、
こうして無礼ながらお出迎えをさせて頂きました。」
皇太子は、微笑んだ。
「そうか。ネルトン。そなたは、ずっとあの孤児院を支えてくれていたのだろう?」
「この度は、孤児院の子供たちを救っていただいて・・・ありがとう御座いました。」
「何を言うんだ・・・。そなたも被害に会っていたのではないか?」
ネルトンは少し目を伏せた。けれど、その瞳は曇ってなどいなかった。
「被害はなかったとは言えません。ですが、殿下にこうして声が届き、孤児院を救っていただけた事。
本当に・・・嬉しく思います・・・。ランドール侯爵は・・・孤児院の事は目を向けてくれませんでした。
ベルシュ様だけが・・・。」
「そうか・・・。来るのが遅くなってしまった・・・。そなたはいくつだ?」
「僕は15歳です。でもこうして、ベルシュ様にここで雇ってもらって働いています。
孤児院での事は、今となっては教訓です。今の僕がこうして生きられるのも、あのつらさがあり・・・。
ベルシュ様の様な方に拾っていただいたからです・・・。そして今は、皇太子殿下が、
今の子供たちを救って下さいました。感謝をお伝えしたくて、こうしてお出迎えさせて頂きました。
本当に、ありがとう御座いました。子供たちはベルシュ様の御屋敷にいると聞いています。
孤児院も修繕して下さると‥孤児院を出てここにいる者は6人。
殿下にお目に掛かれればありがたいです。皆、殿下に一目お会いしてお礼を申し上げたいと・・・。」
「礼などいらん・・・。だが、是非顔を見せてくれ。この胸に留めておきたい。」
皇太子の言葉に、ネルトンは無邪気な笑顔を浮かべた。
「ありがとう御座います!皇太子殿下っ!!ご不便がありましたら何でも言って下さいね!!
あっ、夜の船は僕が用意しておきました!どうかお楽しみくださいね!!」
その意気込み溢れる元気さに皇太子とリリィベルは微笑んだ。
あのような劣悪な環境にいながらも、子供たちは希望を捨てずにこんなに笑顔で居てくれる。
皇太子には、それが何よりもありがたかった。
「あっ、お食事はメイドのラリサとレニーがご用意します!2人も孤児院の出身ですが、
ベルシュ様が、殿下にお会いできるようにして下さって・・・。仕事は完璧ですから!」
「ははっありがとう。楽しみにしてるよ。」
「はい!では、どうか当ホテルの夕食をお楽しみくださいね!」
そう言うと、ネルトンは下がった。側ではゲトラン子爵も笑顔で見守っていた。
「殿下、おかえりなさいませ。」
「あぁ、そなたもありがとう。わざわざ孤児院の者達を連れてきてくれたのだろう?」
ゲトラン子爵はにっこりと笑った。
「孤児院での話を聞いて、是非皆が殿下に一言お礼が言いたいと言っていましたので。
仕事も申し分ない子達です。当ホテルは実力があれば、産まれは関係ありませんので。」
「そうか。それは好ましいな・・。夕食も楽しみにしてるよ。」
「はい皇太子殿下。では、お部屋までご案内を。」
「ありがとう。」
ゲトラン子爵に続き、部屋へと戻った。
部屋にはカタリナとフランクが居て、2人の帰りを待っていた。
「おかえりなさいませ!リリィベル様!」
「カタリナ!ただいま!」
「リリィベル様、お夕食の前にご入浴の準備をしております。お疲れでしょう?」
「ありがとう。嬉しいわ。」
リリィベルはテオドールの頬に口付けた。
「テオ、私は入浴して参りますね?」
その口付けを受け、テオドールも微笑んだ。
「あぁ、一緒に入ろうか?」
「ふふっ、もぉっ・・・・。」
リリィベルは少し頬を赤くして流すようにした。大波に飲まれないように。
カタリナとバスルームへ向かう。
「・・・くそ・・・流しやがって・・・・。」
テオドールは少しいじけた。
「あんまりがっついていると嫌がられますよ?」
フランクがそばで笑った。そのフランクをテオドールはギロっとにらんだ。
「俺が嫌われる訳ねぇだろ!がっついてるってんならもうあいつは骨も残らず食われてる!!」
「・・・明け透けな・・・・」
フランクは肩を落として呟いた。
元々率直な人間であるのは間違いない。だが、誰にもそれを包み隠さない。
それが、長所でもあり、短所でもある。
少し不機嫌になったテオドールに、フランクは更に不機嫌の爆弾を落とすのだ。
「お疲れな所申し訳ありませんが、殿下も入浴を済ませたら、お仕事。なさってくださいね。」
「くそっ・・・お前は置いてくるんだった。」
「私を置いて言ったら、誰が殿下の仕事を整理すると言うのですか?」
「ふんっ・・・わーってるよ!」
むくれた顔のテオドールにフランクは苦笑いを浮かべた。
それでも、パラパラと書類に目を通してくれるだけマシだった。
フランクは微笑んだ。
「夜も、2人で花園へ行かれるのでしょう?」
テオドールはピクっと動きを止めた。
むくれていた顔はだんだんと表情を和らいでいく。
「ん・・・まぁな・・・。」
素っ気なく返したが、テオドールは既に嬉しそうだった。
「えぇ、ですから入浴して、ご夕食の前に仕事を片付けて。楽しい時間をお過ごしください。」
「そうだな。俺仕事残すの好きじゃねぇし・・・。」
「はい。その日に仕事を片付けて下さる殿下を尊敬しておりますよ。」
乗りに乗せた。こうしておけば、テオドールは見事に仕事を片付けるだろう。
「あ、花園にはイーノク卿とアレックス卿も護衛で着くそうですけど。」
「・・・・・・・・・あ゛ぁん?」
濁ったドスの聞いた声と、鋭く吊り上がった眼。
「昼にも就くのに、夜に付かない訳ないでしょう?」
「ぃらねーよ・・・・ムードぶち壊す気か・・・・?」
テオドールはフランクに詰め寄った。
青ざめた顔でフランクは後退る。
「とっ・・・とにかくイーノク卿とアレックス卿とご相談下さい!!」
「あぁ・・・そうだな・・・話し合わなきゃなぁ・・・・・。」
昨日も見回った街だが、騎士が囲まない二回目のデートに2人は胸を弾ませていた。
イーノクは言いつけ通り2人の視界には入らない所で護衛に徹している。
2人は仲良く手を繋いで歩いていた。
「テオ、とても活気ある街ですね。ここは・・・少し小さくした王都みたいです。」
「あぁ、領主を失ってもこれだけ領民が元気で、安心だ。」
時折手を振る領民に答えるテオドール。自信満々と店の商品を広げる店主たちは元気そのものだ。
街中を歩くと、爽やかなオレンジの香りがしてくる。
「皇太子殿下!リリィベル様!是非飲んでいってくださいな!!」
元気のいいフルーツ店の中年の女性店主が2人にオレンジジュースを差し出した。
まさに絞った100%ジュース。
「この領地、いや!帝国一のオレンジジュースです!」
1つの大きなカップ。
皇太子はそれを受け取った。
「店主よ。いくらだ?」
「お代はいりません!皇太子殿下お飲みになったと大々的に宣伝します!」
豪快に笑う店主につられて皇太子も笑った。
「ならば商売繁盛を祈って頂くとしよう。」
「殿下にご賞味いただけて光栄ですっ!」
テオドールはカップを手に持ったオレンジジュースをゴクっと一口飲む。
それは甘いのにさっぱりとした爽やかなジュース。果肉入りだ。
「リリィ、とてもうまい。飲んでみろ。」
そう言ってカップの口をリリィベルに向けた。
「はい殿下」
テオドールのカップを持つ手に両手を重ねて、一口飲んだ。
口に入れた瞬間に、リリィベルも目を見開く。
「おいしいですね!とっても甘い・・・。この地のオレンジだからなのですね?」
「ははっお城の飲み物も美味しいでしょうが、この地に来て、この地で飲むから最高でしょう?」
店主は自慢げに言った。
まさに、そこでしか味わえない、普段とは違う場所に来て口にする特別なものは美味い。
「ありがとう。思い出になりそうだ。」
「殿下もリリィベル様も仲が宜しくて嬉しい限りですよ。有名ですよ?
1つの飲み物を分け合うって!なのでカップを一つだけ用意したんですから!」
「っ・・・店主さんっ・・・。」
リリィベルは顔を真っ赤にした。それは婚約パーティーでの出来事だ。
「ほぉ、広まっているんだな?」
「そりゃぁ皇太子殿下たちがとても仲睦まじいと、帝国は安心ですよ!
これからもずっと仲良くいて下さいね!ご結婚式にはうちのオレンジ送りますよ!」
「はははっ!そうか!それは是非頼みたいな。触れが出たら城へ送ってくれ。
代金は弾んでやるぞ。」
「さすが皇太子殿下!あたしゃ貴方様のその裏表のない振舞いが好きですよ!」
「私もそなたの様な者らが嬉しいのだ。どうもありがとう。ジュースは愛する妃と頂くよ?」
「はい!お幸せに!殿下!リリィベル様!」
店主は明るい笑顔で二人にそう言った。気軽にそんな事を言える民は居ないだろう。
下手したら軽口をたたいて罪になったかもしれないのに。
けれど、これは民からの祝福だった。テオドールはそれを笑って受け入れるのだった。
皇族が身近な存在であることが、テオドールと皇帝陛下の目指す道だった。
今まで、妨害されるばかりでいた。婚約パーティーを開いても、貴族達はその立場を欲しがり妬み羨ましがり、心からの祝いなど数少ない。けれど、民衆達は自分たちの婚約をこうして喜んでくれる。
テオドールは上機嫌だった。
その後も、2人でオレンジジュースを分け合い、店に立ち寄っては祝いの言葉をもらう。
それが何より嬉しくて、皇太子の財布の紐は緩み切っていた。
近くに駆け寄る子供たちの分まで買い与える程だ。
2人はずっと笑っていた。民衆達の温かな言葉に胸が温まる思いだった。
陽が暮れて2人はラグロイアへと戻った。扉の前でやっとイーノクが姿を現した。
「楽しんでおられましたね。殿下。」
「あぁ。ここはいい地だ。きっともっといい地になる。」
自分で選んだ信頼できる侯爵。活気のある領民達。
孤児院の事はあるが、それも解決できたも同然だ。こうして自分の足で周り、
生の声を聴いて、この国を豊かにするために働く。そして然るべき臣下を据える。
やっと、希望に一歩近づいたような気持になった。
ホテルへ入ると、ゲトランではない者が出迎えてくれた。
「初めまして。皇太子殿下、リリィベル様。」
その男は若く、ホテルの制服に身を包んでいた。
「・・・そなたは?」
「私は、ネルトンと言います。下級の使用人の私がお出迎えをすることをどうかお許しください。」
「・・・どういう事だ?」
赤茶色の短髪にまだ若い活気ある瞳のその少年。
「私は、この領地の孤児院出身です。ベルシュ様からお話を聞いて、
こうして無礼ながらお出迎えをさせて頂きました。」
皇太子は、微笑んだ。
「そうか。ネルトン。そなたは、ずっとあの孤児院を支えてくれていたのだろう?」
「この度は、孤児院の子供たちを救っていただいて・・・ありがとう御座いました。」
「何を言うんだ・・・。そなたも被害に会っていたのではないか?」
ネルトンは少し目を伏せた。けれど、その瞳は曇ってなどいなかった。
「被害はなかったとは言えません。ですが、殿下にこうして声が届き、孤児院を救っていただけた事。
本当に・・・嬉しく思います・・・。ランドール侯爵は・・・孤児院の事は目を向けてくれませんでした。
ベルシュ様だけが・・・。」
「そうか・・・。来るのが遅くなってしまった・・・。そなたはいくつだ?」
「僕は15歳です。でもこうして、ベルシュ様にここで雇ってもらって働いています。
孤児院での事は、今となっては教訓です。今の僕がこうして生きられるのも、あのつらさがあり・・・。
ベルシュ様の様な方に拾っていただいたからです・・・。そして今は、皇太子殿下が、
今の子供たちを救って下さいました。感謝をお伝えしたくて、こうしてお出迎えさせて頂きました。
本当に、ありがとう御座いました。子供たちはベルシュ様の御屋敷にいると聞いています。
孤児院も修繕して下さると‥孤児院を出てここにいる者は6人。
殿下にお目に掛かれればありがたいです。皆、殿下に一目お会いしてお礼を申し上げたいと・・・。」
「礼などいらん・・・。だが、是非顔を見せてくれ。この胸に留めておきたい。」
皇太子の言葉に、ネルトンは無邪気な笑顔を浮かべた。
「ありがとう御座います!皇太子殿下っ!!ご不便がありましたら何でも言って下さいね!!
あっ、夜の船は僕が用意しておきました!どうかお楽しみくださいね!!」
その意気込み溢れる元気さに皇太子とリリィベルは微笑んだ。
あのような劣悪な環境にいながらも、子供たちは希望を捨てずにこんなに笑顔で居てくれる。
皇太子には、それが何よりもありがたかった。
「あっ、お食事はメイドのラリサとレニーがご用意します!2人も孤児院の出身ですが、
ベルシュ様が、殿下にお会いできるようにして下さって・・・。仕事は完璧ですから!」
「ははっありがとう。楽しみにしてるよ。」
「はい!では、どうか当ホテルの夕食をお楽しみくださいね!」
そう言うと、ネルトンは下がった。側ではゲトラン子爵も笑顔で見守っていた。
「殿下、おかえりなさいませ。」
「あぁ、そなたもありがとう。わざわざ孤児院の者達を連れてきてくれたのだろう?」
ゲトラン子爵はにっこりと笑った。
「孤児院での話を聞いて、是非皆が殿下に一言お礼が言いたいと言っていましたので。
仕事も申し分ない子達です。当ホテルは実力があれば、産まれは関係ありませんので。」
「そうか。それは好ましいな・・。夕食も楽しみにしてるよ。」
「はい皇太子殿下。では、お部屋までご案内を。」
「ありがとう。」
ゲトラン子爵に続き、部屋へと戻った。
部屋にはカタリナとフランクが居て、2人の帰りを待っていた。
「おかえりなさいませ!リリィベル様!」
「カタリナ!ただいま!」
「リリィベル様、お夕食の前にご入浴の準備をしております。お疲れでしょう?」
「ありがとう。嬉しいわ。」
リリィベルはテオドールの頬に口付けた。
「テオ、私は入浴して参りますね?」
その口付けを受け、テオドールも微笑んだ。
「あぁ、一緒に入ろうか?」
「ふふっ、もぉっ・・・・。」
リリィベルは少し頬を赤くして流すようにした。大波に飲まれないように。
カタリナとバスルームへ向かう。
「・・・くそ・・・流しやがって・・・・。」
テオドールは少しいじけた。
「あんまりがっついていると嫌がられますよ?」
フランクがそばで笑った。そのフランクをテオドールはギロっとにらんだ。
「俺が嫌われる訳ねぇだろ!がっついてるってんならもうあいつは骨も残らず食われてる!!」
「・・・明け透けな・・・・」
フランクは肩を落として呟いた。
元々率直な人間であるのは間違いない。だが、誰にもそれを包み隠さない。
それが、長所でもあり、短所でもある。
少し不機嫌になったテオドールに、フランクは更に不機嫌の爆弾を落とすのだ。
「お疲れな所申し訳ありませんが、殿下も入浴を済ませたら、お仕事。なさってくださいね。」
「くそっ・・・お前は置いてくるんだった。」
「私を置いて言ったら、誰が殿下の仕事を整理すると言うのですか?」
「ふんっ・・・わーってるよ!」
むくれた顔のテオドールにフランクは苦笑いを浮かべた。
それでも、パラパラと書類に目を通してくれるだけマシだった。
フランクは微笑んだ。
「夜も、2人で花園へ行かれるのでしょう?」
テオドールはピクっと動きを止めた。
むくれていた顔はだんだんと表情を和らいでいく。
「ん・・・まぁな・・・。」
素っ気なく返したが、テオドールは既に嬉しそうだった。
「えぇ、ですから入浴して、ご夕食の前に仕事を片付けて。楽しい時間をお過ごしください。」
「そうだな。俺仕事残すの好きじゃねぇし・・・。」
「はい。その日に仕事を片付けて下さる殿下を尊敬しておりますよ。」
乗りに乗せた。こうしておけば、テオドールは見事に仕事を片付けるだろう。
「あ、花園にはイーノク卿とアレックス卿も護衛で着くそうですけど。」
「・・・・・・・・・あ゛ぁん?」
濁ったドスの聞いた声と、鋭く吊り上がった眼。
「昼にも就くのに、夜に付かない訳ないでしょう?」
「ぃらねーよ・・・・ムードぶち壊す気か・・・・?」
テオドールはフランクに詰め寄った。
青ざめた顔でフランクは後退る。
「とっ・・・とにかくイーノク卿とアレックス卿とご相談下さい!!」
「あぁ・・・そうだな・・・話し合わなきゃなぁ・・・・・。」
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