103 / 240
愛がなければ
しおりを挟む
寝支度を終えたテオドールとリリィベルはソファーに座った。
いつもの様にテオドールの膝の間にリリィベルが収まり、
テオドールがリリィベルを後ろから抱きしめた。
「リリィ、お前やはり痩せただろ?」
「‥テオも痩せました。」
「あ、認めたな?」
「っ‥食事が‥喉を通らないのです‥
今夜も‥‥お義父様を思うと‥‥私だけ‥呑気に食べていられません‥」
「分かってる‥‥俺だって同じだ‥‥」
「3日後‥なのですよね‥‥」
「あぁ‥でも、もう闇ギルドも制圧した今、暗殺者は来ない‥父は有言実行な方だ‥‥お前と俺の為に‥手を尽くしてくれた‥‥」
「はい‥‥それがありがたく‥また‥‥悲しいのです‥。」
「罪は罪だ‥‥お前が悲しむ事では‥‥」
「お義父様を‥‥お救いしたいです‥‥」
その言葉にテオドールの手に力が籠った。
どんな因縁があろうとも、リリィベルを手放す事はできない。
そして、リリィベルに罪はない‥‥
アドルフと、グレースも、父も、誰にも‥‥‥
ただ、歪んでしまっただけ‥‥
「‥お祖父様と‥‥円満に暮らせて居たら‥‥
少しでも、罪が減って居たかもしれない‥‥」
「‥‥‥側室様が、いらしたのですよね‥‥」
「あぁ‥‥」
「テオ‥‥」
「ん‥‥?」
「いつか‥あなたが他の誰かを愛してしまっても‥
私があなたとその方を恨む事は致しません‥‥」
「そんなのあり得ない!!」
「‥もしもの話です‥‥」
リリィベルは静かに笑ってそう言った‥‥
テオドールは、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
それは、過去に‥‥‥
礼蘭を知らなかった‥‥俺の‥‥‥
「私は‥‥あなたが幸せになれるなら‥‥
どんな事も受け入れます‥‥。
ただ、私を愛してくれる限りは‥‥あなたの側で
あなたの為に生きていきたいのです‥。」
「‥‥‥笑えないぞ‥‥リリィ‥‥」
テオドールは、リリィベルを力強く抱き締めて、
その肩に顔を埋めた。
礼蘭、お前はそうやって‥‥
俺の幸せを‥‥‥願ったのか‥‥‥?
複雑な想いが絡み合うそれぞれの夜は更けていった。
抱きしめ合って、その温もりに包まれて
皇帝と皇后が、
皇太子と婚約者が‥‥。
《‥‥どうしようも無かったんだ‥‥‥》
《‥‥お前が看護師であったとしても‥‥‥》
《_______出来ないだろっ‥‥‥》
《____________その手をっ‥‥‥_________》
「テオ‥‥‥っテオっ‥‥」
「っ‥んっ‥‥」
翌日の朝、リリィベルに体を揺さぶられて、テオドールは目を覚ました。
リリィベルの指が、テオドールの目元を撫でた。
「なぜ‥‥泣いていらっしゃるの‥‥?」
そう言いながら、リリィベルまで泣きそうな顔をしていた。
「え‥‥‥?」
テオドールは自分の目元を拭った。
指先が濡れる‥‥
「なんで‥‥‥」
「なにか‥悪い夢を‥‥?」
「悪い‥‥夢‥‥‥?」
テオドールは夢の事など覚えては居なかった。
それどころか、最近は、礼蘭との記憶も夢に見なくなっていた。
リリィベルを見上げて、テオドールは柔らかく笑った。
「久しぶりにお前を抱いて寝たから‥‥幸せ‥だったんだろ‥‥。嬉し涙だよ‥‥」
そう言ってリリィベルを抱きしめた。
「‥テオ‥‥‥私はあなたが苦しむ姿は見たくないのです」
「あぁ‥俺も同じだ‥」
リリィベルはテオドールの腕に絡みついて悲しげに口を開いた。
「テオ‥‥あなたを苦しませる存在になりたくありません‥」
「‥‥それは、難しいな‥‥お前といると俺は幸せだ‥
でもそれと同時に、お前が悲しいと俺は苦しい‥‥」
「はい‥‥テオ‥‥苦しまないで‥‥」
絡みついていた手を解いて、テオドールの頬を包んだ。
「あなたの涙を見ると‥胸が張り裂けそう‥」
そう呟いて、涙の跡に口付けした。
その口づけを受け止めたテオドールは、笑みを浮かべた。
「お前が慰めてくれるなら、多少の苦しみも受け入れたくなる‥」
「そんな事おっしゃらないで‥‥」
「それくらい‥‥お前が大切で‥‥愛してるんだ‥」
視線を絡めて、テオドールは言った。
リリィベルの心配そうな顔は変わらなかったが、
愛しさが溢れて止まらなかった。
「お前と一緒に眠るのは‥‥とても、気分がいいな‥」
「泣いていらしたのに‥‥」
「だから‥嬉し涙だ‥そう揶揄ってくれるな‥‥」
「私は心配してるのです‥‥」
「悪かった‥‥夢は仕方ないだろ?
夢の事は‥少しも覚えてない‥‥‥」
その言葉にリリィベルは納得して居ない様子だった。
「‥‥‥‥‥」
テオドールが‥泣いて居たから‥‥
言葉こそ無かったが、眉を顰めて泣くなんて‥‥
どんな悪い夢を見て居たのか‥‥‥。
その時だった。
《殿下!!今すぐ御目通りを!!!》
「っ‥ハリー?」
リリィベルの部屋の方から、ハリーの緊迫した声が届く。テオドールは飛び起きた。
リリィベルは、心配そうにテオドールを見上げた。
早足で、テオドールはリリィベルの部屋に向かった。
「お前なぁ!いくら居ないからって!ここはリリィの部屋だぞ!」
部屋に入るなりテオドールはハリーにそう言った。
けれど、ハリーはそんな事もお構いなしに慌てて居た。
「そんな事気にしてる場合じゃないです!
寝室に行かなかっただけマシです!!」
「まっ‥まぁーな!!!」
ハリーが顔を青くして告げる。
「皇太后陛下がっ‥‥自殺されました!!!」
「‥‥‥っえ‥‥‥?」
テオドールが目を丸くした。
隣の部屋で、リリィベルがショックを受け両手で口許を隠した。
「なっ‥‥‥なぜ‥‥‥」
「ごめんなさい!すぐ来てください!!」
呆然とするテオドールに、ハリーはその肩を掴んで、2人で姿を消した。
テオドールがやってきたのは、皇太后が監禁されて居た部屋だ。
「‥‥‥‥‥」
そこには、ただ立ち尽くすオリヴァーと、ロスウェルが居て、他の者はいない。
そして床に横たわる皇太后の姿が目に入った。
手足が急に痺れる様な感覚で‥テオドールはオリヴァーを見た。
「ち‥父上‥‥‥」
「陽が出る頃‥‥ロスウェルが‥‥生命の途切れを感じたそうだ‥‥」
呆然と立ち尽くすオリヴァーは、そう言った。
「どう‥‥やっ‥‥‥」
テオドールが、皇太后を見るとその胸には装飾のついた小剣が突き刺さっていた。いつそれを手にしたのか、そして、絨毯には血が染み付いて濡れていた。
オリヴァーの手には紙が握られて居た。
テオドールがその紙に目をやると、ロスウェルは言った。
「遺書が‥‥残されて居ました‥‥他殺ではありません‥
あの小剣は‥皇族の証‥前皇帝陛下から身を護る為に贈られる物です‥‥。皇后となられたお方は皆、お持ちでございます‥‥。」
ロスウェルがオリヴァーの心中を思い、瞳を潤ませた。
もはや言葉にもならない。涙の流し方も分からなくなって居たオリヴァーがそこにいる‥。
昨夜あんなに流れた涙が、今この時に追いついて行かずに、
ただ立ち尽くしていた。
〝‥‥‥オリヴァー‥‥‥
お前に裁かれて死ぬ事を私は選ばない。
お前に母を裁いた傷を付けない。
愚かな私が、この道を選んだのだ‥
許しなど請わない。お前が背負う罪などない‥‥
お前を産んだ事に‥後悔はない‥‥‥〟
「‥‥‥愛は‥‥伝わっていました‥‥陛下‥‥」
ロスウェルがオリヴァーの紙を掴んだその手を握った。
「‥‥‥あなたにっ‥‥母を裁く傷を負わせないとっ‥‥
どんな事をしても‥‥母は子を‥‥守るのですね‥‥‥?」
その言葉にオリヴァーは、呟いた。
「‥‥‥‥俺の言葉は‥‥‥‥届いたのか‥‥‥」
「愛が無ければっ‥‥こんな事はなさらなかった‥‥‥
陛下‥‥‥あなたが母を、殺したと思わない様に‥
自ら罪を償ったのです‥‥‥。あなたの為に‥‥」
「‥‥‥‥」
オリヴァーは呆然と横たわる母を見た。
その母の顔が滲んで見える‥‥‥
ポタポタと‥涙がこぼれ落ちた‥‥
「‥‥身勝手ですね‥‥あなたは‥‥‥っ‥‥」
遠い日の母の姿が浮かんだ。
幼き自分が作った花の冠をその頭に乗せた‥
あなたは、笑っていた‥‥
だから‥私は‥‥
愛を信じる事ができる人に育った‥‥‥
あなたの笑顔は‥‥
私の母は‥‥
あなた、たった1人‥
今もこうして‥‥私の心を‥‥守ってくれたのですか‥?
愛を‥返してくれたのですか‥‥?
その命をもって‥‥
あなたを‥真剣に恨む事など出来ません。
どんな罪と罰を神が与えようとも‥‥
息子の私は、あなたを愛していたと、
気づいてくれたのですね‥‥
「綺麗に‥‥致しましょう‥‥」
ロスウェルがその魔術で変わり果てた姿を綺麗にした。
「‥‥眠ってるみたいだ‥‥」
「もう罪を償われました‥‥‥」
「‥‥罪は消せない‥‥‥」
「はい‥‥‥けれど、最大の傷をあなたに付けずに逝きました。」
オリヴァーは、涙を流し、テオドールに顔を向けた。
「‥テオ‥‥すまない‥‥俺はっっ‥‥‥
こんな母でもっ‥‥憎む事は出来ないっ‥‥‥」
ボロボロと涙を流し顔を歪ませた。
「‥‥‥‥‥」
テオドールは、オリヴァーに近づきその身体に抱きついた‥‥。
「父上‥‥っ‥‥‥私がっ‥‥あなたを、守ります‥‥。」
悔しげに泣き声をあげた父親を‥‥守りたかった。
「‥‥‥あとの事は‥私が致しますからっ‥‥‥
父上‥‥‥っ‥‥‥父上っ‥‥‥俺が居ますからっ!
あなたの悲しみをっ‥‥私も背負いますからっ‥‥」
テオドールの瞳からも涙が溢れた‥‥。
親子の愛は‥‥深く、根強く‥
この世に生を受けた時から‥そこにある‥‥‥
いつもの様にテオドールの膝の間にリリィベルが収まり、
テオドールがリリィベルを後ろから抱きしめた。
「リリィ、お前やはり痩せただろ?」
「‥テオも痩せました。」
「あ、認めたな?」
「っ‥食事が‥喉を通らないのです‥
今夜も‥‥お義父様を思うと‥‥私だけ‥呑気に食べていられません‥」
「分かってる‥‥俺だって同じだ‥‥」
「3日後‥なのですよね‥‥」
「あぁ‥でも、もう闇ギルドも制圧した今、暗殺者は来ない‥父は有言実行な方だ‥‥お前と俺の為に‥手を尽くしてくれた‥‥」
「はい‥‥それがありがたく‥また‥‥悲しいのです‥。」
「罪は罪だ‥‥お前が悲しむ事では‥‥」
「お義父様を‥‥お救いしたいです‥‥」
その言葉にテオドールの手に力が籠った。
どんな因縁があろうとも、リリィベルを手放す事はできない。
そして、リリィベルに罪はない‥‥
アドルフと、グレースも、父も、誰にも‥‥‥
ただ、歪んでしまっただけ‥‥
「‥お祖父様と‥‥円満に暮らせて居たら‥‥
少しでも、罪が減って居たかもしれない‥‥」
「‥‥‥側室様が、いらしたのですよね‥‥」
「あぁ‥‥」
「テオ‥‥」
「ん‥‥?」
「いつか‥あなたが他の誰かを愛してしまっても‥
私があなたとその方を恨む事は致しません‥‥」
「そんなのあり得ない!!」
「‥もしもの話です‥‥」
リリィベルは静かに笑ってそう言った‥‥
テオドールは、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
それは、過去に‥‥‥
礼蘭を知らなかった‥‥俺の‥‥‥
「私は‥‥あなたが幸せになれるなら‥‥
どんな事も受け入れます‥‥。
ただ、私を愛してくれる限りは‥‥あなたの側で
あなたの為に生きていきたいのです‥。」
「‥‥‥笑えないぞ‥‥リリィ‥‥」
テオドールは、リリィベルを力強く抱き締めて、
その肩に顔を埋めた。
礼蘭、お前はそうやって‥‥
俺の幸せを‥‥‥願ったのか‥‥‥?
複雑な想いが絡み合うそれぞれの夜は更けていった。
抱きしめ合って、その温もりに包まれて
皇帝と皇后が、
皇太子と婚約者が‥‥。
《‥‥どうしようも無かったんだ‥‥‥》
《‥‥お前が看護師であったとしても‥‥‥》
《_______出来ないだろっ‥‥‥》
《____________その手をっ‥‥‥_________》
「テオ‥‥‥っテオっ‥‥」
「っ‥んっ‥‥」
翌日の朝、リリィベルに体を揺さぶられて、テオドールは目を覚ました。
リリィベルの指が、テオドールの目元を撫でた。
「なぜ‥‥泣いていらっしゃるの‥‥?」
そう言いながら、リリィベルまで泣きそうな顔をしていた。
「え‥‥‥?」
テオドールは自分の目元を拭った。
指先が濡れる‥‥
「なんで‥‥‥」
「なにか‥悪い夢を‥‥?」
「悪い‥‥夢‥‥‥?」
テオドールは夢の事など覚えては居なかった。
それどころか、最近は、礼蘭との記憶も夢に見なくなっていた。
リリィベルを見上げて、テオドールは柔らかく笑った。
「久しぶりにお前を抱いて寝たから‥‥幸せ‥だったんだろ‥‥。嬉し涙だよ‥‥」
そう言ってリリィベルを抱きしめた。
「‥テオ‥‥‥私はあなたが苦しむ姿は見たくないのです」
「あぁ‥俺も同じだ‥」
リリィベルはテオドールの腕に絡みついて悲しげに口を開いた。
「テオ‥‥あなたを苦しませる存在になりたくありません‥」
「‥‥それは、難しいな‥‥お前といると俺は幸せだ‥
でもそれと同時に、お前が悲しいと俺は苦しい‥‥」
「はい‥‥テオ‥‥苦しまないで‥‥」
絡みついていた手を解いて、テオドールの頬を包んだ。
「あなたの涙を見ると‥胸が張り裂けそう‥」
そう呟いて、涙の跡に口付けした。
その口づけを受け止めたテオドールは、笑みを浮かべた。
「お前が慰めてくれるなら、多少の苦しみも受け入れたくなる‥」
「そんな事おっしゃらないで‥‥」
「それくらい‥‥お前が大切で‥‥愛してるんだ‥」
視線を絡めて、テオドールは言った。
リリィベルの心配そうな顔は変わらなかったが、
愛しさが溢れて止まらなかった。
「お前と一緒に眠るのは‥‥とても、気分がいいな‥」
「泣いていらしたのに‥‥」
「だから‥嬉し涙だ‥そう揶揄ってくれるな‥‥」
「私は心配してるのです‥‥」
「悪かった‥‥夢は仕方ないだろ?
夢の事は‥少しも覚えてない‥‥‥」
その言葉にリリィベルは納得して居ない様子だった。
「‥‥‥‥‥」
テオドールが‥泣いて居たから‥‥
言葉こそ無かったが、眉を顰めて泣くなんて‥‥
どんな悪い夢を見て居たのか‥‥‥。
その時だった。
《殿下!!今すぐ御目通りを!!!》
「っ‥ハリー?」
リリィベルの部屋の方から、ハリーの緊迫した声が届く。テオドールは飛び起きた。
リリィベルは、心配そうにテオドールを見上げた。
早足で、テオドールはリリィベルの部屋に向かった。
「お前なぁ!いくら居ないからって!ここはリリィの部屋だぞ!」
部屋に入るなりテオドールはハリーにそう言った。
けれど、ハリーはそんな事もお構いなしに慌てて居た。
「そんな事気にしてる場合じゃないです!
寝室に行かなかっただけマシです!!」
「まっ‥まぁーな!!!」
ハリーが顔を青くして告げる。
「皇太后陛下がっ‥‥自殺されました!!!」
「‥‥‥っえ‥‥‥?」
テオドールが目を丸くした。
隣の部屋で、リリィベルがショックを受け両手で口許を隠した。
「なっ‥‥‥なぜ‥‥‥」
「ごめんなさい!すぐ来てください!!」
呆然とするテオドールに、ハリーはその肩を掴んで、2人で姿を消した。
テオドールがやってきたのは、皇太后が監禁されて居た部屋だ。
「‥‥‥‥‥」
そこには、ただ立ち尽くすオリヴァーと、ロスウェルが居て、他の者はいない。
そして床に横たわる皇太后の姿が目に入った。
手足が急に痺れる様な感覚で‥テオドールはオリヴァーを見た。
「ち‥父上‥‥‥」
「陽が出る頃‥‥ロスウェルが‥‥生命の途切れを感じたそうだ‥‥」
呆然と立ち尽くすオリヴァーは、そう言った。
「どう‥‥やっ‥‥‥」
テオドールが、皇太后を見るとその胸には装飾のついた小剣が突き刺さっていた。いつそれを手にしたのか、そして、絨毯には血が染み付いて濡れていた。
オリヴァーの手には紙が握られて居た。
テオドールがその紙に目をやると、ロスウェルは言った。
「遺書が‥‥残されて居ました‥‥他殺ではありません‥
あの小剣は‥皇族の証‥前皇帝陛下から身を護る為に贈られる物です‥‥。皇后となられたお方は皆、お持ちでございます‥‥。」
ロスウェルがオリヴァーの心中を思い、瞳を潤ませた。
もはや言葉にもならない。涙の流し方も分からなくなって居たオリヴァーがそこにいる‥。
昨夜あんなに流れた涙が、今この時に追いついて行かずに、
ただ立ち尽くしていた。
〝‥‥‥オリヴァー‥‥‥
お前に裁かれて死ぬ事を私は選ばない。
お前に母を裁いた傷を付けない。
愚かな私が、この道を選んだのだ‥
許しなど請わない。お前が背負う罪などない‥‥
お前を産んだ事に‥後悔はない‥‥‥〟
「‥‥‥愛は‥‥伝わっていました‥‥陛下‥‥」
ロスウェルがオリヴァーの紙を掴んだその手を握った。
「‥‥‥あなたにっ‥‥母を裁く傷を負わせないとっ‥‥
どんな事をしても‥‥母は子を‥‥守るのですね‥‥‥?」
その言葉にオリヴァーは、呟いた。
「‥‥‥‥俺の言葉は‥‥‥‥届いたのか‥‥‥」
「愛が無ければっ‥‥こんな事はなさらなかった‥‥‥
陛下‥‥‥あなたが母を、殺したと思わない様に‥
自ら罪を償ったのです‥‥‥。あなたの為に‥‥」
「‥‥‥‥」
オリヴァーは呆然と横たわる母を見た。
その母の顔が滲んで見える‥‥‥
ポタポタと‥涙がこぼれ落ちた‥‥
「‥‥身勝手ですね‥‥あなたは‥‥‥っ‥‥」
遠い日の母の姿が浮かんだ。
幼き自分が作った花の冠をその頭に乗せた‥
あなたは、笑っていた‥‥
だから‥私は‥‥
愛を信じる事ができる人に育った‥‥‥
あなたの笑顔は‥‥
私の母は‥‥
あなた、たった1人‥
今もこうして‥‥私の心を‥‥守ってくれたのですか‥?
愛を‥返してくれたのですか‥‥?
その命をもって‥‥
あなたを‥真剣に恨む事など出来ません。
どんな罪と罰を神が与えようとも‥‥
息子の私は、あなたを愛していたと、
気づいてくれたのですね‥‥
「綺麗に‥‥致しましょう‥‥」
ロスウェルがその魔術で変わり果てた姿を綺麗にした。
「‥‥眠ってるみたいだ‥‥」
「もう罪を償われました‥‥‥」
「‥‥罪は消せない‥‥‥」
「はい‥‥‥けれど、最大の傷をあなたに付けずに逝きました。」
オリヴァーは、涙を流し、テオドールに顔を向けた。
「‥テオ‥‥すまない‥‥俺はっっ‥‥‥
こんな母でもっ‥‥憎む事は出来ないっ‥‥‥」
ボロボロと涙を流し顔を歪ませた。
「‥‥‥‥‥」
テオドールは、オリヴァーに近づきその身体に抱きついた‥‥。
「父上‥‥っ‥‥‥私がっ‥‥あなたを、守ります‥‥。」
悔しげに泣き声をあげた父親を‥‥守りたかった。
「‥‥‥あとの事は‥私が致しますからっ‥‥‥
父上‥‥‥っ‥‥‥父上っ‥‥‥俺が居ますからっ!
あなたの悲しみをっ‥‥私も背負いますからっ‥‥」
テオドールの瞳からも涙が溢れた‥‥。
親子の愛は‥‥深く、根強く‥
この世に生を受けた時から‥そこにある‥‥‥
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる