ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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その目を凝らして 10

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 エドガーをみんなの元へ返し、テオドールは机を前に座り羽ペンを走らせていた。
 元ランドール領の現状、孤児院の現状、これから掛かる予算。子供たちを世話をする伯爵への支援。
 まとめる事はたくさんあった。

 そうしてる間に、リリィベルとカタリナがバスルームから出てきた。
 扉の開ける音にも気づかずにテオドールは集中していた。

 リリィベルとカタリナはその様子を見て、静かに微笑んだ。カタリナはそっと部屋を出て行った。

 リリィベルはソファーに座りクッションを抱くと、テオドールの様子をずっと見ていた。

「・・・・・・・」
 髪をかき上げる仕草・・・。耳たぶを触る癖・・・・。
 考え込むと指輪を触る癖も出来た・・・。

 その癖にリリィベルは愛しそうに微笑んだ。

 何時間でも見て居られそうだった。

 テオドールが羽ペンを指で回して考え込んでいると、ポタリと指から滑り落ちた。
「んふっ・・・。」

 それに軽く笑ったリリィベルの声に、テオドールはやっとその存在に気付いたのだった。
「リリィ・・・いつから・・・」
「ふふっ・・・すごく集中していらしたので・・・。
 その真剣な姿が素敵で・・・見ていたくて・・・・。」

 リリィベルの微笑みにテオドールは笑みを浮かべた。

「なんだ・・・すぐ抱きしめにきてくれれば良かったのに。」
 そう言って立ち上がると、側に寄り隣に座った。
「ふふふっ・・そうしたかったのですが・・・。今日の事でお忙しかったですから・・・。
 邪魔したくなかったのです。」
「邪魔なもんか・・・でも、ありがとう・・・。」

 そう言いながら、テオドールはリリィベルの足を自分の膝に乗せた。
「あっ・・・テオ・・・っ?」
 慌ててリリィベルはドレスの裾を掴んだ。
 その姿にテオドールは悪戯な笑みを浮かべた。

 スーッとその細い足を撫で上げた。
「どうした?」
「っ・・・テオったら・・・・」
 頬を赤くしてグッとテオドールの胸に手を当てた。
「何の真似だ?お前の飛び込む胸だぞ?押しのけるのか?」
 ぐっと腰を引き寄せてそのままリリィベルを膝に乗せた。

「テオッ・・・」
 慌ててるリリィベルを見つめて、そのままスッとリリィベルの傷に手を当てた。
 淡い黄金の光が足元で輝いていた。

 痛みの引きにリリィベルが目を丸くした。
「傷を治したんだ。この先、何を想像していた?リリィ?」
 鼻先がくっつく程テオドールはリリィベルに詰め寄った。
「あっ・・・もぉ・・・っ・・・」
 頬を膨らませてリリィベルはテオドールの両肩に手を乗せた。

「ずるい・・・」
「俺はずるい男だ・・・。」
「・・・悪い方っ・・・。」
「でも・・・好きだろ・・・?」

 柔らかなテオドールの笑みに、リリィベルは微笑んだ。
「えぇ・・・愛しています。」

 そう言って、唇を寄せた。

 名残惜しく唇が離れると、リリィベルはテオドールの手を取った。
「いつから魔術を・・・?」
「あぁ・・・ずっと、ハリーと研究してたんだ。」
「傷を治す魔術は・・・初めて見ました。」
「俺とハリーが考え出した魔術だ。」
「私の王子様は、魔術師になられたのですね?」

「まぁ・・・今は試験段階だ。これがうまくいったらハリー達が世の中に出られるかもしれないだろ?」
「うふっ・・・優しいお方。」
 そう言って頬に口付けた。それに軽く笑ってテオドールはリリィベルを見た。
「俺はずるくて悪くて優しい魔術が使えるお前の王子様か?」
「えぇ・・・素敵な王子様・・・。」
「ありがとう、綺麗な愛しい女神様。」
 笑って、ぎゅっと2人は抱きしめ合った。


 孤児院の子供たち全員が風呂に入り終わった頃、夕食の声がかかった。
 2人は手を取り合ってダイニングルームに入った。

「あら、ベル~。」
 リリィベルは、綺麗になったベルを見つけて駆け寄った。
「おひめさま!見て?ベルの髪きれい?」
 髪の両端を掴んでベルは無邪気に見せてくれた。
「とっても綺麗。お風呂はどうだった?気持ちよかった?」
「うん!ふわふわの雲がいっぱいお湯に浮かんだんだよ!?」
「ふふっ楽しかったのね?良かったわね。」

 クーニッツ伯爵が皇太子に近づいた。
「殿下・・・本当に皆と一緒で良かったのですか?」
「あぁ、食事は皆で食べるから美味しいんだ。この楽しみを分かち合おう。
 俺達2人だけでは寂しいだろう?・・・時と場合によるがな?」

 そう言うと、皇太子とリリィベルは伯爵に上座へ案内された。

「クーニッツ伯爵、食事を用意してくれて感謝する。では頂こうか?」
「えぇ、みんないただきましょう?」
 リリィベルが声を掛けると、子供たちは嬉しそうに食事を頬張った。

 その様子を大人たちは笑ってみていた。


 どんな世界にも食に飢えてる子はいるだろう。こうして温かな食事を口にできた子達は幸運だった。
 これまでのつらい時間から解放されて、ここにいる子供たちは新しい生活へと進んでいく。

 皇太子が、こうしてその足で周るように、いつも誰にでも、新しい明日がやってくる。
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