ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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愛がなければ

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寝支度を終えたテオドールとリリィベルはソファーに座った。

いつもの様にテオドールの膝の間にリリィベルが収まり、
テオドールがリリィベルを後ろから抱きしめた。

「リリィ、お前やはり痩せただろ?」
「‥テオも痩せました。」
「あ、認めたな?」

「っ‥食事が‥喉を通らないのです‥
今夜も‥‥お義父様を思うと‥‥私だけ‥呑気に食べていられません‥」
「分かってる‥‥俺だって同じだ‥‥」
「3日後‥なのですよね‥‥」
「あぁ‥でも、もう闇ギルドも制圧した今、暗殺者は来ない‥父は有言実行な方だ‥‥お前と俺の為に‥手を尽くしてくれた‥‥」

「はい‥‥それがありがたく‥また‥‥悲しいのです‥。」
「罪は罪だ‥‥お前が悲しむ事では‥‥」
「お義父様を‥‥お救いしたいです‥‥」

その言葉にテオドールの手に力が籠った。


どんな因縁があろうとも、リリィベルを手放す事はできない。

そして、リリィベルに罪はない‥‥


アドルフと、グレースも、父も、誰にも‥‥‥


ただ、歪んでしまっただけ‥‥



「‥お祖父様と‥‥円満に暮らせて居たら‥‥

少しでも、罪が減って居たかもしれない‥‥」

「‥‥‥側室様が、いらしたのですよね‥‥」

「あぁ‥‥」

「テオ‥‥」
「ん‥‥?」

「いつか‥あなたが他の誰かを愛してしまっても‥
私があなたとその方を恨む事は致しません‥‥」

「そんなのあり得ない!!」
「‥もしもの話です‥‥」
リリィベルは静かに笑ってそう言った‥‥


テオドールは、胸が張り裂けそうな気持ちになった。


それは、過去に‥‥‥


礼蘭を知らなかった‥‥俺の‥‥‥



「私は‥‥あなたが幸せになれるなら‥‥

どんな事も受け入れます‥‥。

ただ、私を愛してくれる限りは‥‥あなたの側で

あなたの為に生きていきたいのです‥。」


「‥‥‥笑えないぞ‥‥リリィ‥‥」
テオドールは、リリィベルを力強く抱き締めて、
その肩に顔を埋めた。




礼蘭、お前はそうやって‥‥


俺の幸せを‥‥‥願ったのか‥‥‥?




複雑な想いが絡み合うそれぞれの夜は更けていった。



抱きしめ合って、その温もりに包まれて


皇帝と皇后が、
皇太子と婚約者が‥‥。




《‥‥どうしようも無かったんだ‥‥‥》


《‥‥お前が看護師であったとしても‥‥‥》



《_______出来ないだろっ‥‥‥》


《____________その手をっ‥‥‥_________》




「テオ‥‥‥っテオっ‥‥」
「っ‥んっ‥‥」
翌日の朝、リリィベルに体を揺さぶられて、テオドールは目を覚ました。

リリィベルの指が、テオドールの目元を撫でた。

「なぜ‥‥泣いていらっしゃるの‥‥?」
そう言いながら、リリィベルまで泣きそうな顔をしていた。

「え‥‥‥?」
テオドールは自分の目元を拭った。


指先が濡れる‥‥

「なんで‥‥‥」
「なにか‥悪い夢を‥‥?」

「悪い‥‥夢‥‥‥?」
テオドールは夢の事など覚えては居なかった。

それどころか、最近は、礼蘭との記憶も夢に見なくなっていた。


リリィベルを見上げて、テオドールは柔らかく笑った。

「久しぶりにお前を抱いて寝たから‥‥幸せ‥だったんだろ‥‥。嬉し涙だよ‥‥」

そう言ってリリィベルを抱きしめた。


「‥テオ‥‥‥私はあなたが苦しむ姿は見たくないのです」

「あぁ‥俺も同じだ‥」

リリィベルはテオドールの腕に絡みついて悲しげに口を開いた。

「テオ‥‥あなたを苦しませる存在になりたくありません‥」

「‥‥それは、難しいな‥‥お前といると俺は幸せだ‥

でもそれと同時に、お前が悲しいと俺は苦しい‥‥」


「はい‥‥テオ‥‥苦しまないで‥‥」

絡みついていた手を解いて、テオドールの頬を包んだ。
「あなたの涙を見ると‥胸が張り裂けそう‥」  
そう呟いて、涙の跡に口付けした。

その口づけを受け止めたテオドールは、笑みを浮かべた。


「お前が慰めてくれるなら、多少の苦しみも受け入れたくなる‥」
 
「そんな事おっしゃらないで‥‥」
「それくらい‥‥お前が大切で‥‥愛してるんだ‥」

視線を絡めて、テオドールは言った。
リリィベルの心配そうな顔は変わらなかったが、
愛しさが溢れて止まらなかった。


「お前と一緒に眠るのは‥‥とても、気分がいいな‥」
「泣いていらしたのに‥‥」

「だから‥嬉し涙だ‥そう揶揄ってくれるな‥‥」
「私は心配してるのです‥‥」
「悪かった‥‥夢は仕方ないだろ?

夢の事は‥少しも覚えてない‥‥‥」

その言葉にリリィベルは納得して居ない様子だった。
「‥‥‥‥‥」
テオドールが‥泣いて居たから‥‥

言葉こそ無かったが、眉を顰めて泣くなんて‥‥

どんな悪い夢を見て居たのか‥‥‥。




その時だった。

《殿下!!今すぐ御目通りを!!!》

「っ‥ハリー?」
リリィベルの部屋の方から、ハリーの緊迫した声が届く。テオドールは飛び起きた。

リリィベルは、心配そうにテオドールを見上げた。


早足で、テオドールはリリィベルの部屋に向かった。


「お前なぁ!いくら居ないからって!ここはリリィの部屋だぞ!」
部屋に入るなりテオドールはハリーにそう言った。

けれど、ハリーはそんな事もお構いなしに慌てて居た。

「そんな事気にしてる場合じゃないです!
寝室に行かなかっただけマシです!!」
「まっ‥まぁーな!!!」

ハリーが顔を青くして告げる。


「皇太后陛下がっ‥‥自殺されました!!!」
「‥‥‥っえ‥‥‥?」

テオドールが目を丸くした。

隣の部屋で、リリィベルがショックを受け両手で口許を隠した。



「なっ‥‥‥なぜ‥‥‥」

「ごめんなさい!すぐ来てください!!」
呆然とするテオドールに、ハリーはその肩を掴んで、2人で姿を消した。


テオドールがやってきたのは、皇太后が監禁されて居た部屋だ。

「‥‥‥‥‥」

そこには、ただ立ち尽くすオリヴァーと、ロスウェルが居て、他の者はいない。

そして床に横たわる皇太后の姿が目に入った。

手足が急に痺れる様な感覚で‥テオドールはオリヴァーを見た。


「ち‥父上‥‥‥」



「陽が出る頃‥‥ロスウェルが‥‥生命の途切れを感じたそうだ‥‥」

呆然と立ち尽くすオリヴァーは、そう言った。

「どう‥‥やっ‥‥‥」
テオドールが、皇太后を見るとその胸には装飾のついた小剣が突き刺さっていた。いつそれを手にしたのか、そして、絨毯には血が染み付いて濡れていた。

オリヴァーの手には紙が握られて居た。

テオドールがその紙に目をやると、ロスウェルは言った。

「遺書が‥‥残されて居ました‥‥他殺ではありません‥

あの小剣は‥皇族の証‥前皇帝陛下から身を護る為に贈られる物です‥‥。皇后となられたお方は皆、お持ちでございます‥‥。」

ロスウェルがオリヴァーの心中を思い、瞳を潤ませた。


もはや言葉にもならない。涙の流し方も分からなくなって居たオリヴァーがそこにいる‥。

昨夜あんなに流れた涙が、今この時に追いついて行かずに、
ただ立ち尽くしていた。




〝‥‥‥オリヴァー‥‥‥



お前に裁かれて死ぬ事を私は選ばない。



お前に母を裁いた傷を付けない。



愚かな私が、この道を選んだのだ‥



許しなど請わない。お前が背負う罪などない‥‥



お前を産んだ事に‥後悔はない‥‥‥〟





「‥‥‥愛は‥‥伝わっていました‥‥陛下‥‥」
ロスウェルがオリヴァーの紙を掴んだその手を握った。

「‥‥‥あなたにっ‥‥母を裁く傷を負わせないとっ‥‥

どんな事をしても‥‥母は子を‥‥守るのですね‥‥‥?」



その言葉にオリヴァーは、呟いた。

「‥‥‥‥俺の言葉は‥‥‥‥届いたのか‥‥‥」


「愛が無ければっ‥‥こんな事はなさらなかった‥‥‥

陛下‥‥‥あなたが母を、殺したと思わない様に‥


自ら罪を償ったのです‥‥‥。あなたの為に‥‥」


「‥‥‥‥」
オリヴァーは呆然と横たわる母を見た。

その母の顔が滲んで見える‥‥‥

ポタポタと‥涙がこぼれ落ちた‥‥


「‥‥身勝手ですね‥‥あなたは‥‥‥っ‥‥」


遠い日の母の姿が浮かんだ。

幼き自分が作った花の冠をその頭に乗せた‥


あなたは、笑っていた‥‥


だから‥私は‥‥


愛を信じる事ができる人に育った‥‥‥


あなたの笑顔は‥‥


私の母は‥‥



あなた、たった1人‥

今もこうして‥‥私の心を‥‥守ってくれたのですか‥?




愛を‥返してくれたのですか‥‥?


その命をもって‥‥


あなたを‥真剣に恨む事など出来ません。


どんな罪と罰を神が与えようとも‥‥


息子の私は、あなたを愛していたと、


気づいてくれたのですね‥‥





「綺麗に‥‥致しましょう‥‥」

ロスウェルがその魔術で変わり果てた姿を綺麗にした。

「‥‥眠ってるみたいだ‥‥」

「もう罪を償われました‥‥‥」

「‥‥罪は消せない‥‥‥」

「はい‥‥‥けれど、最大の傷をあなたに付けずに逝きました。」



オリヴァーは、涙を流し、テオドールに顔を向けた。

「‥テオ‥‥すまない‥‥俺はっっ‥‥‥

こんな母でもっ‥‥憎む事は出来ないっ‥‥‥」

ボロボロと涙を流し顔を歪ませた。

「‥‥‥‥‥」

テオドールは、オリヴァーに近づきその身体に抱きついた‥‥。


「父上‥‥っ‥‥‥私がっ‥‥あなたを、守ります‥‥。」

悔しげに泣き声をあげた父親を‥‥守りたかった。


「‥‥‥あとの事は‥私が致しますからっ‥‥‥

父上‥‥‥っ‥‥‥父上っ‥‥‥俺が居ますからっ!


あなたの悲しみをっ‥‥私も背負いますからっ‥‥」

テオドールの瞳からも涙が溢れた‥‥。

親子の愛は‥‥深く、根強く‥


この世に生を受けた時から‥そこにある‥‥‥
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