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災いは口からやってくる
しおりを挟む〝愛するテオ・・・・
お怪我はされていませんか?毎日あなたを思い過ごしております。
今日はお義母様の提案で、あなたのマントにスズランの刺繍を致しました。
喜んでいただけますか?あなたの背に私を刻みました。もうすぐ完成致します。
そして、スズランの隣には、2人でデザインしたピアスの刺繍も致しました。
お義母様にはまだ内緒です・・・。どうか無事に帰ってきてくださると信じています。
愛しています。〟
「・・・・ふっ・・・字まで可愛い・・・・・。」
テオドールはその手紙を見て笑みをこぼす。
そんな様子をロスウェルが側で見ていた。
「・・・殿下、私は鳩じゃないんです。」
「しってる・・・。いいじゃないか。お前がこうして手紙を運んでくれるおかげで私は健康だ。」
「何時間見てるんですか!朝貰ってもう夜ですよ!?暇がありゃ出してしまって出してしまって!!」
「今日は奇襲はなかったからいいじゃないか・・・俺は毎日気を張ってるんだ。
これくらい好きにさせてくれ・・・。これはリリィの分身だ・・・。」
そう言って手紙に頬を寄せた。
「もう5日も逢えてないんだ・・・これがないと死んでしまう・・・・。」
「まぁ・・・・死なれちゃ困るんでやってるんですけどね!仕方なく!」
圧強めにロスウェルはそう言った。
「それで・・・陛下の元にはイシニスから連絡はあったのか?」
「その事ですが・・・胸糞悪いでしょうけど聞きますか?」
その言葉に、皇太子は顔を険しくした。
「・・・なんだよ・・・・」
ロスウェルは皇太子を真剣に見つめた。
「イシニスは奇襲を止める変わりに、殿下とレベッカ王女の婚姻を要求しています。」
「は・・・・・?」
「イシニスの奇襲を前線で防ぐ殿下の姿に感銘を受け、カドマン領地を襲撃した事も非を認め、
・・・・今後の友好の証として、レベッカ王女と結婚してほしい。そうすれば、アレキサンドライトには今後一切の攻撃は致しませんと。
元々、殿下が婚約発表をする前に、陛下に皇太子と王女の婚姻を申し込む予定だった。最近裕福になった王国を帝国にも捧げたいと。そして大切な王女に強くて頼もしい皇太子殿下に嫁がせたいと言う思いは更に強くなっている。・・・・是非前向きに検討してほしい。だそうですよ?」
「はっ・・・なんだその取って無理やりねじ込んだような言い訳は。」
皇太子はその話を鼻で笑った。
「奇襲しておいて何言ってんだ。拘束したイシニスの兵士達は皆口を揃えて言っていたぞ?
国王が姿を見せなくなって、王太子が政権を握るようなり、下っ端の兵士たちは訓練と称して
カドマンを奇襲しているのだとな。俺みたいな皇太子がいるなら移住したいとまで言っているが?」
「ではなおのこと、結婚して差し上げたらどうです?」
「ざけんじゃねーよ。誰がそんな国の王女娶るってんだよ。馬鹿じゃねーの。」
「わー、陛下そっくりー」
ロスウェルは、その皇太子の口調と態度に思わずパチパチと拍手した。
「大体俺がリリィと婚約した事は知ってんだろうが。どいつもこいつも結婚結婚うるせってんだよ。
黙って見てろくそが。」
テオドールは手紙を持ったまま、ベッドにぼふっとダイブした。
「・・・結婚は・・・愛する人とするからいいんだよ・・・・・。」
愛する人を思い浮かべる。
前世の世界では考えられない。恋愛結婚がほとんどなあの世界で・・・。
政略結婚など・・・・。
テオドールはスッと・・・目を細めた。
「・・・・・・・・・・・」
でも俺は・・・・礼蘭以外の人と・・・・・・。
それだけがどうしても引っ掛かる・・・。気持ち悪いと思うんだ。
こんなに求める魂と、溢れる愛でいっぱいだった記憶の中、
なぜ・・・・確かに将来を約束した指輪があるのに・・・・・・・・。
それを考えると、ひどく胸が気持ち悪くなるんだ・・・・・。
会えない日々が続いて、どうかしてしまっている・・・。
「俺は・・・リリィ以外・・・考えらんねぇよ・・・・・。」
その温もりを思い出し、瞳を閉じる。
やがて、かすかに寝息が聞こえた。
ロスウェルは、困ったような顔で笑みを浮かべた。
「みんなどうして・・・殿下の邪魔をするんでしょうね・・・。」
皇太子と婚約者を無数の手が2人を引き裂こうと、必死で手を伸ばしている。
妬みや僻み・・・歪んだ愛情、幸せを願えない人々から・・・・
その地位が故に、2人を引き離そうとする。
「オリヴァー様の時も・・・まぁ似たようなもんでしたかね・・・・。」
オリヴァーとマーガレットがまだテオドールぐらいの年頃の頃、何度も魔術で手助けをした。
あの頃も、デビッドの企てに、オリヴァーは本来しなくてもいい結婚をし、
愛するマーガレットと7年も離れていた。
「・・・皇族は・・・そんな星巡りなのですかね?・・・・。」
ふとロスウェルは、そう呟いた。
テオドールにそっとブランケットをかけた。
「・・・・・・・・・・」
でもテオドールとリリィベルには、何か他にも違う・・・・。
星と月、月はテオドールで、星はリリィベル・・・・。
同じ夜空にある象徴なはずなのに。月と星が雲が隠れるように、妨害を受けている。
≪・・・・あきら・・・・≫
≪っ・・・ちゃんと・・・見送ってやるんだ・・・・・≫
≪あきら・・・っっ・・・頼むからっ・・・しっかりしてくれ!!≫
≪お前がそんなだったら!!!・・・・礼蘭が心配して--------≫
月が雲隠れたその夜。
眠ったテオドールの瞳から、涙が一筋零れ落ちた。
翌日、王城ではリリィベルが妃教育を終えて私室へ戻るところだった。
側にはイーノクとアレックスがとカタリナがいる。隠れてピアとリコーもいる。
皇太子宮へ向かう途中、リリィベルはある人物と会った。
「リリィベル様、お久しぶりで御座います。」
その人物に、リリィベルは凛とした姿で立ち向かう。
「えぇ・・・お久しぶりです。ヘイドン侯爵・・・・。
ここは皇太子宮への廊下です。殿下が居ない今、どんな御用でこちらへ?」
ヘイドン侯爵は、その言葉にあたかも心配しているというような顔でリリィベルを見た。
「殿下がカドマンへ行ってからもう6日目となり、リリィベル様を心配して参りました。
ですが、噂によれば帝国の騎士団には傷一つないとの事。殿下と第二騎士団は本当に優秀で御座いますね。」
「もちろんです。イーノク卿とアレックス卿からも聞いています。」
「そうですね・・・・。ですが・・・・リリィベル様の御父上は、大丈夫ですか?
殿下の心配もそうですが、御父上も心配ですね?」
ヘイドン侯爵の言葉に、リリィベルは目を見開いた。
「!!・・・それはどういう意味ですか。」
「おや・・・ご存じないですか?」
「・・・・なにをです・・・?」
リリィベルは疑いの目でヘイドン侯爵を見た。
「北部も、今何者かに奇襲を受けていると聞いたのです。商人をしている知人が・・・。」
「・・・・ブラックウォールを・・・・ですか?」
「ご存じではなかったのですね!?なんでも、ダニエル様の頬に傷があるのを見たとか・・・。
お疲れのようだったと、領民達が言っていたようですよ?なので、領民達も心配なさっていると。
リリィベル様は王都で陛下の元にいらっしゃるおかげで、守られております故、安心ですが・・・・。
御父上が今後も無事でいらっしゃる事を祈っております。
一体だれが・・・北部の黒い壁にそのような奇襲をするのでしょう・・・。
私だったら腕の立つブラックウォールに戦いを挑む等、致しませんがね・・・。
リリィベル様は、殿下と御父上と・・・心配が絶えませんね・・・。
ですが、どうかお心安らかにお過ごしください。何と言っても、お強い方ばかりですから・・・・。
では私はこれで・・・・。」
「・・・・・・・・・えぇ、ありがとう・・・・・。」
リリィベルは、下がっていくヘイドン侯爵の背を険しい目で見送った。
「・・・・イーノク卿、ブラックウォールが奇襲されたと、噂等聞いた?」
「いいえ・・・その様な話は一言も・・・。」
心配そうな表情でイーノクは返事をした。
「イシニスからの奇襲が、ブラックウォールにも・・?それとも他国から・・?」
それとも・・・・・皇太后陛下が・・・・・・・?
リリィベルはその美しい顔に怒りの表情を浮かべて、踵を返した。
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