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魔王と小魔王

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22時になる前に、テオドールとリリィベルは城にこっそりもどった。
門を潜ると、2人の髪は元に戻った。

コソコソと皇太子宮に戻り、テオドールは私室を開ける。


「わっ‥」
テオドールは思わず身を引いた。
「いっ‥‥」
テオドールの背に顔をぶつけたリリィベルが顔を抑えた。


テオドールの私室のソファーに、魔王の様に腕を組んで君臨する皇帝。魔王は満面の笑みだった。

「あぁ、遅かったなぁ‥‥‥ダメじゃないか。
こんな遅くまで‥しかも2人きりで‥‥

お前達にはあれだな?引き離されるのが1番嫌だろうな‥‥。


そうしようか?テオドール?」

魔王の微笑みに、テオドールは顔を引き攣らせた。

「ちっ‥父上っ‥‥‥伝言は‥‥?」

「あぁ、聞いたさ‥‥でも遅いんじゃないか?ん?」
「私達はこっ‥幼い子ではありませんよ?」 

「バカ者がぁ~私にしたらお前達はまだ少年少女だ。
ん?その行いこそがな?」

「父上‥」
「皇太子と婚約者が!こんなに遅くまで!」
「お義父様!」
魔王の前に、天使が現れる。

魔王の両手を天使は包み込んだ。

「どうかお許しくださいっ‥広場の噴水に行ってきたのですっ‥」

「ひっ‥広場の‥?」

「はい!お義父とお義母様も行ったことがあると‥
テオ様から聞きました!2人で永遠を誓ってきたのですっ‥」

「あ、あぁー‥うん‥」

「皆様にお守り頂いてる中っ‥勝手な事を致しましたっ‥‥妃教育も途中で抜け出してしまって‥
申し訳ございませんでしたっ‥どうしてもっ永遠をテオ様と誓いたかったのですっ‥お義母様とお義父様の様に末永く一緒にいられる様にっ‥‥‥」

「ん?あっ‥え‥‥永遠‥‥まぁ‥‥うん‥‥」

「それに王都へは1度も行っていない私を思い、テオ様が連れ出してくれたのですっ‥‥どうか‥今回だけ‥‥見逃して頂けませんか‥‥?お義父様‥‥」


「りっ‥‥リリィィィ‥‥」

魔王の顔が、少しずつ浄化されていく‥‥

それを横目でドキドキしながら見ていたテオドールだった。


「んぁぁ~~‥けど‥‥ダニエルからお前を預かっているのだぞ‥?魔術師も‥城以外ではお前を守り切れるか‥

あれは究極の魔術が‥‥」

「テオ様がそばにいてくれて、私は守られておりますっ‥‥
ご存じでしょう?テオ様はお義父様の様にお強い方ですものっ‥‥。」

「あぁぁぁ‥‥‥‥そう‥だけどぉぉ‥‥‥」


魔王に痛恨の一撃、天使の奥義

「お義父様‥‥‥今夜‥‥テオ様のお側を離れなければなりませんか‥‥?」

ほろっと天使から涙が‥


「あぁぁぁ‥‥大丈夫だからぁ‥‥離したりしないから泣かないでくれ‥‥‥リリィ‥」

天使は魔王の浄化に成功した。

「あぁ‥優しいお義父様‥‥ありがとうございます。
大好きです‥‥。」

天使は微笑む。


「‥‥‥‥仕方ない‥‥今回だけだぞ‥‥?
もう少し身の安全が保証出来ないと、私達も心配なんだ。」

「はい、心に刻みます‥。いつもありがとうございます‥

お義父様‥‥。」


天使は安堵の笑みを浮かべて、魔王の手に頬を寄せた。


しかし、魔王は魔王の息子を見る。

〝お前は後で、お仕置きだ‥‥〟

目がそう語るのだ。

魔王の息子は、黙って目を閉じた。



「リリィ、疲れただろ?湯に浸かっておいで?」

皇帝がリリィベルを続き部屋の扉に向かわせた。


あぁ、やめてくれ‥


テオドールは両目を手で隠した。 


「あっ‥‥はい‥‥お義父様‥‥」
リリィベルは戸惑いながらその手に押されて扉の向こうへ消えた。


バタンと閉じたその扉。

魔王は再び目覚める。

ササッ!

魔王の動きに小魔王はソファーを盾に身構える。
「テオドール‥‥お前の天使は行ったぞ‥‥」

「父上‥‥リリィの話を聞いていたのでは?」

「あぁ、聞いたとも‥‥リリィを連れ出したのはお前だ。
お前が罰を受けろ‥‥」

魔王が近付く度に小魔王は家具を盾に隠れた。

「テオ?」
「っ‥‥‥リリィに王都を見せたかっただけですっ」
「昼で終わらせれば良かっただろうが!」

はぁっと小魔王はため息をついた。

「父上‥‥私達の初デートが、こんな最後だなんてあんまりですっ‥‥」
「だからもっと早く帰ればよかろうが!」

「噴水は夜に見るからいいのではありませんか!!
父上だって!!夜行ったんでしょ?!私を責めるつもりですかっ!?」

「‥‥‥そっ‥‥‥」
魔王は怯んだ。

「いつも暗殺者に狙われてこの城から出た事がないリリィを連れ出したのは謝りますっ!私も愚かな真似を致しましたっ!でもどうしても出たかったんです!!
見逃して下さいっ!!」

「‥‥本当に反省してるんだな?」

魔王はまだ疑っている。

「はいっ!!事が片付くまで!大人しくしてますから!
それにハリーに姿を変えて貰いました!

無事に帰ったのですから!もぉお許しください!!

せっかくのデートが台無しです!!
リリィがあんなに言っていたのに!!」


「‥‥‥はぁぁ‥‥‥」

必死で訴える2人の気持ちに、魔王は心を折られた。
深い溜息で、その魔王の仮面を脱ぐ‥‥


「‥‥すいませんでした‥‥」

テオドールは俯いて謝った。

たくさんの事も明るみに出て、本来ならばデートしてる時間はない。

ロスウェル達もずっと働きっぱなしだ‥
皇帝も‥‥。


でも、本来ならば、もっと自由に過ごせたはずだった。

リリィが外に出られないのが不憫だった‥。


皇太后にも睨まれ、暗殺者がくる‥。
妃教育。山ほどの問題がここにある。


「リリィは‥‥絶対私が守りますから‥‥

お許しください‥‥」


今日の出来事は、甘い夢だった‥‥。
後悔したくない‥‥


「‥‥まったく‥‥私も甘いな‥‥‥」
やれやれと溜息をつく父だった。
そして、息子を見て眉を下げた。


「テオ、デートは楽しかったか?」


「‥‥‥はい‥‥‥。とても‥‥夢の様でした‥‥‥。」


暁と礼蘭になった気分と、

この世に産まれた自分達の思いは、

変わらない事を痛いほど感じた‥‥。


「良かった‥‥。無事に帰ってきてくれて、良かったよ。」
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