ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

文字の大きさ
上 下
112 / 240

その目を凝らして 4

しおりを挟む
「前にも来ましたが・・・馬車から見るとまた違った印象ですね。」

早朝に城を出たテオドールとリリィベルは、すでに城下まで降りてきていた。
行列を成す馬車から見えたのは、これから賑わう出店を営む国民たちの慌ただしい朝だった。

「あぁ、店を出すのに、今が一番忙しいだろう。俺も幼い頃に母上と花屋をしていた時、
この時間はいつも母上が忙しくしていたな。」

「そうですか。お義母様は・・・きっと楽しくしていたのでしょうね。」
「あぁ、父上と離れていたのに、笑顔はいつも変わらなかった。」
懐かし気に話すテオドールと向き合って座っているリリィベルはその姿を思い浮かべて微笑んだ。

「小さい頃のテオが・・・目に浮かびます・・・。」
「そうか?姿絵を見たのか?」

「あ・・・いいえ・・・。想像したのです。きっと・・・可愛らしい御子だったのだろうと。」
「ははっ・・・そうか。では今は?」

悪戯に微笑んだテオドールは、じっとリリィベルを見つめた。
その視線に頬を染めたリリィベルは、小さく呟く。

「・・・とても・・・格好良くて・・・素敵です・・・・。

何度も・・・・。」

リリィベルは、愛しい視線を返した。

「何度も・・・恋をしてしまいます・・・。」

「・・・何度も?」
テオドールは、リリィベルの手をとった。

その手の甲に口付けをして、リリィベルを見上げた。
リリィベルは、その姿を熱にのぼせたように見つめ返した。

「はい・・・今も・・・何度も・・・。」

「・・・俺も・・・お前を見るたび・・・愛しい・・・。」
リリィベルの手を引いて、そっと顔を寄せた。

引き寄せられて、唇を重ねる。


俺たちは・・・


運命の番(つがい)で・・・恋では言い尽くせない・・・。


魂ごと、愛してしまう存在・・・。


この胸を熱くさせるのは・・・


いつも、その瞳・・・・。



イーノクとアレックスは、皇太子と婚約者の馬車に並行し両側で馬に乗っていた。
馬車の窓にカーテンがついているにも関わらず、
2人は、向かい合ったまま口付けをしている。

それを横目に見た2人は、馬車の窓越しに目が合った。


・・・いつものことだ・・・・


そう、彼らの心は通じていた。

気にしていたら、2人の側で護衛は出来ない。
まさに皇室第二騎士団の理念とも思われる。

リリィベルを見る目は姪っ子の境地。


そして、思う。


カーテン閉めてくれればいいのに・・・・。



初めにやってきたのは、城から2時間ほど離れた最初に拘束したランドール領地だ。ほとんどの貴族が、王都にタウンハウスを建てているが、領地は別だ。ランドールには三家の伯爵家が存在したが、そのうちニ家の伯爵家が闇ギルドに関わっており処刑されている。残ったのは、クーニッツ伯爵家。クーニッツには、夫婦と、まだ幼い息子が2人。当然皇太子と婚約者に害する思いはなかった。だが、会って話をしなければ腹の内はわからない。


領地に入り一際大きなクーニッツ伯爵家の邸の前に馬車を停めた。

イーノクが、門番にテオドールの訪問を伝えると、
門番が慌てて門を開いた。


まずはテオドールとリリィベルの乗った馬車が玄関前まで向かう。


クーニッツ伯爵と夫人は慌てて玄関へやっていた。
それも当然だった。

「皇太子殿下!ごっ‥ご挨拶申し上げます!」
息絶え絶えでやってきた少し小太りの男性と、その夫人。
似たもの夫婦だった。夫人は少し辛うじてカーテシーで礼をした。その様子を皇太子は笑みを浮かべてみている。

「あぁ、突然の訪問で申し訳ない。ベルシュ・クーニッツ伯爵、婚約パーティーにもきてくれていたな。今日は私の婚約者リリィベルも一緒だ。」
そう言われて、リリィベルは綺麗なカーテシーをしたのだった。
「リリィベル・ブラックウォールでございます。」

並んだ2人から後光が刺すほど2人は美しかった。

「殿下‥‥此度は何用で‥‥」
恐る恐るクーニッツ伯爵が口を開いた。

「そうだった。今日はこのランドール領地を見たくてな。
今晩貴殿の屋敷に泊めてもらえるか?」
「わっ‥私の屋敷にですか?!」
「あぁ、たくさん見回るから、私の大事な婚約者を連れて夜に帰る事は出来なくてな。私は彼女が大切で仕方ないのだ。

どうだ?部屋はあるだろう?」

「しっ‥しかし‥我が家に皇太子殿下と婚約者様をお泊めする準備など‥‥」
「あぁ、それは気遣いは無用だ。ありのままで居てくれ。
とりあえず、良いな?」

皇太子は常に皇太子の仮面を崩さなかった。
有無を言わせぬ作戦だ。

「っ‥光栄でございます‥なんのおもてなしも出来ませんが‥‥精一杯手を尽くしますので、何かあれば何なりとお申し付け下さい。」

伯爵は覚悟を決めて、深々と頭を下げた。
夫人も、夫に従い柔らかく笑みを浮かべた。

その様子を見て、テオドールは満足気だった。


そう、これは、突撃訪問。
変に繕わず、不正を慌てて隠させない為の作戦だった。
それでも後ろ暗い者は、どんな手を使っても何かを隠そうとするだろう。

まだこれは始まったばかりなのだ。

「では、殿下、リリィベル様、ゲストルームへご案内致します。」

「あぁ、ありがとう。ここまで約2時間馬車に揺られたのだ。着いて早々厚かましいが、私の婚約者にお茶を用意してくれるか?」

クーニッツ伯爵は微笑んだ。
「もちろんでございます。ランドール領地の名産の紅茶をご用意させて頂きます。」

「あぁ、それは楽しみだ。では行こうか。リリィ。」
「はい、テオドール殿下。」
腕を出して、テオドールはリリィベルをエスコートした。

玄関ホールの観葉植物の陰に、5~6歳ぐらいの子供が隠れていた。

皇太子とリリィベルの姿を目をキラキラさせて見た。

「ニック!見たか?お姫様だ!」
「ザック!王子様だ!」

2人は向かい合って興奮していた。
クーニッツ伯爵夫人はハッとよく観葉植物に隠れている
2人を見た。

「ニコライ!アイザック!」
「「わぁぁ!」」

名前を呼ばれて、ビクッと2人の体が跳ねた。

「まぁ、可愛い!」
リリィベルが、2人を見つけて笑った。
「テオドール殿下!この子達を見てください!とても可愛らしい子。」
「お、この子らがクーニッツ伯爵家の息子達だな?」

「はい殿下、長男のニコライと、次男のアイザックでございます。」
子供達の肩を抱き、夫人は頭を下げた。

「そうか、クーニッツ家代々騎士と官職についていたな。
さぁーて、どちらがその血を引き継いでいるのかな?」

皇太子とリリィベルは2人を笑顔で見つめた。

するとニコライが胸に手を当て頭を下げた。
「皇太子でんか、ニコライ・クーニッツです。ごあいさつもうしあげます。」

「ふっ、ありがとうニコライ、今晩はそなたの屋敷で世話になるが、構わないか?」
大きな目をパチクリさせてニコライは皇太子を見上げた。
「お泊りなさるのですか?」
「あぁ、視察の後彼女を休ませたいんだよ。」


「天使様を?」
そう言ったのはアイザックだった。
「ふっ、あぁそうだ。俺の婚約者は羽が生えていて疲れると飛べないから」
「ちょっ‥‥テオドール殿下っ‥」
リリィベルか恥ずかしそうに袖を引っ張った。

「お前がアイザックだな?」
「えっ?あ、はい!」
堂々として物怖じしてない。
2人を交互に見つめてテオドールは笑みを浮かべた。
「なるほど、よい息子達に恵まれているな夫人。」

「恐れ入ります。殿下‥‥」
夫人は深くお辞儀をした。

「ニコライ、アイザック、また後でな。行こうリリィ

「はい殿下‥。」

またエスコートを始めるとリリィベルはまた天使のような綺麗な笑顔を浮かべた。


「「やっぱり天使っているんだね」」
ニコライとアイザックが顔を見合わせて口にした。


「本当、お綺麗ね‥」
ベルシュに続き歩く皇太子とリリィベルを見ながら夫人も呟いた。

その天使のような姿を数多から欲しがられた婚約者。
愛されし美貌は城の大ホールの照明でも、着ていたドレスのせいでも無かった。

夫人は呟いた。
「アレクシス様に祝福を与えられた様な存在ね。
本当に綺麗‥‥。」



階段を上がった2階の大きなゲストルームに2人は通された。

「どうぞ、こちらをお使いください。」
「あぁ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「お茶をご用意致します。」
「助かるよ。リリィ、ここに‥」
皇太子はリリィベルをソファーに座らせた。

ベルシュが部屋から下がった。
「‥‥‥‥‥」

皇太子はリリィベルから少し離れて窓から外を眺めた。
屋敷の管理は行き届いている。突然押しかけたこの部屋も綺麗に整っていた。それは普段から屋敷に気を配っている。
そして優秀なメイドや使用人が居るという事だ。

皇太子は、ポケットからロスウェルの小瓶を取りだし、
手の甲に一滴垂らすと、手袋をした。

これから飲み物が運ばれてくる。
警戒や、人を見るのは伯爵の血筋だけでは無い。
一時的な心眼を持ち、誰かが何もしてこないかを見るためでもある。

「テオ、クーニッツ家のお子様達、とても可愛らしい子達でしたね。」
「あぁ、そうだな。」

リリィベルが楽しそうだ。テオドールは、その言葉に振り返り、窓際から離れるとリリィベルの隣に腰を下ろした。

「私達の子は、それ以上にきっと可愛いぞ?」
リリィベルの耳元でそっと囁いた。
「っ‥‥‥テオっ‥‥はっ‥‥‥」
顔を真っ赤にしたリリィベルの手をそっと握った。
「恥ずかしい?そんな事言ってられないだろ?
お前は俺に食われるんだ。口付けで我慢してるぞ‥

初夜がとても、楽しみだ。」
テオドールはリリィベルの額に口付けをした。

「テオっ‥‥‥」
目に、耳に、頬に口付けをした。
「ベルシュが来るまでだ。俺に力を与えてくれ‥‥。
これから視察に出るんだぞ。」

「っ‥‥」
目を閉じて、その口付けに酔いしれそうになる瞬間。
扉の外から声がかかった。

「殿下、荷物運んで参りました。」
先にイーノク達がきたようた。


体を離した皇太子は扉を睨みつけた。


「‥‥‥入れるもんなら入ってみろ‥‥」
ドスの効いた声で返事を返した。




「‥‥‥‥‥」
扉の前で沈黙したイーノクがそこに立っていた。

ガチャっと扉を開けた。
「‥‥失礼します。」
「‥‥チッ‥‥不敬なっ‥‥」
皇太子は嫌がらせだとばかりに、顔を顰めた。
けれど、イーノクは笑顔で口を開く。

「殿下を待っていると日が暮れますから。」


第二騎士団はその強さと皇太子へ忠誠心の強い者達ばかり。
そして、とても仲がいい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...