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その目を凝らして 11
しおりを挟む子供たちが柔らかな布団に包まり眠りについた頃。
応接間で、クーニッツ伯爵と皇太子、そしてリリィベルとフランクがその場にいた。
「クーニッツ伯爵。子供たちの受け入れには資金が必要だろう。孤児院の修繕も帝国から支援するから安心してくれ。」
「私は・・・子供が好きです。あの孤児院も不審に思う事がありましたが、子供たちは私がくると
笑顔で迎えてくれました。あんなに・・・つらい思いをしてたとは・・・。」
「あぁ・・・リックの事だろう。可哀そうな事だ・・・。」
クーニッツ伯爵は俯いた。けれど、弱々しく微笑んだ。
「はい・・・ですが・・・此処に・・・皇太子殿下が来て下さった事は幸運でした。」
その言葉に皇太子は眉を顰めた。
「いや・・・来るのが遅すぎたくらいだ・・・。まだ今日は視察の初日だ。
伯爵・・・私は、隣にいるリリィベルとの婚約で、たくさんの貴族を処罰した・・・。
リリィベルを狙い・・私を狙い・・・実の祖母まで・・・。」
「恐れながら、お気持ちはお察しします・・・殿下。」
その言葉に皇太子は軽く微笑んだ。
「そなたの様な者が居てくれて・・・私はとても嬉しく思っている・・・。
突然来た私達を受け入れ、孤児院の子供を救う事が出来た。ありがとう・・・。」
「とんでもございません。殿下・・・。」
「子供達にかかる費用は、明日には陛下の書状と共に届くであろう。」
「書状‥‥ですか?」
クーニッツ伯爵は、首を傾げた。
その様子に皇太子は笑みを浮かべた。
「ベルシュ・クーニッツ‥そなたに侯爵位を与え、このランドールをクーニッツと改め領主として治めてほしい。」
「えぇっ?!」
身体ごとビクッと跳ねて驚くクーニッツに皇太子とリリィベルは微笑んだ。
「今回の視察は、領主が居ない地で新たな領主を見つける為のものだ。私が直々に見てまわる事。だが、正式に爵位授与があるから、それまでは仮の責任者としてこの地を守っていてほしい。」
「っなっ‥‥‥えっ?!」
「初日で決めるとは思わなかったが、そなたのその優しさに胸を打たれた。子供達を大事にするそなたなら私は信じられる。」
皇太子は、その凛々しい真剣な瞳で告げた。
「ベルシュ・クーニッツ。俺の期待を背負えるか?私は、信頼できる者を据えたい。
そなたは、私の信頼に足る男だ。皇帝陛下に誓って、この爵位を受け入れるか?」
ベルシュは、ソファーから立ち上がり、皇太子の前に膝をついた。
「皇太子殿下・・・私は、皇帝陛下と皇太子殿下に生涯忠誠を誓います。
陛下と、殿下の正義を守る貴族として・・・。」
「信じている。出来る限りの支援をするから、遠慮なく言ってくれ。
俺が城に戻るのは3週間後、陛下と日程を調整し知らせを出す。爵位授与式に参上せよ。」
「はい。皇太子殿下・・・。」
こうして、領主のいないこの土地は、ベルシュ・クーニッツが侯爵位を与えられ、
クーニッツ領地になる事が決まった。
長い話し合いを終え、皇太子とリリィベルはゲストルームに戻った。
寝支度をした2人は、すでにベッドの中だ。腕枕をして抱きしめ合っていた。
もぞっとリリィベルはテオドールを見上げた。
「テオ?」
「なんだ?」
「初日から・・・お疲れさまでした。」
「お前こそ・・・疲れただろう。」
「ふふっ・・・こんなに歩いたのは久しぶりだったので・・・いい運動でした。」
「令嬢が歩く距離ではなかったな・・・。お前だけでも馬車に乗せるべきだったと後悔している」
「そんなっ・・・嫌ですっ・・・。」
リリィベルは眉を顰めた。
「私だけ・・・馬車で、みんなを歩かせるなんて嫌ですっ・・・・。」
「ははっ・・・そうか・・・。俺が治癒魔術を覚えていて良かった。」
「ふふっ・・・ありがとう御座いました。」
「お前には傷一つ付けたくないんだがな・・・。」
「こんな傷なら・・・私は構いません。あなたと一緒に歩む事が出来ました・・・。」
テオドールはリリィベルの額に口付けた。
「お前は・・・本当に・・・どうしてそんな可愛い事ばかり言うんだ?技なのか?」
「本心ですよ?」
「本当、俺の心を擽る天才だ。」
「私はいつも・・・あなたに翻弄されております。」
「はっ・・・よく言う。お前は、自分の破壊力を理解していないな。」
「それは・・・テオの方です。あんな風に・・・。」
そう言うとリリィベルはテオドールの胸に顔を埋めた。
「あんな風・・・?」
「・・・・・・・」
テオドールはリリィベルの太ももを服の上からなぞった。
「っ・・・テオっ・・・。」
「・・・・こんな風?」
「ずるいですっ・・・。」
「ふっ・・・最近そう言うな?」
「それはテオがそう言わせているのです・・・。」
リリィベルは、テオドールの胸元をぎゅっと掴んで、テオドールを見上げた。
「我慢しているのが・・・あなただけだと・・・思うのですか・・・?」
「・・・・・・・」
リリィベルの少し潤んだ瞳が暗い部屋の中なのに、星が光るように見えた。
「あぁ・・・お前も、俺を待っているか・・・・?」
「・・・・はしたないですか・・・?」
「愛する女に言われて、喜ばない男が・・・この世にいる訳ねぇだろ・・・。」
テオドールは、リリィベルの唇を塞いだ。
きつく抱き合って、身を焦がした。
部屋中が、愛でいっぱいになる程・・・・口付けを交わした。
今は・・・ここまで・・・・。
「っ・・・テオ・・・・。」
「リリィ・・・・。」
暗い部屋の中で、互いの名を呼ぶ声と、その体温を感じる。
それだけで、いつかたどり着く日に思いを募らせる。
全身が喜ぶ・・・一日一日と・・・濃くなって止まらないその愛が・・・。
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