92 / 240
気が知れない者達
しおりを挟む「ふんっ・・・・帝国の皇帝からの書信か・・・・・」
イシニス王国の玉座には、王太子が座っていた。
アレキサンドライトからの書信を床に放り捨てた。
「王太子殿下・・・アレキサンドライトの国境には、テオドール皇太子が常駐しています。」
側近がそう告げる。それをギロリと睨んだライディン王太子だった。
ライディン・イシニス
赤髪に、金色の瞳を持つ王太子。目つきは鋭く、アレキサンドライトの皇太子よりも年上だ。
性格は残忍で、まさにテオドールとは相反する人物だった。
テオドール・アレキサンドライトは帝国の皇太子として他国にとても有名だった。
皇帝だけではなく、テオドール皇太子は優秀で剣術にも長けていてそして見目麗しく王国でも有名だ。
その顔を思い浮かべてライディンは機嫌の悪い顔をした。
「ふっ・・・男のくせに女みたいな顔をしやがって、オリバンダーからの情報もあまり役に立たないな・・・。
あんなに金をやったのにな。
・・・そういや、婚約者が暗殺者を向ける金だと言ったな。
こちらがお膳立てしてやってるんだから、早く婚約者を奪ってしまえばいいものを・・・
何をやってるんだか、せっかく引き離しているってのに。」
ライディン王太子は、イシニス王国の国王を差し置いてその政権を握っていた。
側には、王女のレベッカ・イシニスがいた。
ライディン王太子はレベッカに憎らしく目を向けた。
「・・・はぁ・・・・レベッカ、お前が皇太子妃になれば事は簡単なんだがな。
友好を示すと見せかけて、皇帝と皇太子の首を撥ねてやるのに・・・。」
そんな王太子を冷ややかな瞳で見ていたレベッカ。
レベッカ・イシニス
ライディン王太子と同じ赤髪の王女。その目つきはライディンと同様吊り上がった目つきの
冷ややかな美女だった。
「・・・では早くそうなさってくださいませ。私はテオドール皇太子の見目を気に入っておりますわよ?
オリバンダーが皇太子妃にしてくれると言うから金を出してやったのに。
一向に婚約者は始末出来ておりませんね?オリバンダーのような怪しい者に手を貸したのが
間違いだったのではありませんか?」
「俺に意見するのか?レベッカ。誰のおかげで生きて居られると思っている?
父上と一緒に地下室で眠って居たいか?」
その性悪な顔のライディンにレベッカは、眉を吊り上げた。
「お兄様こそ、私の助けがあってその座についているのですよ?早く私を皇太子妃にしてくださいな。
敵兵を送っている時点で、最早その道も途絶えるのでは?」
「お前を友好の証として妃にやると知らせを送る手筈だ。
オリバンダーにも警告せねばな。さっさと片付けないとお前も始末すると・・・。」
そう言って玉座から立ち上がると、アレキサンドライトの書信を踏みつけた。
「さっさと婚約者とその親を殺してしまえってーの」
オリバンダー侯爵邸では、オリバンダーが悔しそうにリリィベルの姿絵を握りしめていた。
すでにイシニスの兵士達をカドマンに送って貰って4日目となる。
捨て駒の兵士は皇太子の手によって制圧され、しかも、身柄をカドマンで拘束されている。
リリィベルに何度も暗殺者を向けても一向に捕らえられない。皇太子が居ない間に事が運ぶはずだった。
また、北部のブラックウォールもレナードを含め腕利きの暗殺者を送っているのに、忍び込む事すら出来ないようだ。
「くそっ!!!なにもうまくいかないじゃないか!!!」
たくさんあるリリィベルの姿絵をばら撒いた。
「‥‥早くリリィベルを捕まえたいのに‥」
息子達は身代わりの女を抱く事でその欲を満たしている。
けれどオリバンダーはそれで気が済まない。
あの夜見た皇太子の強さを見て、それを奪い取るのが
目標になっていた。
「ブリントンの陰だって‥役に立たない‥‥」
あの夜やってきたレナードからの提案。初めこそ、殺される恐怖や皇太后がこちら側に着くとこに勝算を確信したが、父の知らせを送ってもリリィベルは外にも出ない。ダニエル・ブラックウォールも始末できない。何もかもが失敗の連続だった。
「・・・・くそっ・・・・」
ギリっと歯を鳴らした。城にいるとは言え、何故こうもリリィベルに接触できる者がいないのか。
「・・・・皇太子と第二騎士団は不在だ・・・・絶対に隙があるはずだ・・・・・。」
慎重に事を運ばねばならない・・・。でも、そろそろ我慢の限界だ。
「・・・・・・・。」
深夜、ヘイドン侯爵家にオリバンダーが直接訪れた。
応接間で、2人が向き合う。オリバンダーの目は怒りで満ちていた。
「レナードとかいう、ブリントン公爵家の使いの者と連絡を取りたいのですが?」
「私に言われても困る。」
「ブリントン公爵家には連絡するなと言われております。どうか取次をしてください。
私はイシニスの件もあって、重要な役割を果たしているのですよ?
これが知れ渡ればどうなるか、ヘイドン侯爵もおわかりですよね?」
更にオリバンダーは続けた。
「ダニエル・ブラックウォールの悲報も全く聞けませんなぁ・・・。
おかげで、婚約者は城から出る気配もありません。暗殺者も全く歯が立ちません。
・・・ヘイドン侯爵、何か知っている事はありませんか?」
ヘイドン侯爵は険しい顔でオリバンダーを見た。
「そなたこそ、私にそんな口を聞いていいと思っているのか?お前がイシニスと繋がっているのは、
先日の貴族会議でも知れ渡っている。お前がレベッカ王女を推薦した事で、皇帝陛下たちはさぞ今の現状をお前に問いただしたいと思っている事だろう。言い訳は考えているのか?」
「私は、国の発展の為に提案したまでであります。イシニスの襲撃について私が知る事など
誰に分かるというのですか。あくまで、国の為だと申したではありませんか。」
「しかし、現に今カドマンで皇太子が自らイシニスの襲撃を防いでいるんだぞ!」
「それもすべて皇太后陛下のご指示です。イシニスの奇襲とブラックウォールを奇襲し、
それに生じて婚約者を城の外から出すのだと。私はその命に従っただけで御座います。
さすれば、お宅のお嬢様か、イシニスの王女、どちらかが皇太子妃の候補となるでしょう。
襲撃もイシニスとの友好の為、皇太子が婚約すればすべてが丸く収まります。」
「・・・・そもそも・・・・イシニスに奇襲させた事が問題なのだ・・・・。」
ヘイドン侯爵は、皇太后の企てにも疑念を持っていた。
なぜ、リリィベルを外に出さねばいけないのか、その理由が分からないから余計に事が進まない。
一体なぜ?あれだけ暗殺者が向けられているのに、無傷で今まで過ごしている。
皇太子がいない間ですら、まったく成功した試しがない・・・・。
城には何度も足を運んでいるが、絶対に何かあるはずだ。
皇太后は決して口を割らないが、何か・・・・・。
「とにかく、リリィベルを外に連れ出せばよいのだろう・・・・。」
ヘイドン侯爵はオリバンダーを睨みつけた。
「レナードとかいう男が、ダニエルブラックウォールを撃てるかどうかは知りませんが、
リリィベルが外に出れば、私が始末を・・・・。後は、お嬢様と王女で皇太子の取り合いでもすればよろしい。そのためにイシニスの奇襲を受けているのですから。」
オリバンダーは怪しく笑みを浮かべた。
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる